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ランクアップ試験 4

あの後オークの討伐数を数えたら俺とアルだけで100体を超えていた。まぁ妨害しかしてないから少し少なめだ。多分日向達はもう少し狩っているだろう。


「それでは、デスハイムへと帰還する」


集合してすぐに帰還とは忙しいもんだな。さて、これから何が待っているのやら…


とりあえず今の楓達以外の状況を見てみるとおっさんは例の如く何かブツブツ言いながら下を向いている。青年三人組は目標数を討伐出来たのか嬉しそうに安心しきった感じだ。魔術師の男はあまり表情を変えていない。


そして、やはり気になるのがBランク冒険者のパーティーだ。さっきからずっと顔を引き締めている。これから何が起こるんだ?


今回の事はナビちゃんには何も助言しない様に頼んである為自分で考えるしかない。


「日向、ミル、アルまだ試験は終わっていない。まだ万が一がある状況だ。王都に着く迄気を引き締めて行こう」


「うん!」


「分かりました、旦那様」


「僕も分かってるよ」


楓達で対処が出来ない事などないと思うがさっきも言った通り今回はナビちゃんの助言がない。つまり楓は大丈夫でも他の三人が危険になるかもしれない。今回一番危ないのはミルだ。強くなったとはいえまだ危険がなくなったわけではない。


ここは、リーダーである俺がしっかりと周りを見ておく必要があるだろう。




「そういう事ね…」


今回のランクアップ試験で、やらせたかった本当の狙いが分かった。


楓は今回ずっとマップを覗いていたのでいち早く気が付いた。それは帰還通路に人のマークのついたのが30個近くあったからだ。


オークの討伐なんて本当に副産物でしか無かったのだ。多分今回の試験の一番見たい所は覚悟なのだろう。それも人を殺す覚悟を…


冒険者はCランクから護衛の依頼も入ってくる。その時に何も敵が魔物だけとは限らない。そう、盗賊だ。こう言った時捕まえられるのならそれでも良いが不意を突かれてはそんな悠長な事を言ってられない。つまり殺す事になるのだ。


多分、その覚悟の部分を今回の試験で見たかったのだろう。そして何かあった時はBランク冒険者がサポートに入るのだろう。まぁ、その時は全員Cランクには上がれないだろうが…。


「む、これは…」


しばらくしてアルも気が付いた様だ。日向とミルは索敵のやり方を教えていないので、そういうのは無理だ。まぁ、敵が魔物なら直感で感じ取るらしいが…そこら辺は俺には分からん。


急に無言になり真剣な、そして凄く嫌そうな顔をしている楓の様子に気が付いた日向が声をかけてきた。


「どしたの?大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。だが多分もう一戦闘あると思う。多分今回の試験のメインディッシュだろう」


「そっか。なら頑張らないとね!」


日向は少し不安そうな顔をしたが持ち前の明るさで不安の顔を笑顔に変える。


「多分私の想像してる事が合ってるなら覚悟は出来てるよ。もうすでに乗り越えたよ」


「私もです。もう足を引っ張りたくないですからね」


話を聞いていたミルも日向の言葉に同調する。ほんと、強いよな。


俺も覚悟を決めないとな。毎回思うけど人を斬る感触だけは慣れない。多分慣れてしまったら人として何かを失うのかもしれないがあまり引っ張り過ぎるのもよくないのだろう。


「待て!もう少し行ったところに盗賊らしき奴がいる」


Bランク冒険者の一人が皆に伝える。索敵と言っていいのか分からない距離だが一応皆静かに息をひそめる。


「そうか、ではCランク冒険者候補の君達にお願いしようかな」


試験官はサラッとそう伝えてきた。


やっぱりな。そしてこの状況を理解できない奴もいて…


「ちょ!待ってくれよ!俺達に人を殺せって言うのかよ!」


「いや、僕は嫌だよ!人を殺すなんて…」


「Bランク冒険者がいるんだからそっちに頼めばいいだろ!」


青年三人組はオーク討伐で気が抜けていたのとこれから人を殺せと言われたショックでその場で喚き散らす。


なんでこいつらはこれも試験だって気が付かないんだ?

おっさんはまだ意気消沈してるしもう一人の魔術師は表情を変えないし…どうやら俺達が先陣を切る必要がありそうだ。俺達がやるのは20人迄だ。全て殺したら他の奴の試験にならないからな。


「アルと俺は前衛、二人は後衛で。俺達が相手にするのは20人迄だ。一人で5人程度で行こう。」


楓はそう伝えるとアルと二人で飛び出していく。流石にこの躊躇いのなさに試験官も驚いていたが構ってる暇は無いのでスルーして盗賊の元に駆け寄る。そのままアルと二人で初撃で一気に10人の盗賊の命を刈り取る。これで楓達前衛の仕事は終了だ。盗賊側からしてみればいきなり風の様に現れて仲間の首を切っていかれたのだが全く反応が出来なかった。


「て、敵襲だ!気を付けろ!」


盗賊のリーダーらしき人物が声を張っているが他の盗賊にはあまり意味がなかった様だ。何故なら…


火矢(ファイヤーアロー)


「えい!」


後衛の魔法と火属性の矢が飛んできてリーダー含むさらに10人の命が刈り取られたのだから。


これで楓達の請け負った分は終わった。後は他の連中だが…


何故だかBランク冒険者迄もが楓達を見る目がおかしかった。


まぁ、冒険者からしてみればこんな若い奴らがなんの躊躇いもなく人を殺してしかもこんなに可愛い子達も直接ではないにしろ魔法や矢で人を殺すなど誰も分かる筈がなかった。


試験官も今回楓達のパーティーは人を殺せず脱落するだろうとタカをくくっていた。が、ここまで容赦なく制圧されると試験官も盗賊に同情したくなった。


「あとはお前らの仕事だ。」


楓はそう言い残しまだぼーっとしている盗賊へと視線をむける。


楓達が全く返り血を浴びていないので本当にやったか?と思ったが目の前であれをやられては信じる他に選択肢はなかった。


あまり気持ちのいい試験ではなかったが全員合格出来そうで良かった。


ちなみに青年パーティーはゲロって脱落。魔術師は魔法を使って火球を出して殺っていた。そして意外にもおっさんが変な力が抜けて楽になったのかそのまま淡々とストレスを解消するかの様に残りの盗賊を殺していた。


これには楓達はみんな引いていた。というか怖かった。あんなに楽しそうに人を殺す姿は見たくなかった。


まぁ、こうして無事にランクアップ試験も終了して残るは結果を見に行くだけになったがまぁ多分四人とも大丈夫だろう。


結果発表日は明日なので今日はもうゆっくり休もう。地味に疲れた1泊2日だった。

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