貴族の野望 3
「昨日からか…」
楓は面倒臭そうに自分の部屋で愚痴る。昨日めっちゃ恥ずかしかったがしっかりと指輪を渡す事が出来たのだが朝起きたらこれだ。
誰かに見張られている。この屋敷が、しかも複数人で。よく調べ上げたものだ。ちなみに何度も言うがまだ手は出していないぞ!そのうちそういうのはあるだろうが今の所その予定はない。
しばらくは外に出ない方がいいなー。
「はぁ、そんなに権力が欲しいなら悪事を働かずにしっかりと実績を積めばいいのにな」
『そんな心の底から清い貴族なんてこの時代では極少数ですよ。それにそんな貴族はこの街ではやって行けないでしょう』
そんなものかね。なんかそういうのは面白くないな。いつ仕掛けてくるのかは知らないがその時は返り討ちにしてやろう。
とりあえず朝食の時にみんなに報告しておいた方が良さそうだな。アル辺りは気付いているだろうが。
「それは、なんというか面倒臭そうだね」
「ごめんなさい、私のせいで…」
「いや、そんなもの襲ってくる方が100%悪い。気にするな」
「そうだね、僕達の家を汚されるのは僕も面白くないな」
ミルは謝っているが本当に3人共何も気にしてはいない。最初は王女様として一応改まっていたが今は家族だからな。二人共しっかりと指輪をしてくれていた。嬉しいな。
「エリス達も今日はあまり外出しないでくれると助かる。買い物は俺かアルが行く様にしよう」
「そうだね、まだヒナタとミルだけでは万が一があるからね」
「分かりました」
エリスも渋々だったが納得していた。
それから問題が起きたのは1時間後だ。
「は?誰かが俺達に用事があると?」
「はい、ですのでご主人様に確認を取りに来たのですがどうしますか?」
絶対に朝の奴ら絡みだよな。てか人数増えてるし。
まぁ、来てしまったものはしょうがないしこのままずっと見張られてるのも面白くないな。
「よし、一階の応接室に呼んでくれ。今すぐみんなを連れて行く」
「畏まりました」
そして楓は全員に念話で用件を伝えて応接室に召集をかける。この念話の弱点はスキルを持っているもの同士だと会話が出来るのだが一方だけだとスキルを持っている人しか話す事が出来ないので相手の意見を聞く事が出来ない。連絡をするのには便利だが意見が欲しい時は少し不便だ。
「本当に来たみたいだね」
「はぁ、どこの馬鹿者かは知りませんが旦那様達にご迷惑をお掛けするとは…」
「あははー、どんなのが来るか楽しみだね」
既に4人共用意されたソファーに座り相手が来るのを待っている状態だった。
「失礼する」
「ほう?」
やって来たのはいつだったかの副団長、いや元副団長か、それともう一人中年の男がいた。
「僕はシルク・ファンそう言えばあの時名乗ってなかったからな」
元副団長改めシルクは傲慢そうに楓達を見下しながらそう伝える。
向こうから勝手に突っかかって来たのに失礼な奴だ。
「私の名前はチェカー・アンドルです、よろしく」
こちらはどこか面白いものを見る様な顔で軽く挨拶をしてくる。
正直二人ともあまり印象は良くなかった。面倒臭い…
「俺はクラン『無限の伝説』のクランマスターの楓だ、今日はなんの用事だ?」
「き、貴様!我々は貴族だぞ?無礼にも程があるのではないか?冒険者のくせに調子にのるなよ」
元副団長様はお怒りの様だ。
「は?まず勝手に俺達のクランハウスを見張っておいて何言ってんの?それにお前も貴族なら一応クランマスターの俺に敬意位示せよ馬鹿が」
楓は盛大にシルクを挑発する。シルクは顔を真っ赤にして怒っている。以前の決闘から日も浅い為まだ、消化しきれていない様だ。
「まぁ、いい。それより何の用だ?俺達もこれから自分達の事をしたいんだ。さっさと用件を済ませろ」
「えぇ、分かってますよ。では」
そう言ってチェカーはシルクを率いて正面のソファーに座る。
「へぇ、すごい座り心地のいいソファーですね。これはどちらで?」
「自作だ」
「そうですか」
今話しているのは楓だけだ。他の3人は全く口を開かない。一応クランマスターの楓の方が他のメンバーの発言より大きいだろうし楓一人の方が上手くやれそうだったからだ。
「本日、ここに来させて貰ったのは例の決闘で君に不正疑惑があるからだよ」
「は?不正?それを言うならお前らだろ?前もって武器の要否も伝えずにいきなり戦って来たんだから」
「それは両者のルールの決め方が甘かったまで。別に不正ではありません」
「さっきから元副団長様は全く話をしていないがどうしたんだ?」
楓は元の所を強調して問いかける。これには他の3人もクスッと笑ってしまう。
「彼では納得のいく話し合いが出来ないと思うので私が代理としてあなたと対話させて頂いているのです」
元副団長はかなりピクピクしていたが我慢していた。
「へぇ、んで?不正だったらどうすれば?」
「もちろんミル王女との婚約を破棄していただきたく。そしてその穴埋めをこのシルクにしてもらいます」
無茶苦茶なこと言ってるぞ。どこの世界に自分の嫁を他の男の元に行くのを良しとする旦那がいるだろうか。
「それと、彼はあの後職を失いひどく精神的なショックを受けています。その慰謝料として光金貨10枚を要求します。もし無理ならそこのお嬢様にもこちらに来ていただきます」
やばい、イライラして来た。こいつら頭おかしいんじゃないか?
「もし断るならあなたがさっき言っていた見張り役約100名をこの屋敷の中に突入させて無理やりにでも連れて行きますが私達も荒事は好みません。さぁ…」
「断る」
「はい?」
楓の即答にチェカーは戸惑った声をだす。
「どこに自分の妻を他の男の元に行くのを良しとする旦那がいると思ってるんだ?よく見ろよ、二人の薬指にはしっかりと俺たちの『証』がついてるだろ?」
その言葉と同時に二人は自分の左手を見せる。
「ま、まさか!ミル王女様!こんな不正迄する輩に対して!」
シルクは流石に指輪の存在に気付いて黙ってられなくなったのだ。
「まさか、あなたの純潔まで…」
変な事言うなバカ、そうですよ、俺はチキンですよ。よしわかった、今夜絶対にどちらか抱いてやる。もうチキンなどと言わせない。
『誰も言ってませんよ…』
「分かったか?さっさと出て行け。これ以上ここにいるならお前ら二人共ぶっ飛ばす。外の奴らも同様だ。刃物を持ってくるのならそれが自分達にも突きつけられているものだと思え」
楓は少し殺気を込めて二人に言い放つ。
「そ、そうですね。分かりました。今日は一旦引きましょう。ですが必ずミル王女はあるべきお方と結婚するべきだ。その事をお忘れなく」
「大丈夫ですよ。私の旦那様は最高の殿方です!」
ミルは満面の笑みを込めてチェカーに言うとそのまま勢いで楓にキスをする。それに気づいた日向も一歩遅れてキスをする。
「な!ミル王女様!」
「黙りなさい。これ以上旦那様にも仲間にも迷惑をかける様なら容赦しません」
「は、はい」
元副団長は絶対に反省してないだろうなーと見るからに不満そうな顔をしながらチェカーと共にこの屋敷から去って行った。




