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お城に呼ばれた! 1

 あれからちょうど2日がたった午前中。


「あ、見えて来ましたよ」


「え?本当?やっとだね」


 ミル王女と日向が絶えず話している途中にミル王女が皆に言う。


 俺とアルが寝ている様で寝ていないのはこの2日でミル王女も分かっているので遠慮もない。


 それにしてもよくここまで話題も尽きずにおしゃべりが出来るもんだよ。何を喋ってるのかは聞いていないので知らないがこの3日間ずっと二人で話している様な気がする。年頃の女子はおしゃべり好きの様である。


「あの、とりあえずカエデ様達にはお城まで一緒に来ていただきたいのですがよろしいですか?」


「あぁ、別に構わない」


 俺としても特に王都に来てすぐにやりたいこともないので了承しておく。


「ありがとうございます!ではそのまま少しお待ちくださいね」


 王都は外から見た感じリングベリーやシュトガルの3倍はあるんじゃないのか?と思わされる様なデカさだった。流石王都だな。格が違う。


 王都は貴族街と市民街と分かれており市民街から貴族街への道には検問があったが楓達は王女の馬車の中にいたのでそのままスルーされた。


 まさか王女専用の馬車に冒険者が乗っているとは思わないだろう。まぁ別にバレたとしても問題はないと思うが……


 というわけで王城に着く迄30分位掛かっていた。


「うわー、大きいね」


 アルが初めて馬車の中で喋った。まぁ、分かるよ。この中で声を出すのは俺でもあまりしたくない。


「だな。流石王都だ。今迄の街とは格が違うな」


「そうだね。ここにクランハウスを建てるのか。私もなかなか楽しみになってきた」


「クランハウス?」


 日向の独り言にミル王女が質問する。


「うん、もともと私達が王都に来た理由って楓がここにクランハウスを建てたいって言うから来たんだよ」


「クランハウスということはこの3人はクランを作っているんですか?」


「そうだよ『無限の伝説』っていうクランで楓がクランマスターだよ」


「そうなんですか」


 ミルも冒険者についてはよく知らないらしいのだが、クランマスターはAランク冒険者かそれに準ずる力を持っていないといけないというのは知っていた様だ。そして、この前助けてくれた俺の力がその位あるのかな?とは思っていたらしいのだが、まさか本当にクランマスターになれる程の力を持っているとは思いもよらなかった様だ。


 そしてミルはこれから起こるある種賭けにも近い事をする事に緊張していた。日向と入念に作戦を練っているので頑張って作戦を実現させたいと思っている。その作戦はもう少ししたら分かるのでお楽しみに。


「凄いな」


「だね」


「流石に僕も人のお城は初めて来るよ」


 3人は応接室でしばらく待つようにとの事だったのでそこで3人で座って待っていた。途中侍女が紅茶を持って来てくれたのでそれを飲んでいたがこれがまた美味しかった。日本では紅茶よりコーヒー派だった俺だが、久しぶりに飲んだ紅茶は日本にいた時に飲んだ紅茶より美味しかったかもしれない。


 誰も喋らない静かなひと時が流れていた。


 この時間がたまらなく好きでもあった。緊張はもちろんあるが心を許せる仲間と静かなひと時を過ごせるのは結構好きだ。幸いこの部屋には侍女一人だけだったのであまり気にしていない。ここに騎士がいたのであればまた違っただろうが…ミル王女あたりが言いつけてくれているみたいだ。


 それからしばらく待っていると… …


「面会の準備が整ったそうです。皆様こちらへ」


 侍女が俺たちを連れて行く。


 王様も暇なのかな? まさかこんなに早く会えるとは俺も思ってなかった。


『それが向こう側の誠意でもあるのですよ』


 なるほどね。でもなんか悪い気がするな。


「こちらです」


 その後廊下を1分ほど歩いた所にある部屋に入る様に促される。


 まずい、礼儀作法どうしようかな……


『スキルがありますが?』


 よろしく。


 頼もしい存在が俺の中にいたので即刻パッシブ化する。

 そして扉が開かれると50歳前後の男の人とミル王女がいた。第一王女とミルの母親はいないみたいだ。


「失礼します。我々はクラン『無限の伝説』であります。クランマスターを務めておりますカエデと申します」


 完璧だな。これには日向もアルも、ミル王女でさえ目を見開きそして笑いをこらえている様であった。


 んにゃろ、人がせっかく礼儀正しくしているのに…壁にいる騎士に目をつけられるのも面倒臭いから無視をする。俺の噂が広まっているのか皆一様に目が鋭く殺気が籠っているのだ。襲われると面倒臭い。流石にここで問題を起こすのは不味い。


「はっはっは!何無理して礼儀を尽くさなくて良い。ここはプライベートの場。ある程度ミルから話を聞いておる故いつものままの態度で良い」


 王様も何か俺の礼儀作法の不器用さが伝わったらしく笑い飛ばしそのままでいいとの事だ。


「ではお言葉に甘えさせていただきます」


「うむ、とりあえずそこに座れ」


 王様は自分の目の前の3人なら余裕で座れるソファに座る事を促してきたので、3人ともそこに座る。

 

 何がいけないのか終始睨みつけてくる騎士は無視だ。もう気にするのも面倒臭い。


『さっきと言ってる事違うじゃないですか』


 いや、何しても睨まれるんだったらもう無視が一番だよ?


「私の名前はバルバトス・デスハイムだ。一応この国の王をやっておる。改めてよろしく。そして道中、ミルを救ってくれた事感謝する。本当にありがとう」


 驚いた事にそう言ってこの王様は頭を下げてきた。一冒険者にだ。これには流石に騎士も黙っておらず。


「なりません!冒険者などに頭を下げるなどこの国の威信に関わります!」


 バルバトスの後ろに立っていた騎士がバルバトスに諭す。


「いや、そういうわけにもいかぬ。この方達はミルの命の恩人なのだ。お前もミルを助けてもらってよかった側だろう?すまなかったな、うちの副団長が」


 王様の後ろに立っていたのは副団長だった様だまだ20代前半なのにすごい出世なんだな。


「いえ、俺はさっきも名乗らせてもらいましたが楓です。こっちは日向、そしてこいつがアルメダです。この3人でクランをやっています」


 自己紹介をすると二人とも軽く礼をする。日向はガチガチ、アルは悠々と。性格が出るなこれ。


「それでカエデ、お前には今回の謝礼を渡したいのだがミルに聞くとこの王都にクランハウスを建てたいそうだな。なのでクランハウスを謝礼として贈りたいのだがどうだろうか?」


 流石ミル、今一番欲しい物を的確に当ててくる所は流石です。


「本当ですか!ありがたく頂戴させていただきます」


 ここは本来なら一度断ってそれでも〜というやり取りをするのだが面倒臭いのと、この王様もそんな事は望んでなさそうなので素直に頂戴する。


「ふむ、やはりカエデは面白い奴だな。それでなカエデよ。もう一つ謝礼をというか、なんというか…これはミルからのお願いでな……」


 ん? なんだ?


「ミルをカエデのクランメンバーとして入れてやって欲しいのだ。もちろん冒険者として行動してもらう。そしてゆくゆくは結婚なんかも考えて欲しいのだそうだ」


 ……は?


 俺は一瞬フリーズした。というか王族ファミリー以外の侍女や護衛の騎士迄も驚いている。


「ほ? い、いや! 待って下さい! それは流石に国として第二王女といえど冒険者と行動させるのはどうかと……」


「なら結婚はいいのかね?」


「そりゃ!こんなに美人な方と結婚となれば嬉しいですが僕には勿体無いです!」


 何か違う様な気がするが… …


「だがカエデも普通に格好良いと思うぞ?あ、ヒナタとやらとも婚約をしているのだったな。この国は一夫多妻制も許可されておる。ミルは第二夫人だな」


「はい! お父様!」


 は? 日向が婚約者? なにそれ!? 日向に視線を向けると日向はめっちゃ照れてた。かわいいなもう!


「あ、あの。私じゃだめ、かな?」


 日向は泣きそうな顔をしながら問いかけてくる。


 それは反則だよ! 断れないよ! まぁ、日向なら可愛いし優しいし普通にいいんだけど……


 う、昔の記憶が……


「いや、よろしくお願いします」


 まぁ、それは俺が頑張ればいい話だ。ここで日向を泣かせるのは良くない。アルは腹を抱えて笑っているが。カオス状態ここにあり、だ。


「という事でミルも貰ってくれるな?」


 こちらの件が一段落ついたという事で王様がまた声をかけてくる。


「ま、まぁ、どうせ日向とミル王女がコソコソしてたのってこの事でしょうし、日向を結婚相手にすると決めたか

らにはミル王女もいただきたいと思います」


「言うの、一国の姫を娶るというのに」


 ミルはリンゴのように真っ赤な顔をしていた。この国では結婚に対して抵抗はないのか?


「あ、あのカエデ様。これからも末永くよろしくお願いいたします」


 ミルは嬉しそうに、そして作戦が上手くいったとでも言いたそうな顔をしながら、でもやっぱり嬉しそうな顔をしながら言ったのであった。

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