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人助けなのです! 1

あれから三時間一度も休まずにペースを保って移動し続けてきた。たまに冒険者や商人がいたが構わず走り続けてきた。まぁ、通り過ぎる時に全員あり得ないものを見たような顔をしていたが…


まぁ隠す必要もないからな。


「王都って結構遠いんだな。このペースなら半日で着くと思っていたが多分無理そうだ」


「え?そんなに遠いの?まぁ魔法のおかげで全く疲れてないから良いけど」


「でも飽きるよね。僕なんてただ走ってるだけだからね。体動かすのは好きだけど流石に走り続けるのにも飽きてきたなー」


「良かったな、アル。前方で人が襲われてるぞ。ゴブリンの群れ約150体。俺のマップではあと30キロ先だ。急ぐぞ」


「暇つぶしにはちょうど良いと思うけど妙だね。流石にそこまでゴブリンって群れで行動しない筈だけど…」


「俺にも分からん。とりあえず行くぞ」


そう言って3人はさらに一段階ギアを上げる。30キロを約5分で走破してしまった。流石に俺以外は疲れている様子だが。


「あれだな。俺が最初に乗り込む。お前らは援護を頼む」


「えー楓一人でやっちゃうの?」


「お前らバテバテじゃねーか。ここは俺に行かせてもらう。二人で馬車の護衛よろしく」


「はーい」


「分かったよカエデ。任せた」


「おう」


俺は元気よく頷いたその瞬間日向達は俺の姿を捉えられなくなった。要は速すぎて俺が消えた様に見えたのだ。


「相変わらず凄いね」


「私も頑張らないと」


この二人の動体視力は今常人とはかけ離れたものになっている。その動体視力をもってしても今俺が行った動きが見えなかったのだ。


「あーあ。見てよヒナタ。カエデがまるで雑草の駆除の様にゴブリンを狩ってるよ。しかも笑ってるし…」


「楓はバトルジャンキーだからね」


「何それ? とそれよりも馬車の護衛に行った方が良さそうだね。護衛が楓の乱入に戸惑ってるよ」


「うん」


アルの提案に日向はあまり乗り気ではなかった。何故かって?それはその馬車が日向が見てきた物よりも格段に豪華だったからだ。日向はこの後の展開を日本にいた時に友達から本を通じて聞いた事がある。


「どうかお嬢様とかそういった類の馬車じゃありませんように!」


そう、旅の途中に馬車が襲われている。しかも高価そうな馬車。となると誰もが想像している『あの』展開である。


本気で気が乗らない日向と違ってアルは颯爽と馬車の護衛に俺の事を説明していた。


護衛の人達は目の前で行われている事が信じられないといった様な顔をしているが…ものの数分で俺は全てのゴブリンを葬り去った。


「いやー動いたね。楽しかったわ」


「お疲れカエデ。今度は僕にやらせてよ?」


二人は呑気に話し合っているが助けられた側はそういうわけにもいかない。何しろ危うく馬車の中にまで手が行きそうだった所を助けてもらったのだから。だがこの中にいる人の事は話せない。どうやって誤魔化そうかと思っていたのだがその護衛の悩みも一瞬で打ち砕かれる。何故なら中からそのバレてはいけない人が出て来たのだから。


「あの、ゴブリンを退治してくださったのは貴方ですか?」


中から出て来たのはちょうど俺や日向と同い年位かな?と思われる女の子だった。髪は銀色。目の色は青でとても整った顔立ちをしていた。この子の顔を可愛いかと10人に問えば9人は可愛いと答えるであろう容姿をしている。


その女の子が俺に向かって問いかけていた。アルはこれから起こるであろうゴタゴタに対してとても面白そうに見ていた。


「ん?あぁそうだな。見た感じどこかのお姫様ってところかな?敬語とか使った方がいいか?」


俺はいつもの調子で目の前の女の子と話す。がそれを良しとしないのは護衛の騎士らしき人達だ。


いくら命の恩人でも許せる事と許せない事がある。それが今だったのだ。


「敬語は必要ありません。先程は私達を助けてくださってありがとうございます。私の名前はミルテイラ・デスハイムです。デスハイム王国の第二王女です。」


まさか今から行く予定の王都のお姫様だとは流石に俺も分からず驚愕の表情が出てしまった。


「そうか、まさかお姫様の馬車だったとは。俺の名前は楓だ。冒険者をしている。そっちは日向、そしてアルメダ」


「日向です。よろしくお願いします」


「アルメダです、よろしくお願い致します」


二人とも俺が紹介すると軽く自己紹介をした。


「まぁ、お二人様もそんなに堅くならないで下さい。公式の場でない以上私は気にしません」


「でも」


「お願いします」


日向は何か戸惑いがあったが当の本人にお願いされては断れず渋々了承する。


「分かったよ、よろしくねミルテイラさん」


「私の事は皆さんミルとお呼び下さい。カエデ様。貴方もですよ」


「ん?あ、あぁ」


いきなり話を振られて俺は空返事を返す。


「それにしても災難だったな。じゃあ俺達はこの辺で失礼するわ。日向、アル。行くぞ」


俺は騎士達の視線が面倒臭かったのでさっさとこの場を去ろうと二人に声をかける…が


「ま、待って下さい楓様!あ、あの。流石にこの人数で王都迄行くのは危険なので護衛をお願いしたいのです!あと、助けてもらった謝礼もさせていただきたいので王都までご同行お願いできませんか?」


ミル王女は頰をピンク色に染めて俺にまくし立ててくる。


「わ、わかった。日向もアルもそれでいいか?」


「僕は構わないよ」


「わ、私もいいよ。流石に王女様に何かあったら大変だからね」


日向は不承不承といった感じだが特に異論は出なかった。


「ありがとうございます!ではカエデ様は私と同じ馬車にお乗り下さい!その方が守ってくださるのにも楽でしょう?お二人にも2台目の馬車でごゆっくりして下さい」


ミル王女がそんな事を言い出した。そこに異論を挟んだのは…


「待って下さい王女様!流石に冒険者風情と同じ馬車というのはよろしくありません!」


「お黙りなさい。私が決めたのですから口を挟まないで下さい」


護衛の騎士の一人がミル王女に異論を挟むがそれをミル王女は一刀両断。なかなか怖いかもしれない…


「あ、あの!出来れば私達もミルの馬車に乗りたいな!ほら、いっぱいお話ししたいし私達もそこそこ強いよ?ね!アル」


「そうだね」


アルは終始ニコニコしているの。気持ち悪いな。


「そうですね。それでは皆さん私の馬車にお願いします。中は広いのでそこそこスペースはあるので王都に着く迄の間よろしくお願いしますね」


との事で俺は(何故か俺だけに)他の護衛の奴達(やつら)から殺気のこもった視線を頂戴しながら馬車へと乗り込む。席順はミル、俺。向かい側にアルと日向となった。

ミルはとても嬉しそうである。日向も俺の正面とあってすっかりとご機嫌だ。


アルはまだ俺に対してニコニコと笑みを浮かべてくるし御者の騎士は俺にさっきの騎士同様にきつい視線を送ってくるし…いったいどうなってるんだ?


『ラノベを読んでいてもこの状況を理解出来ないとか…重症ハーレム野郎ですね』


最近ナビちゃんの言動がきつくなってきてる気がする…

俺はそう思うのであった。

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