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救世主が男の娘でいいんでしょうか?  作者: せんと
第三章 学びの園の男の娘
41/48

第4話 一緒に戦ってくれる仲間を探しましょう

更新遅れてしまいました。申し訳ございません。

 ベルウェグは純粋な教育・研究機関というのは元より、軍人志望者のための職業訓練施設という側面もある。

 いや、正確には後から加わったというべきだろうか。

 というのも、ベルウェグは元々は優秀な魔法使いを育てる目的で開設されたもので、生徒はもっぱら魔法使いを対象に考えられていたからだ。

 しかし魔法使いと言えば戦争のための重要な戦力である。平和な時代ではその傾向は見られなかったのだが乱世の世の中になるとやはり魔法は武力として色合いが濃くなっていき、教育の内容にしても実戦的な魔法の運用法などが求められるようになっていった。

 そこから派生して魔力が持たない者が魔法使いに対抗するための研究が進み、学園は魔法使いのみならず魔力を持たない一般の人々にとっても有用な機関へと変化していったのだ。

 そんなわけで学園には軍事訓練的なカリキュラムが多く存在しており、その内の目玉となる授業がフラッグ・ハントだ。

 フラッグ・ハントとは読んで字のごとく指定されたフィールド内で行う6対6のチーム戦で、先に相手のフラッグを破壊した方が勝ちというものである。

 ただこの授業ではより実戦に近い感覚を身につけることを目的としているため魔法や武器の使用が認められており相手への直接攻撃も試合に勝つために必要な限りにおいては許されている。

 そのためこのフラッグ・ハントでは怪我が付きものであり、ある程度の傷ならば学園に常駐しているシュトレア教の神官が治してくれるのだが部位欠損や最悪死んでしまった場合には自己責任ということになっている。もちろんそのような事態は極力避けられるように試合の際には教師が監視しているのだが、それでも100%安全だとは言えない現状だ。

 そのため授業は選択制になっており腕に自信のある一部の生徒のみが参加しているのだということだ。


「という割には参加者は多いですね」

「そうですね。特に男が多いです。これなら潰しても罪悪感は沸きませんね」


 そんな幾分危険を伴う授業にアンナとレイラは参加していた。

 学園の建物がある場所から少し離れた森林地帯の入り口に集められた生徒はだいたい三百人ほど。

 その数字だけ見るならばかなりの数が集まっていると言えるのだが、これは初等部全クラス合同での授業であり初等部の全体数が三千人ということを考えれば参加者は1割程度しかない。

 その参加率の低さがフラッグ・ハントという競技のリスクの高さを示していた。


「というわけでヒーリスさんを探しましょうか」


 だがアンナはそんなリスクなど微塵も気にした様子を見せず、この授業に参加する一つ目の目的のため人捜しを始めた。

 女子寮の寮長ミエラの話では金狐族の少女ララエラ・ヒーリスは現在チームメイトを探しているらしいのだ。

 獣人の彼女はただでさえ人族との交流に障害がありチームを組んでくれる人が見つからないのだという。

 仮にチームが組めない状態であっても授業自体に出席する権利がなくなるというわけではない。いつ何時怪我で欠員が出るかわからない授業なので最終的に試験さえクリアすれば単位はもらえるようになっているのだ。だが、当然チームが組めなければ試合はできないので彼女も困っているのだという。

 というわけなのでこの授業に参加すれば必然的に余っているララエラとチームが組めるというわけだ。

 弱みに付け込むようで少し気が引けるがこの場合お互いに利があるのだから許してもらえるだろう。そんな気持ちを胸に発見したララエラのもとへアンナは駆け寄った。


「こんにちはヒーリスさん。チームメイトは見つかりましたか?」

「……なんですの、あなた? 嫌みでも言いに来ましたの?」


 二日目なのだから少しは態度が軟化しているかと期待していたのだがやっぱりだめだったみたいだ。

 ララエラはまるで詐欺師にでも話しかけられたかのように訝しげな視線をこちらに向ける。

 やっぱり嫌われているのだろうか?

 だが、そこから脱却を図るための作戦なのだから頑張らねば。


「ヒーリスさんがチームメイトを探してるって噂を聞いて。ボクは途中参加で組める人がいないのであなたと一緒にやれたらなって」

「えっ? わたくしとですか?」


 お、一瞬耳がピンと立った。

 嬉しいことがあったときレイラがよく見せる反応だ。

 これは脈ありだろうか。


「いえ、でも……結構ですわ」


 だがララエラは少しだけ逡巡する姿を見せたものの結局はそっぽ向いて断ってしまった。

 なんだったのだろう、今の間は。


「というかわたくし獣人をせ……せぃ……奴隷として扱うような女となんて組めませんわ」


 かと思えば今度はだめ出しが始まってしまった。

 というか今彼女、性奴隷とか言った気がするのは気のせいだろうか?

 いや、でもそんな扱いをみんなの前で見せたことはないし、実際レイラは性奴隷なんかではないのできっと噛んだだけなのだろう。


「ご安心ください。アンナ様はあなたのケバケバしい毛並みなどには一切の興味を示されてませんから」

「なっ――なんですって! このわたくしの美しい黄金の毛並があなたのものに劣るとでも?」

「ええ、まったくもって駄目です。私の黒く艶のある尻尾こそがアンナ様にとっては至高なのです」

「そんなわけありませんわ! わたくしのはこの高貴で美麗で輝かしい黄金の尻尾が九本もついてますのよ?」

「ふっ、これだから生娘は。そんなにモサモサしてたら後ろからにゃんにゃんするときに邪魔ではないですか!」

「にゃ――にゃんにゃん!? にゃんにゃんですって――!?」


 生娘なのはレイラも同じはずなのに、何を偉そうにしているのか。


「――っていうか何の話をしてるんですか! 僕とレイラはそんな不純な関係ではありませんよ!」

「でもあなた! 尻尾を巻き付ける仲なんでしょ!?」

「確かにそうですけど、別にそれくらいいいじゃないですか。僕はヒーリスさんとも尻尾を巻き付ける仲になりたいと思ってるんです!」

「ひぃっ――!! やっぱりわたくしの体が目当てだったんですのね!! やっぱりあなたは信用なりませんわ!」


 レイラの話では仲良し同士がするものだったはずなのだが、そこまで嫌がらなくても。

 やっぱり人族と仲良くするというのは相当なハードルなのだろう。

 ララエラは一層顔を真っ赤にして怒ってこちらを睨み付けている。


「……だいたいあなたは今日から参加なのでしょう? 残念ですが数会わせの足手まといなんていりませんわ」

「そ、それなら大丈夫です! ここに来る前は冒険者をしたこともありますから。実戦経験は他の子たちよりあるつもりです!」


 日本人的に謙虚な言い方になってしまったが初等部くらいならば軽く頂点に立てるくらいの経験の差はあるつもりだ。

 いきなりこんなことを言っても信じてもらえないかもしれないが少し手合わせでもさせてもらえれば――


「お――っほっほっほ! 語るに落ちましたわね、小賢し人族の娘! わたくし知ってますのよ、冒険者に登録できるのは10才過ぎてからだということを」

「なっ――!? ボクはもう12才です! 回りのみんなと同じ冒険できちゃう年齢です!」

「そんなちんちくりんな体で嘘が通じるとでもお思いですの? 12才というのはわたくしやあなたに虐げられている可哀想なレイラさんのような体の持ち主のことを言いますのよ!」


 そう言って腰に手を当て見せつけるようにポーズを取るララエラ。

 レイラより少し低いがそれでもアンナと比べれば二回りほどの身長差がある。


「それはあなたが獣人だからです! 人族ではこれくらいが普通なんです!」

「いえ、アンナ様は同年代と比べても小さい方だと思いますよ?」

「ここで身内からの裏切りですか!? レイラは知らないと思いますけど男の子の成長は女の子よりちょっと遅めでこの先いくらでも逆転のチャンスはあるんです!!」

「なら女のあなたはますます絶望的ということではありませんか」

「あっ――」


 ヒートアップするあまりうっかり口を滑らせてしまった。

 アンナの中で伸び悩む身長はかなりナイーブな問題なのだ。


「ぷぷっ、確かに男の子だと思いたくもなりますわよね。その哀れな成長っぷりでりは」


 ララエラはアンナの胸元に哀れみの視線を向けながら自身のたわわに実った二つの果実を見せつけるように胸を張って見せた。

 レイラに勝るとも劣らぬ大きさだ。


「別にそこを競ったわけではありません!」


 ララエラに変な疑いを持たれた様子はないのは幸いだったが、ちょっと複雑な心境である。


「――とにかくあなたを信用するつもりはありませんわ」


 どうあってもララエラはチームを組んでくれるつもりはないようだ。

 ――と思ったのだが、


「……確か前回の授業で欠員を出したチームがあったはずです。そこに割り込んで勝利を掴み取ってみせてください」


 ぷいとそっぽ向いた彼女はそんなことを言った。

 これはつまり実力さえ認められれば組んでくれるということなのだろうか?

 まぁ気持ちはわからないでもない。魔法の素質を持っていながら戦場に出ると精神を乱して全く使い物にならなくなる魔法使いもざらにいると聞くし。

 ただ少なくとも個人的に嫌われて拒否されているわけではないようで安心した。

 最初に拒絶されたのはちょっとした意地を張っただけなのかもしれない。


「わかりました。ではしっかり実力をお見せしますのでちゃんと見ていてくださいねヒーリスさん」

「ふん。精々お肌に傷が残らないよう気をつけることですわ。危なくなったらさっさと投降するのも手ですわ」


 微妙にこちらを心配してくれる言葉を残してララエラは去って行った。

 やっぱり根はいい子なのだと思う。

 そのためにもまずは実力試し。アンナとレイラは欠員が出ているというチームの元へ向かった。



 


++++++





「えっ? 君たちが入ってくれるのかい? むしろこちらからお願いしたいくらいだよ!」


 向かった先のチームでアンナとレイラは大歓迎されていた

 ララエラの時とは大違いである。


「実は前回の授業で二人が負傷しちゃってね。他に余ってる人がいなくて。かといって授業を受けていない人たちから引っ張ってくるのも難しくてね」

「そうそう。授業初回の時はこの5倍はいたのに今じゃこの様だもんな~」


 入学当初は自分の実力がわからず勇んで参加する者も多いのだが2回、3回と授業を重ねる内に徐々に身の程をわかっていき本当に実力のある少数だけが残るのだと言う。

 要するに今の時点で欠員が出ると補充するのが難しく数会わせだけでも有り難いことなのである。


「あれ? でもそれならなぜヒーリスさんを誘わなかったんですか? 彼女もチームを集められなくて困っていたはずですが」

「そうなのかい? 確か前回まではちゃんとチームを持っていたはずだけど」


 別に獣人だから人数にカウントされていないというわけではないようだ。それを言ったらレイラも獣人なので自分たちの申し出も弾かれていたはずだし。


「では情報の行き違いですかね?」


 だがララエラの方は彼らが人員不足であることを知っていた。

 やはり何か違和感を感じるのだが……。


「僕たちは全員男だからね。彼女としても誘いづらかったんじゃないかな?」


 そういうこともあるだろうか?

 とは言え悩んだところで答えは出なさそうだ。アンナは感じた違和感を心の隅に追いやった。


「では早速自己紹介をしようか。僕はミルチャ。みんなより少し歳が上ってことでリーダーをやらせてもらっているけど気にせず付き合って欲しい」


 最初に名乗ったのは先ほどから受け答えをしてくれている男の子だった。確かに彼は他の3人より背が高く大人びて見える。恐らく14,5才かそこらだろう。

 眼鏡をかけた優しそうなイケメンで話し方から知性が感じられる。きっと女の子からモテモテだろう。ちょっと妬ましい。


「俺はグリッド! この中では一番強いから頼りにしてくれよな!」


 次いで名乗り出たのは癖毛がチャーミングでやんちゃそうな男の子。恐らく同い年くらいなのだろうが活発そうな彼を見ていると若干自分が年寄りに感じられてしまう。

 というか精神年齢的にはこちらの方が遙かに上なのでその感想は間違ってないのかもしれないが。


「……ペネルです。どうせすぐ忘れられると思うけど……よろしくお願いします」


 3人目はとてもネガティグな子だ。前髪で目が隠れてしまっていて表情が読めない。

 確かに存在感が薄い。


「フレッド。いずれ世界を震撼させる者の名だ。覚えておくといい」


 最後の一人は何というか……背中がむずがゆくなるような子だ。

 変な刺繍が付け加えられた制服、手には指ぬきグローブ、そしてそれぞれの指にドクロマークの指輪がはめられている。

 恐らく彼は数年後、自分の所業を振り返って震撼することになるだろう。

 中学二年生的な病で言えばセフィーネも罹っていたはずなのだが、男と美少女ではこうも印象が変わるものなのか。

 彼ら全員初等部ではあるのだが教室で見かけたことはないので別クラスなのだろう。


「では次はボクの番ですね。えっと……」

「ああ、君のことは知ってるよ、アンナさんとレイラさんだよね」

「なんてったってあのアンナ(・・・・・)の偽物が現れたって大騒ぎになってるからな。もう一人は獣人だし」

「アンゼリナさんの取り巻きたちは偽物のほうには口を利くなって触れ回ってるからね」


 なんとなく想像はついたがそんなことになっていたのか。

 でもそうなるとこのチームに入ると彼らも迷惑をかけることになってしまうのでは。


「僕たちのことなら心配いらないよ。僕たちは孤児院にいた仲間だから故郷を襲われるなんて心配はないからね」

「……その孤児院もなくなった。もう迷惑をかけられる人なんていない……」


 だからペネル君暗すぎるって!

 実際話してる内容も重いので余計に暗く感じてしまう。


「我ら孤高に愛された悲しい獣を縛るものなどこの世には存在しないのだよ」


 そしてフレッド君。君の言葉は逐一記憶して5年後くらいにプレゼントしよう。


「ってわけだからさ、お前も気にすんなよ」

「はい。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 こうしてアンナは暫定的ではあるがフラッグ・ハントのチームメイトを手に入れた。

 少し癖のある子も混じってるがこのメンバーなら交友を深めることができそうだ。





++++++





「あらら~断っちゃったんだ。偽物(・・)も一緒なら楽だったんだけどね~」

「もしかして気を使ったのかな? 獣のくせに人様を心配するなんて生意気~」

「でもいいの? アンタ公式試合に出なきゃいけないんでしょ? あいつら断ったらそれすら適わないわよ?」


 アンナと別れた後、ララエラを4人の少女が取り囲んでいた。

 その誰もがララエラへ見下した視線を向け自分たちが上位の存在であることを疑っていなかった。


「だからあなたがたが来たのでしょ? わたくしが出られなくて困るのはあなたがたの飼い主(・・・)も同じですものね」

「――っ! アンタ自分の立場ってもんが!!」


 そんな少女たちに臆することなくララエラは毅然とした態度で皮肉を言う。

 少女の一人がその言葉に激昂してララエラの胸ぐらを掴んだ。


「まぁまぁいいじゃない。そう言うってことは逃げるつもりはないんでしょ?」

「もちろんですわ。四の五の言わずにチーム結成を届け出てくださらない?」

「アンタねぇっ!!」


 尚も挑発的な態度を取るララエラに少女の一人は殴りかかろうとする。だがララエラは彼女の腕をあっさり掴み止めてしまう。

 本来獣人と人族では基本的な身体能力に大きな差がある。例え4人一斉に掛かってこられてもララエラが負けることはないだろう。


「いい加減学びなさい。あなたがた雑魚ではわたくしを傷つけることはできませんわ。あなた方のご主人様(アンゼリナ)合法的に(・・・・)わたくしをいたぶるために小細工を弄しているのですからそれまで待っていればいいのですわ」

「くっ! そんな余裕を持ってられるのも今のうちよ!」

「その言葉そっくりそのまま返しますわ」


 捨て台詞を吐いて去って行く少女たちにしっかりと言い返すララエラ。

 彼女が強気な態度を崩すことは最後までなかった。

 金狐族族長としての誇りがそれを許さないのだ。

 だが……。ララエラの心中に一抹の不安がよぎる。

 アンゼリナの嫌がらせは日ごとに酷くなっている。

 並大抵のことならば自らの力で乗り切る自信はあったが彼女は手段を選ばない。次こそはどうにもならない状況になってしまうのではないか。

 そうなるくらいなら、獣人を連れたあの変わった少女の手を取るべきだったのではないだろうか……。


「いいえ、いくら人族と言えどこんな不毛なことに巻き込むのは可哀想ですものね。それにこのわたくしが誰かを頼るなんてありえませんわ」


 ララエラのプライドはアンナの手を拒むことを選んだ。

 ただ……彼女の顔に先ほどまでの毅然とした表情はなかった。

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