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救世主が男の娘でいいんでしょうか?  作者: せんと
第三章 学びの園の男の娘
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プロローグ

「失礼します」


 ドアをノックした後一人の人物が入室する。

 声だけを聞いたなら少年か、或いはちょっと低めの声の少女といった印象だ。

 しかし小さく華奢で、ぱっちりとした大きな瞳、腰まで伸ばされたふわふわのハニーブロンドの髪を揺らすその姿は声から受ける印象をあっさりと覆してしまう。

 待ち構えていた大人たちはその可憐な少女(・・)の姿に感心するようなため息をつく。

 少女に続いてもう一人の少女が入室する。

 可愛らしい少女とは違って彼女からはどこか冷たい印象を与えられる。

 しかし切れ長で長いまつげ、肩口で切りそろえられた黒髪は大人っぽい魅力を備えており、彼女の見事なプロポーションと相まって妖しい色気を醸しだしている。

 ただ少女の時とは正反対に大人たちの反応は嫌悪を示すものだった。

 なぜなら彼女は褐色の肌に赤い瞳――すなわち忌み子としての特徴を持っているからだ。

 入室した二人の少女は彼らの感情を正しく読み取っていた。

 だが二人にこれといった変化は見られない。

 このような反応は何度もされてきたものなのだからもう慣れっこなのだ。

 二人は部屋の中央に置かれた二脚の椅子にそれぞれ腰掛ける。

 そこは二十帖ほどの広さの執務室で二人に対面するように置かれた長机を隔てて4人ほどの大人がいる。


「ふむ……まずは結果から言おうかの。君たち二人とも試験は合格じゃ」


 二人の真正面に位置する場所に腰掛けた老人がおもむろに告げる。

 それを受け一人の少女は安堵のため息を、もう片方は当然だといった風に鼻を鳴らした。


「成績自体も非常によかった。もし普通に入学試験を受けていたなら学年総代を務めていたじゃろう。これだけの才能があるならばこちらとしても拒む理由はないのじゃが、一応決まりでの。志望理由を聞かせてもらえんか」

「はい」


 老人の言葉を受け、小さな少女が立ち上がる。


「ボクはここに忌み子の研究をしにきました。最先端の研究を行うこの場所で知識を身につけ、必ずや忌み子の暴走現象の解明を成し遂げようと思っています」

「ほう……、確かにその分野の研究をするのにこの場所は最適じゃろう。じゃが知っておるかの? その分野はもう何百年もめぼしい成果を出せておらぬ、半ば廃れた領域だということを」

「はい。険しい道のりなのは承知しています」

「その研究にはあまり予算が下りないかもしれん。指導をしてくれる教師も見つからんかもしれん。それでもやりたいと言うのか?」

「予算が下りなければ自分で稼ぎます。教師が見つからなければ自力で学びます。ボクはどんな苦労をしてでもやり遂げて見せます」

「そうか……。若いのに立派な心構えじゃ」


 長く伸ばされた白い顎髭を撫でながら老人は嬉しそうに笑う。


「ではそっちのお嬢ちゃんは?」

「私はただ主人に付き従い、主人の夢を後押しするだけです」

「この場所では身分に関係なく機会が与えられる。君が望めば他の事もできるのだが?」

「必要ありません」

「……君、もう少し態度というものが――」


 忌み子の少女の素っ気ない返事に回りの大人たちは顔をしかめた。

 その中の一人が少女の態度を注意しようとするが老人は笑顔でそれを遮る。


「よいよい。単なる儂のお節介じゃ。余計な質問をしてすまなかったのう」


 それで話は終わりだとばかりに回りに目配せをし、老人は表情を引き締めて二人に向き直り宣言した。


「では我、学術都市ベルウェグ校長アイザック・マクファーレンの名の下にアンナ・ブリューム及びその奴隷レイラの入学を認めよう。今日からここは君たちの学びの場だ」


 学術都市ベルウェグ。

 どの国からも独立した、何物にも縛られることのない学問の聖地にアンナとレイラは立っていた。

 故郷を失ったあの事件から既に2年の月日が流れ、二人は共に12才となった。

 獣人であるレイラに見た目の変化はないが、アンナのほうは少しだけ背が伸び、少しだけ大人びていた。

 あの後アンナはコルト村の情報を集めようと奔走した。

 しかし村が壊滅したという情報以上のことは出てこず、生存者がいたのかすらもわからずじまい。

 村のあった場所に行ってみたのだが、そこには大きなクレーターができており海水が流れ込んで海の一部となってしまっていた。

 途方に暮れたアンナだったが一つだけ情報があった。

 それはエルヴァー国の王女でありコルト村に滞在していたセフィーネがここベルウェグに入学しているというもの。

 しかし不思議なのがセフィーネもあの事件の当事者であるはずなのに、彼女が生存者であるという認識はされておらず、それどころかコルト村にいたという事実はなかったことにされていたのだ。

 そこに何か理由があるのだと考えたアンナは事の真相をしるためにセフィーネとの再会を目指した。


 ただそこからが大変だった。

 コルト村からベルウェグまでは陸路で国を三つ跨がなくてはならず、身寄りをなくした世間知らずの二人が踏破するには険しい旅となったのだ。

 途中で冒険者家業をこなしたり、紛争地域を横切ろうとして巻き込まれたり、なぜか求婚を受けたりと様々な困難に足を引っ張られているうちに二年も経ってしまった。


(でも……ようやくここまで辿り着くことができました)

 

 ヨハンとエーリカがどうなったのか。セフィーネなら何か知っているはずだ。

 彼女が生きているのだから、他にも生存者がいる可能性もきっとあるはずだ。

 それに先ほど語った志望動機も嘘ではない。

 忌み子の暴走が起きる時期はおおよそ15才前後。

 あと3年足らずでタイムリミットを迎えてしまうであろうレイラのためにも何としても成果を出さなければいけないのだ。


「必ずや、この学園に……いえ、世界に名を残す成果を残して見せます」


 すべてはここから。

 どれだけの困難があろうとも決して諦めない。

 今一度覚悟を固めてアンナは宣言した。


 ――しかし、


「うむ。では新たな生徒に儂からプレゼントじゃ。学園の中では常にこの服で過ごすんじゃぞ」

「ええっ!? こんなに短いスカートはくんですか!?」


 校長から渡された可愛らしくもちょっぴり足の露出度が高めの制服を見て、アンナの決意は早くも揺らいだという。



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