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救世主が男の娘でいいんでしょうか?  作者: せんと
第2章 彷徨える孤児
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第9話 なお修行中もメイド服です

「ボクは白ですね。しかもあまり透けてないやつです」

「美しく清純な色です。アンナ様にぴったりです」

「そういうレイラは、黒くてスケスケですね。とっても大人な色です」

「そんな……あんまり見ないでください、アンナ様」

「ふふふ~、駄目ですよレイラ。ちゃんと見せてください」

「は……恥ずかしいです。でもアンナ様が見たいとおっしゃるのなら――」

「…………いい加減解説に入っていいか?」


 謎のピンク空間を作り出しているアンナとレイラに向かってロディは呆れ顔でそう言った。

 二人が見せ合っていたのはお互いの大事な部分を包む布、すなわちパンティ――ではなく、自身の魔力を流し込んだガラスの球体である。

 魔力を流した際に変化する球体の色と透明度によって、その人の魔力の質と量がわかるのだと言う。

 現在三人は聖都グランロンドの冒険者ギルドに来ていた。

 ギルド証があれば町を出入りするときに何かと便利であるという理由からアンナは冒険者に登録することとなった。

 その一環としての魔力測定である。


「まずはブレッド。君の白い魔力は一般的に光属性魔法を使う時にいくらかプラス補正を受けるとされている」

「……ブレッド?」

「なんだ、呼び方が気に入らないか?」

「ああ、すみません! いつもファーストネームで呼ばれてたので新鮮で」


 ブレッドって誰だっけ? と呆けてしまうアンナだったが、すぐに自分が名乗った偽名だと思い出し慌てて取り繕った。

 どうでもいいけどアンナ・ブレッドってパン屋さんの名前みたいだ。

 どうせならもっと格好いい名前にすればよかった。シュナイダーとかハインラインとか。


「光属性っていうと、エスティアナ様の使う治癒魔法とかですよね? でも光属性って教会関係者しか使えないんですよね?」

「すべての光属性がと言うわけではないが、最も役立つ治癒系の魔法はそうだな。つまり君は魔力の色による補正はあまり期待しない方がいいということだ」

「そうですか……」

「大丈夫ですアンナ様。アンナ様に足りない部分は私が補います」

「ちなみにレイラ、君の黒い魔力はどの属性に対するプラス補正も働かないし、何か特別な効果を発揮できるという話も今まで聞いたことはない」

「や、闇属性の補正ではないのですか!?」

「闇属性に補正が付くのは紫の魔力だ。黒は一般に外れ色だと言われている」

「そ……そんな……」


 どうやら主従揃って特別な素質は持っていなかったようだ。

 預言の日に生まれた子供なのだからもしかしたらと思っていたがそこまで人生イージーに設計されてはいないらしい。


「とは言え、気にすることはない。すべての人が魔力に何らかの色を持っているが、その色の特性を発揮できる『色持ち』と呼ばれる者は1万人に1人というごく僅かな数だ。色による補正を受けられないからと言って不利になることはそうそう無いさ。むしろ重要なのは魔力量の方だが……まずはこの早見棒の使い方を覚えてもらおう」


 冒険者への依頼書が貼り付けられている隣の壁に立てかけてあったガラスの棒を取り出すロディ。

 ガラス棒は色が付いており、ロディが手に取った白以外にもいろいろな色の棒がある。その人の魔力の色によって使う棒が違うのだろう。

 白を取ったと言うことはアンナの魔力量を量るつもりだ。


「このガラス棒は先端に行くにつれ透明度が上がっていく。自身の魔力を込めたガラスの球体にかざして同じ透明度の地点に刻まれている数値が君の魔力量だ」

「透明に近づくほど魔力が高いということですね」

「その通りだ。太陽の光が当たると判別し難くなるから暗いところで見るんだぞ」

「はい。えっと……ボクの場合だと80……ですか?」

「私は40ですね」


 レイラも黒いガラス棒を取り出してアンナにならって自分の数値を測る。

 このガラス棒で測れる数値のマックスが100であり、これは妖精属(エルフ)の平均的な魔力量なのだそうだ。


「一般的に妖精属(エルフ)は人族の10倍以上魔力を持つと言われている。つまり人族の平均魔力量は10未満ということだ。40と言えばかなり高い方だし、80ともなればもはや上級クラスだ」

「おお――!!」


 質では芳しい結果は得られなかったが量はかなりのもののようだ。

 聞けば魔力量というのは成人を迎える15才くらいまでは使えば使うほど上がるものらしい。

 研究のために毎日魔法を使い続けていたことが功を奏したようだ。


「同じくらい魔法を使っていたはずなのになぜ2倍もの差が……」

「その辺は個人差があるのだ。嘆いても仕方ない」

「その分レイラは身体能力が高いじゃないですか」


 それに身長も自分よりずっと高いし。

 いくら獣人の成長速度が速いからと言って、ずっと女の子に身長が負けているというのは男として悲しいものがある。


(でもボクもそろそろ成長期ですからね。あと3,4年もしたらレイラを追い越して耳をなでなで出来るくらいになってるはずです)


 この後身長は伸び悩み、小学生高学年並の身長で成長限界を迎えてしまうと言う残酷な未来をアンナはまだ知らない。。


「ふむ、君たちの素地についてはだいたいわかった。それでは早速訓練の方に移ろうか」

「はい」

「よろしくお願いいたします」


 出来上がったギルド証を受け取り3人は冒険者ギルドを後にした。 

 ちなみに奴隷であるレイラは冒険者に登録することはできないが、アンナのギルド証には所有奴隷としてレイラの名が刻まれている。

 制度上仕方ないとは言え、物扱いにはやはり慣れることはできず複雑な顔をするアンナだったが、レイラはギルド証に刻まれた自分名前にうっとりとした視線を向けていた。

 俺様の物だ! と主張されているみたいでとても興奮するのだと言う。

 そういえば以前はしきりに首輪が欲しいと言っていたな、とアンナは思い出す。

 やはりこの子はちょっと変わっている。


「はぁはぁ……あの、アンナ様……この際私の体にも直接アンナ様の名前を書いてみては」


 嬉しさのあまりとてもきわどい発言を始めたレイラに、それなら足の裏に書きますので毎日ボクを踏みつけて生活してくださいと言ったら顔を真っ青にして黙ってしまった。





++++++





 ロディに連れられてやってきたのは聖都の外れにある楕円形の闘技場のような場所だった。

 普段はここで聖法騎士団の面々が訓練を行ったりしているのだが、今は教皇逝去による情勢の不安定化を懸念して全騎士団が何かしらの任に付いているのだという。

 日本でも、コルト村でも平和な暮らしを送っていた自分には今一実感が湧かないが、教皇は宗教のトップであると同時に国のトップでもあるわけだから空位となっている今の状況はそれなりに大変なものなのだろう。


「既に鎧の男との戦いを見せてみらったゆえある程度の実力は知っている。時間もないため始めから実戦形式でいかせてもらうぞ」

「はい、問題ありません」

「うむ。ではまずは一対一でやってみるか。ブレッド、君からだ」

「はい、よろしくお願いします」


 レイラを後ろに下がらせて一歩前に出る。

 既にロディも訓練用の刃引きしてあるロングソード抜いて無言で構えている。

 時間も限られているため手っ取り早く始めろということだろう。

 戦いにはまだ慣れていないためすぐに気持ちを切り替えるのは難しいが鎧の男と対峙したあの時の緊張感を思い出し顔を引き締める。


「では行きます――」


 わざわざ開始の声をかけてしまったのはまだアンナの甘さが抜けきっていないゆえか。

 しかしかけ声と同時に無詠唱・無宣言(トリガー)で放ったエアショットには一切の手心を加えていない。

 直撃すれば骨の2,3本は折れるだろう。当たり所が悪ければ死んでしまうかもしれない。

 だがその攻撃がロディに通じるとは思っていない。


「刃壊流――魔刄!」


 アドルフも使っていた対魔剣術によりアンナの魔法は形を成す前に切り裂かれてささやかな風となる。

 同時にほぼゼロ距離にまで接近されていた。


(――早い!)


 鎧の男ほどではない。下手をすればレイラのスピードにも及ばないかもしれない。しかしロディの動きに無駄はなく、まるで意識の合間を縫うように気づいたら目の前にいた。

 ロディの剣閃が迫る。

 咄嗟にダブルアクセルで距離を取りたい衝動に駆られるが、それをぐっと我慢して――


「『ウインドシールド』!」


 風の盾を発生させ紙一重でそれを躱す。

 そのすぐ後に再びエアショットを連続で放つ。

 アンナが先の戦いで学んだこと。それは自分より圧倒的に早い相手に対して距離を取ると言うことがあまり有効では無いと言うことだった。たとえ魔法で動きを加速したとしても、その上で速度が負けていれば簡単に追いつかれてしまうどころか致命的な隙を見せることになってしまう。それならば相手の攻撃を受け流し、逆に相手の隙を作って攻勢に出るべきだと考えたのだ。

 ――しかしアンナの放った魔法は身のこなしだけで躱される。そのまま次の魔法を発動する暇も与えられずアンナの喉元に剣が突き立てられた。


「……参りました」


 アンナはあっさりと負けを認める。言い訳も思いつかぬほど完膚なき敗北だった。

 正直相手を舐めていたのかもしれない。同じく鎧の男に敗北した側なのだからそこまで力量に差はないのではないかと。

 だが実際は違った。まだ本気を出していないであろう状態で既にこの歴然たる差。ロディもまた遙か格上の相手なのだということを理解させられる。


「ふむ。俺相手に距離を取るのは悪手と踏んであえて近接戦を選んだか」

「はい……。なにか不味かったでしょうか?」

「考え方としては悪くない。だがその戦法は魔法以外での回避技術を持っていて、ある程度動ける者がとってこその方法だな。子供の君ではどうしても体力に限界があるし、そもそもあまり運動神経はよくないだろ?」

「はい……。ですが、それじゃあボクはどうやって戦えばいいのでしょうか?」

「本来純粋な魔法使いは近接戦に持ち込まれた時点で終わりだ。それが嫌なら単純に近接戦ができる何かしらの心得を持つしかないな。かと言って君の細腕では剣を持つことも盾を構えることもできないだろう。ということで基礎の基礎。体力作りからだな」


 そう言って近くにある物置のような所へ歩いて行くロディ。

 戻ってきた時には彼の手には何かが握られていた。


「あの……ロディさん。その手にある物はなんでしょうか?」


 この流れで持ってきたのだから訓練のためのものに決まっているのだが、それはとても不安を誘う形状をしていて問わずにはいられなかった。

 ロディが持ってきた物。それはどう見ても蜂の巣だった。


「もちろん君の身体能力向上に貢献してくれる魔道具だ」

「こ……効果のほどは?」

「効果は……そうだな、これに魔力を流し込んでみればわかるさ」

「でも絶対出てきますよね? お尻に鋭い針を持った恐怖の飛行生物が」

「やればわかる」


 もう悪い予感しかしなかった。

 せめて具体的に何が起こるのかロディの口から教えて欲しかったが、ロディが意地の悪そうな笑顔をするだけで答えてはくれなかった。


(や……やるしかないんですね)


 アンナは覚悟を決めた。

 訓練と言っているのだから命の危険まではないはずだ。

 ――ならばここはロディを信じよう。

 恐る恐る魔道具もとい蜂の巣に魔力を送る。

 すると蜂の巣は一瞬目映い光を放ち――


「やっぱりこうなるんじゃないですか――!!」


 ブーンという羽音と共に3匹の蜂が次々と飛び出して来てアンナ目がけて飛来する。

 近くにいるロディとレイラにはまったく反応を示していないのは恐らく魔力を流した者だけを襲うようになっているからだろう。


「今から君には一切の魔法使用を禁ずる。身体能力だけでそいつから逃げ切るんだ」

「そんな――無理ですよ! 3匹もいるなんて!」

「俺と対峙することを考えればスピードは大したことはない。それに刺されたとしても大した毒は持っていない。男だったら息子(・・)が寝たきりになってしまう可能性があるぞと脅せるんだが君は女の子だからな」


 子供の君にはまだわかりづらい言い回しだったかな、と言ってふっと笑うロディ。

 しかしアンナはもはやそんなロディに抗議を入れる余裕もなく――


(またそのパターンですかあああああああああああ)


 洞窟で巨大蜘蛛に追いかけられた時以上の絶望を抱きながら全力ダッシュしていた。


「いたっ――あぁ――やめっ、ボクの息子が――」


 しかし運動能力の低いアンナにランダムで繰り出される3匹の攻撃を避けきれるはずもなくちくちくと肌を刺されていく。

 痛み自体は大したことはないのだが、刺される度に男としての大事なものが失われていく気がして目頭が熱くなっていく。

 このまま未来を失ってしまうくらいなら魔法で焼き払ってやろうかとさえ思えてくるが……


「ちなみにこの魔道具はアーティファクトだ。壊したら1億ダルクでは足りないだろう」

「蜂の巣にそんな価値が――!?」


 やむなく集めていた魔力を霧散させる。

 流石に1億ダルクは両親でも払えないだろう。

 もしかしたらロディなりの冗談なのかもしれないが、いざ壊して本当に請求されたら人生終了だ。

 きっとこの国の新米兵士たちも今の自分のように男の尊厳を犠牲にしながら強くなって言ったんだと自分に言い聞かせてアンナは必死に迫り来る蜂から逃げ回る。


「さて、では次は君の番だな」

「……」


 元気に駆け回るアンナを確認したロディが視線を戻すとそこには彼を殺さんばかりに睨み付けるレイラの姿があった。

 訓練とは言えアンナを酷い目に遭わせているロディにご立腹のようだ。

 しかしロディは何処吹く風で平然と言い放つ。


「君の弱点は主人に意識を向けすぎていることだ。その結果実力を十全に出すことができず敗北したのでは元も子もない。そうなれば主人を助けられる者は誰もいなくなってしまうかもしれないんだからな」


 それはレイラにはとても痛い言葉だった。

 確かに自分はアンナを優先し過ぎるあまり直情的な行動をしてしまう傾向がある。

 本当にアンナのことを思うならばもっと冷静に状況を見なければならないのだ。


「おっしゃる通りです」


 だからレイラは素直にその忠告を受け取った。

 一度深呼吸をしてロディに意識を集中させ――そして一直線に彼へと駆けだした。

 腰を落とした低い体勢のまま彼に肉薄しロディの腹部目がけて勢いの乗った右ストレートを放つ。

 しかしそれに合わせるようにロディも半歩下がりながら剣を振り下ろす。

 レイラの右手とロディのロングソードが交差する。

 いくら刃引きしてあるからと言って鉄の塊を素手で受ければ骨折は必死。

 しかし衝突の際に生じたのは甲高い金属音だった。

 よく見ればレイラの両手には手甲(ガントレット)が装着されていた。ロディから貸し与えられたもので、ミスリルで作られた一級品の手甲はロディの鋭い一撃を受けても傷一つ付いていない。


(なるほど、これなら打ち合えます)


 避けることしか出来なかった鎧の男との戦いと違って様々な選択肢が生まれる。

 確かな手応えを感じてレイラの口角が僅かに上がる。

 得意の体術をフル活用してレイラは果敢にロディを責め立てる。

 2人のスピードはほぼ互角。

 時折ダブルアクセルを唱えたレイラが一時的に上回ることはあれど、その動きはロディの経験を上回るものではなく決め手にはなり得ない。

 一方レイラも野性的な勘で初見にも関わらずロディの刃壊流剣術を辛うじて凌いでいる。

 これが実戦ならばレイラは少なくない切り傷を受けていたのだろうが訓練用の剣のおかげで辛うじて戦況は伯仲していた。


「なるほど、想像以上に言い動きだ」


 ある程度打ち合った後、大振りでレイラを牽制した後バックステップを踏み距離を取るロディ。

 少し息が上がっている。

 攻め時だろうか? そう考えるレイラだったがすぐにそれが誤りだと知る。

 ロディの体から仄かな光が漏れ出す。


(――身体強化!!)


 それを理解した時には既に自分の背後に気配があった。


「――――くっ!!」


 がむしゃらに放った裏拳は奇跡的にロディの一撃を受けることに成功する。

 しかし先ほどまでの彼とは一線を画す膂力を持って放たれた一撃はレイラを容易にはじき飛ばす。


(しまった――)


 体勢を崩してしまったレイラはなんとか追撃を阻止しようと蹴りを放つが無理な体勢から放たれたそれは本来の鋭さを持たず足を掴まれてしまう。

 それでも諦めまいと魔法を放とうとするレイラだが――


「ここまでだ」


 首筋に冷たいものが触れたのを感じてレイラは動きを止めた。

 声は自分の背後から聞こえて来た。

 つまりレイラの目を持ってしても追えない動きで回り込まれたのだ。


「参りました」


 レイラは唇を噛む。

 十分に戦えていると思っていたのは勘違いだった。

 実際には大きな差があるのだと思い知る。


「そう悔しがることはない。先ほども言ったが言い動きをしている。これで身体強化さえ覚えればかなりいい線までいくはずだ」

「あ……」


 そこでレイラはこれが訓練であることを思い出した。

 今勝てなくともこれから強くなれば良いのだ。

 主人をいじめる倒すべき相手としか認識していなかったレイラはようやくロディが教えを与えてくれる存在なのだと認識した。


(やはり私は視野が狭い……)


 自分の中でアンナが占める割合が高すぎるのだ。それが悪いことだとは思わないし無理に変えようとも思わない。

 しかし今くらいは目の前の相手を認めて教えを請うべきなのだろう。


「やめてえええええええ――、これ以上ボクの未来を奪わないでええええええ」


 泣きながら逃げ回る主人には申し訳ないが、本当の危機に直面したとき生き残れるように非情な決断をしなければならない。


(この罰はあとでいかようにも受けます。傷口を舐めろと言われたら全身隈無く舐め尽くします。毒を吸い出せと言われたら全身にキスマークが残って恥ずかしくて外を出歩けなくなるくらい情熱的に吸ってみせます。走り回って汗をかいたアンナ様の火照った体を隅々まで…………。ああ……早く訓練終わりませんかね)


「よしブレッド、君もそろそろいいだろう。身体強化の方法を教えるからこちらに来てくれ」


 ロディがコンコンと蜂の巣を二回叩くと、3匹の蜂は巣へ戻っていった。

 助かった~といいながらアンナはへなへなとその場に座り込んだ。


「身体強化を用いれば今の攻撃も難なく避けられるようになるだろう」

「それなら最初から教えて下さいよ~」

「身体強化は負担が大きく常に使い続けられるわけではないのだ。平常時の自分の限界というのを知っておいて損はないだろう」

「そうでけど……正論ですけどぉ~……」


 男として大事なものと引き替えにその経験を得たと考えるとどこか釈然としないアンナだった。

 その後ロディから身体強化の説明がなされる。

 魔力を血液のように体内を循環させる。口で言えばそれだけのことなのだが、実際にやるのはかなりの困難を極めた。

 ゆっくりならばある程度はできるようになったのだが、それだけでは身体は強化されない。自分の血流と同等かそれ以上のスピードで魔力を循環させて初めて運動能力が向上するのだ。

 しかし循環速度を上げようとすると魔力の制御を誤り体外に放出させてしまうこともしばしば。そうして放出された魔力は体内には戻せないので徐々に2人は魔力を失っていきレイラの魔力が尽きたところで訓練は終了となった。

 ちなみに蜂に刺されると立たなくなるというのは兵士たちに緊張感を持たせるための嘘だったと後から教えてもらいアンナはほっと胸をなで下ろした。

 その際何故か『じゃあ全身キスマークの刑は無いんですか!?』と言ってレイラが取り乱したのだが、一体何の話をしていたのだろうか?

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