動揺が見えない
眠い
「責任……?」
「いや、ちょっと聞いてくれるか?」
俺は真剣に切り出した。
マナの話をするつもりなのだ。
まぁ、極力伏せながら……
この話はここにいる誰も知らない。
きっと重すぎる。そう捉えられてしまう。
だが、みんなには知る資格があると思う。
俺の罪について。
「な、なんですか?」
「蘭葉さん……水臭いですよ~」
「お兄ちゃんの話……しっかり聞く。」
【俺も聞いている】
ジャルも聞いてくれるようだ。
「昔昔、あるところに小さな男の子が居ました。」
俺が語り口調なのにみんな疑問を感じたようだが止めずに聞いてくれるようだ。
「その少年は両親を早くに亡くしてしまい、お金を稼げる職業を探していた。
しかし、なかなか見つからず、一人明け暮れていた。
そこに、ある一人の女性が手を差し伸べた。」
皆は耳を傾ける。
「その女性は子供でもできる仕事を斡旋してその少年に受けさせた。
その報酬を分け与えた。」
理解したように相槌を打つ。
「しかし、その女性に悲劇が訪れる。彼女を婿にしようとした男が彼女の近くに居た
少年を襲い、それをかばった女性も死んでしまった。」
固唾をのんでみんな聞く。
俺は続ける。
「その現場を見たある男は、復讐を企てた。毒薬を盛り、その男たちを殺そうとした。
その男は秘かに少年を応援していたのだ。しかし、その企みは町に広がってしまう。」
「え……」
「毒を井戸に入れたがその井戸の毒は、下水道に漏れてしまい、町の人に死傷者が出てしまった。しかし、復讐相手は殺せたので複雑な気持ちになった。」
「そんな……」
「絶対そいつ悪いやつですよ……でも……仇を撃ったんですよね……」
「悲しい……」
この次に出てくる言葉がこの場の空気を凍らせる。
「その男が俺だ。」
「「「「……………………」」」」
呑み込めないだろう……仕方がない……
「少しファンタジックに言ったが、こういうことがあったんだ。」
しかし、こんなことを言ったら普通の人は「人殺し」とか言ったりするだろ?
なぁ……じゃあなんで……見上さんはあごに手を添えて何かを考えている。
さあ……この時点でなにかおかしくないか?
取り乱さない……これは殺しが隣り合わせの環境にいたことが有るのだろう……
「なぁ、マナ——ああ……間違えちゃったな……見上さん。あなたは、なにか人と違う能力を持ってたりするのか?」
さっきの創作(まぁ……現実に忠実ではない)物語で動揺しないのはさすがに人とは違う能力を持っていると感じざるを得ない。
「おい、マリハ、ハル、見上さんがやろうとしたら止めろよ。」
俺が命令すると、一瞬でマリハは引き締まり、警戒を強める。
ハルも劣らず、魔力を練って警戒をしている。
そして、ジャルはどんなことが起きてもいいよう陰に隠れている。
不意打ちはこいつに対処させる。
よし……じゃああとは見上さんだが、
なにかぶつぶつと話している……電話か……!?
「フッ……」
俺は俊足で見上さんの手に持っているものを奪うと、即座に確認した。
よく見るとスマホの様だった。
しかし、明らかに違う。
ここにかかってきているのは「非常知」だ。
そして、見上さんの雰囲気が変わっている。
ここから導き出される推論は……二重人格。
「おい!マリハ。二重人格の可能性が浮上してきた。警戒を強めろ。ハルもだ。」
「了解。」
「分かった!」
ハルは少し怯えているようだ。
可哀そうに……
幸いこの時に母さんが外出ててよかった……
被害は最小限に抑えられるだろう。
……やっぱり……なんか似てたんだよな……
その仕草とかな?
「久しぶりだな……マナ。」
「よっす!お久~ランバ!」
第65話終わり
別人格が……マナ?




