犠牲
……
「はぁ……はぁ……フンッ!」
「がぁ……ウガアアアァァ!!」
数時間後、両者ともに疲弊している。
魔力も枯渇気味だ。
ゴブリンデストロイも息を切らしながら俺の攻撃に耐えている。
攻守攻防が続く、
そして、先に尽きたのは俺の方だった。
「はぁ……はぁ……無理……だ……」
「ガアアアアアアアアアアア」
こぶしが怪物から振り下ろされる。
俺が終わった。
そう思ったとき、横から人影が来る。
「ッう……!!!!!」
俺が見ると、こぶしを短刀二本で受け止めるマナが居た。
「マナ!」
「なにやってんだよランバ!」
俺がマナをよく見ると、体は傷だらけで疲弊している様子だった。
「その調子じゃお前は……!」
「お前も早く立て!連携攻撃だ。」
俺は、マナのその強い決意を持った表情を見て、自信を取り戻した。
「ああ……!」
きっと……この時だったのだろう。
勇者が発現したのは。
しかし、その称号は書き換えられることになる。「大罪」として。
——
「そっちに撃つぞ!」
「了解ッ!」
マナは俺の魔法に合わせつつ攻撃を与える。
ゴブリンデストロイも気張って対応しようとするが、魔法に邪魔され攻撃の阻止ができない。
「ガア……ゥゥ……」
「いいぞ!」
俺がそう言ったその時。
ゴブリンデストロイの手から闇があふれ出す。
俺はそれが何かわからない。
しかし、第6感が告げていた。
「危険だと。」
ゴブリンデストロイはその闇をマナに向ける。
「おいッ!後ろ!」
「分かってる!」
マナは俊敏な動きでよけようとする。
しかし、間に合わなかった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
「キャアァァ……」
そして、目の前で、消えていった。
あいつは、体ごと。
「そんな……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ……」
俺は現実から目を背けようとした。
しかし、脳内でマナの声が反響する。
俺が動揺している隙にゴブリンデストロイは動き出す。
俺に向かって足を繰り出すと、俺は数メートル吹っ飛んだ。
しかし、痛みよりも思考が巡る。
死体も残らない。
血も噴出さない。
日本にあったアニメは、もっとそういう描写があった。
最後に別れの言葉を告げる。
一緒に最後の時を過ごす。
それがこいつのせいですべてがなくなった。
ゴブリンデストロイは満足そうな顔してこちらを見ている。
きっともうやれると確信しているのだろう。
俺の中で半年にすぎなかったがマナは……自分の心の中の傷を埋めてくれる人だったのだろう。
胸にぽっかり穴が開いたような感覚だ。
哀しい、悲しい、むなしい、寂しい、そんな感情が湧き上がる。
でもやはり、頭の中を埋め尽くしたのは——
「殺すッッッッ!!!!!!!絶対にッ!!」
その言葉、それがトリガーだった。
俺は理性を一時的になくした。
いや、本能に忠実に従ったと言うべきなのかもしれない。
その瞬間、俺のHP、MP、けがはすべて「完治」した。
いや、してしまったのだ。
〈「怒り」の感情が一個人の持っていい範囲を超えています。スキル「憤怒」を獲得。
……状態異常、怒りの暴発。スキル「憤怒」が暴発します。〉
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
俺は一瞬でその怪物を粉々にした。
たった「一発で」だ。
俺がこの後どうなったか?
それはとても……とても悲しいお話だ。
それでも、聞くなら……
第63話終わり
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