表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/191

その22 押してダメなら、押しまくるのですわ!

 謎の戦闘回。

 

 

 

 ――お久しぶりです、クロード。


 なんなのかしら。人の黒歴史を抉る出来事が次から次へと……。

 ルイーゼは悩ましい溜息をついた。


 昨晩の夜会で出会ったシエルという少年から、自称セシリア王妃の生まれ変わりであると告げられた。

 正直、もうよくわからない。カゾーランに相談しようにも、いつの間にかエミールを連れて消えていた。

 こうして、悶々としながら一夜が明けてしまう。当然の如く、ハンティングも失敗だ。

 ジャン曰く、「皆さま、お嬢さまにお声を掛けようとしておりましたが、脱兎の如く逃げておりました。きっと、お嬢さまの魅惑的な殺気のせいでございましょう。ジャンもその眼で睨んで欲(面倒くさいので以下省略)」ということらしい。

 仕方がありませんわ。考えごとをすると、殺気が迸ることなど、誰しもあることです。ああ、悩み多き乙女はこれだから、困ります。


「殿下! 殿下ってば、出てきてください! んもぅ、エミール殿下!」

 女々しい、と言えばいいのか、雄々しい、と言えばいいのか。そんな微妙な声で、ユーグが騒いでいた。エミールの部屋の前だ。

 ルイーゼが冷めた視線で近づくと、ユーグも冷めきった視線で返してきた。今にも、また「雌豚」とか言われそうな勢いだ。

「なによ、雌豚ちゃん」

「想定内すぎます。もはや条件反射ですわね」

 この筋金入りの女嫌い、いや、オネェはなんとかならないのか。隠す気すら感じない。近衛騎士の事務方で、あまり表に出てこないせいか、こんな人物だとは思ってもいなかった。

 だいたい、わたくしのことを雌豚ですって!? 冗談じゃありませんわ。喧嘩を売られているとしか思えません。

 腹いせに、鞭を片手にジャンの胸倉を掴んだ。ああ、腹立たしい。こんなときは、一鞭打つに限りますわ!


「そんなことより、アンタ教育係なんでしょ。なんとかしなさいよ。エミール殿下、引き籠ったまま、全然開けてくれないんだから!」

 鞭打とうとしたルイーゼに、ユーグが批難の声を浴びせる。

 ルイーゼは怪訝に思い、ジャンから手を離した。「え? え? お嬢さま!? よろしゅうございませんよ!?」と、叫び声がする。


「エミール様の引き籠りなど、いつものことでは……」

「なんか、バリケードまで作っちゃってるの! あああああ、もうっ。私の可愛い殿下が!」

 エミールは姫と呼ばれるほどの女々しさを誇っているわけだが、ユーグは生物学的に男であれば許容出来るようだ。この男をエミールに近づけない方がいい気がする。とても、危ない匂いしかしない。

 とはいえ、ルイーゼは気になり、エミールの部屋をノックする。だが、返事はない。まるで、初めてこの部屋を訪れたときのように、シンとしている。

「エミール様、ルイーゼにございますわ」

 ノブを回しながら、声をかける。

 掃除した際に鍵はかからないよう細工したので、一応、扉は開く。だが、内開きの扉はわずかに隙間を開けるばかりで、中に入れそうにもない。見ると、あらゆる家具が扉の前に積み上げられていた。

「エミール様、そこにいらっしゃいますか!」

 ルイーゼは叫びながら、鞭を空打ちする。中で、「ひっ」と震える声が聞こえた。室内にいることは間違いなさそうだ。


 これは、再び引き籠りに戻ってしまったということでしょうか。

 いや、そもそも引き籠りを卒業したわけではない。だが、ここのところは若干の進歩がみられていたはずだ。これは、明らかな退化。


 ルイーゼは一度扉から離れ、充分に距離をとる。そして、助走をつけて高く跳び上がった。

 どこかのライダー的な美しい跳び蹴りを、樫材の扉にお見舞いする。

 扉がガタンッと大きく揺れ、中のバリケードが崩れる音がした。だが、全壊には至っておらず、扉を開けられるほどではなかった。

 最近、鍛えはじめたとはいえ、まだまだのようだ。走り込みを増やすことにしよう。

「チッ」

「お嬢さま、ガラが悪うございますよ」

 ジャンに指摘され、ルイーゼは急いでスカートの裾を直す。そして、唇を両手で覆って隠した。

「いや~ん、ジャンったら。ガラが悪いだなんて、ルイーゼ、傷ついちゃった。もうっ、キャピキャピッ☆」

 必殺、ブリッ子で誤魔化す。

 最近、すっかり使う機会がなかったので、ここぞとばかりに振りかざしてみた。きっと、久しぶりなので効果抜群だろう。さあ、わたくしに跪きなさい。


「キモいわよ。雌豚ちゃん」

「気持ち悪うございます、お嬢さま」

「あなたたち、お黙りなさい!」


 ルイーゼはすかさず、ユーグの脇腹に鞭を叩きこむ。

 しかし、剣の柄で鞭の一撃を受けられてしまった。不意打ちだったはずだが、油断ならない。事務方と言っているが、伊達に近衛の制服は着ていないようだ。

「ふん。この程度かしら、雌豚ちゃん?」

「わたくしの女子力(物理)を舐めてもらっては困りますわよ」

 ルイーゼは物欲しそうに眺めているジャンを無視して、続けてユーグの脛に蹴りを入れる。

 ユーグはとっさに後ろへと避けるが、それを待っていたとばかりに、ルイーゼが笑う。

「ヤァァァアアアッ!」

 つい気合いの声をあげながら、蹴り込んだ足の慣性を利用して間合いを詰める。短すぎるリーチを補うために反転し、鞭を持ち替えた左手から攻撃を放つ。

 ユーグは辛うじて腹部への一閃をかわした。これを避けるとは、なかなかのもだ。

 しかし、ルイーゼは手を緩めず、壁を足がかりに三角飛びする。


 ベシィンッと良い音が鳴り響く。


「くっ……なかなかやるじゃない。完敗ね」

 ユーグは苦悶の表情を浮かべながら、首を押さえて蹲る。

 木刀であったなら骨折、真剣であったなら、完全に首と胴を切り離していた一撃だ。

「ほほほほほほ!」

 鞭をシュッと腰に収める動作をしながら、ルイーゼは勝利の高笑いをあげた。

「わたくしを雌豚呼ばわりするからですわ! 鍛えた甲斐がありますわ!」

 日々の鍛錬の成果もあり、ルイーゼは以前よりも格段に動きが良くなった自覚がある。

 前はすぐに疲れて動けなくなっていたが、今では三分程度の戦闘であれば、問題ない。あいかわらず、翌日に筋肉痛という後遺症は残ってしまうが。


「カゾーラン伯爵に比べるとレベルが落ちますが、まあまあですわね。並み以上天才未満と言ったところでしょうか」

「仕方ないでしょ! 私は事務方なのよ。受付嬢志望なの!」

「いや、嬢にはなれませんから。性別的に」

 ユーグが悔しそうにハンカチを噛んでいる。まるで、ヒロインに婚約者を奪われた悪役令嬢みたいだ。

 とはいえ、現在の騎士たちと手合わせしていないので比べられないが、ユーグはなかなか才があると思う。カゾーランの息子と聞くと物足りないくらいだが、恐らく、近衛騎士の中でも上位の使い手だろう。

 剣を抜いていれば、ルイーゼと互角だったかもしれない。負けてやるつもりはないが。


「お嬢さま、大切なことを忘れておりますよ」

 ジャンがシャキーンとした表情で立っている。

「そうでしたわ。エミール様を引きずり出さなければ」

 ルイーゼはスッと跪いて背中を差し出すジャンを華麗に無視。エミールの部屋の前に戻った。


 流石に、部屋に入れなくなったのは初めてだ。

 エミールになんの心境の変化があったのか知らないが、このままではいけない。また暗い部屋で引き籠り生活に逆戻りするだろう。

「エミール様。どうしても、開けてくださらないのですか?」

 ルイーゼはわずかに開く扉の隙間から、穏やかな声で語りかける。中で身じろぎする気配がするが、開けるつもりはないらしい。

「わたくしに教育係を頼んだのは、エミール様ですわよ?」

 音はしない。ただ、静かな(とき)ばかりが過ぎる。ルイーゼもしばらくは、その沈黙につき合っていた。


 だが、やがて、少々大袈裟な溜息をつく。

「わかりました」

 ルイーゼは声を少し高くし、ニコやかな表情で部屋の中を覗き見た。中で、怯えるように隠れる影が確認出来た。

「押してダメなら引いてみろ、と言いますが……そのような生温い手段を、わたくしが選ぶと思いまして?」

 鞭を空打ちする音を響かせる。


「押して押して押しまくることに致しますわ」


 高らかに宣言した。

 

 

 

 因みに、現状での戦闘力。ルイーゼを100とするなら、カゾーラン200、ユーグ80、ジャン15(一般人)、エミール3くらいですかね。若い頃のカゾーラン180、クロード200くらい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ