第六室 開かずの部屋の住人
4日間休んでしまいすみませんでした!と言うわけで二話まとめて投稿です。個性的なキャラが増えますよ!
この流浪荘の管理人に任命されてはや4日、最初は戸惑っていた朝の挨拶も手慣れたもので。
「じゃあ、逆水さんまたさ!」
「ええ、気を付けてください」
そう言って本日の朝、最後の出勤である大櫻さんを見送る。今日は珍しく流木さんが一番早く出勤していたな・・・
『私だって、早くに出勤することもあるのよ』
とか言ってたっけ・・・
そんなこと思いながら掃除用具を片づける。ふと、流浪荘の隅・・・104号室が目に入る。
何で気になったのか、それにはまずこの流浪荘の住人と部屋構成の話をしなければならない。
このアパート流浪荘は1階4部屋、2階4部屋の計8部屋からなる。そのうち自分の部屋は203号室で隣の202号室は大櫻さんの部屋、204号室は空き家だそうだ。201号室も空き家なんだが、近々新しい住民が引っ越してくるらしい。1階の方を見てみると101号室は言わずもがな大家さんの部屋でその隣の102号室は本剛さんの部屋、そして隣の103号室は流木さんの部屋だ。
さて、ここで話に登場していないのは104号室。この部屋の住人を見たことがない、空き室なのかと大櫻さんに聞いてみると。
『ああ、『開かずの部屋』さ』
『何でそんな仰々しい名称なんですか・・・』
ホラーかよ・・・そんな事を思っていると急に大櫻さんが真面目な顔になって。
『その部屋が空いたところは誰も見たことがないのさ。そして、夜になると・・・黒い長い髪の女がその部屋から出て、はえずりまわるんだってさ』
未だに開いた所を見たことがない104号室を見ながら、大櫻さんの会話を思い出していた。
最近、趣味になりそうな物がある・・・それは料理。生きていくために食べなければならないので、そこに関しては仕方なく助成金を使っているのだが。時間が余っているのも相まって、凝った料理を作ることに段々はまっていっているのだ。
今日も何を作ろうかと、スマホ版のクッ〇パッドで検索しているところだ。
「うん、照り焼きチキンか・・・おいしそうだな」
今日の晩御飯は決まりだな、そう思って冷蔵庫の食材を確認していると。
「鶏もも肉があったはずなんだけど」
そう言えば、昨日使ったっけ・・・
ほかの料理も考えたが、すでに照り焼きチキンを作る気満々だったので今更変えようもない。
「仕方ない、買い出しに行くか」
買い物に行くことを決意するが気が重い・・・その理由は後に語るとしよう。
急いで買い出しの支度をして家を出る、この時間帯ならば人が少ないはずだ。
買いたい食材を頭の中で反芻しながら階下に降りると見知らぬ人がいた。スーツ姿に明るいブラウンの髪が意外と似合っている女性だ。
何で普段ならスルーするような見知らぬ人を見ているかと言うと、その女性がノックしているドアが『開かずの部屋』である104号室だからだ。
「く・・・さん・・・ろ・・ら・・・へ・・・」
どうやら中の住人に呼びかけているようだ、ここからだとよく聞こえない。幻の104号室の住人との関係性がとても気になる。
そんな感じで興味本位で歩きながら見ていたら、どうやらノックしていた女性がこちらに気が付いたようだ。
その女性は一瞬驚いたような表情をみせたが、すぐに表情を締めてこちらに歩み寄って来た。
流石にそのまま無視していくのはどうかと思い立ち止まり女性が来るのを待つ・・・実際は104号室の住民の方に興味があったのは心に伏せておこう。
「まさか、知らない女性が近寄ってくるのにそのまま待つなんて、律儀な男性ですね・・・それともただの警戒心が薄いだけなのか?」
スーツ姿の女性はある程度こちらに近寄ると口を開いた。
「こちらも初対面でズカズカと思っていることを口にする人見たのは初めてですよ」なんてことは口に出さないでおこう、口は争いの元だ。
「いえいえ、ただ近寄って来たのに即座に去るなんて失礼ですから」
元の世界で公園で泣いている子供に「どうしたの?」って感じで近寄ると全速力で逃げられたからなぁ・・・うっ、目から涙が。
「? ま、とりあえずこのアパートの住人なら手伝ってくれないかな?」
「どうしたのでしょうか?」
どうやら困っているようだ。
あれ、104号室のドアが少しずつ開いているような。
「実はですね、104号室に・・・」
・・・ん!?思わず二度見してしまったが、確かにギギギと少しずつ104号室のドアが開いていくではないか。
「あの・・・」
「・・・で、中にいる住人が・・・」
再度104号室の方を見ると、開いたドアの隙間から黒く長い髪の女性がこちらを窺っている。
その光景は世にも〇妙な物語をそっくりそのまま持ってきた・・・と言うか完全にホラーだよこれ!
「あの!・・・」
「・・・編集者をやっているのだが・・・」
ダメだ完全に聞く耳を持ってない。
怖いがもう一度、部屋の方をチラ見する、夢じゃない黒い髪の女性がこちらを見て震えている・・・ん?震えてる?よくよく見てみるとやっぱり震えている、顔から水滴が零れているのを見ると泣いているようだ。
「・・・でな、何が言いたいかと言うと」
「あの!!!」
「のわっ!どうしたのだ」
流石に大声を出すと気が付いてくれたようだ。
早く教えないと・・・あ、黒髪の女性が泣き崩れ始めた。
「ええっと、104号室のドア開いていますよ!早く行ってください!」
「なにっ!!!あああ!!!」
そう言ってバッと後ろを振り返る彼女、これでやっと気付いたようだ。
104号室の住人の姿を確認するや否や、猛ダッシュでその住人に駆け寄って行った。自分も追従するように小走りで付いて行くと。
「すまなかった、この通りだ」
と、スーツの女性が腰を曲げて謝っていた。対する黒髪の女性は地べたに座り込んでいて。
「グスン・・・トイレ行ってたら・・・急にチャイムが鳴ってヒック・・・出たくても出れなくて・・・で、外に出たらクスン・・・白崎さん、男性と話してて・・・」
案外、寂しがり屋なのかな?
「だからこの通りだ、すまなかった」
「ユルサナイ・・・」
いや、その容姿でそんな事口走るとシャレにならないって・・・
すると、腰を曲げていたスーツ姿の女性・・・白崎さんが顔を上げた。
「幾ら外が苦手だからと言って、原稿の締め切りを伸ばしたりはしないからな」
「・・・っち」
どうやら寂しくて泣いていたのではなく、外が苦手で泣いていたようだ・・・と言うか、泣くほど外が苦手って。
「取りあえず部屋の中に入るぞ。君、え~と、何かこの後に用事はないか?無ければ迷惑かけた君に事情を説明したいのだが」
まア、確かに事情もなくこんなことに巻き込まれたら不快に思ってしまうな。
用事か、買い物は・・・時間的に無理だな混雑する時間だ。
しかたない、今日は冷凍食品かな・・・って白崎さんしれっと部屋に入っているけど。ここ、貴方の自宅じゃないですよねどう見ても。
104号室は何と言うか・・・暗い部屋だ。カーテンは閉め切っていてPCのブルーライトの光だけが部屋をぼんやりと照らしてる。暗い中で良く目を凝らしてみると、部屋の隅や角には本が積みあがっていてタワーが出来ていた。
「こんな部屋で、すまん」
「こんな・・・部屋言うな・・・」
白崎さん、あんたのセリフじゃないでしょ。そう思っていると白崎さんが腰を下ろす。
「立ってちゃなんだから座りな」
コクコク・・・
そう言って、ちゃぶ台を挟んで対面の席を指さす。その白崎さんの考えに同調するように黒髪の女性が首を上下に振る。
促されるよう座ると、黒い髪の女性もベットに座る。
「暗い部屋で見えにくいかもしれないが我慢してくれ、こいつが明るいのが苦手でな」
「明るいの・・・苦手・・・」
そう言って、親指でベットに腰掛けている黒髪の女性を指す。
「取りあえず自己紹介かな、私は白崎 綾、んでこっちは・・・」
「黒原・・・百合・・・」
「あ、自分は逆水 椿樹です」
白崎さんに黒原さん、よし覚えた。管理人として黒原さんとは顔も合わせるだろうし、何より104号室の住人が幽霊や妖怪の類じゃなくて良かった。
そんな事を考えていると、白崎さんがさらに口を開く。
「逆水さんね。私たちの関係だけど、私が担当編集者で黒原さんが作家だね」
「そうだったのですか」
道理で、先ほどの会話の中に編集者の文字があったわけだ。
「で、作家である黒原さんのPNなんだけど個人情報ってことで・・・」
「はい・・・これ・・・私の本・・・」
「黒原さぁぁん!!?」
黒原さんが本を手渡して来たので表紙を見てみると、『お前と私の恋 1巻』と書かれてあった。え、これって・・・確かドラマになってるような。
ふと、黒原さんの方を見るとどや顔で胸を張っていた。
「はぁ・・・黒原さんもっと個人情報を大切にしてくださいよ」
白崎さんがため息交じりにそんな事を漏らすと、開き直ったように。
「ええ、この本に書かれている通り。ここにいる黒原さんは、ドラマにもなっている『お前と私の恋』の作者であるシロユリ本人なんです!」
やけくそ気味に黒原さんを紹介する白崎さん・・・なんか哀れに見えて来た。
でも、まさかドラマになるほどの作家に会えるとは思わなかったので、内心凄く驚いている。
「良かったら・・・その本・・・あげる・・・読んでみて・・・」
「いいのですか?」
「本なら・・・積むほどあるから・・・」
まさか作者本人から実筆の本を貰えるとは・・・ちょっと感傷に浸っていると。
「あ・・・ちょっと待って・・・」
そう言って、黒原さんが本を取り上げると。どこからか取り出したか分からないサインペンでキュッキュとサインを書く。
「これで・・・オッケー・・・友達に自慢できる・・・」
胸を張りながら、本を渡す黒原さん・・・どうやら思っているより不思議な人の様だ。
「さて、話を戻してもいいかな」
そんな事、言って話の流れを変える白崎さん。
「ええと、何でしたっけ?」
自分自身、すっかり話の流れを忘れていた。
「だから、何で私が黒原さんの部屋の前にいたかだよ」
白崎さんが強引に話を戻すと顔を苦くしながら下を向く黒原さん。まア、話の流れは大体想像できるけど。
「今日が原稿の締め切りで、それを引き取りに来たんだよ」
「・・・忘れていたら・・・いいものを・・・」
やっぱり・・・
「で、黒原さん?ちゃんと原稿、仕上がっているでしょうね?」
「・・・」
下を向いたまま、冷や汗を垂らしている黒原さん。どうやらできてないようだ。
「はあ、今日は逆水さんに免じて許してあげる。ちょくちょく原稿出来てないのが多いから元々期限は多めに取ってあるから」
常習犯だった・・・
「じゃあ、私は事務に戻って仕事しなきゃいけないから」
原稿が仕上がってないと分かると、白崎さんは席を立ち鞄を抱えて部屋から出ようとする。
部屋を出る時に小走りなのを見ると相当仕事が溜まっているようだ・・・
ドアノブに手を掛け、104号室から出る際にこちらの方を見て。
「今日はありがとうね。こんなに男性と話したのは初めてだし。それに、黒原さんが積極的に喋るのも新鮮だった。後はよろしくね逆水さん」
そんなことを言い残して白崎さんはバタンとドアを閉める。
女性と二人っきりにさせるなんておかしくないか・・・あ、そうかこの世界だからか。
未だになれない価値観の違いに困惑しながらも、やっぱり異性と部屋で二人っきりで気まずいのは世界共通で・・・
「じゃあ、自分も失礼します」
こんな空気にDTの自分では耐えられるわけもなく、部屋を去ろうとすると。
「・・・まって・・・」
そう言って裾を引っ張り静止させる黒原さん。何かあるのかと思い振り返り言葉を待つと。
「また・・・会える・・・?」
と、そんな事を聞いてくる。光の影にいるので表情は良く見えないが。まア、曲がりなりにもこのアパートの管理人やっているし何時でもあえると思うが。
「あ、そういえば言ってなかったですね。自分はこのアパートの203号室に住んでいます。何かあったら訪ねてきてください」
住民同士、助け合わないといけないよね。
「・・・・・・良かった」
呟いた声は聞こえなかったが黒原さんは納得したように裾から手を放す。
「じゃあ、失礼しますね」
そんなことを言い、104号室を出るとどうやら黒原さんが見送りに来てくれた様だ。
「・・・じゃあね・・・」
今まで暗くて容姿がハッキリと分からなかったが。西日に照らされることによって黒原さんの容姿が鮮明に映る。
腰まで伸びている手入れの行き届いてないボサボサの黒髪、だけど欠点はそこしか見られない。病的までに白い肌に良く映える黒いワンピース。顔は小顔だけど可愛らしさが残り、そこに湛える柔らかな笑みは思わずドキッとしてしまいそうになる。
「・・・やっぱむりぃ・・・」
そう言って急いで扉を閉める黒原さん・・・やっぱり夕日はきつかった様だ。
~翌日~
「どうしたの!?逆水さん目の下のクマが酷いよ!!!」
「アハハハ・・・」
『お前と私の恋』が想像以上に面白くて夜更かしした逆水の姿がそこにあった。
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強い西日で思わずバタンと扉を閉めた後。扉にもたれ掛かれながら短くため息を吐く。
生まれてこの方、暗い性格のせいでロクに友達も出来無い私に男性なんてもってのほかだった。
・・・けど、今日会った男性はちゃんと私を見て話してくれた。その事に頭に一杯になりながら作業場であるパソコンラックに向かう。
この感情を忘れないうちに物語に綴ろう、今度はもっといっぱい話せるように・・・
圧倒的ヒロイン力!書いててそう思いましたね・・・
何時もの事ながら感想やご意見、お待ちしております。作者のモチベが上がりますのでどしどし送って下さいm(__)m
さて、今回のキャラ紹介はこの方!
104号室 黒原 百合 (クロハラ ユリ)
年齢・26歳
職業・作家
趣味・読書、作家活動
好物・カレーやシチューなどの煮込み料理
家族・両親
誕生日・3月13日
104号室、通称「開かずの部屋」の住人で喪女、今話題の売れっ子作家。
PNはシロユリで極度の日光嫌い、担当の白崎さんがやっとのことで外に引きずり出す。




