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ありえなさ過ぎて笑えない

「妹だからって言わなかったのは、どうして……?」


 その言葉は、俺の頭に飛び込んで、中身をぐるぐるかき回し、思考から冷静さをことごとく奪いさった。

 答えは、もう出ていた。でも、この答えはパンドラの箱のように思えた。きっと、世の中の告白という行為をした人は、程度の差はあれ、似たような感情を抱いただろう。

 心臓は痛いくらいに暴れ、全身に過量の血液を送っていて、やたら熱い。

 みおりを見ると、今まで見たことないような真っ赤な顔で、俺の背中を掴んだままうつむいている。それでも、上目遣いで、俺の目をしっかり見つめていた。

 お俺は覚悟を決めた。ゆっくり、みおりの手を剥がして、体を180゜回転させ、正面で向き合う。

 みおりの潤んだ目をしっかり見据える。顔が熱い、熱があるのかもしれない。


「お前が好き……だから、だと思う」


「なにそれ……はっきり言ってよ」


 はっきりって……ええい、もうヤケだ。

 俺は軽い深呼吸を一つして、みおりの両肩に手を置いた。


「好きだ」


 言った瞬間、手を置いた両肩がビクッと震え、目にはみるみる涙が溜まっていった。


「ちょっ、大丈夫か? みお――」


 世界がブレた。

 背中に衝撃と痛みがはしる。視界に写っているのは、さっきまでの玄関の景色ではなく、白い天井だった。


「大丈夫なわけないじゃん……バカ」


 俺の胸に顔を埋めて、涙声でそんなことを言うみおりを見て、ようやくみおりに押し倒されたのだと理解した。


「その、ごめん」


「あ、謝らないでよ。嬉しくて、死にそうなだけだから……」


 えっと、それって……つまり……


「お、OKってこと?」


「バ、バカ! ホントバカ!」


 みおりに本気で胸を叩かれた。

 普通、ポカポカと叩くんじゃないか? ドンドンって感じたぞこれ? 痛いって!


「義理の兄妹だからって、好きでもない人と一緒に登下校したり、勉強したり、映画観たり、買い物に行ったりするわけないでしょ!!」


 そ、そうか? 仲のいい兄妹もしくは姉弟だっていると思うぞ?


「こんなにアピールしてるのに、なんで気付かないの!? 病院でのことなんて、ほとんど告白してるようなもんじゃん!!」


 や、ヤバい、そろそろ俺の胸が限界だ。


「わ、悪かったってば!」


 俺が振りかぶられたみおりの手を掴むと、むすっとした顔で睨みつけてきた。


「もう一回言って」


「わ、悪かったって」


「そっちじゃなくて! 好きって、もう一回言って」


 途端に真っ赤になるみおり。いや、もとから真っ赤だったけど。多分、俺も真っ赤だから、なにも言えない。


「……みおり、好きだ」


「うん」


 ようやく、手を下ろして、こてんと頭を預けてきた。


「私も好き……大好き」


 俺の胸の上で、みおりは満足そうに笑った。


「ね、お兄ちゃん、少しだけ……このままでいてもいい?」


「ああ」


「ふふっ、お兄ちゃん、こういう時はそっと抱きしめるものなんだよ?」


「そ、そうして欲しいなら素直に言えばいいのに……」


 おずおずと、みおりの背中に手をまわす。

 さらさらの髪が指先に触れて、心臓が鼓動を速めた。


「お兄ちゃん、心臓、ドクンドクンうるさい」


「お前だって顔真っ赤じゃん」


 二人して笑いあって、ゆっくり目を閉じた。

 お互いの存在だけを、確かめていられるように。












 数日後の放課後。


「よ、祐太。お前最近、人気と不人気が急上昇だな」


「その二つは普通、一緒に上がらないけどな」


「まあ、そのうちみんな諦めるでしょ。なんたって校内一のバカップルだからね」


 優希の言葉に、おもわずため息をはく。

 先日、新聞部とかいう集団のいで、お俺とみおりは校内のベストカップルランキングに名前を載せられてしまったのだ。しかもトップで。


「まさかホントに付き合うとはなー。兄妹だからとかなんとか言ってなかったか?」


「うるせー」


 雄吉の頭を軽く小突いてやると、優希がクスクスと笑った。


「それじゃ、あたし部活のミーティングあるからここで」


「俺も三送会の打ち合わせあるから」


「そっか、じゃあな」


 俺が手を振ると、二人は同時に振り返してから、優希は視聴覚室、雄吉は生徒会室にそれぞれきえていった。


「さて、帰りますか」


 ひとり呟いた俺は、下駄箱へと向かう。

 探し人はまだ来ていないようだった。俺は適当に近くの壁に背中を預ける。

 と、その時、周囲が一瞬ざわめくのを感じた。

 ひとりの少女に、周りの視線が集まっている。少女は大勢の注目を引き連れて、俺の前までやってきた。


「帰ろう? お兄ちゃん」


 差し出された手を軽く握って、俺は答えた。


「ああ、帰ろう、みおり」


 一緒に歩きだしながら、俺はぼんやりと、以前考えていたことを思いだしていた。


 義妹がヒロインなんて、絶対にありえない。


 隣を歩くみおりが、なにかを察したのか俺の顔を急に睨んだ。


「お兄ちゃん、なんか失礼なこと考えてたでしょ?」


「そ、そんなことないって! ただ……」


「……ただ?」


 俺はみおりの手をぎゅっと握って、笑ってから、こう言った。


「すっごい笑えないジョークを思いだしてただけだ」


 ヒロインはそれを聞いて、「なにそれ」と幸せそうに笑うと、俺の手をぎゅっと握り返してきた。


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