表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

お兄ちゃん、ゲームやらない?

 それは、晴れて寒さも穏やかな、12月にしては過ごしやすい、ある土曜日のことだった。

 期末も近いし、今日は図書館にでも行ってみるかな。などと考えていたその時。

 俺の部屋のドアは、突然開いた。


「お兄ちゃーん、ゲームやらない!?」


「……は?」


 かくして、俺の穏やかな休日は、泡より儚く消え去ったのであった。










 俺は、ゲームはあまりやったことがない。

 特に理由はないのだが、なんか他の人達みたいにはまらないのだ。

 そんな俺にみおりが渡してきたのは、昔から有名なRPGタイトルの最新作らしい。最新作は最大四人まで協力プレイができ、四人のパーティーキャラクターそれぞれになりきって冒険ができるとか。


「そういうわけだから、私がヒロインで、お兄ちゃんが主人公ね」


「なにがそういうわけだ!? 期末は来週だぞ! テスト勉はいいのか!?」


「お兄ちゃんが教えてくれるから、2日くらい大丈夫だよ」


「2日に渡るのかよ!? そして、俺任せかよ!? お前はいいとして、俺の勉強はどうなるんだよ!?」


「お兄ちゃん、よく3連続ツッコミなんてできるね……びっくりした」


「お前の自分勝手さ加減のほうがびっくりだ!!」


 とまあ、なんだかんだ言ったところで、結局負けるのは俺な訳で、テレビのあるみおりの部屋に連れこまれてしまった。

 やりこみ要素は多いが、ストーリーは短めらしく、30時間もあればクリアできるからと、俺を説得するみおり。30時間でも十分長いって。

 しかし、俺も久々に入る妹の部屋に若干、緊張していたので、あっさりコントローラーを渡され、ゲームは始まってしまった。


『名前を決めてください』


 名前、決められるのか? 適当でいいかな。

 ランダムで決めようとすると、みおりにコントロラーを奪取された。


「なりきってできるんだから、実名のほうがいいでしょ」


 と言って、『ユウタ』と入力し、ヒロインは『ミオリ』と入力した。

 そのまま、パーティーの戦士の男キャラクターは『ユウキチ』、僧侶の女キャラクターは『ユウキ』と入力する。


「……なにこのパーティー?」


「知り合いばっかりだね」


「異世界行っても仲間は変わらないのか……」


 そんなわけで俺たちの異世界冒険が始まった。

 とにかく、ゲームを進めていく、なるほど、グラフィックは綺麗だし、戦闘もおもしろいし、確かに楽しいな。

 けっこうハマるかも……。

 ダンジョンの謎解きしたり、手強い敵を倒して、みおりとハイタッチしたり、ストーリーも悪くない。ヒロインといい雰囲気になるシーンはかなり気まずいけど。

 けっこう夢中になって進めていると、突然、玄関のチャイムがなった。そういえば、母さん出かけてたな。


「ちょっと見てくる」


「あ、私も行くよ、待ってるの暇だし」


 正直、この時みおりを無理にでも待たせるべきだったと、俺はのちのち後悔することになる。なぜなら、玄関のドアの前にいたのは


「あ、祐太。ちょっと来週のテスト範囲でノートとってないところがあって、見せて欲しいんだけど……」


 テスト週間で部活が休みなのか、私服姿の優希だった。


「あ、ああ、そうか、わかった。ちょっとあがって待っ……」


「ダメだよお兄ちゃん」


 ノートを取りに行こうとして、みおりに袖を掴まれた。


「まだ、途中でしょ」


「いや、でもなぁ」


「途中って……なにが?」


 いつの間にか、近くに来ていた優希に、反対の腕を掴まれる。


「ちょっとゲー……」


「共同作業だよ、二人の」


「……へぇー」


 優希の手が、俺の腕を万力のように締め上げた。


「痛い痛い痛い!! 違う、誤解だって!! ゲームやってただけだから」


「ゲーム? 祐太が? 珍しいね、なにやってるの?」


「RPGだよ、優希もやるか? ……おまえのキャラいるし」


「え、でもテスト前だしなぁ……」


「やらないって、二人っきりでやろう? お兄ちゃん」


「っ……や、やらないなんて言ってない! あたしもやる!!」


「痛い痛い!! なんで俺の腕、締めるの!?」


「うるさいうるさいうるさーい!!」


「優希ちゃん、いつからツンデレになったの……?」


 何はともあれ、優希が仲間に加わった。











 今、俺たちがやっているRPGには、キャラクター、一人一人に『好感度』というパラメーターがある。この『好感度』がお互いに高いと、その二人のキャラの特別なイベントが発生したりするのだ。

 なぜこんなことを、急に説明したのか、それは


「Bでしょ!! 絶対にB!!」


「なに言ってるの、Aに決まってるよ。ね、お兄ちゃん?」


 今まさに、その『好感度』を巡って、俺のコントローラーの取り合いが繰り広げられているからだ。

 ゲームの中では、ミオリとユウキがピンチで、ユウタがユウキチに『俺がミオリorユウキを助けるから、お前はミオリorユウキを助けてくれ!!』とか言ってる場面である。

 Aを選べば、ユウタがミオリを助け、Bを選べば、ユウキを助ける。

 ……お前ら、俺に助けてもらって、嬉しいのか? それとも、そんなにユウキチに助けてもらいたくないのか? 俺と好感度があがるってことは、最終的に俺とエンディングになるんだぞ? お前らそんなラストでいいのかよ?


「あーもう、喧嘩するなって、じゃんけんで決めようじゃんけんで」


「祐太は黙ってて!!」


「そうだよ、お兄ちゃん! ちょっと黙っててよ!」


「も、もともと俺の選択肢だろ!?」


 結局、じゃんけん案を押しきった結果、みおりが勝ち、これ以降は交互に選択していくことになった。

 交互にって決めたのに、選択肢が出るたび喧嘩になったのは、言うまでもないが。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ