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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第2章 アライ王国編
48/48

これまで

「僕達の話って言われましても……ねぇ」

「特にお話しできることはありませんよね」


 プランがどんな話を聞きたいのかは知らないけど、僕は人に話せるような面白い経験は無い。

 多分アドアも同じだろう。


「ロアさんとアドアさんはグリーム王国の勇者様と冒険に出ていたと聞いていますわ。その時のお話を聞きたいですわ」


 プランはきっと好奇心で言っているのだと思う。

 でも今の僕にとってあの頃の話は良い思い出であると同時に強い後悔でもある。

 あの時こうしていれば、僕がもっと強かったら……思い返せば反省しないといけないことばかりだ。

 

「ロア様……」

「いいですよ。あんまり楽しい話は出来ないかもしれないですけど」

 

 アドアは僕の気持ちを察して心配そうにこっちを見つめている。

 確かに進んで話をしたくはない。

 でももう過去の話、僕が気にしないといけないのはこれから先の未来のことだ。

 過去のことで気落ちしてはいられない。


「まずはグリーム王国の勇者、カエデの話から始めましょうか――」




 それから僕とアドアはカエデと出会ってからこれまでのことを話した。

 カエデとパーティーを組むことになった時のこと、カエデが城下町の近くの山で魔物を狩り尽したこと、馬車での移動中に盗賊に襲われたこと、ジトンで魔物に殺されかけたこと、騎士と戦って負けたこと、捕えられた僕をヴェイルさんとアドアが助けてくれたこと、僕が魔女になった時のこと、魔女対国の戦争をしたこと、カエデを助けられなかったこと……


「それから僕達は国の兵士から逃げるためにこのアライ王国に来ました。そしてこうしてプランに出会った、というわけです」


 省略して話したけど、かなり時間が掛かった。

 プランは時に楽しそうに、時に嬉しそうに、時に辛そうに、時に悲しそうに僕の話を聞いていた。

 プランはわかりやすく反応してくれるから話しがいがある。


「…………」


 話を聞き終わったプランは静かになった。

 別に空気を重くしようと思ったわけではないのだけど、最近の出来事をそのまま話したら、ほとんど明るい話が無かったのだから仕方ない。

 少し時間が経って黙っていたプランは口を開く。


「……ロアさんはカエデ様が好きですの?」


 今までの話を聞いて第一声がそれなのか……

 まぁ、何か他に言って欲しいことがあったわけではないけど。

 普通に考えて好きでもない人を命懸けで助けに行ったりしない。 

 でもプランの質問は異性としてカエデが好きなのか? ということだと思う。

 何でわかるのか、って?

 それはプランの顔が赤いからですよ。

 アドアといい、プランといい、最近の僕の周りには素直な子しかいない。

 城で暮らしていた時とは大違いだ。


「はい。でもプランが思うような好きではなくて、人間として好きなだけですよ」


 カエデはいつも笑顔で楽しそうで僕に元気をくれた。

 そんなカエデが僕は好きだし、カエデのことを助けたいと思う。

 だけどカエデはこの世界の人ではない。


「僕はカエデのことを守るって約束しました。だから絶対にカエデを元の世界に帰すつもりです」

「そうですの……。素敵ですわね」


 プランは少しだけ悲しそうにそれでもニコニコと笑う。

 そして僕とアドアをジッと見つめて言う。


「ロアさんもアドアさんもかわいそうですわ……」

「――別に僕は同情されたくてこの話をしたわけじゃない。だからプランがそんなことを思う必要もないし、思われたくもない……です」


 つい、勢いに任せて話してしまう。

 それは僕の本音だったから。

 僕は今までのことを気軽に同情されたくない。

 僕達が今まで体験してきたことを、苦しんできたことを、少し話を聞いたくらいで理解したかのように言われたくない。

 プランは本当にかわいそうだと思って言っているんだろうけど、僕としてはちょっと嫌だ。


「気持ちはありがたいのですけど、さっきまでのようにニコニコと話してもらえると嬉しいです」


 アドアの方を見ると勢いよく頷いているからアドアも同じ気持ちなのだろう。


「わかりましたわ。ですが、もし私が力になれることがあるなら、遠慮なく言って欲しいですの。私にできることなら何だってしますわ」

「ありがとうございます」

「いえいえですの。私達はお友達なのですから当然ですわ」


 少し暗かったプランの表情が最初のように明るくなる。

 やっぱりプランは元気にニコニコしている方がいい。

 会って少ししか経っていない僕がそう思うのは、それだけプランの笑顔が魅力的だからだろう。

 最初は王女としてどうなんだろう、とか思ってたけど、きっとプランは兵士にも好かれる良い王女になるんだろうなぁ。

 いずれグリーム王国に帰る僕には関係のない話だけど。


「あれ? もうこんな時間ですわ。ロアさん、アドアさん、そろそろお部屋の方にご案内しますわ」


 壁に掛けられている時計を見てプランは言う。

 本来なら今は勉強をする時間だとロット様は言っていたけど、こんなに長い時間、僕達と話をしていて本当に良かったんだろうか。

 後で僕も一緒に怒られたりしないだろうか。


「今日はお話していただきありがとうございますわ。私、明日も楽しみですの!」


 まぁ、いいか。

 プランがこんなに嬉しそうなんだから。


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