看病
「…………ん」
体中が痛い、どうしてだろう。
僕は何をしていたんだっけ?
う~ん、城から脱走してアドアと一緒に魔女の家まで行くことになって、そこでヴェイルさんに会って、それから……
そうだ、魔女魔法の儀式でヴェイルさんの血を飲んだんだ。
儀式が終わった合図として体が光り出したところまでは覚えている。
でもその後の記憶が無い。
僕は今、横になっているみたいだし、どうやら気絶してしまったようだ。
儀式は合っていたけど、ヴェイルさんが知らないだけでやっぱりリスクはあったみたいだ。
今の所は体中が痛いだけで他は何ともないけど少し不安だ。
取りあえずそろそろ起きよう。
どのくらい気絶していたのかわからないけど、きっとアドアとヴェイルさんが心配しているはず。
僕は痛む体をゆっくりと起こそうとする。
「ん? 重い?」
体を動かそうとして気づいたことだけど、妙に体が重い。
まさかこれも儀式の副作用!?
……なんてことはない。
原因は一目見れば誰でもわかる。
「アドア、起きて」
僕の胸を枕にするようにしてアドアが寝ているのだ。
おそらく看病してくれている内に寝てしまったのだろう。
こんな状況をどこかで見たことがある。
あれは……城の図書館にあった娯楽小説だったかな?
主人公が風邪で寝ている時にヒロインが看病してくれるのだ。
でもずっと起きておくことはできなくて、ヒロインも寝てしまう。
そして主人公が起きた時にヒロインはまだ寝ていて、主人公は起こすべきかどうかで悩む。
疲れているであろうヒロインの体調のことを考えて自然に起きるのを待つか、心配してくれているヒロインを早く安心させるために起こすか。
その小説では結局、悩んでいる間にヒロインが起きたのだ。
そして主人公に何で早く起こしてくれなかったのか聞く。
そこで主人公は何を思ったのか、恥ずかしげも無くキザな言葉をヒロインに掛ける。
ヒロインはその言葉が嬉しくてそれ以上は何も言わない。
結果的に看病してもらった主人公はヒロインの好感度が上がって、キザな言葉が嬉しかったヒロインは主人公の好感度が上がって、どっちにとってもいい出来事になった。
まぁ、僕はアドアに気の利いた言葉を掛けるなんて出来ないから素直に起こすけどね。
僕は心地良さそうに寝息を立てて寝ているアドアを揺する。
「アドアー、起きてー」
「もうちょっとだけ寝させて……」
寝ぼけているのかモゴモゴと口を動かす。
窓の外を見るに今は夜。
どのくらい夜なのかはわからないけど、最後に意識があった時はまだ真昼だったから僕はかなりの間、気絶してしまったのだろう。
アドアがいつから寝ているのかは知らないけど、看病で疲れているならもう少し寝かしてあげた方がいいのかな?
でもアドアの性格なら起きた時に何で起こしてくれなかったのかを絶対に聞いてくる。
アドアは乙女だから小説のような言葉を言って欲しいはずだ。
わざわざそれを考えるのなら今、起こした方がいい気もする。
「あれ? ロア様、おはようございます」
僕が1人で悶々と考えているとアドアが起きた。
その声はやっぱり眠たげだ。
「おはよう、アドア」
「って、体は大丈夫なんですか!? 気分はどうですか!? 何かおかしいところとかありませんか!?」
アドアはすごい勢いで僕に詰め寄る。
思っていたより心配されていたみたいだ。
「体も気分も大丈夫だよ」
「そうですか、良かった……」
アドアははっきりとした安堵の表情を見せる。
体はまだ痛いけど、今までに心配を掛けたみたいだからこれくらいは我慢して言わないでおこう。
「どうしてすぐに起こしてくれなかったんですか!」
少し怒った感じで予想はしていた言葉を言われる。
さぁ、ここで何と答えるべきなのか。
普通に答えるなら、「疲れているアドアを少しでも休ませてあげようと思って」が正解だ。
でもアドアの怒りを鎮めるには小説のようなキザな言葉が有効だと今までの経験が言っている。
何と言ったってアドアは幼い少女でかなりの乙女だ。
さて、どんな言葉を掛けようか。
自分では思いつかないから、あの小説の言葉を真似させてもらおう。
「アドアの寝てる顔がかわいくて、つい」
とても恥ずかしいです。
思っていた以上に恥ずかしい。
小説の主人公はよくこんな言葉を口にできるね、普通に感心する。
まぁ、小説をそのまま言ったなら、「君の寝顔が天使のようで、つい」だったんだけどね。
さて、アドアの様子はどうかな?
言っている時と言った直後は恥ずかしくてアドアを見れなかったけど、今はもう気持ちが落ち着いてきたから見れる。
アドアは……真っ赤だ。
人間ってこんなに赤くなれるんだねって思うくらいには真っ赤だ。
「…………」
「…………」
そんなアドアの様子にまた恥ずかしくなってきて何も言えなくなる。
お互いに何も言わないまま時間だけが過ぎていく。
それからどのくらい時間が経ったのかはわからない。
不意にドアが開けられた。
「ロアちゃんはどんな感じ? ってあら、起きてるじゃない」
救世主だ。




