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異世界召喚された勇者に付き添う僕  作者: 丘松並幸
第1章 グリーム王国編
18/48

失敗

 朝の話し合いの結果、今日はジトンに行くことにした。

 僕達が逃亡してから1週間経った。

 そろそろ僕達を探しても時間の無駄だとわかったころだと思う。

 だから町に兵士がうろついていないか確認に行くつもりだ。

 もちろん町の様子を見る以外にもやることはある。

 魔境での生活に慣れてきたとはいえ、消耗品は買い足さないといけないし、魔境のモンスターの換金をしてお金も増やしておきたい。

 ある程度強くなったら、ここよりも強いモンスターがいると言われている魔境に行こうと思う。

 そのときの軍資金にするためにもお金はたくさん持っておきたい。

 という訳で僕達は今日ジトンに行く。



「ねぇ、荷物はどうしよっか」

「大事なものだけ持って、他は置いて行こう。どうせまた帰ってくるし、あんまり荷物が多いと移動が大変だしね」

「移動中は防御の魔法を掛けておいた方がいいですか?」

「そうだね。念の為にお願い。おそらく大丈夫だとは思うけど、万が一ってことがあるからね」


 僕達は1週間を過ごした洞窟の中を整理している。

 もちろんクマに襲われた洞窟ではなく、別の洞窟だ。

 いい感じに木で隠れていて、この1週間、3人とも寝ているときにモンスターに襲われたことがない。

 ジトンから帰ってきてからもこの洞窟を使うと思う。

 荷物を置いていく時点でそのつもりしかないんだけどね。

 そのくらいこの洞窟は快適だったのだ。


「準備できたら出発するよ。あんまり遅くなったら夜になってしまうから」


 僕達は極力、夜はモンスターと戦わないようにしている。

 夜に出会うといえば夜行性のモンスターしかいない。

 その夜行性のモンスターは夜目を持っていて、夜でも普段通りの動きが出来る。

 でも僕達は光の届く範囲しか見えないので、いつもより視界が狭くなってしまう。

 アドアの光系の魔法で辺り一面を明るくすることも出来るけど、それをすると他のモンスターが光につられて寄ってくるかもしれないからやらない。

 魔境以外のモンスターなら視界が狭くても倒せることはもう経験しているけど、魔境のモンスターとなれば無理かもしれない。

 だから夜はモンスターと戦わない。


「もうすぐ終わるから待ってて~」

「私はもうできましたよ」


 洞窟の中からほとんど荷物を持っていないアドアが出てくる。

 その服装は城でもらったもののままだ。

 ちゃんと洗っているから汚いということはないけど、毎日同じ服というのは年頃の女の子にとってはどうなんだろう?

 一応聞いたことはあるのだけど、アドアは自分から欲しがらないから、特には何も言わなかった。

 それでも無いよりはあった方がいいと思うから、今日何か良さそうな服を買っておくつもりだ。


「どうかしましたか? まさか、何かおかしい所がありますか?」


 僕がジロジロと見ていたから、アドアは心配になったみたいだ。

 自分の体を慌てて確認している。

 別におかしい所は無い。

 むしろ町に行くから最近よりも身だしなみは整っていると思う。


「別におかしい所は無いよ」


 そう言うとアドアはホッとしていた。

 やっぱり女の子だから人が多い所だと目を気にするみたいだ。

 だからカエデは準備に時間が掛かっているのかな。


「お待たせー! ちょっと荷物の整理に時間が掛かってね」


 そう言って出てきたカエデはアドアの倍以上の荷物を持っていた。

 その他の見た目はいつもと変わらない。

 そうだよね、カエデはそういう人だよね。


「じゃあ、行こうよ!」


 

 僕達3人はジトンに向けて歩いた。

 その道中は特に何もなく、平和だった。

 モンスターは出てこないし、天気はいいし。

 それ程急いでいるわけでもないので、途中で休憩を挟みながらゆっくりと進む。

 前に歩いたときは暗かったから不気味に見えた道も、明るい中だとただの道だ。

 そんな道を周りを気にしながらも楽しく話しをしながら歩いていると、魔境に行ったときとほとんど同じ時間でジトンに着いた。


「やっぱり関所に人がいますね」


 着いたと言ってもまだ町の中に入ったわけではない。

 ジトンはそれなりに大きい町だから、町の入り口に関所があるのだ。

 町を出るときには、まだ何もしてなかったから特に何も言われなかったけど、今は逃亡中の僕達はばれたら捕まってしまうだろう。

 だから今回は僕達の中で一番顔が知られていないであろうアドアに応対してもらう。

 僕は悪い意味で有名な王子だし、カエデは城にいた時間は短いとはいえ勇者だから、気付かれない内に記録系魔法で顔を撮られているかもしれない。

 アドアは城にいた時間は長いけど、ただの治療師見習いだ。

 僕達の中では一番ばれないと思う。


「では予定通り私が受付を済ませますね」


 アドアを先頭として僕とカエデはその少し後ろをついていく。

 僕とカエデは少し顔が隠れるように帽子を被っている。

 あまり隠れ過ぎないように調整してある。


「あの、町に入りたいのですけど」


 アドアは受付の男に向かって丁寧な口調で話しかける。

 すると受付の男はニヤッと笑った。


「目標が来たぞ! 全員、持ち場につけ!」


 その言葉で僕達を関所に閉じ込めるような配置に兵士が集まる。

 僕は驚きながらも考える。

 とっさにこんなことができるとは思えない。

 つまり僕達がここに戻ると予想されていたのだ。

 それにここにいるのが僕達だとばれたということになる。

 一体何で……


「ロア・ノーブル、よくも2回も勇者様を誘拐したな。その罪によってここで捕えさせてもらう!」


受付の男が嬉しそうな顔でこっちにやってくる。

その顔をよく見ると見たことのある顔だった。

そうそいつは役所にいた男だった。



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