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97話 助かりましたわ

 ◆


 ミズホの斬撃が、リーバの触手を根元から断ちました。

 残りの触手を地面にビタン、ビタンと叩き付け、リーバがのたうち回っています。

 

「コォォォォ……ハァァァァ……」


 ミズホは高速で二本の剣を回転させつつ、息を整えていました。

 残像を残して空を斬る二本の剣を前にして、彼女の間合いに入るなど自殺行為。

 リーバは巨体をのっそりと後退させて、大きな目玉でミズホを睨んでいます。

 それにしてもリーバの目玉、黄色くて濁っていて気持ち悪いですね……。


「な、なんだぁぁ、コイツゥゥ……」


 “ビュッ、ビュッ”


 切れた触手から、青い血が吹き出ていました。

 が――すぐにモコモコと肉が盛り上がり、再生していきます。


 リーバが仕掛けました。

 残りの触手を刃に変えて、前と左右からミズホに襲い掛かります。

 柔らかな触手のままでは、ミズホの間合いに入れない。

 でも刃と刃なら相殺出来る――リーバは、そう考えたのでしょうね。

 

 ミズホは左右の剣で二つの触手を弾き飛ばし、タンッと跳躍しました。目玉の一つに突進します。

 そして彼女が右手の剣を横に払い、左手の剣を振り下ろすと――リーバの右目が十文字に斬り裂かれ、青い血が吹き出ました。


「ギャアアアアアアアアアッ!」


 ミズホはさらにリーバの目を抉り、取り出して細切れにします。

 なんて強さでしょう。

 これはもう、イグニシア以上じゃないですか。

 そしてミズホは細かく斬ったリーバの目玉を手にとり、パクリ。


 ええええええ! あの子、食べましたよー!


「んぐ、んぐ……お醤油無いと、美味しくないね……」

「ミズホー! 毒があったらどうするのですかーッ!」


 私は咄嗟に注意喚起をしました。

 ミズホがビクッとしています。


「あっ、ごめんなさい、お姉ちゃんッ!」


 ……とはいえ、ミズホの快進撃もここまで。

 怒りを露にしたリーバが、触手の数を増やしました。

 すばやく跳躍してリーバから離れたものの、触手が二十本を超えると流石のミズホもお手上げです。


 私は未だに動く触手を身体から離すと、魔法を詠唱をしてみました。

 ミズホの身体能力と私の魔法が合わされば、勝機はある――ような気もします。

 ですが、まだ魔法は発動しませんでした。

 となると沈黙サイレンスの解除を頼みたい訳ですが……リリアードはと言えば……。

 彼女は未だ触手に巻き付かれたまま、幸せそうに「アヘアヘ」としています。


「ちょっと、リリアード! 解放されたのですから、さっさと動きなさいッ!」

「はぁんッ!」


 ……ダメです。


 リリアードは身体をビクンビクンとしていました。

 きっと、イッてしまったのでしょう。

 涎を零して、なんとだらし無いエルフ。略して「駄エルフ」ですね……。

 コイツ、また一つ駄エルフ伝説を作りやがりました。


 私はリリアードに巻き付いた触手をとってやり、彼女の頬を軽く叩きます。


「目を覚ましなさい、リリアード」

「なんじゃこれぇ? 気持ち良かったぁ……癖になりそうじゃのう……」


 私はリリアードの湿った股間を見て、小さく溜め息を吐きました。

 非常にエロいです。まさにエロゲと言わんばかりの構図です。

 しかし――この状況でコレは、なんともマズい。

 私は瞳の奥をハート型にしたリリアードの鼻を、ギュっと抓りました。


「いだだだだだ! な、何じゃ! 何なのじゃ!」

「癖になるのは結構ですが、今、余韻に浸られても困りますわ」


 ようやくリリアードが顔をブルブルと左右に振って、正気に返ります。

 そして自分の股に手を当て、顔を真っ赤にして目を潤ませました。


「わ、わしの股が……なんじゃコレぇ? もの凄く濡れておるぞッ!?」

「あなた、男性経験は?」

「ある訳がなかろうッ!」

「では、自分で触ったことは?」

「ないッ!」


 エルフというのは長命なので、人間よりも性欲が少ないとは聞いています。

 だからリリアードがエッチなことを知らなかったとして、分からない話ではありません。

 私はリリアードに子作りの方法を軽く説明し、彼女の股に指を差し入れます。


「ほら、こうすると……」


 リリアードはますます顔を赤くして、嬌声を上げました。

 

「はわわわわわわわッ! ティファ! ティファ! これはいかんッ! やめるのじゃああああッ!」


 リリアードが懇願するように、私を見上げています。


「ほら、ここを触ると気持ち良いでしょう? とまあ、女性の身体は、このような作りなのですわ」

「はぁ……はぁ……ということは、先ほどはティファも気持ち良かったのか?」

「ええ、まぁ……不本意ながら……でも、あんな化け物に触られたところで……」

「やはり、好き合った者同士の方が良いのか」

「でしょうね……」


 言いながら、倒れ伏したランドの姿を視界に入れます。

 もう、ピクリとも動きません。

 狂化バーサクの後、こうなってしまっては……。


「なるほどのう……学院で妙に男女が仲良くしよると思うておったが……このような欲望に塗れておったのか……」


 私の気も知らず、リリアードは起き上がると、胡座を組んで唸っています。


「男……のう……」

 

 リリアードの瞳が、チラリとラファエルに向けられました。

 確かに彼女もヒロインの一人ですから、これも自然なことなのでしょう。

 ですが、今は気にしている場合じゃありません。

 

「……そんなことよりリリアード。沈黙サイレンスを解除して下さらないかしら? わたくし、魔法が使えなくて、困っていますの」

「……ん?」


 首を傾げ、リリアードがキョトンとしています。


「わし、沈黙サイレンスを解除する魔法など知らぬが?」


 何と言う駄エルフ……。

 エルフの王女でありながら、モブ武将であったドナすら使えた魔法も知らないなんて!


「で、出来ないなら……背中の弓でミズホを援護して下さらないかしら……」


 私はリーバの巨体を指差しながら、リリアードに言いました。

 状況は、あれから悪化の一途を辿っていますからね。

 どんどんミズホが劣勢になっています。

 

 グレイ・バーグマンも兵を率いて駆け付けましたが、リーバは強力な魔法まで使い始めました。

 こうなると物理一辺倒のミズホではリーバに近寄る事すら出来ませんし、グレイも兵を守るので手一杯です。


 そこに、ヒルデガルド・アイゼルが走ってきました。


「大丈夫なんかッ!?」


 スタタッと駆けてきたヒルデガルドが、私とリリアードに回復魔法を施してくれました。


「ヒルデガルド! どうしてあなたがここにッ!?」

「何を言うとるん! この援軍、全部ウチが指揮しとるんやって!」

「えッ? ミズホ達も?」

「せやッ! 修行、言うとったわ。って、そないなこと、どうでもええねん! どうなっとるんや、コレはッ!?」

「それこそ、今はどうでもいいのです。それより、可能なら沈黙サイレンスの解除を……」

「なんや、封じられとったんかい。そんでティファやん、魔法を撃っとらんかったんやな。ええで、任せとき」


 言いながらも、ヒルデガルドの顔は蒼白でした。

 お腹を引き裂かれたジュリアの死体を見たからでしょう。

 二人は同郷でしたからね……。

 彼女のトレードマークとでも言うべき二本のアホ毛も、今はしょげ返ったように項垂れています。


「さ、沈黙サイレンスは解除したで。ほな行こか」


 泣きそうな顔で、ヒルデガルドが言いました。

 ですが引き結ばれた唇が、彼女の決意を私に伝えます。

 間違い無くヒルデガルドも、目の前の化け物(リーバ)を倒すつもりでしょう。

 同じ制服を身に着けた仲間が、幾人も倒れています。

 悔しく無いと言う方が、無理な話。


「ヒルダ。ラファエルの援護、お願い出来ますか。マスターリザードマンも厄介です」

「分ったで、任せときッ!」


 ヒルデガルドは頷き、剣を構えてラファエルの下へ駆けました。

 彼女の武力も90以上。ラファエルと協力すれば、滅多なことでは負けないでしょう。


 リリアードも弓を引き、矢を放ち始めました。

 流石エルフです。的確に目を狙っているから、リーバもかなり嫌がっていますね。

 牽制としては上出来ですよ。


 さて――私は水の魔法でヤツを弱らせましょう。

 幸い、天候は曇りです。

 ここから雨を降らせることなど、雑作もありません。

 

「森羅万象を司る者よ――我が求めたるは恵みの雨。されど、遍く大地に降り注ぐに在らず。この地へ、此処へ……さあ、集約せよ」


 空を埋め尽くしていた雲が一点に凝縮されて、リーバの頭上にうずたかく積まれました。

 最初は「サアサア」次に「ザアザア」――最終的に「ゴゥウウウウ」となって、リーバの頭上に大雨が降り注ぎます。


 いえ――


 雨というのは、もはや適当ではない。

 聳える崖から注ぐ滝が如く、飛沫を上げて天空から降り注ぐ雨は、もはや大瀑布。


 見て哀れな程、リーバは弱っていました。

 今までそそり立っていた身体が、フニャリと大地に沈んでいます。

 そこへミズホとグレイ・バーグマンが連続攻撃を叩き込みました。

 吹き上がる青い血も、天空から注ぐ瀑布の水に流されます。


「イギャアアアアアアアアア……」


 リーバの声は断末魔の如く、黄色く濁った目も閉じかけています。

 勝利は時間の問題――と思われました。


 そのとき、豪雨を突っ切り蒸発させて、深紅の竜が姿を現します。

 天空を旋回し、牙のびっしり生えた口を私に向けて突進してきました。


「馬鹿なッ! アレは紅竜グラナートロートッ!」


 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)と名高いグレイ・バーグマンが叫びます。

 けれど私が目を奪われたのは、その背に乗った人物でした。

 桃色髪で三白眼――可愛いのか美人なのか、嫌なヤツなのか大間抜けなのか、よく分からない女です。


「ミリア・ランドルフッ!」


 叫びつつも私の頭は、少し混乱しました。

 何故あの女が現れて、私に炎を吹きかけようとするのでしょう?

 確かにアイツは敵ですが、どうして魔将の味方をしようとするのか……。


 そんなことを考えたお陰で、防御魔法が間に合いませんでした。

 ましてや今は、リーバに向けて全力で魔法を放っている最中。

 どうすればっ……!


 刹那、雨の中に透明な揺らぎが見えました。

 揺らぎはすぐに人の姿となって、私の前に現れます。

 銀髪で長身――そして筋肉質な褐色の肌。それを包むのは漆黒の衣と同色の外套マント

 これは、私に恐怖と力を与えた張本人に違いありません。

 それは私に背を向け、空を見上げて真っ直ぐに赤い竜を睨んでいました。 


「アイロス……あなた、今まで何処に……?」


 首だけをこちらに向けて、アイロスがニヤリと笑いました。

 赤い瞳は猟奇的で、薄い唇の端が僅かに吊り上がっています。


「ティファニー・クライン、良い働きであった。人間共が悲嘆にくれて絶望している――褒めてやろう。これこそ、我が求めていたモノぞ……」

「なっ……わたくしの働きなどではッ……!」

「何を言うか……貴様の配下共の絶望無くして、我の復活は有り得ぬこと」


 私とアイロスの問答を見て、怒りを露にミリアが叫びます。


「呑気に喋ってるんじゃないわよッ! 纏めて死ねッ!」


 赤い竜の口から、凄まじい勢いの炎が吹き出しました。

 が――アイロスの翳した左手が、その全てを握りつぶします。

 

「ちッ……流石にアイロス・バルバトス! まともにぶつかれば、不利かッ!?」


 上空で旋回したミリアが、雨雲の中へと逃げ出しました。

 

 この隙をついてリーバは僅かばかり復活しましたが、アイロスを見て狼狽えています。


「アイ……ロス……さま……」

「言い訳は聞かぬぞ、リーバ。貴様は我が軍の末席にすら加えぬ……」


 私の前で、長い銀髪がフワリと揺れました。

 降り注ぐ雨を弾き、神々しく輝くアイロスの姿に、リリアードが呆気にとられています。


「神……か?」

「真逆です」

「ほえ?」

「……リリアード。今はどうでもいいでしょう」

「う、うむ」

 

 アイロスはユラリと中空に浮いて、右手を翳しました。

 右手から放たれたのは、金色の光です。

 それはリーバの身体を真ん中から切断し、光の粒子に変えて消滅させてしまいました。

 

 私達があれほど苦労して戦った相手を、アイロスは一瞬で倒したのです。

 この事実に、私は卒倒しそうになりました。

  

 グラリと揺れた私を、地上に降りたアイロスが支えてくれます。

 学院にいる時よりも遥かに高い身長が幸いして、彼の正体は見破られませんでした。

 

 疲れきった私はアイロスの腕の中で、ラファエルとマスターリザードマンの戦いに目を向けます。

 彼はヒルデガルドと協力をして、何とかマスターリザードマンを下しました。

 こうして私達は魔将を倒し、リモルを守りきる事が出来たのです。


 だけど――失ったモノは余りにも大きくて……。

お読み頂き、ありがとうございます。


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