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86話 無双しますわ

 ◆


 緑色っぽいガスクラウドを鑑定したら、こんな結果になりました。


 ――――


 ガスクラウド・メタン Lv34 


 HP102 MP165 物理攻撃114 物理防御1022 魔法攻撃114 魔法防御85 素早さ105 運14 


 スキル


 霧化A 物理無効A 再生B 透明化B 火属攻撃爆発S


 ――――


 うーん……。

 火が弱点だと思っていましたが、迂闊に攻撃したらこれ、大爆発なヤツですね。

 まぁ、メタンとか言ってる時点でお察しですけど……。

 あとのやつは、なになに……シュールにダイオキシンですか。どっちも火は駄目そうですね。


「皆さん、火の攻撃は避けて下さいッ!」


 私は呼びかけつつ、風の魔法で敵を散らしてしまおうと考えました。


「でも、散らしただけで死ぬのでしょうか? うーん、分かりませんね」


 私が顎に指を当てている間に、黒いガスクラウドがシュルリとウィリアムの頭を包みます。

 あっ、あれはダイオキシン! 毒性がありますよッ!


 ウィリアムも慌てて両手をバタバタとさせ、ガスを散らそうとしています。

 しかし相手は気体、思う様にいきません。

 やがて剣を抜き、「この! この!」と喚きはじめました。


「くそッ! 目がッ!」


 闇雲に剣を振り回すウィリアムから、皆が遠ざかります。

 どうやら毒性から、目をやられたようですね。


「風よ、逆巻けッ!」


 私はキャメロン先生の杖を振りかざし、ウィリアムの周囲から黒いガスクラウドを飛ばしました。

 直後、リュウ先生の指示が飛びます。


「ジュリアッ! 補助魔法いけるかッ!」

「いけるでッ! 何にしますッ!?」

「皆の剣と矢に風属性ッ!」


 なるほど、効果は薄くなるけれど、ダメージを与えられないよりはマシと判断した訳ですね。

 とはいえ風属性魔法では敵を散らせても、倒すには至りません。

 時間稼ぎをして有利になるのは敵だけなので、どうにかする手立てを考えないといけませんね。

 

「風よッ!」


 私の側で、ラファエルがガスクラウドに風魔法を放っています。

 でもやはりそれでは、敵を霧散させるだけ。

 ヤツ等はすぐに目を中心として、集まってしまいます。

 となると風で気体を霧散させ、その間に中心核たる目を破壊するのが良策でしょうか。


 でも、その余裕は無さそうですね。

 ガスクラウド達は自らの特性を活かして常時、炎による攻撃を仕掛けてきます。

 雲状の身体から無数に伸びる炎は、全方位に攻撃が可能。

 まるでどこにでも砲身のある、火炎放射器です。隙がありません。


「ちいィィッ」


 実際今も目を狙ったランドが、炎攻撃に晒されています。

 パーティで最強の物理攻撃力を誇る彼ですら、この状況では盾で防ぐのが精一杯。

 誰かが敵を引き付けて、ランドが一点突破を図る――という作戦も使えないでしょう。

 物理ゴリ押しパーティの脆さが、ここで露呈しましたね。


「ちょっとティファ! いつまでも顎に手を当てて考え込んでいないで、何とかしてよッ!」


 矢を放ちながら、緑髪のカレン・スミノフが喚いています。

 あ、確かに私、考えてて何もしていませんでした。

 でもねぇ……カレン。

 あんた先輩なんだから、後輩に頼るなよ――って言いたいですよ、まったく。


 だけど実際、この状況です。

 きっと皆、私の魔法を頼りにしているのでしょう。

 仕方が無いですね。

 私はとても優しいので、その期待に応えてやら無くもねぇですよ……相手が気体だけに……!

 ふふ、うふふふ! なんちゃってッ!


「分かりましたわッ! このわたくしが今、超絶な魔法でドーン! っと敵を倒してあげましょうッ! だから少しお黙りなさい! この、雑草ババァッ!」

「なっ……酷い……!」


 あっ、自分で考えた駄洒落で悦に入っていたら、思わず毒舌が炸裂してしまいました。

 敵の前に味方を傷つけるなんて私、お転婆ですね。てへ。

 カレンが弓を持ったまま、馬上で真っ白になっています。


「ふぅぅうううう……いくら私の髪の毛が緑色だからって……雑草扱いは酷い……」


 まあ、いいでしょう。

 どうせカレンの腕前でガスクラウドの動く目玉を射抜くなど、到底不可能。

 つまり彼女は戦力外です。


「ラファエル」


 私は側のラファエルに声を掛けました。


「なんだい?」

「わたくし、ちょっと全力で魔法を放ちます。無防備になりますので、敵を近づけないよう、皆様で頑張って下さいますか?」

「……分かった」

「あら、素直ですわね」


 ラファエルは魔法を唱えつつ剣を抜き、前衛の中に混ざりました。

 そして皆に、時間を稼げと声を掛けます。

 ウィリアムもスコットの魔法で視力を回復したようですし、これで多少の時間は稼げるでしょう。

 皆が風の魔法を纏った剣を振り、ガスクラウドが攻撃を放つ前に、その身体を崩しています。


 では――いきますか。


「魔導励起、並列展開」


 両手を広げ、左右の手の平に笑みを浮かべた口を作ります。

 見る人によっては、とても気持ちの悪い光景でしょう。


 まず右の手の平で唱えるのは、風属性の呪文です。


「逆巻く風よ、我が意の下に其を集めたまえ」


 前方で“ビュウ”と風が吹きました。それが徐々に大きくなって、ガスクラウドを飲み込みます。

 巻き上げた風に飲まれた三体のガスクラウドが、一カ所に集まりました。

 六つのギョロリとした目玉が、轟音を立てて渦巻く風の中で、時折“ゴッ”と音を立ててぶつかっています。

 

 風はやがて通路の正面を埋め尽くす程の竜巻へと変じ、ガスクラウド達の全てを飲み込みました。

 ガスクラウド達の目は、とぐろを巻く竜巻の中でギョロギョロと動いています。

 自らに何が起きているのか、魔物には理解出来ないのでしょう。

 時折、竜巻の中から手足のように、炎の柱が伸びてきます。

 けれど彼等の身体であった気体はすべて、竜巻の中。

 グルグルと渦巻く風に掻き回されて、いつの間にか三色が混ざり合っていました。


 次に左手の魔法。

 唱えるのは、土属性の呪文。


 逆巻く風を閉じ込めるため、超硬質の透明なクリスタルを作り出します。

 まず風の後ろに大きな壁を、パキリと作る。次に右、左――。

 下を作るのに少し苦労しましたが、まぁ、何ということもありません。

 やがて竜巻は私の作り出した長方形の箱に、すっぽりと閉じ込められました。


 なお、この時点で事態の異様さに気付いたガスクラウドの目玉達。

 逆巻く風を抜け出し、直接クリスタルにぶつかっています。

 きっと脱出したいのでしょうね。魔物でも、本能で恐怖を感じるのでしょうか。

 何であれ、とても愉快な光景です。


「あはっ」

 

 さあ、三つ目の魔法は、私の口で自ら唱えましょう。

 掌を中空に翳し、クリスタルの前方に光の玉を作り出します。


「輝ける光よ、我らが先を照らす導とならん――」


 余りに輝かしい光に、皆が目を瞑ります。

 けれど、これでは少し時間が掛かりますね……。

 私はもう一つ、さらに魔法を唱えました。


 四つ目の同時詠唱になりますが――まあ、良いでしょう。

 私だって、レベルが上がっているんですよ。

 何と言っても大魔導スキルがSになりましたからね。

 それもこれも、ラファエルにこき使われまくったせいですが……。


「あはっ、あはははっ……!」


 でも、思わず笑ってしまいますね。

 お陰で四つも、魔法を同時詠唱出来るんですから。

 私はお腹の部分をペロンと捲って、臍を口に変えました。


「――見えるは幻。湾曲する世界こそ現実なり。空間よ、歪めッ!」


 空間転移の応用で、光とクリスタルの間の空間を曲げました。

 偉そうな呪文になりましたが、単に虫眼鏡の応用です。

 光を湾曲したレンズに集め、クリスタルの中に集まったガスクラウドを熱する。それだけのことですね。

 すると程なく、クリスタルの中で変化が起りました。


 “ババババババババババババババンッ! ドンッ、ドンッ、ドンッ!


 凄まじい音と光をまき散らし、三体のガスクラウドが爆ぜています。

 クリスタルのお陰で、外に漏れ聞こえるのは大量の爆竹が爆ぜる程度の音。

 まあ、十分激しくて五月蝿いのですが。

 ともあれ、激しい爆発が一、二分、続いたでしょうか……。


 やがて、全てが収まりました。

 ガスクラウド達は、完全に燃え尽きたようです。

 最後に残されたのは、真っ黒に焦げた六つの玉だけでした。

 きっとガスクラウドの「目」だったのでしょう。

 それも地面へ落ちると、パラパラと灰になりました。


 ここにクロエでもいれば、召喚獣にでもしたがったかもしれません。

 物理攻撃の効かない魔物は、貴重ですからね。

 でも私にはモンスター○ールがありませんので、諦めましょう。

 というか、もう殺してしまいました。


 皆が武器を収め、私を振り返ります。

 私は「ドヤッ」と、笑って見せました。


「ティファ……凄い」


 ドナが呆然と、私を見ています。


「……これが……大魔導師の力なのか?」


 ランドが目を輝かせて、私の隣に並びました。

 

「凄いな」


 リュウ先生すら、私を感嘆の眼差しで見つめています。

 でもラファエルだけは、何だかジト目で私を見ていました。


「ティファ……魔力、どのくらい減ったの?」

「……ん?」

「ティファ。だから、魔力……まだオークキングが残っているし、何ならまだ、ここは二階なんだけど……」

「ファッ!?」


 ラファエルは再びジットリと私を睨み、腰に下げた袋から小さな瓶を投げて寄越しました。


「はい、飲んで。魔力が回復するから」

「ふぉおおおお……」


 私は青くて苦い液体をコクリと飲んで、魔力を少し回復させました。

 それでもまぁ……100を切っているのは内緒ですけれど。


「こういうこと、やるんじゃないかと思っていたよ……」

「思っていたなら、止めてくれても良いじゃありませんか……軍師でしょうに」

「キミの軍師ではないよ……今のところ」

「むぐぅぅう……」


 ラファエルは私の耳元に口を近づけ、そっと言いました。


「でもね……実はティファがこうするのを期待していた。ありがとう、助かったよ」


 ――――


 その後、私達の前に現れたのは骸骨兵やゾンビといった、毒の効かない魔物達ばかりでした。

 といって彼等は特に強いわけでもなく、容易く倒す事が出来ます。

 こうして私達は、あまり苦もなく最上階へとやってきました。

 

 流石にそこには重厚な扉があって、ボスの間を思わせる作りです。


 皆、下馬して頷き合いました。


「ちょっと待っててね、すぐ戻るから」


 ドナが微笑みながら、馬の鼻にキスをしています。

 優しい良い子ですね。

 あんな子とラファエルがエッチなことをしたと思えば、うらやまけしからんですよ、ホント。

 私だってエッチなことしたいです。あ、もちろん女の子とですよ?

 そんな妬みから、私は言いました。


「それは死亡フラグになりますわよ?」


 ドナが凄くどんよりとした顔で、私を見ます。

 私は更に続けました。


「まあ、どうせ貴女は処女じゃないでしょうし、死んだ所で悔いなど無いのでしょうけれど」

 

 まさに悪役令嬢といった台詞です。

 何も意識しなければ、私の口からはこんな言葉がスラスラと……。


「痛っ!」


 見上げれば、ランドが拳を振り上げています。

 コイツ、最近は躊躇無く私を小突きますね。


「ティファ! 冗談でも仲間の死など、口にするなッ!」

「う……はぃ……」


 おのれ、正論をぶちやがって……と思うものの……言い返せませんでした。

 だって、正論だもの。


「では、準備はいいか?」


 リュウ先生が、大きく深呼吸してから問いました。

 一番、心の準備が必要なのが彼でしょうに……。

 皆、大きく頷いています。


「よし、行くぞッ!」


 言葉と共に、リュウ先生がバンッと扉を蹴破りました。

 部屋には金色の鎧を着た、大きなオークが居ます。

 ヤツは黄色い目をこちらへ向け、涎をダラダラと垂らしながら怒りの咆哮を上げました。


「ニンゲンの分際でェェ! ここまで攻めてくるなどォォォオッ! ワタシを愚弄しているのですかァァァアア!?」

お読み頂き、ありがとうございます。


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