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60話 会食ですわ

 ◆


 季節は夏! 今学期も残すところ、あと数日といったところ。

 今日は大型連休前の、最後の休日です。

 休日とはシーラ教に由来する安息日が元になっているのですが、要するに日曜日のことですね。


 このケーニヒス連邦には、大きな宗教が三つほどあります。

 まずはクレイトスが発祥のシーラ教。これはイグニシアのミドルネームにもなっていますね。

 イグニシア・シーラ・クレイトスのシーラです。

 また、連邦首都であるシエラの由来も、シーラから来ていると云われていますね。何でも、訛ったんだとか。


 次にエルフなどの亜人族が崇める、神樹教。

 大きな一本の木を崇めるのですが、木の内部にはあらゆるモノの記録があり宇宙と繋がっている、という宗教です。

 ユグドラシルとアカシックレコードが混ざったような話で、リリアードが信じているのがコレです。じつに胡散臭いですね。


 最後が幽幻教です。

 これは神国リンデンが発祥で、どちらかというとリンデン固有の宗教と言えるでしょう。

 端的に言うと、先祖を神として祀る宗教ですね。

 その姫巫女たるサラステラ・フレ・リンデンは、つまり神降ろしの巫女ということになります。

 噂では遥か昔に亡くなった高位の魔導士や武士を降ろすことで、その戦闘力を借り受けることが出来るのだとか。

 そりゃ、信じたくもなりますね。

 というかサラステラの持つユニークスキル“神降ろし”は、実際に脅威ですよ。


 ちなみに宗教として一番大きな勢力を持っているのは、シーラ教です。

 その中の聖女という扱いに、私はなってしまったわけですね。

 そして天使アイロスと……もう、笑うしかありません。

 ただ、そのお陰で聖王国の方々とは――もちろんイグニシアを含めて、随分と仲良くなったと思います。

 なので最近は、礼拝に誘われることも多くなってきました。

 肝心のイグニシアが宗教儀式に熱心では無い為、私もそういったことに、あまり参加していませんが。


 聖王国の方々の休日といえば、午前中に礼拝などを済ませ、午後は優雅に過ごすのが一般的。

 私はといえば昨夜ミズホ達とボードゲームをやり過ぎたせいで、太陽がかなり昇った今も、まだベッドの中です。

 そうなってくると、当然ながら礼拝どころではありません。

 何ならイグニシアも一緒に遊んでいたので、彼女も礼拝など行かないでしょう。

 

 朝日を浴びないよう私がうつ伏せになっていると、横からゴソゴソと音が聞こえました。

 イグニシアが起きて、目を擦っています。

 そういえば部屋に戻るのが面倒になったイグニシアが、そのまま私の隣で寝たのですね。

 折角だから、おっぱいくらい触っておけば良かったです。


「おい、ティファ。今、何時だ? ――今日ってアレだろ?」

「アレって何ですの、イグニシア」

「忘れたのかよ……お前……ヒルデガルドに誘われてただろう? 選挙の云々ってやつ」

「ああ……そうでしたわね……面倒ですが、準備をして行きましょう」


 イグニシアはベッドから立ち上がり、小さく手を振って部屋を出て行きました。


「軽く湯浴みをして着替えたら、また来る」


 とても男らしい仕草のイグニシアに、私、思わず惚れちまいそうです。

 って、おかしいですね。男らしい人に惚れたら、私的に駄目なヤツじゃないですか。

 何はともあれ、私も準備をしましょう。湯浴みと着替えですね。


「ミズホ、クロエ! わたくし、お風呂に入りますわ!」

「あれ? お姉ちゃん、やっと起きた!」

「遅いわよ、ティファ。お風呂の準備なら、もう出来てるから!」


 浴槽に浸かりながら、今日のことを少し考えてみましょう。


 そう――今日はお昼ご飯を、ヒルデガルド達と食べる約束をしていました。

 何でも生徒会長選の候補者について、話があるとのこと。紹介したい人がいるそうです。

 でも正直なところ、あまり行きたくありません。だってミズホとクロエは不参加なんですよ? 

 まあ、あの子達は委員に選出されていませんから、呼ばれていないだけですけれど。


 とはいえヒルデガルドだけではなく、ニアからも念押しで誘われています。

 これでは、邪険に出来ないでしょう。

 なので今日はイグニシアと共に、お蕎麦屋さんへ行ってきます。

 お蕎麦屋さんということで、ヒルデガルド達が誰を紹介するのか、既にお察しですがね。

 これはもう、サラステラを擁立する為の決起集会ですよ。

 私としてはイグニシアと一緒に隅っこに座って、ただただ目立たないようにするしかありません。

 神国の姫巫女なんて、絶対に相性が悪いですからね。恐い、恐い。


 “ドンドンドン、ドドドンドン”


 あ、この意味不明なドアの叩き方は、間違いなくイグニシアです。

 ちょうど私も湯浴みを終え、鏡台の前でクロエに髪を梳かして貰っていたところ。


「開いてますわ」


 私が声を掛けると、ミズホが扉を開けてくれました。

 扉が開くと、見目麗しい男装の美女が入ってきます。

 相変わらず、イグニシアは何を着ても綺麗ですね。

 今の彼女は銀髪を適度に後ろで纏め、流しています。

 衣服は青に金糸を鏤めた華麗なものですが、軍服を基調としたであろうカッチリとしたデザインは、それを嫌味に見せません。

 正直、私もそっちを着たい! と思います。

 けれどクロエが選んだものは、派手な赤いワンピースドレスでした。

 辛うじて許せる部分としては、ノースリーブなところでしょうか。

 夏なので、袖があったら辛いです。


「ティファ……綺麗だ」

「……イグニシアは、その……カッコいいですわ」


 って――百合か! 私達は百合か! 

 思わず頬を赤く染めてしまったので、私は頭をブンブンと振って誤摩化しました。

 とりあえず準備が出来たので、街へ行くとしましょうか。


 あ、そうだ。この席には確か、ラファエル・リットも来るはずです。

 私は机の上に乗せていた“君主論”をさっとポーチに入れて、イグニシアの後に付いて行きました。


 ◆◆

 

 学院の門を出ると、すぐに乗り合い馬車を見つけることが出来ます。

 それはここの生徒達が、ケーニヒスにおける有力者の子弟だからでしょう。

 ラファエルのような、恵まれない平民は少ないのです。

 だってミズホやクロエさえクライン公爵家から、それなりの給金を貰っていますからね。


 その中にあってもイグニシアは、特に身分が高い。

 一応は私と同格という扱いですが、厳密に言えば一段階上でしょう。

 ですから彼女は、馬車を使う事に一切の躊躇いはありません。

 なので近くに止まっている馬車の御者に声を掛け、私達はすぐに乗り込みました。


「神寿庵というお店なのですけれど、ご存知ですか?」


 御者は私の問いに頷き、すぐに馬車が出発します。

 私は満足して頷き、隣に座ったイグニシアに言いました。


「以前ラファエルの馬鹿とケーキを食べに行ったことがあったのですけれど、アイツ、馬車を使いませんのよ」

「ああ、あの時か……」

「ええ、そうです。それで、何で馬車を使わないか、分かります?」

「いや、全然」

「お金が無いんですの! 本ッ当にアイツ、貧乏なんですのよっ!」

「馬車にも乗れないほど、なのか?」

「ええ、そうですわ! それなのに、わたくしにケーキをごちそうするなんてッ!」

「……愚かだな」

「愚かというか、馬鹿ですわッ!」

「かも……しれねぇな」


 そこでふと、流れる街の景色に目を向けました。

 馬車にも乗れない平民が、大貴族である私にケーキをごちそうする。

 そんなことをする平民が、世界に何人いるというのでしょう。


「本当……馬鹿なのですわ……アイツ」


 私はポーチに手を入れ、中の本をそっと撫でました。

 そういえば世間では大抵の場合、良いヤツのことを「馬鹿」と言います。

 それは自分の損得を考えないからこその、褒め言葉でしたね。


「ティファ、着いたぞ」


 イグニシアに肩を叩かれたとき、馬車は既に止まっていました。

 店には、すぐ到着したようですね。

 あの馬鹿とどうやって仲直りしようか考えてしまい、思わずボーッとしていました。

 でも、考えるだけ無駄なんですよね――だって私、何も悪くないのですから。

 謝る理由も無ければ、言い訳をする必要もありません。

 だってアイツが、勝手に怒っただけじゃないですか。考えて損をしました。


 さて、お店の方はといえば、まずは和風の門構えです。

 中に入ると、カポーンっというアレ――ししおどし――が迎えてくれました。


「ちょ……これは……」


 イグニシアは目を丸くして、「これが神国の文化か?」と言っていますが、私は別の意味で目を丸くしました。日本の料亭だよ、コレ、と。


 そのまま広間に通されると、既に一年生の主立った者は揃っていました。

 どうやら二年生の有志も、ここにいるようです。

 私達は用意された席に座ると、上座に座る予定のサラステラを待つ様に言われました。

 ちなみに席は畳の上に座布団が置かれ、掘り火燵のようになっています。

 だから椅子の文化しか無い皆も、安心して座れる設計でした。


 ちょっと辺りを見回すと、隅の方に駄エルフが座っています。

 一人でポツーンとしている所を見ると、やっぱり友達が居ないのでしょうね。

 私と目が合うと、満面に笑みを浮かべて手を振りやがりました。

 プイッと目を逸らすと、テーブルを“ダン”と叩き立ち上がろうとして、思いっきり膝を打ち付けています。

 かなり痛かったらしく、リリアードは勢い良く頭を下げて踞ろうとしました。

 その勢いで今度はテーブルに頭をぶつけています。

 “ガッ、ゴッ”と激しい音が聞こえました。


「くぅぅううう……痛いのじゃぁああ……」


 イグニシアがそれで彼女を見つけ、駆け寄って背中を軽く叩いています。


「おう、リリア。来てたのか。てかよ、大丈夫か?」

「イグニシアか……聞いてくれ、酷いのじゃ……ティファがわしを無視しよる」

「はは……いつもだよ、そんなの。それより膝と頭、大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃ〜。それよりティファの冷たさが、心に沁みるのじゃ〜」

「はは……」


 何だか妙に仲良くなってますね。

 まあ、迷宮で共に命懸けで首無し騎士(デュラハン)と戦ったのですから、当然と言えば当然ですか。


「お! みんな揃っとるなー! 今、サラステラさまが来るさかい、もうちょっとだけ待っててなー!」


 部屋の襖がシュッと開いて、ヒルデガルドが現れました。

 でもすぐにまた、シュッと閉まります。

 それから二十秒ほどたった後――黒い着物を着たサラステラ・フレ・リンデンが現れました。


「ここのお蕎麦、美味しいから皆、食べて。天ぷらもおすすめ」

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