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53話 駄エルフですわ

 ◆

 

 クロエの放ったハーピーは、すぐに戻りました。

 そして羽をバサバサと動かし、あるじに色々と説明をしています。


 何でも通路の先には数十匹のスライムがいて、それを全て倒したところ、迷宮の角でエルフの女がしゃがんでいるのを見つけた。しかし、その女がとても臭かったので鼻が曲がる前に戻って来た、とのことです。

 ハーピーの知能は人間で云えば六歳程度ですから、ミズホと似た様なもの。その報告は、いまいち要領を得ませんでした。


「何それ?」


 クロエは首を傾げながら、ハーピーの足下を見ています。

 鉤爪に緑色の粘液が付いているので、スライムを倒したことは間違い無いでしょう。

 しかしエルフがここに居るという話は、どうも信じがたい。

 何らかの知的な魔物が、幻術を見せてハーピーを退けた可能性もあります。

 意外とハーピーは高い戦闘能力を誇りますし戦わずに済むなら、それに越したことはありません。

 だいいち臭いエルフなんて、聞いた事がありませんからね。


 とりあえず、警戒しつつ前進しましょう。

 何であれ、確認する必要がありますからね。

 再びわんわんが最前列に立ち、ゆっくりと進みます。


 前に進むほど、確かに強烈な匂いが漂ってきました。

 わんわんは余程辛いのでしょう、鼻を摘んでいます。

 それでも我慢して進むと、前方に緑色の服を来た人物が立っていました。


 その人物は緑の服の上に革の鎧を着込み、茶色のブーツを履いています。

 背中には白く輝く弓を持ち、腰に金の装飾が施されたレイピアを吊るしていました。

 また、金色の髪は薄暗い迷宮内にあってもキラキラと輝き、その隙間から細長い耳が覗いています。

 確かに、エルフでした。

 

 そのエルフが眉間に皺を寄せ、こちらを見ています。

 その顔は、昼間見たあのエルフでした。


「な、なんじゃ、貴様ら? 先ほどのハーピーといい、何の用じゃ!?」


 そう――彼女は駄エルフと評判の、リリアード・エレ・ロムルスです。

 彼女は奥まった通路の手前で、仁王立ちをしていました。


「リリアードですね?」

「う、うむ」

「わたくし、ティファニー・クラインですわ」

「顔を見れば分かる。それに聖王国のイグニシア……なんじゃ、一年共ではないか」


 リリアードの強ばった顔が、一瞬だけ崩れました。

 でもリリアードはよほど自分のキャラを崩したく無いのか、再び眉を吊り上げ、いつもの台詞を言い放ちます。


「この愚かな人族共め、何をしに来たっ! さっさと滅べっ!」


 私は鼻を摘んで、彼女に問い掛けました。


「……それはそうと、とても臭いのですけれど、この奥には一体何があるのですか?」

「こ、この奥には何もないぞ。無いったら、無い! さっさと立ち去るのじゃ!」


 リリアードは居丈高に言い、腰に手を当て、人差し指をこちらへ向けています。


「でも、この奥から匂いが発しているような……」


 何やら怪しいので私は前に出て、彼女の身体をどけようとしました。


「ちょっと、おどきなさい、リリアード」

「ど、どかぬ! この奥は呪われておる! 行ってはならんし見てもならんっ!」


 リリアードに近づくと、匂いが更に強くなりました。 

 彼女は私に押されまいと、必至で抵抗を見せます。

 しかしイグニシアも加わると、流石に彼女の抵抗も限界を迎えました。

 イグニシアが肩を押すと、リリアードは「ぐえっ」と言って数歩、よろめきます。そして道が開けました。

 

「あら……これを隠していたのですわね……」


 私はリリアードに哀れみの目を向け、皆に向かって首を左右に振りました。

 イグニシアも「ああ……こりゃ……悪い事をしたな」と言い、鼻を摘んでいます。


「野グソですね……」

「野グソだな……」

「い、言うでない〜〜〜! 見るでない〜〜〜!」


 リリアードが泣きながら、私達に向かってきました。

 しかしミズホが前に出て軽くいなし、肘を固めて地面へ跪かせます。

 私は額に手を当てつつ、まだ湯気を上げる例のブツを確認しました。

 リリアードを見て、ブツを見ます。ブツを見たら、リリアードを見ます。


「わ、わしではない、わしではないのじゃ!」

「あなた以外に、一体誰が?」

「う、ううぅ……我慢出来なかったのじゃぁぁあああ!」


 白状させてしまいました……。

 それにしても美人なのに、こんもりと出したものですね。


「あなた、こんなことをする為に、ここへ?」


 私が哀れみの目を向けて言うと、リリアードは首を左右に振りました。


「違う。精霊共が騒ぎよるゆえ、様子を見に参った。今、世界に災いが迫っておる……大いなる邪悪が生まれようとしておるのじゃ」

「災いが迫っていたのは、あなたのお腹でしょう。そして大いなる邪悪は、ここで生まれましたわ」

「せ、生理現象じゃ! やむを得まいっ!」


 ミズホの手を振りほどこうと、駄エルフがもがいています。


「この邪悪、ホカホカだし臭いよ」


 ミズホが頭を左右に振りました。


「やかましい、愚かな人族ッ! 滅べッ! ペッペッ! ……うわっ!」


 上を向いて唾を吐いたため、リリアードは自分の顔に唾を吐きかけています。


「ほんと、駄エルフですわ……」


 私は駄エルフが排出したブツを土の魔法で分解し、地面に埋めました。

 さらに風の魔法を使い辺りの空気を浄化し、爽やかな香りに変化させます。

 そりゃあ誰でも、排泄はします。仕方のないことでしょう。

 ですが、仮にもリリアードはエルフ。この程度の処理は出来ても良いのではないでしょうか。


 ともあれ――私はわんわんに向き直り、説教をします。


「わんわん、食べ物の匂いと言っていましたわね? 聞いて呆れます。あなたには、さっきのアレが食べ物に見えましたか!?」

「コレじゃありません、ティファニーさま。この奥です」


 わんわんは呆れる私を横目に、前方の壁を睨んで「ぐるる」と唸っていました。


「奥? どういうことですの?」

「ティファニー、この狼人ウルフの鼻は正しいぞ。そこの小娘――前の壁を壊せるか?」


 アイロスがミズホに声を掛け、前方の壁を顎で指し示しています。

 ミズホは首無し騎士(デュラハン)の鎧をがちゃりと鳴らして立ち上がり、頷きました。

 エルフのう○こ姫も立ち上がり、手首と肘を摩っています。


「はぁぁぁあああっ!」


 気合いを入れるミズホの周囲に、風が流れ込みます。

 次の瞬間、ミズホは正面の壁を正拳突きで破壊しました。


“ドォォォン!” 


 轟音と共に壁は崩れ去り、バラバラと破片が落ちてきます。

 朦々と立ちこめた煙が消えると、正面には二つのテントが現れました。

 小ぶりのテントなので、一つ一つが一人用ではないかと思われます。

 ですが、それだけではありませんでした。辺りには無数の人骨が散らばっています。


「おかしいですわ、魔力の反応があります」

「ティファ、下がって! 魔素が濃い! 魔物がいるわっ!」


 クロエがハーピーを前に出し、叫びました。

 地面に落ちている頭蓋骨の眼窩が赤く輝き、周囲にある無数の骨が、そこへ群がって行きます。

 骨はやがて一塊になると、ユラユラと立ち上がりました。


「ふうむ――骸骨戦士(スケルトン)か……」


 アイロスは慌てず、形の良い顎を撫でていました。

 なるほど、骸骨達は確かに錆びた剣や盾を構えています。その数は――十体ですか。


「ひゃ、ひゃああああっ!」


 駄エルフは飛び上がってアイロスに抱きつき、ガタガタと震えていました。

 私は呪文を唱え、前衛三人の攻撃力を上昇させます。


「偉大なる戦神ヨームに願い奉る。これより戦に望みし戦士達に、力の加護を与え給え」


 詠唱が終ると、すぐさま魔法の効果が現れました。

 イグニシアとミズホ、わんわんの身体を仄かな赤い光が覆います。


「ありがてぇ! これが戦神の加護ってやつか! 力が漲るぞっ!」


 イグニシアが私達の前に出て、剣を構えます。


「そこの駄エルフ! あなたもそれなりに強い筈でしょうっ! せっかくここまで来たのですから、野グソ以外にも何かをしたらどうですのっ!」


 私の罵声を浴びたリリアードが、目を瞬きました。


「う、五月蝿い、五月蝿いっ! 骨が少し苦手だっただけじゃっ! 行くぞっ!」


 ようやく駄エルフも我に返ったのか、アイロスから離れて呪文の詠唱を始めます。

 同時に緑色の服を着た無数の妖精が現れて、リリアードの周囲を周り始めました。


風妖精シルフ達、皆の前に見えざる壁を」

「リリアード、くちゃいからヤダー!」

「言うことを聞くのじゃ、このバカ妖精どもっ!」

「あひゃひゃ! 野ぐそリリアー!」

「早くするのじゃ! もう戦闘が始まってしまうっ!」

「わかったー! またこんど遊んでねー!」


 ……リリアードのあれは、呪文だったのでしょうか?

 とりあえず全員の周囲に妖精が一人ずつ侍り、小さな棒を振り回しています。


「なにこれ、風の加護?」

「そうじゃ、小娘。敵の攻撃が迫れば、風妖精シルフが風の盾を作り出す。まさに鉄壁じゃぞ。存分に戦え」

「ふうん」


 ミズホが周囲で踊る様に舞う妖精を見つめ、ポカンと口を開けました。

 もちろん彼女も前に出て、既に双剣を構えています。


「さあ、戦闘です。前衛、骨ごときに手こずったら許しませんわよ」

お菓子とか食べてる時に読んだ方、ごめんなさい!

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