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3話 魔王と契約しましたわ

 ◆


「あ、う、あ、う……」


 何かを言わなければと思いますが、言葉になりません。


『え? え? え? 思い出したんですけど、思い出しちゃったんですけど! 私、前世で男だったんですけど! ていうか私がティファニー? まずいって、それまずいって! エロゲの攻略対象だもの! 私、何回触手の中に放り込まれましたっけ!?』


 内心を渦巻く気持ちは、こんなものでした。

 かつて自分がプレイしたエロゲのヒロインになっているなど、一体誰が想像するでしょうか。


 目の前では、美しい悪魔が微笑んでいます。

 ええ、そうです。

 私はこの男にも、あんなことやこんなことをされて、涎を垂らしながら白目を剥いてしまうのです。

 どうしましょう……とはいえ、それはティファニーが十八歳になって以降のお話。

 今すぐ私に手を出すほど、この大悪魔はロリコンじゃありません。たぶん。

 ええ、そうですとも……ロリコンじゃない事を祈りつつ、一先ず落ち着きましょう。


「ひっひっふー」

「何をしておる、ティファニー。ラマーズ法など必要なかろう……我の授けるものは力だぞ、子を授けたわけでもあるまいに」

「子なんて授かりたくありませんわ……絶対に」


 ラマーズ法を知っている大悪魔とか、すごく嫌です。

 さすがエロゲの世界、しょーもない知識が蔓延しているようですね。

 

 それと同時に、頭の中で声が響きました。


(スキル 悪徳F 強権C 毒舌S 尊大C 大魔導B 肉体強化C 鑑定B を獲得しました)


 どうやらスキルを手に入れたようです。

 ゲームの世界ですから、こういったこともあるのでしょう。


「……くっくっく、我に口答えか。随分と気も強くなったようだな、それでこそ我の尖兵よ」


 大悪魔が冷笑を浮かべ、私を見下しています。

 確かに私は今や彼の奴隷、命令には逆らえません。

 ですが元はと言えば、私はゲームのプレイヤーだったのです。だから相手が誰でも、臆することはありません。

 目の前の男に、さっそく鑑定を使ってみました。

 男の頭上に半透明のバーが現れ、名前などが表示されます。


 ――――――――

 アイロス・バルバトス 

 年齢 不明 職業 魔王 Lv87 

 スキル 

 不明

 ステータス

 不明

 ――――――――


 鑑定Bが使えないのか、強過ぎる相手のステータスは見ることが出来ないのか、アイロスに関しては不明な点が多いようです。

 ついでに自分のステータスも確認してみましょう。

 視界の右下に表示されました。まるでヘッドアップディスプレイのようです。


 ――――――――

 ティファニー・バルバトス 

 年齢 12 職業 村人 Lv3 

 スキル 

 悪徳F 強権C 毒舌S 嘘つきS 尊大C 大魔導B 肉体強化C 鑑定B 

 ステータス 

 統率90 武力54↑ 魔力112↑ 知謀88 内政63 魅力90↓

 ――――――――


 私もバルバトスにされていました。夫婦のようで、とっても不愉快です。

 しかし文句を言ったところで仕様変更は望めないでしょう。仕方がありませんね。


 あとは――やはりというか、大半のスキルがろくなものではありません。

 特に「嘘つき」なんてスキル、必要なのでしょうか?

 尊大な毒舌家が嘘つきだなんて、並の悪役令嬢ではありません。

 拷問経由でギロチン行きの飛行機に、嬉々として乗り込んだ気分です。

 ただまあ魔王と契約をしただけあって、ステータスはお高めですね。Lv3にも関わらず、魔力なんて112ですから。

 ちなみに通常の能力は100までなので、何らかの特殊効果が既に付いているのでしょう。矢印が証拠です。逆に魅力は下がっているので、お察しですね。


 それから、口を開いた私が高慢な喋り方になってしまったのもスキルの影響です。

 きっと尊大や毒舌や嘘つきは、パッシブスキルなのでしょう。もしもオフにできるなら、私が悪役というアイデンティティーを失ってしまいますから。

 ええ、正直失っても惜しくありませんよ、迷惑ですもの。


 さて、それよりもこれがゲームと同じ世界なら、一番の問題はアイロスが私の心臓に仕掛た呪いでしょう。

 設定によると、ティファニーは心臓に仕掛けられたアイロスの印呪によって縛られています。

 これを解除する方法は、“真実の愛を知る”というもの。

 要するにエロゲ仕様なので、メインヒロインになった場合のみティファニーの呪いが解けるのです。そして主人公と幸せを手に入れるのですが……そんな幸せは私にとって地獄の苦しみを齎すでしょう。

 なので、せめて別の方法で解除できるようにして頂きたいと思います。


「……真実の愛を知れば、解除できる――ですか。この様な方法で解除できる呪いなんて、アイロスさまも酔狂なことをなさいますわ」


 皮肉っぽく笑い、言ってみます。

 相手は大悪魔。人間ごときにこんな言われ方をされれば、別の呪いに変更せざるを得ないでしょう。


「ほう、解除法を知っていたとは。だが、ふっふっふ……本当にそう思うか?」

「ええ、思いますとも。そんな解除法であれば、わたくし一年も経たずに解放されましてよ?」

「ふむ……では別の解除法にするか……」


 きました。ここでもっとマシな解除法があれば、そちらを選ばせて頂きましょう。


「別の方法といいますと、どのようなものですの?」

「なぜそれを、我が教えてやらねばならぬ?」

「可愛い奴隷に、試練を与えるとお考えあそばせ。わたくしは何にでも挑戦したいのですわ」

「ふむ……道理。それほど知りたいか?」

「はい、とっても」

「ならば教えてやる。それはな……腹に淫紋を刻み、その後、ゴブリン共と三日三晩交わる。それからシェーラ海のクラーケンに身を捧げ、触手に身を委ねよ。しかる後に――我の子を孕め」


 エロゲ乙……でございます。


「か、解除法はそのままで結構ですわ。どちらにしろ、わたくしが貴方を裏切らなければ良いのでしょう?」

「そうだ……」


 私はアイロスの目を見て、首を傾げました。

 そういえばこの方はラスボスだけれど、根っから悪ではありません。

 人間達に迫害された被害者、という側面も持っているのです。

 だからティファニーに同情している節もあり、この印呪を選んでくれたのでしょう。

 愛する者を見つけたなら、復讐よりもそちらを優先できるように……と。

 もちろん今の私には、迷惑な話でしかありませんが。


 アイロスが私の心臓を強く握り、笑みを浮かべました。

 そう――まだ私はアイロスに心臓を握られたままだったのです。


「あっ……」


 思わずえっちな声が出てしまいました。

 痛いのですが、これもエロゲ仕様なのでしょうか。悔しいです。

 

 アイロスは何事か呪文を唱えると、ようやく私の身体から手を引き抜きました。

 それから優しく頬を撫で、微笑みを浮かべています。

 逆に私は彼の顔を見上げ、眉間に皺を寄せています。

 痛い事をされて微笑を返せるほど、私はドMじゃありませんので。


「契約は成った。その力、存分に振るえ」

「言われなくても、まずはミール家を滅ぼしてやりますわ。それからクライン公爵家も……」

「良い心意気だ。また会おう……ティファニー。だが忘れるな――我に人間どもの絶望と悲哀、そして恐怖を供物として寄越すことを。さすればお前は、この国を統べる王となる」


 アイロスは、霧となって消えました。

 雨はいつの間にか止み、朝日が昇り始めています。

 清々しいのか禍々しいのかよく分かりませんが、とにかく朝になりました。

 

 私はもう一度、川の水を見つめてみます。

 金色の豪奢な髪は長く、切れ長の目に翡翠色の瞳。

 薄い唇は口角を上げれば邪悪に微笑み、膨らみ始めた胸は――あと六年で巨乳になるでしょう。


 やがて主人公ラファエル・リットは、その胸をたくさん揉むのです。

 そして私はイヤイヤをしながらも復讐を忘れ、真実の愛に目覚めてしまう。

 そんな未来は絶対に避けなければなりません。だって男の子ですからね。

基本的にギャグ要素強めのはず……です。

ブクマ、評価ありがとうございます!

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