25話 どうして、こうなってしまいましたの?
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「どうして、こうなってしまいましたの!?」
窓の外には鮮やかな桃色の花が咲き乱れ、下方に目を移せば青や赤のベレー帽を被った学生達が忙しなく行き来しています。
ここはケーニヒス連邦学院――この大陸における数多の王国、公国、貴族領、商業国家により構成された連邦王国が直接運営する、唯一の学府です。
ですから、ここに通う者は後に自国に戻って、国家の要職に就くことが約束された者ばかり。
つまりは王族や貴族、民主国家であれば評議員の子弟などが多く、平民でさえも、それは才能を見出された一部特権階級の者という訳です。
そして私は連邦内で列強と呼ばれるクライン公国の公姫。ですから王族達と同等の待遇を約束された、中でも特別な存在なのですよ。
そんな訳で昨日の夜、貴族棟三階に与えられた部屋へミズホ、クロエと共に荷物を運び入れた私は、今日という日をこの場所で、迎えることになりました。
「ああっ! 絶対に来てはいけない場所でしたのにっ!」
ですが、ここは私が絶対に足を踏み入れてはいけない場所だったのです。
それを再確認する為にも、私は自らの目的をもう一度、しっかりと思い出すことにしました。
そう――私の目的は、このエロゲの世界で主人公に攻略されないこと――これが第一です。その範囲内において自身の心と肉体の健康を保つため、人類に絶望と悲哀を与える。
アイロスとの契約がある以上、私が末永く健康で文化的な生活を送る為には、人類の犠牲が是非とも必要ということですね。
もっともとティファニーという存在を考慮したとき、貴族に対する復讐心は並々ならぬモノがあります。よって彼等を蹂躙し、駆逐することに関して罪悪感は感じません。
またスキルによって自動的に吐き出される罵詈雑言のお陰で、労なく人類に絶望や悲哀を与えることも可能です。
なので総合的に考えれば、地雷の数も少なくヌルゲー……だと思うのですが……今現在、どうしてこうなった! と頭を抱えざるをえない事態に直面しています。
なぜなら第一の目的を達する為の計画が、音を立てて崩れてしまったのですから!
理由は簡単です。
私は会ってはいけない者に、遠からず会うこととなる。
ラファエル・リットがここに居るのです。
ああ……彼に会わないようにと心がけ、今までの日々を過ごしていたというのに。
その為に、ミズホやクロエを付き従えたというのに。
それらの苦労は全て、無駄だったのでしょうか。
目の前に水の膜が張り、世界がユラユラと揺れています。
ああ……これが涙なのですね。
ですが、まだです。まだ終っていません。
打つべき手は、まだ沢山残っていますからね。
考えましょう――「Herzog」におけるゲームのスタートは、主人公であるラファエル・リットが十八歳になり、攻略対象の君主がいる国へ士官したところから。
それは連邦歴で云うなら一〇二一年四月一日。つまり、本当の始まりは三年後です。
だから、今はゲームで云うところのチュートリアル。ここは様々なミニゲームを行い、自らがターゲットにするヒロインを選ぶパートなのです。
窓際から離れ、部屋に戻って机の上を見ると、その上には入学式のプログラムが書かれた紙が乗っていました。
“新入生代表挨拶――ラファエル・リット――”
白い紙に誇らし気に印字されたそれは、私を地獄の底か触手の苗床に突き落とす男の名です。
こいつのせいで……こいつにさえ出会わなければ……ですが……
「ううん、大丈夫……大丈夫ですわ。だって確率は八分の一ですもの。しかも、わたくしは悪役令嬢。普通の感覚を持った健全な男子なら、スルーするに決まっています」
どきどき……
だけど、もしも何かの事故で好かれようものなら……やっぱり逃げ回るしか……
逃げ回る? この私が? 何を馬鹿な……
だんだんと腹が立ってきました。こんなの、私らしくありませんね。
あは、あははは……
「考えてみたら逃げ回るより積極的で確実な方法、ありますわね」
そうですよ、殺せばいいのです。
いくら天才軍師のラファエル・リットと云えども、敵と認識すらしていない相手に暗殺されるとは思わないでしょう。
そして都合良く私の手元には、最強の暗殺者が控えているのですから。
「ミーズホッ!」
「はい?」
ミズホは一歳年齢をサバ読みして、私と共に学院へ入学を果たしました。
彼女は平民棟に自室を与えられていますが、基本的には私の付き人なので、この部屋で共に暮らします。
そんなことが許されるのも、公爵家の金銀財宝を学院の首脳へ大量にバラまいた結果ですが、王族や大貴族なら皆がやることですからね。
ですが、それも全ては今日の為! さあ、行きなさい、ミズホッ!
「ラファエル・リットを抹殺なさい!」
「お姉ちゃん、会ったことも無い人を殺しちゃダメだよ、犯罪だよ?」
むむ……十四歳になったミズホは、随分と固いことを言います。ならば……
「クロエッ!」
少し質は劣りますが、クロエも今では相当強いのです。
特に愛玩SSのスキルを使って相手を油断させれば、ほぼ確実に致命の一撃をぶっ込めるでしょう。
ふふふ……ラファエル・リット。
あなたには、エロゲの主人公に相応しい死を与えて差し上げますよ。
「無理。ティファ、殺人教唆で捕まるよ?」
即答ですか、この兎さん……。
ちなみに兎さんもミズホと同様、クライン家の財力を使って、私が入学させました。
それもこれも、このような事態に備えてのことだったのですけれど。
二人とも役に立たないなんて、何と云うことでしょうか。
仕方がありません。
こうなったら私が直接、ラファエル・リットに正義の鉄槌を下すしか道は無いようですね。
新章です。
時間的に三年経っていますが、あとで過去の話も出てきます。
時系列を順に追っていくだけだとつまらないなーと思ったので、こんな風になりました。
混乱させてしまったなら、すみません><




