表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/130

21話 計画通りですわ

 ◆


 日が暮れてから、私はクロエと共にナルラ湖へ向かいました。

 クロエは私にとって愛馬も同然。彼女無しでは、このぬかるんだ道を行く事は不可能です。足が汚れてしまいますからね。

 それに彼女は夜目も利きますから、馬よりも高性能なのですよ。

 あ、ミズホは万が一のことを考えて村に残しています。戦闘能力を考慮すれば、当然の選択ですね。


「ねえ、ティファ。酷いことを考えてない?」

「いいえ、まさかクロエが愛馬だなんて思っていませんわ」

「そう? ならいいけど」

「ええ、兎ですからね」

「ん?」

「どう、どう! この辺りでいいですわ」

「ちょ、耳を引っ張らないで!」


 眼下には満水になったナルラ湖が、まるで嵐の海のように荒れ狂っています。

 そこから発する水はゴウゴウと音を立て、エルシード川に注いでいました。

 水はそこかしこで白波を立てて渦を巻き、濁流となって下方へと流れて行きます。

 流木が波間で揉まれ、上に下にと揺れては消える――果ては割れて粉々になりました。これに飲み込まれれば生命など小さな灯火に過ぎないと、誰もが思わずにいられません。

 そして私はここから更に多くの水が川下へ流れるよう、堰を破壊するのです。


 死ね、死に絶えろ――心の奥底でアイロスの声が聞こえます。

 人々に絶望と悲哀を与える――それこそが私の使命ですからね。


「恐いよ、ティファ。笑ってるの?」

「あは……あはは……」


 私は手で印を結び、呪文を唱えます。

 ちょうど暗雲が上空にひしめいているので、雷撃魔法にしましょうか。

 

 呪文の詠唱を始めると、雨を降らせる黒雲の中に、光り輝く大蛇が無数に現れました。

 それはバリバリと雷鳴を轟かせ、大気を斬り裂いています。

 かつて人類はそれを「天へと昇る竜」に例えました。

 もちろん地球の人類に雷を操る魔法などありませんでしたから、科学が発達するまでは理解不明な現象だったのでしょう。だからこそ、「雷神」などという呼称も生まれたのです。


「吠えよ、風の精霊! 世界を貫く雷となりて、我が敵を穿てっ!」


 私は無数の雷光を束ね、一点に集中させました。

 それは濁流の流れる脇に落ち、轟音と共に土砂を跳ね上げます。

 途端、水はうねり、弾けて飛び出しました。

 もはやエルシード川は、怒れる巨竜に等しい存在です。下流にいるクライン公爵の兵など、一息に飲み込んでしまうでしょう。


「す……ごい……ティファ……これ」


 振り返ると、クロエがブルブルと震えていました。 

 もう雨は止んでいます。これ以上、降らせ続ける意味など無いですからね。


「これが軍略というものです、クロエ。けれど真に恐るべきは、軍師の力ですわ」

「どういうこと?」

「今に分かります――さ、戻りましょう。やるべきことが、後一つ残っていますから」


 再びクロエの背に乗ると、私は小さな溜め息をつきました。


「なに? 溜め息なんてらしくないわ、今の結果に満足できていないの?」

「満足なんて出来ませんわ、クライン公アルフレッドを殺せなかったんですもの」

「えっ……あれでも死なないの!」

「ええ、死にませんわ。あれでも公爵――それなりの防御結界は持っていますもの」


 正直、イライラします。

 もしもクライン公爵を殺そうと思えば、余勢を駆って敵の本営に攻め込めば良い。

 けれどそれが出来ないのは、セフィロニアからの手紙があったからです。

 手紙には、このように書かれていました。


「君が今クライン公爵を殺せば、彼の息子が大軍を率いて再び村へやってくるだろう。それを防ぐ手立てが無いのなら、今回だけは私の策に従って欲しい」


 そんなことは関係ない――そう言い切ってしまえる程、私はこの村を嫌いになれません。

 だから私はセフィロニアの言に従って、クライン公爵の兵力を減らし、有利な条件で講和を結ぶことに決めたのです。

 その条件は、セフィロニアしか知らないのですけれど。


 ◆◆


 村に戻った私とクロエは、皆の歓声に迎えられました。

 深夜になっていたにも関わらず、盛大に焚かれた篝火の中、グレイが私を抱えてクルクルと回ります。


「ティファは俺達の女神だ!」


 イラっとしたのでグレイを引っ叩き、蹴り上げ、地面に降りました。


「調子に乗るな、愚民共! わたくしはクライン公爵が嫌いなので、こうしたまでです! あなた方の女神などになった覚えはありませんわっ!」


 そうです、私は人々に不幸と災厄を齎すべき存在。悪魔と契約しているのに、女神なんぞなってたまるものですか。

 ましてや女神では、モテモテになってしまいます。そんな迷惑なものに祭り上げられてごらんなさい、貞操の危機ですよ。


「うおっ、痛ぇ!」


 グレイが悲鳴を上げ足を抑えていると、パットが慌てて広場にやってきました。


「大変だ! ライネン子爵セフィロニア・クラインってのが、クライン公爵の名代で来てる! 和議の会談を求めているぞっ!」

「何言ってやがる、今更! 敵兵は、ほとんどが水に流されたんだ! 構うこたぁねえ! やっちまおうぜ!」


 ボードが威勢よく、拳を振り上げています。


「そ、それが――兵を率いて渡河してやがる……黒竜騎士団の精鋭だ。正面からぶつかったら、とても勝てそうにねぇ……」


 パットは悔しそうに拳を握りしめています。

 

「まんまと騙されたって訳か、あの坊ちゃんに……!」


 グレイは苦笑し、腕に嵌めた鉄甲で近くの石を砕きました。


「あーっはっはっはっはっは――違いますわ! これこそ、わたくしの計画通りなのです!」


 私は懐に忍ばせていた扇を取り出し、広げて言いました。


「え、ティファ……本当なのか?」

「五月蝿い家畜ですわね、パット! いいですか、会談の時刻は明日の午前十時、場所は村の入り口で――こちらからは、わたくしとグレイ、そしてパット、あなたが行くとお伝えなさい。一言一句間違わないようにっ!」


 私はパットのお尻を蹴飛ばし、さっさとセフィロニアの下へ向かわせました。

 それにしても私、どうして扇を持っていたのでしょう。無意識かしら? 

ランキング参加してます。

よろしければ↓のほうにあるタグをポチッとお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ