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126話 安定のミズホですわ

 ◆


 ラファエルをバッキバキのボッコボコにした結果、彼は今でろーんと地面に這いつくばっています。

 まったくキスマークなんか付けてくれやがりまして、頭にくるったらないですね。

 こちとら前世で女子にすら付けられたことも無いのに、なんでいきなりイケメンに付けられるのやら……はぁ……。


「ティファ……ごめん」

「謝るくらいなら、最初からやらなければ良いのですわ、ふんっ!」

「それもそうだね。昨日はティファも楽しそうにしていたし……」


 なんですって!

 ぜんぜんちっとも楽しくなかったのですけれど!

 なんなら今、イグニシアとの仲が余計に拗れちゃったんですけれど! 最悪なんですけれど!


 余りに苛ついたので彼の顔をグリグリと足で踏み、立場の違いというものを身体に叩き込んでやりましょう。


「ねぇラファエル。あなたはわたくしの何かしら?」

「ぐ、軍師だよね……?」

「ち が い ま す !」

「ああ、そうか。親友だったね……」

「それは昨日までのこと。今日からあなたは、わたくしの し も べ ですッ!」

「そ、そうだったのかい……? てっきり僕は騎士になるものと……」

「だ か ら! 騎士しもべなのですッ!」


 ラファエルの顔が地面にめり込んでいき、伸ばした手がフルフルと震えています。ざまぁですね!

 だというのにクロエが私を後ろから羽交い締めにして……。


「ちょっとティファ、流石にやりすぎよ! ラファエルが何をしたって言うのッ!」

「何って何って……うわああああ!」


 流石に言えません。言えないので喚いてみました。


「何よ、言えないの?」

「言えなくなくなくないのですけれどもッ!」

「じゃあ、何よ? まさかえっちなことじゃあ無いでしょうね?」


 ラファエル、ここで私に踏まれながらもニヤリと笑い……。


「……うっ、うっ……うわああああああああ!」

「え、まさか二人って?」


 怪訝そうなクロエ。

 私はブンブンと頭を振って人生最大の否定をします。


「そ、そう……なら、いいのだけれど……」


 安堵したのかクロエの力が抜けて……私の身体が少し自由になりました。

 その隙に私、ゲシゲシとラファエルの顔を蹴りまくり……。

 だけどラファエル、回復魔法を唱えつつ防御魔法を展開。むしろ私の足が痛い事故が発生。


「痛っ! なんで防御するのッ! あなたはわたくしに大人しく蹴られなさいなッ!」


 私はジロリ――ラファエルを睨みます。

 彼はペロリと舌を出し、片目を瞑って見せました。

 この状況でもイケメンとはッ!


「ちょっと、止めなさい――ティファ! って、何よ、二人って本当に仲いいわね? そういう遊びなの? ――もう」


 するとクロエが首を傾げ、両手を上げて笑います。

 解放されたので、もう一度ラファエルを蹴ろうと思いましたが……。

 彼がケロッと笑っていた為、毒気を抜かれた私は顔を背けました。

 だいたい、蹴れば蹴るほど仲良しだと思われるのも癪に触ります。


「そうだよ、クロエ。僕とティファは新しい遊びを覚えたんだ。――だからティファ、謝ったことを謝るね。だってあのとき、僕は本気だったのだから」


 前半はクロエに向けて、後半は私に向けて言うラファエルは、衣服に付いた泥を払って立ち上がりました。


 むきーっ! この場で私が言い返せないのをいいことに、コイツときたらッ! コイツときたらッ!

 私はラファエルの胸ぐらを掴み、詰め寄ります。


「あんたという人は……――!」


 そこでわんわんがラファエルの肩をつんつんと指で突つき……。


「ん?」

「ラファエル……踏まれるって気持いい?」

「気持ち……良くはないかな?」

「そうなの? どんな感じ?」

「こほん……ルイード……君はもしかして変態なのかい?」

「――まさか、俺は狼さ」


 ニヤリと笑って親指を立てるわんわん。鋭い犬歯がキラリと光ります。

 そしてわんわんはクロエに向き直り――「な、クロエ……?」


「はぁ!?」


 わんわんのドヤ顔がクロエの怒りに火を付けたようです。

 足を払われ引き倒されたわんわんは、瞬く間にクロエに制圧されました。

 そのままクロエはわんわんの股間を踏み抜くと――「アオーンッ!」

 見事な遠吠えが聞こえます。

 ただ――若干クロエの頬が赤くなっていたのも気になりますが……。


 あれ……まさか、この二人はもう……。

 うーん……。


 とりあえず――放っておきましょうか……。

 二人が惹かれ合っていたのは、何となく知っていましたので。

 だから私はミズホに向き直り、ニッコリ微笑み言いました。

 

「さ、ミズホ。行きましょう。わたしくを真に理解できるのは、あなただけなのですわ」

「ねえ、お姉ちゃん。わたしのことも踏んでッ!」

「はい?」

「ねえ! 踏んでッ!」


 ミズホ、頬を赤く染め――唇をムニムニと波立たせて私に懇願。

 

「いえ、その――ミズホ? こういうのは罰というか何と言うか――あなたが踏まれる必要はないのですわ」

「駄目だよ、お姉ちゃん! ラファエルくんもルイードも踏まれてるのに、わたしが踏まれないなんて不公平だよ!」

「いえ、全然そんなことは無いですわ。クロエだって踏まれていないでしょう?」

「クロエちゃんは文官でしょ! わたしは武将だよ!」

「――ん?」


 どういう理屈でしょう?

 ともあれ拳を握りしめ、超力説するミズホ。こうなったら彼女は止まりません。


「ク、クロエ……この子に色々と教えてやって下さいまし……」


 困った私は兎さんに助けを求めましたが、彼女は恍惚とした顔で狼を折檻中。


「あら……お忙しい……?」


 仕方なく私はミズホを横たわらせて、それから考えることにしました。


「で、ではミズホ。とりあえず横におなりなさいな」

「うん、わはっは(分かった)! ふんへー(踏んで)!」


 素早く横たわったミズホ、なぜかうつ伏せ状態に。顔面が土に埋まり、声がくぐもって聞こえました。


 私は仕方なくクロエのポニーテルを捲って後頭部を露にし、そこを手でクイッと押さえ付けます。

 どう考えたって、足で踏みたくないですからね。


「い、いま足で踏んでいますわよ」

「ふひほへへへほ、ふほほひーへー(首押されると、気持ちいーねー)!」

「そ、そうですか……」


 まあ、ミズホがこれで満足するなら良いのですけれど……。


 暫くミズホの後頭部を押していたら、下から安らかな寝息が聞こえてきました。


「スーッ、スーッ……」


 さて、戻りましょうかね。

 私は立ち上がると、未だわんわんと戯れ合うクロエに声を掛けました。


「さて……クロエ。あとはよろしくお願い致しますね」

「あっ……うん。なんかごめんね、ティファ」


 ラファエルが、しれっと半歩遅れて付いてきたので……。


「あなたは身なりを整えてから、大広間においでなさい。そこで騎士叙勲の儀式が行われますから――……詳しくはクロエに聞いて」


 そう言って私は一人、この場を去ります。

 これ以上一緒にいたら、私まであちら側の人間になってしまいそうで……。

 それが少し眩しくて……なんてね。

お読み頂き、ありがとうございます。


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