126話 安定のミズホですわ
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ラファエルをバッキバキのボッコボコにした結果、彼は今でろーんと地面に這いつくばっています。
まったくキスマークなんか付けてくれやがりまして、頭にくるったらないですね。
こちとら前世で女子にすら付けられたことも無いのに、なんでいきなりイケメンに付けられるのやら……はぁ……。
「ティファ……ごめん」
「謝るくらいなら、最初からやらなければ良いのですわ、ふんっ!」
「それもそうだね。昨日はティファも楽しそうにしていたし……」
なんですって!
ぜんぜんちっとも楽しくなかったのですけれど!
なんなら今、イグニシアとの仲が余計に拗れちゃったんですけれど! 最悪なんですけれど!
余りに苛ついたので彼の顔をグリグリと足で踏み、立場の違いというものを身体に叩き込んでやりましょう。
「ねぇラファエル。あなたはわたくしの何かしら?」
「ぐ、軍師だよね……?」
「ち が い ま す !」
「ああ、そうか。親友だったね……」
「それは昨日までのこと。今日からあなたは、わたくしの し も べ ですッ!」
「そ、そうだったのかい……? てっきり僕は騎士になるものと……」
「だ か ら! 騎士なのですッ!」
ラファエルの顔が地面にめり込んでいき、伸ばした手がフルフルと震えています。ざまぁですね!
だというのにクロエが私を後ろから羽交い締めにして……。
「ちょっとティファ、流石にやりすぎよ! ラファエルが何をしたって言うのッ!」
「何って何って……うわああああ!」
流石に言えません。言えないので喚いてみました。
「何よ、言えないの?」
「言えなくなくなくないのですけれどもッ!」
「じゃあ、何よ? まさかえっちなことじゃあ無いでしょうね?」
ラファエル、ここで私に踏まれながらもニヤリと笑い……。
「……うっ、うっ……うわああああああああ!」
「え、まさか二人って?」
怪訝そうなクロエ。
私はブンブンと頭を振って人生最大の否定をします。
「そ、そう……なら、いいのだけれど……」
安堵したのかクロエの力が抜けて……私の身体が少し自由になりました。
その隙に私、ゲシゲシとラファエルの顔を蹴りまくり……。
だけどラファエル、回復魔法を唱えつつ防御魔法を展開。むしろ私の足が痛い事故が発生。
「痛っ! なんで防御するのッ! あなたはわたくしに大人しく蹴られなさいなッ!」
私はジロリ――ラファエルを睨みます。
彼はペロリと舌を出し、片目を瞑って見せました。
この状況でもイケメンとはッ!
「ちょっと、止めなさい――ティファ! って、何よ、二人って本当に仲いいわね? そういう遊びなの? ――もう」
するとクロエが首を傾げ、両手を上げて笑います。
解放されたので、もう一度ラファエルを蹴ろうと思いましたが……。
彼がケロッと笑っていた為、毒気を抜かれた私は顔を背けました。
だいたい、蹴れば蹴るほど仲良しだと思われるのも癪に触ります。
「そうだよ、クロエ。僕とティファは新しい遊びを覚えたんだ。――だからティファ、謝ったことを謝るね。だってあのとき、僕は本気だったのだから」
前半はクロエに向けて、後半は私に向けて言うラファエルは、衣服に付いた泥を払って立ち上がりました。
むきーっ! この場で私が言い返せないのをいいことに、コイツときたらッ! コイツときたらッ!
私はラファエルの胸ぐらを掴み、詰め寄ります。
「あんたという人は……――!」
そこでわんわんがラファエルの肩をつんつんと指で突つき……。
「ん?」
「ラファエル……踏まれるって気持いい?」
「気持ち……良くはないかな?」
「そうなの? どんな感じ?」
「こほん……ルイード……君はもしかして変態なのかい?」
「――まさか、俺は狼さ」
ニヤリと笑って親指を立てるわんわん。鋭い犬歯がキラリと光ります。
そしてわんわんはクロエに向き直り――「な、クロエ……?」
「はぁ!?」
わんわんのドヤ顔がクロエの怒りに火を付けたようです。
足を払われ引き倒されたわんわんは、瞬く間にクロエに制圧されました。
そのままクロエはわんわんの股間を踏み抜くと――「アオーンッ!」
見事な遠吠えが聞こえます。
ただ――若干クロエの頬が赤くなっていたのも気になりますが……。
あれ……まさか、この二人はもう……。
うーん……。
とりあえず――放っておきましょうか……。
二人が惹かれ合っていたのは、何となく知っていましたので。
だから私はミズホに向き直り、ニッコリ微笑み言いました。
「さ、ミズホ。行きましょう。わたしくを真に理解できるのは、あなただけなのですわ」
「ねえ、お姉ちゃん。わたしのことも踏んでッ!」
「はい?」
「ねえ! 踏んでッ!」
ミズホ、頬を赤く染め――唇をムニムニと波立たせて私に懇願。
「いえ、その――ミズホ? こういうのは罰というか何と言うか――あなたが踏まれる必要はないのですわ」
「駄目だよ、お姉ちゃん! ラファエルくんもルイードも踏まれてるのに、わたしが踏まれないなんて不公平だよ!」
「いえ、全然そんなことは無いですわ。クロエだって踏まれていないでしょう?」
「クロエちゃんは文官でしょ! わたしは武将だよ!」
「――ん?」
どういう理屈でしょう?
ともあれ拳を握りしめ、超力説するミズホ。こうなったら彼女は止まりません。
「ク、クロエ……この子に色々と教えてやって下さいまし……」
困った私は兎さんに助けを求めましたが、彼女は恍惚とした顔で狼を折檻中。
「あら……お忙しい……?」
仕方なく私はミズホを横たわらせて、それから考えることにしました。
「で、ではミズホ。とりあえず横におなりなさいな」
「うん、わはっは(分かった)! ふんへー(踏んで)!」
素早く横たわったミズホ、なぜかうつ伏せ状態に。顔面が土に埋まり、声がくぐもって聞こえました。
私は仕方なくクロエのポニーテルを捲って後頭部を露にし、そこを手でクイッと押さえ付けます。
どう考えたって、足で踏みたくないですからね。
「い、いま足で踏んでいますわよ」
「ふひほへへへほ、ふほほひーへー(首押されると、気持ちいーねー)!」
「そ、そうですか……」
まあ、ミズホがこれで満足するなら良いのですけれど……。
暫くミズホの後頭部を押していたら、下から安らかな寝息が聞こえてきました。
「スーッ、スーッ……」
さて、戻りましょうかね。
私は立ち上がると、未だわんわんと戯れ合うクロエに声を掛けました。
「さて……クロエ。あとはよろしくお願い致しますね」
「あっ……うん。なんかごめんね、ティファ」
ラファエルが、しれっと半歩遅れて付いてきたので……。
「あなたは身なりを整えてから、大広間においでなさい。そこで騎士叙勲の儀式が行われますから――……詳しくはクロエに聞いて」
そう言って私は一人、この場を去ります。
これ以上一緒にいたら、私まであちら側の人間になってしまいそうで……。
それが少し眩しくて……なんてね。
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