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108話 嘘は言っていませんわ

 ◆


 生徒会室で椅子に縛り付けたキリキアが、目を覚ましました。

 と言っても彼女が眠っていたのは、ほんの数分のこと。

 それでも彼女の足を椅子の足に縛り付け、腕を後ろに回してがっちり固定する時間は十分にありました。


「うっ……うう」


 キリキアが首を左右に巡らせて、苦悶の声を漏らしました。すぐに悲鳴へと変わります。


「うわぁああ、何も見えない! ここはどこだっ!?」


 それもそのはず。彼女は椅子に縛られた状態で、目隠しをされていますからね。

 ついでに言うと私が今、キリキアの太腿に指を這わせています。うひひ。

 

 さらにさらに私は、そっとキリキアのスカートを捲ってみました。

 白いパンツがチラリと覗き、扇情的です。


「ふふっ……ふっふっふ……ここに触手を滑り込ませたら、どうなりますかしらぁ?」

「や、やめろ、何をするつもりだッ!?」


 身じろぎをしながら、キリキアが喚いています。

 そりゃあ恐いでしょうね。いきなり攫われて内股を触られ、スカートを捲られているのですから。

 ましてやそこに、触手を入れるぞと脅されているのです。

 ふぁああ……私、ゾクゾクしてきました。これぞエロゲの醍醐味、とっても楽しいですね。


「うふふ……それとも、ふとーい棒でも入れましょうか? ――ああ、服を溶かすスライムも良いですわ。ねぇ、どう思います……キ リ キ ア ?」


 キリキアの太腿をヒタヒタと触りながら、私は彼女を脅し続けます。

 そんな私の肩を、ラファエルが軽く叩きました。


「ティファ、ティファ……これじゃあ、ただの変態だよ。必要な情報を聞き出さないと……」

「あっ……い、いえ。これは、この女に恐怖を刷り込もうと思いまして……」

「……本当は肝心なことを、忘れていたんじゃあ無いのかい?」

「ま、まさか。このわたくしに限って目的を忘れるなど、有り得ませんわ! まったく、ラファエルときたら、いったい何を言い出しているのでしょうねッ!」

「はぁ〜……なら、良いんだけれどね」


 肩を竦め、ラファエルが軽い溜め息を吐いています。


「そ、そこに、ラファエルもいるのか!?」

「いるもなにも、さっきから触っていたのはラファエルですわ」

「ちょっ! ティファ! 嘘は良く無いよッ!」

「あら? わたくし、真実と誠実の聖女と呼ばれていましてよ」

「キミは普通の聖女だよッ!」


 私とラファエルが問答をしていると、目の前の椅子がガタリと揺れました。


「はぅぅぅ〜〜ラファエルがいたなんてぇ〜〜……」


 キリキアが身を捩り、頭を振っています。顔も耳まで真っ赤にして、俯いてしまいました。

 どうやらこの女――ラファエルに気があったみたいです。

 私は彼女の目隠しを取ってやり、目の前に立つラファエルの顔を見せてやりました。


「ラファエル……私のパンツ……見たの?」

「……」

「見ていましたわ、しっかりと! だってこの男、ドエロですもの!」

「どうしてキミが答えるんだい、ティファ!?」


 キリキアは項垂れ、暫く唸っていました。

 しかし、すぐにラファエルをウットリと見つめ、媚びる様な声を出します。


「私を解放してくれ、ラファエル」

「いくら先輩の頼みでも、それは聞けませんね」

「だったらせめて、この生徒会を去れ」

「余計、無理な相談です」


 ふぅむ――どうやらラファエルとキリキアは、面識があったようです。

 まあ、面識も無いのにキリキアがラファエルを好いているのも変な話ですから、当然かも知れませんが。

 しかし、どういった間柄なのか、気になりますね。


「ねえ、ラファエル。あなた――どうしてキリキアを知っていますの?」

「むしろティファの方こそ、どうしてキリキア先輩と初対面だと思っているんだい? 彼女は去年も今年も、学級委員長として僕等と顔を合わせていたんだよ」

「ぬぁ!? し、知っていましたとも。わたくしが言っているのは、どうしてキリキアとあなたが親しいのか、ということですわ」


 思わず身体を仰け反らせて、私は後ずさってしまいました。


「まあ――軍師のスキル持ち同士だから、かな。幾度か相談に乗ったこともあってね……それで彼女がアーリアの軍師だと気付けたのだけれど」

「あらあら、先輩が後輩に相談なんて」


 私の嫌味にもめげず、キリキアが喚きました。


「ラファエルのランクはSSだ! たとえ年下だとしても、相手が優秀であれば敬意を払う! 当然だろう!」

「先輩のそういう所は、尊敬していますよ」


 ラファエルが宥める様に、キリキアに対して片目を瞑ってみせます。

 お陰で彼女は下唇を噛んで、もじもじとしはじめました。

 なんですか――この天然男。さすがエロゲの主人公ですね! 誰彼構わず女を落とします!


「ラファエル――お前のように成績も優秀で武芸にも秀でた男が、こんな荒んだ生徒会に居る事は無い」


 キリキアが、優し気な口調で語り始めました。うざっ!


「先輩、べつにここは、荒んでなんかいませんよ」

「荒んでいるだろう。ティファニーといいサラステラといい――邪悪極まる存在だ! 首魁たるリリアードに至っては、頭に脳の欠片もない喰人鬼グールのごとき存在であろうッ!」

「ははっ――ティファニーさまは聖女と評判ですし、サラステラさまは神国の姫巫女ですよ。リリアードさまだって、エルフの国の王女なのですから」

「そんなものは、世間の評判に過ぎない。内実の邪悪なことと言ったら――」

「それも、承知の上です」


 おい、ラファエル。私は邪悪じゃねぇですよ。承知するな!


「分かっているなら――アーリアさまに協力してくれ。コイツ等は――いや、とくにコイツは、よからぬ事を企んでいるに違いないのだからッ!」


 そう言って、キリキアが私をキッと睨みます。

 まあ――その推測は当たらずとも遠からず。

 だからこそラファエルは、「承知の上です」と答えたのかも……。


 しかし、そうとは知らないキリキアが潤んだ瞳で、ラファエルを真っ直ぐに見つめています。

 私は何だかイラっとしたので、彼女のスカートを完全に捲りました。


「立場を――弁えなさいなッ! ラファエルがあなたの仲間になるワケ、ないでしょうがッ!」

「きゃあああああああ!」


 どうだ! 

 ラファエルの目の前で展開される、白布の祭典です。

 彼は突然のことに目を白黒とさせて、すぐに顔を背けました。


「ティファ! 何をしているんだッ!?」

「わたくし、引き抜きは絶対に許しませんのッ! ねえ、ラファエル! 見ましたか!? この女のパンツ、熊さんの絵が描いてありましたわッ! アーッハッハッハッハ!」


 これに、私とリリアードが大爆笑しています。


「あひゃひゃひゃひゃ! ティファ! ついにやりおったッ! 熊さんじゃぞ! 何がアーキテクト・タイガーじゃ! あひゃひゃひゃひゃ!」


 あ、ちなみにリリアードは生徒会長らしく、いつもの上座に座っていました。

 キリキアを囲んでいるのは私とラファエルが主で、あとはイグニシア、ミズホ、マリアードですね。

 サラステラはリリアードを上座とした長卓の隅で、お蕎麦を啜っています。


「キリキア、あなた、フフッ……ラファエルのことが好きなんでしょう? どうですっ……アハハッ、その好きな人の前で、パンツを晒す気分はっ……アハハハハッ!」


 こんなことをやっていたら、イグニシアに頭を叩かれました。


「痛いっ! 何をするのです!?」

「ティファ! これじゃあ、ただの虐めだろッ! そういうのは、駄目だ! だいたいお前――自分が好きな人の前で下着を晒されたら、どんな気持ちになるんだ?」

 

 ぐっ……すっかり忘れていましたが、イグニシアは正義バカでした。こういう反応も当然ですか。

 イグニシアの後ろでは、ミズホとマリアードまで大きく首を縦に振っています。

 仕方がありませんね……駄目と言われても私は悪魔との契約上、こういったことをしなければならないのですが……とはいえ……。


「確かに、非常に辛い気持ちになりますわ」


 実際、キリキアはポロポロと泣いています。人として考えてみれば、確かにこれは駄目でしょう。

 リリアードは私が怒られたのを見て、オロオロとしていました。


「わ、わしもラファエルにパンツ、見せようかの?」

「いえ、結構です」

 

 そうしてしょぼくれるリリアードの涙は、愚か者の涙ですが。


 ……まあ、白けましたし、本題に入りましょうか。


「キリキア――わたくしが貴女を攫った目的を告げます。ノトス、ラトス兄弟は今日、何処へ行っていますか? 貴女が今回の計画を立てたことも、ラファエルによって明白になっているのですから、素直にお答えなさいな」

「ちっ。ティファニー・クライン……私が答えると思うか?」


 ギリッと奥歯を噛み締め、キリキアが私を睨みます。その目はまだ、真っ赤でした。

 が――私は笑みを浮かべて、また彼女のスカートをヒラヒラと弄びます。

 ラファエルとイグニシアが間に入ろうとしますが、それを私は目で制しました。


「まあ……別に答えなくても良いのですけれど、それならラファエルの前で熊さん柄のパンツ、降ろしますわよ?」

「本当に貴様、悪辣だな……友人達の制止すら聞かないのか?」

「馬鹿馬鹿しい。目的の前に効率的な手段があるのなら、わたくし、躊躇わずに使う派ですの」

「くっ……先ほど使った魔法といい――何が聖女だ。本当は貴様、何者なのだ? 魔の眷属と言った方が、まだしっくりくる」


 私はキリキアの耳元に口を近づけ、彼女だけに聞こえるように言いました。


「あら、勘のよろしいこと。真の魔王の尖兵――と言ったら信じますかしら?」


 私は口の端を吊り上げ、弧を作ります。

 キリキアが、ブルリと震えました。


「い、言う……言うから……」


 そして弱々しい口調で、言葉を繋ぎます。


「校舎裏――イチャついている男女の、男の方を狙うつもりだ……」


 なるほど、彼女に良い所を見せたい男であれば、辻試合を断る確率も低い――ということですか。

 続けて私は、ラフィーアの居所も訪ねます。

 彼女は先日倒していますが、立て続けにやっつける方が効果的ですからね。


「もう一つ。ラフィーアは?」

「……校門前だ」

「よろしい。では、これ以上のエッチな拷問は控えるとしましょう……残念ですが」

「この、悪魔め」

「この程度で悪魔呼ばわりなんて……あなた、運が良いのですわよ? ここが学院でなければ、腕の一本や二本、わたくしが切り取らないと思います?」

「なっ……」

「つまり――二度とわたくしに逆らおうなどと、考えないことです――と申し上げたいのですわ」


 ともかくキリキアから情報を聞き出した私達は、急いで分担を決めました。

 指示を下すのは私ですが、それは私こそが生徒会の真の支配者だからです。

 こんなときリリアードは私の言う事を聞き、決して文句を言いません。

 よっぽど「野グソ事件」を、黙っていて欲しいのでしょうね。

 

「イグニシアは、ラフィーアをお願いします。念のため、ミズホも連れて行って下さい」

「……任せろ。だけどラフィーアは、そんなに暴れるかな?」

「そこなのですが……先日はサラステラ先輩が不思議パワーで勝ってしまったから、あまり敗北感を味わっていない気がするのですわ」

「あれは、呪術」


 さっきからずっと、お蕎麦を食していたサラステラが、ようやく口を開きました。

 しかしイグニシアは気にせず、「分かった。しっかり武で倒せば良いんだな?」と言って出て行きます。

 彼女の後に、ミズホも続いて行きました。


「ノトス、ラトス兄弟は、わたくしと――」

「僕が行こう」


 ラファエルが右手を上げて、頷いています。

 が――リリアードがブンブンと顔を横に振りました。


「いや。ここは、わしが行こう。ここらで一つ生徒会長の実力というモノを、知らしめねばならんからの!」


 まあ――確かにリリアードはアーリアに顔面を掴まれただけですからね……ちょっとは活躍した方が、良いでしょう。


「あっ、あっ! じゃあ、マリアードも行くのじゃ!」


 囮役をやって以来、生徒会室の座敷童となったマリアードが、ピョンピョンと弾んでいます。

 私はラファエルからノトス、ラトス兄弟に関する資料を貰い、目を通しました。

 まあ、リリアードと一緒なら、マリアードでも勝てるかも知れませんが……。


「分かりました。では、ここはリリ、マリに任せますわ」

「おい、ティファ! なんじゃ、その呼び方はッ!」

「いいじゃありませんか、あなた方、名前が長いのですわ」


 一頻り文句を言った後、リリアードとマリアードは校舎裏に向かいました。

 私とラファエルは彼女達が心配なので、バックアップの為に付いていきます。


「……サラステラ先輩はキリキアの見張り、よろしいかしら?」

「……ん、望むところ」


 サラステラは最初からその気だったらしく、何やら器を持って近づいてきました。

 器には、山になった蕎麦が盛られています。


「アーリア一派にも、お蕎麦の美味さを教える。さあ、喰え……」


 そうでした……。

 サラステラがアーリア一派を許せないと感じているのは、ラファエルの嘘が原因です。

 彼女はアーリア達が蕎麦を馬鹿にしたと信じているから、ここでキリキアを蕎麦派に改宗したいのでしょう。


 激しく瞼を瞬かせるキリキアの口に、サラステラが蕎麦を一生懸命運んでいます。


「な、な、なんだ、これは!? 私に何をするつも……ズルッ……ん?」

「そう、啜るの。いい感じ」

「えっ……なにこれ……すごく美味しい……ズズーッ」

「沢山あるから、いっぱい食べて」


 コクコクと頷き、キリキアは無心でお蕎麦を啜るのでした。

お読み頂き、ありがとうございます。


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