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107話 悪魔じゃありませんわ

 ◆


 三階から下の踊り場に向かって、腰の剣を抜きながらニアが飛びました。

 ああ……制服には剣帯が付いていまして、各々、任意の武器を下げているのです。


 シュトラウスは左手でキリキアを庇いつつ、ニアに視線を合わせて言いました。


「勝負? 辻試合か……?」


 頬をピクリと引き攣らせ、シュトラウスが低い声音で言いました。

 彼は黒髪黒目の褐色肌で、後に“黒虎”と呼ばれるヴァルキリアの猛将です。

 身長はさほど高くありませんが機敏な動きと高威力の魔法で、ゲーム中でも厄介な存在でした。


「そうだべ! 近頃アーリア派が騒がしいようだから、ここらで現生徒会派の力を見せてやるだ!」

「ふん、駄エルフの猟犬か? 舐めるなよ」


 右手で左手を包み込む様にして、シュトラウスがパキポキと骨を鳴らしています。

 しかしキリキアがシュトラウスの肩を掴み、退く様に言いました。


「止めろ、シュトラウス。あれはニア・ローランド、不利だ」

「不利だと? 冗談ではない、二年に舐められてたまるか」


 唸る様な声を発し、シュトラウスがキリキアを突き放します。


「その女の言う事は、正しいべ。こっちの方が武力も高いし、勝負したくないって言うなら止めないだ」

「ぬかせ。武力の差が、そのまま戦力の差だと考えぬことだ」

「……じゃあ、受けてくれるだな?」

「当然だ」


 ニアが空いている左手で、眼鏡をクイッと持ち上げます。

 この子、意外と頭脳派だったのですね。まさかこうやって挑発するとは、思ってもいませんでした。


 それに、この位置取り。侮れません。

 実際、武力はニアが勝っていますが、魔力はシュトラウスの方が上です。

 だからニアはシュトラウスが魔法を放つと踏んで、三階へと続く階段を背後にしました。三階では三年生達が見下ろしているので、迂闊にシュトラウスが魔法を放てば、彼等に犠牲が出る位置です。


 つまりシュトラウスが魔法を放てば、三年生に犠牲が出てアーリアの評判が下がる。放たなければ、武力の高いニアが優位のまま、と。

 朴訥な外見に似合わず、どうやらニアは計算高い。

 いえ――違いますね。考えてみればニアには、こうする必要があったのです。


 二人は互いの剣先をカチリと合わせ、すぐに激突しました。

 

 狭い踊り場の中で交差する二本の剣は、刃鳴りと同時に激しく火花を散らせます。

 ニアはどちらかと言えば槍が得意ですが、今は剣しか持っていない。学院に大きな槍は、持ち込めませんからね。

 一方シュトラウスは魔法剣士といった特性だけれど、場所的に魔法を封じられています。

 となると、どちらも切り札を封じられている状態。勝敗の行方を予測するのは、ちょっと困難ですね。


 でも、それで良いのです。

 別に今回は、ニアがシュトラウスに勝つ必要は無い。


 私はシュトラウスから離れて、二階へと続く階段部分に避難した女に視線を向けました。キリキア・アーキテクト・タイガーです。

 彼女は独断で戦いを始めたシュトラウスを、小声で罵っていました。


「くそっ! シュトラウスのバカめ! 仕事を忘れて戦闘に没頭するなんてッ!」


 キリキアは小柄で、黒髪に少しの金髪が混じったショートボブ。

 耳は僅かに先端が尖っていて、妖精の血を伺わせます。

 黒縁眼鏡を掛けているところが若干ニアとキャラ被りですが、雰囲気は真逆。

 何故ならニアがホンワカしているのに対し、彼女は吊り目でギザギザ歯が特徴です。ガブリと食いつかれたら、とっても痛そう。


「シュトラウス! 戦っている場合かッ!」


 そのキリキアが、キョロキョロと周囲を見回しながら叫びます。何かを探しているような仕草なので……。

 もしかしたら、私達の意図に感づいたのかも知れませんね。さすが、軍師の真似事をやる女だけのことはあります。

 ……が、もう遅い。だって私が、ここにいるのですから。

 

 三階に立つ三年生達の影に混じって、私は小声で呪文を唱えました。


「此の地から彼の地へ、我を速やかに運ばん」


 詠唱に合わせて空間が歪み、歪んだ空間は異次元を経て、キリキアの背後へと繋がります。

 私はギョッとする三年生達を尻目に、亜空間へと入りました。

 亜空間には三つの出入り口があって、それぞれ先の風景が見えています。

 だから最初に私は、キリキアの背中が見える位置へと向かいました。


 亜空間――黒や赤や緑や白といったグロテスクな色彩が湾曲し、うねる様に動いている場所――から私は右手を出し、キリキアの肩を叩きます。


「ごきげんよう、キリキアさん」

「なっ?」


 振り返ったキリキアの顔が、驚愕に見開かれます。

 それはそうでしょう――だって彼女の視線の先にある物体は、私の手だけ。他は原色がうねる、歪な空間が広がっているのですから。


 もちろん彼女も魔導師の端くれですから、空間転移は知っているはず。ですが、このように悪魔が使う“亜空間転移”は、初めて目にしたのでしょうね。

 キリキアは口をパクパクとさせて、私の手を払おうとしています。


「な、なんだ? だれだ? 私は悪魔など召喚していないッ!?」


 失礼ですね……亜空間転移を悪魔召喚と見紛うなんて。

 そりゃあ私、ちょっと悪魔と契約をしていますけれど。

 まあ、いいです。騒がれると厄介なので、眠らせましょう。


「眠れ――」


 ガクリと身体の力が抜けたキリキアを亜空間に引きずり込んで、私はもう一つの出口へ向かいました。そこは、生徒会室です。

 途中、一瞬だけ顔を出してニアに言いました。


「ああ、そうそう。ニア――引き分けて頂いて、結構ですわ。あまり無理をなさらずに……」


 ニアは剣を高速で回転させると、舞う様に飛んでシュトラウスの剣を弾き飛ばします。


「もう、勝ったべ!」

「……あなた槍の方が得意だったのでは?」

「剣のスキルもSになったんだぁ♪」


 あら――流石ニア。やっぱり並の武将では、彼女に勝つ事など到底出来ないのですね。

お読み頂き、ありがとうございます。


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