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元カレ現る!

月曜日になり、また一週間が始まった。

けれど今週はカオルが来てくれる。それだけでいつも憂鬱なはずの

月曜日もまったく気にならなかった。


昨日の休みは部屋の掃除をし、カオルが来た時の為に必要な物を街に買い物にいった。

Tシャツ、下着、シャンプー、洗顔料に整髪料。

すっかり頭の中は水曜のことばかりを考えていた。


今回の連休も4日間しかとれなかったらしい。

きっと忙しい中、なんとか頼んでとってくれたと思うと

文句なんか言える訳も無く、ただ会えることに上機嫌だった。


「先週の暗い気分は嘘みたいだな〜♪」

忙しい月曜日も気になることは無く、サクサクと仕事をこなしていった。



昼休み、いつものように社食でなにを食べようか考えていると、

後ろからポンッ!と肩を叩かれた。


「まゆ!一緒に食べよう!」


人事課の直子が声をかけてきた。


「あぁ・・うん。もう何にするか決めた?」



数量限定の日替わりランチをギリギリでゲットし、

いつもと同じ窓際の席に座り食事を始めた。



「ね。まゆってさ、商品課希望してなかったっけ?そういや」

「え?・・・うん。でも今の所、人が足りてるみたいだしね。はい、醤油」

「あ。さんきゅ!でね、まだ内緒なんだけど来月の末に佐島さんが退職するの。」


小さい声でヒソヒソと教えてくれた。


「え?そうなの?じゃあ空きがでるんだ・・・・でもな〜 あたしが異動

ってことは無いだろうな〜 コネもないしさ・・・」


商品課の仕事内容はいわゆるバイヤー(商品買い付け)で、メーカーとの

単価交渉などをしながら、各店舗に商品を入れたり、

買い付けにいろんな所に出張にいったりと、とても忙しい部署だった。

今のあたしは、同じ商品課でも「商品課2課」でその仕入れた物の

在庫管理などをする所でいつも「在庫が無い!」「早く入れろ!」などと

現場(店舗)の担当に文句を言われる損な役柄だった。


「コネならあるじゃない!松永君て同期でしょ?

彼、商品課に配属になったし、佐島さんのポジションて松永君の下だよ?

まゆ仲良かったじゃない。彼なら推薦してくれるかもよ?

ほら、どっちにしろうちの会社って男しか出世しないようになってるし

サポート役くらいしか考えてないんだから、上が使いやすい人のほうが

いいって思ってるみたいだしさー 聞いてみたら?」


「でも、、健吾にそんな力あるのぉ?人事だよ!ただの主任でしょ」


「あるわよ。だって出世コースに乗ってる人だもん。

松永君が「まゆも希望してるし自分も古い付き合いだから気兼ね無く

仕事ができると思います」って言えば上も「はい。そうですか!」

ってなるわよ。所詮私達なんてそのくらいの扱いなのよ」


そう言って残りのお茶を飲んだ。


「うーん・・・・もうちょっと考えてみる」


そう言って冷めた味噌汁を飲んだ。


食事を終え、直子は「一服してくるわ!」と喫煙室に行った。

あたしは最近、禁煙を考えていたので一緒に行くことを断り、

天気がいいので残りの時間、また会社前の公園で時間を潰した。


(どうしようかなぁ・・・・バイヤーは魅力だけど健吾の下かぁ・・・)


今の仕事はただの在庫管理のようなことなので、なにも自分の

頑張った成果などは見えてこなかった。

ただあるものの数字を書きとめ、売れたら減らす。

それだけの仕事に何度嫌気がさしたか分らない。

その度に業務予定を書く黒板のバイヤー達の欄に、

<東京出張><○○会社と打ち合わせ>などの文字を見ては、


「いいな〜」と思ってきた。


ただそんなことが羨ましいだけではなかった。

バイヤーが選んだ商品を一覧表にして各店に配るのもあたしの部署の仕事だ。

写真で見る新しい商品のセンスの無さにも、

「あたしならもっといい物買い付けするのにな」と思ってもいた。

難しい顔をして、まだ入れるか分らない商品課のことを考えていた。



「お〜い。まだ喧嘩続行中?もう別れたほうがいいんじゃね?」


その声のする方を見ると健吾がいた。


「よく会うね。あたしのことつけてる?」


「まさか?自惚れんなよ。俺はいつも天気いいならここにいるんだよ」

そう言って隣に座り、珈琲の缶を手渡してくれた。


「さんきゅ。あたしの分用意してたんじゃん。やっぱつけてたんだ」

そう言って缶を開け一口ゴクリと飲むと、ものすごく甘くてビックリした。


「相変わらず珈琲甘いの飲むね・・」


「で。まだ喧嘩してんのか?その彼氏と?」


珈琲を飲み干して、あたしの分も飲みながら言った。


「ううん。それはもう仲直りしたよ」

「なーんだ。つまんね」

「それよりさ!商品課ってどう?面白い?」


「自分の時間はほとんど無いぞ?毎日残業だしなぁ。

休みだって無くなる時あるし。

でもまぁ、面白いっちゃー面白いかな。で・・・なんで?」


「あ・・・ううん。どうなのかな〜ってさ。ちょっと思っただけ」


そう言って誤魔化した。

まだ発表になっていない人事を知ってるとなると、出所は直子だとバレてしまう。


「なに?俺のスケジュールをチェックしてんの?」

「いや。そんなんじゃないってば。ただどんな仕事かな〜って興味あったの」

「そういや、前にもそんなこと言ってたよな」


それっきり会話が止まってしまった。

ここで (もし、空きがあったら推薦してくれる?)と言うのはちょっと

公私混同な気がして言えなかった。


時計を見ると、もう昼休みは残り5分になっていた。

(今日はいいや・・・・ まだハッキリ決めた訳じゃないし・・・)

そう思い「もぅ行くね」と言おうとした時、


「今度、仕事が早く終わった時に飯でも行かない?久しぶりに・・・」


そう言われて、内心健吾との食事よりも仕事のことを言うチャンスだと思った。


「あ。うん。いいよ・・・ じゃあ時間あったら電話して。

あたしも番号変わって無いから。それじゃ、またね」

そう言って会社に戻った。


その日の夜。

ラビからこの前言っていた「秋にこっちに遊びに来る」と言う件で電話がきた。

もう秋も終わりだけど、サクラとの休みが合わなかったらしい。

結局、3週間後の土日で遊びに来るということになった。


「で。カオルは?逢ってる?」

「うん。あれからなかなか時間取れなかったんだけど、今週の水曜の夜に来るよ。

久しぶりなんだけどね」


普通に言ったつもりだったのに、かなり声が浮かれていたようだった。


「そっか〜 仲いいね。羨ましいな」そう言ってラビは笑った。

ラビはこの前の一件を知らないようだったので、それ以上はなにも言わなかった。


「ラビだってヒデがいるじゃない。いいと思うよ〜」

ちょっと冗談を言ったつもりだった。


「でも・・・ヒデそんな気無いみたいだし・・・断られたら恥ずかしいじゃない」


意外な答えが返ってきて驚いた。


「え?実はそうなの?今、冗談で言ったのに・・・」


「うーん。たまに遊んでたりするんだけどね。

でも全然カオルとリオみたいな雰囲気じゃないし。男友達みたいな接し方だよ」


そう言ってラビは少し声のトーンを落とした。


「でもヒデならそんな感じするね。でもアノ人結構優しいと思うよ。

ヤスみたいにズケズケといわないし、相手のこと気遣うっていか・・・」


「うん。それはわかる。とっても優しいよ。だから、断られたらもう

友達としても逢えないかなって。そう思うとちょっとね・・・」


そんな臆病に心配するラビが可愛いと思った。

誰でも好きな相手に告白して断られるのは死にたいくらい嫌なことだし。


「あたしも応援するよ。なんならお正月、またヒデとカオルの家に来れば良いし。

4人でどこか行こうか?それなら自然にいい雰囲気になるかもよ?」

そう言ってお正月の予定を話した。


「うん!じゃあそっち行った時に打ち合わせしようね。

あ・・カオルに言うとヒデにバレちゃうかな?」


「うーん。男ばかりのチャットだとなに話してるかわからないからなぁ。

でも面白おかしく人に言うとは思えないんだけど、ちょっと様子見てみるね。

でも味方は多いほうがいいでしょ?」


「そうだね。じゃあリオに任せるよ。じゃ、また電話するー おやすみ」


(ラビとヒデか・・・・・ 

ラビもあの王道達の中で赤裸々に語られるのか・・・)


そんなことを思ったけれど、ラビもヒデも大好きだし、その二人が

くっ付いてくれるというのは、ちょっと嬉しくもあった。

ヒデは断るとは思えないけど、確実にそうは言い切れなかったので、

カオルに言うのも慎重にしなきゃ!


カレンダーを見ながら

(明後日の夜か・・・・) 

昼間の仕事のこともスッカリ頭から抜けてカオルが

来ることだけで気分が浮かれた。





水曜の朝。

カオルからの「おはようメール」には、


<おはよう やっと今日だな。もう支度は完璧!あと14時間!>


そう書いたメールが届いた。

いつもの私服よりちょっとだけお洒落をして会社に出勤した。

その日もいつもと同じく、慌しく午前中が過ぎた。


直子と一緒に昼食をとっていると、この前の仕事の話をしてきた。


「まゆ、松永君に例の件聞いた?

来週には佐島さんのこと正式に発表されるみたいだよ」


「へぇ・・・そりゃまた急だね」

「デキちゃったらしいんだけど、悪阻が酷くてもう仕事できないみたい」

「そうなんだ〜 相手はうちの会社の人?」


ちょっとだけ相手が健吾じゃないかとドキッとした。


「うちと取引してるメーカーさんだってさ。最近格好いいメーカーさんが

多いからね〜 ウマいことやったな〜佐島さん」

「そうなんだ・・・」


そう言いながら少しホッとしている自分がいた。

別にもう好きでもなんでもないのに・・・・


「だから本当に商品課を希望するなら早めに松永君に一言言っておけば?

なにも言わなくてもチャンスが無い訳じゃないけど、

一言あるのと無いのとでは大違いだよ?」


そう言われて「うん」と返事をしてはみたものの・・・

本当のところは、自分にできるか分らない部署に憧れだけで異動して

なにもできなくて失望するんじゃないかという不安もあった。

ましてや健吾の下というのも引っかかっていた。


今から新しい所に入り苦労しても、もしかして1年もしないうちに

カオルの元に行くかもしれない。

きっとあたしにはさほど仕事というものは大きなものではないのかもしれない。


ご飯の後に直子と別れ、なんとなくまた公園に向かった。

遠くから見てもいつものベンチに健吾がいるのがわかった。

疲れているのか目を閉じ、背もたれに体を寄りかけ上を向いていた。


「お疲れですね!旦那!」

そう言って隣に座った。


「あぁ。ペアの人が急に病欠でな・・・ 二人分の仕事だから終わらねーの。

毎日残業で、それも最近は11時前には帰ったことないぞ?俺・・・」


「大変だね〜」

そう言うしかなかった。


「「肩のひとつも揉む?」くらい言ってくれないのかよ?」


そう言って目を開けて自分で肩をポンポンと叩いた。


「そんなの彼女にしてもらえばいいじゃん」 


「今はいないよ。まぁ、いても振られるな・・・こんなに仕事漬けなら」

そう言って首をコキコキと鳴らした。


「まゆ。商品課に興味あるって言ってたよな?それ本気?」

「えっ・・・まぁ・・・ちょっとね。でも、あたしには無理かもなーって」


自分を売り込むなら今がチャンスだと思った。

けれど、本当に自分ができるのか心配にもなった。


「お前ならできると思うけどな。でも出張ばかりでなかなかこっちには

いられないぞ?彼氏と喧嘩になるかもなぁ」

そう言ってまた肩を叩いていた。


「出張って・・・どんなとこ行くの?道内?」


「そりゃその時の担当の商品によるさ。道内もあれば道外もあるし、

海外とかもあるかもな〜来年には。だいたいは〜札幌と東京がメインかな」


<東京>と聞いて、不謹慎だがカオルに逢えると思った。

けれどそれを言うと絶対ダメだと言われそうだったので黙っていた。


「健吾推薦してくれるの?あたしのこと?」


「嫌々異動になるヤツより、最初からヤル気のあるヤツのほうがいいじゃん。

まゆがヤりたいなら一応上に言ってみるけど。あまり期待すんなよ?

それに、元彼だって仕事になれば甘くないぞ?俺は」


「う・・うん。あまり期待しないでおくよ」


そう言って笑うと「少しは期待すれよ!」と健吾も笑った。


「彼氏、あまりいい顔しないんじゃないのか?毎日遅くなるぞ?」


そう言われて、やっぱり隠し通せないと思い、カオルのことを言った。


「実はね・・・遠距離なの。彼、東京なの。だから平日は問題無いし・・・それに・・・・」


「出張の時逢えるって思ったんだろ?」

そう言って笑った。


「う・・・・うん。ごめん。やっぱりそんな理由じゃダメだよね。

バイヤーには興味あったんだけど、やっぱりいいや」



「そんなの黙ってればいいのに・・・本当に相変わらず嘘つけないな。

ま、そんなとこが好きだったんだけどな」

そう言われてドキッっとした。


「いいんじゃね?どーせ出張中なんてそんなに遅くならないし、ペアだから行くなら

俺とだし、俺はいいよ。ちゃんと仕事さえしてくれれば。

一応、上には話してみるよ。平日になにも無いなら問題ないしさ」


「ペアって健吾と行くんだ・・・出張って」


「別に同じ部屋な訳でもあるまいし、だいたい飯なんかあっちの人と一緒に

食うんだし、飛行機とか移動くらいだぞ?二人きりなのは」


「そうなんだぁ」

「なに?それでも嫌なの?」


「あ。いや、全然。そんな意味じゃなくて。

もっと大勢で行くのかな〜ってそう思ったから。あたし出張とか無いし

そこらへん知らなかったから・・・」


いつも商品課の出張は半分がいなかったので、てっきりそう思っていた。


「多い時もあるけどな。出店のオープニングとかなら。でも買い付けはだいたい

二人かな?まぁ、もしも決まったらその辺もわかるさ」


「そうだね・・・」

「それよりさ。彼氏ってなにしてる人?なんで東京の人なの?」


やはりここでも「ネットで知り合った」とは言いづらかった。


「普通のサラリーマンだよ。コンピューター関係の。友達の紹介で・・・

それで付き合ったの」

自分で目が泳いでいないか心配だった。


「へ〜。歳は?いくつの人なの?」

「うーん。あたしの2つ上だから26歳かな。誕生日もうすぐだから27歳か」

「俺と同じなんだ。ふ〜ん・・・・どんな感じの人?」

「えーと、、、目が細くてね、体もヒョロとしてて、うーんと・・・・

すっごく優しいよ。ちょっと天然だけど」

「目が細くて、体がヒョロっとねぇ・・・・・ 俺に似てんの?」


そう言われてマジマジと健吾を見た。

似てないこともない・・・・・


「うーん。ちょっとね。でも性格は全然似てないよ」

確かに性格は全然似てない。

健吾は「俺についてこい!」と言うようなタイプだし、

カオルは「一緒に歩こうか!」と言うようなタイプだと思った。


「そっか。まぁいいや。じゃあ仕事のこと決まったら電話するかも」

そう言って健吾はベンチを立ち体を伸ばし「じゃーな」と行って会社に戻っていった。


健吾が決める訳でもないし、まだどうなるか分らないことだ。

そんなに深刻に考えることもないなと思い、あたしも会社に戻った。


定時ぴったりに仕事を終え、急いで空港に向かった。


またちょっと早く着いてしまった。

時間もあったし、喫茶店に入り珈琲を飲みながら時間を潰し、

30分前に到着ロビーの前の椅子に座って待っていた。


椅子の前に初めて逢った時の水槽があった。

相変わらず何匹もの魚が泳いでいたのを見て、

水槽の前に立ち、あの日のことを想いだしていた。


周囲は出迎えの人で溢れていた。

家族で迎えに来ている人。お父さんらしき人。お母さんらしき人。

みんな少しワクワクしたように見えた。


椅子に座り、携帯で暇つぶしをしていると目の前に高校生くらいの

男の子が二人座っていた。

ミニスカートを履いたあたしの足をジロジロと見ていた。


(ガキのくせに・・・)


そう思い目線を無視して携帯を見ていた。


「お姉さん誰待ってるの?」一人の子が話かけてきた。

チラリと男の子を見たが、ニヤニヤとしているその子にわざわざ答えることも

無いな・・・と思い無視して携帯に目を戻した。


飛行機が着いたのか到着ロビーが騒がしくなった。


(今日は荷物が少ないからきっと出てくるの早いな・・)


そう思って出口に向かって歩いた。

(ちぇっ、無視かよ)と男の子の声が聞こえた。


次々と出てくる人の中にカオルはいなかった。

最終ということもあり、すぐに出てくる人の波は少なくなった。


どんどん周りの人がいなくなり、最後にはあたしだけになった。

携帯に(乗り遅れた!)とも入っていなかったし、

途端に事故にでもあったんじゃないかと不安になった。


カオルに電話をしてみようと思っていると、さっきの高校生が近くに来て


「来なかったんじゃないですか?時間あるなら・・・・」


最後まで言い終わらないうちに自動ドアが開き、カオルが出てきた。


顔を見てホッとした。夏に逢った時より髪をバッサリ切っていた。

目が合うとニコリとして手を振りこっちに歩いてきた。

手をスッと上げたのでハイタッチでもするのかと思い、手をあげようと思った時、

その手をあたしの頭に回しグッと引き寄せキスをした。



「ごめん。飛び立ってすぐに寝ちゃってさ。起こされたんだけどまた寝てた」

少しだけ唇にグロスがついてた。


「お疲れ様。疲れたでしょ?」カオルの唇を軽く拭きながらいった。


「いや?ほとんど寝てたから、かえって元気になった」


手荷物を一つ持ってあげて歩きだすと、

横ではさっきの学生が

「他人の生キス初めて見た・・・・」と言い合っていた。


カオルがそっちを向き

「なんなら舌入ったのも見せようか?」と笑った。

「いいから!もぅ行くよ!」そう言ってカオルの手を引っ張り歩き出した。


「人前でキスとか硬派だから苦手って言ってなかった?」

「だって、あいつ等しか人いなかったじゃん。あのくらいの歳は そーゆーの見たいかな〜て」

そう言ってケロリとした顔をした。


「髪、切ったんだね。なんか違う人みたい」

髪を切ったせいで細い顔の線がもっと細く感じた。


「あぁ。まゆが帰ってからすぐに切ったんだ。結構評判いいんだけどなぁ」

「うん。前よりいいと思うよ」


本当にそう思った。目が合った瞬間にドキッとしたくらい・・・


「あら。惚れ直しちゃった?」そう言って頭を触りながら笑った。

「ぜ〜んぜん?」


そう言って先に歩き出したが、本当は言葉と反対のことを思っていた。



(超惚れ直しちゃった♪)



家に着くまでの時間、会っていなかった間のことをお互い話ているうちに

すぐに着いてしまったような気がした。

荷物は少しでいいよと言ったわりに、前と変わらないくらいの大きな荷物を

見て「なに持ってきたの?」と聞くと「大事なもの」と言い荷物を開け、壁にスーツをかけた。


「スーツって・・・どこ行くの?仕事?」

「まゆの実家行かない?挨拶くらいしておこうと思ってさ」

と涼しい顔をしてスーツのしわを伸ばした。


「は?なんでうちに?」


「親から電話きてさ、正月帰ってくるのかって・・・で、まゆが来るから帰らないって

言ったら、結婚前の娘さんを泊めるなんてあっちの親知ってるのかって。

もう〜うるさい!うるさい!でもそう言われたら印象悪くなるのもなって・・・

ならいっそ挨拶しちゃえば気兼ねないだろ?」


「まぁ・・・・それはそうだけど・・・・スーツまで着なくてもいいかと・・」

親に紹介なんて考えてもいなかった。


「でも、いきなりはどうだろぅ?」

「え?なんか問題ある?」

「あー  あるか・・も・・・」


3人姉妹の一番末っ子ということもあり、いつまでも子供扱いをし、

一人暮らしをすることを了承してもらうのも、かなり時間がかかった。

もう結婚をした一番上の姉と来年の春に結婚する二番目の姉が

協力してくれて、なんとかOKをだしてくれたが軽く1年はかかった。


別に大きな問題を起こしたことは一度も無いのに、なぜかあたしだけは

いつまでも実家から出してくれなくて大変だった。

「悪い男がいっぱいいるからダメだ!」とか「一人暮らしは物騒だ!」とか

上の姉二人はアッサリ出してくれたのに、あたしだけはいつもダメ出しされて

大学の時だって門限10時とか言われてかなり苦労した。


お母さんはそうでもないが、お父さんはカオルに会うのを嫌がりそうだと思った。


そんな感じなので、いままで親には彼氏を見せたことが無かった。

たぶん見せると絶対、実家に連れ戻されるんじゃないかと心配だったから。


そう言うと


「マジで・・・・ 」とちょっと最初の勢いが消えてきた。


「ま、、まぁ。ほら、あたしももう25歳になるし、もうそんなに怒らないか・・・も・・・」


「お父さんて怖い?」かなりビビッた感じで聞いた。


「うーん。そうでも無いけど。ただ怒るとあまり口きかない。それがちょっと・・・」


「それ・・・困るな。お母さんは?」

母に一路の望みをかけ心配そうな顔で言った。


「お母さんは大丈夫だと思う。あたしと好きなタイプが似てるから

結構カオルのことは好きだと思う」


それを聞いて「そんな理由ってどうなのよ?でもまぁ・・仕方ないか。ここは」

そう言って浴室に消えていった。


親に紹介かぁ・・・・

真面目に考えてくれて嬉しい反面、ちょっと重たい気分にもなった。

とりあえず親には明日電話をしておかなくちゃ・・・

そう思うとなんとも言えない気分になった。



「カオル、明日どうする?車使うならバスで行こうか?」

お風呂上りにビールを飲んでいたカオルにそう聞くと、


「いや、明日はゆっくり寝てるからいいよ。休みもサッカーしてたし、

ここしばらくゆっくり寝てないんだ。夕方まで寝るつもり〜」

そう言ってグテ〜としていた。


「そっか・・・じゃあ帰りは6時前くらいだと思うから」

「うん。わかった〜」

「じゃ、あたしもう寝るね。明日も仕事だし」

そう言って寝ようとすると、


「ちょっと〜 久しぶりに逢ってそれは無いでしょ。それは!」と

手早くTVと電気を消し、ベットに滑りこんできた。


自然と頭の下に回した手もちょっと癖のあるキスもなにもかもが

シックリとし、ただスーと体を触られるだけでも背筋が痺れるように感じた。


ただいつもと違うのは首にしがみついた時に顔にかかる髪が無かったことくらいだった。


その日、眠るまでカオルはあたしの髪を指にクルクルと巻きつけたり、

耳にかけたりと、寝かしつけてるのか起こしているのか

わからないようなことをしていた。


その触れられているという動きは邪魔なような安心できるような

不思議な感じだった。

ウトウトしては目が覚め隣にいるカオルを感じ、また安心して目を閉じた。


朝、いつもより少し早く起きて2つお弁当を作り1つをテーブルの上に置いて

寝ているカオルを起こさないように家を出た。

かなり疲れていたのかドライヤーの音にもキッチンの雑音にも

なにも反応しないで死んだように眠っていた。


その日の昼にお弁当を持って公園に行った。

天気がとてもよかった。

そして案の定、まるで待ち合わせをしているかのように、ベンチには健吾がいた。


「なんで今日は弁当なの?珍しい〜」

そう言って中身を覗いておかずをつまんで食べた。


「卵だけは俺、しょっぱい派だな、、やっぱ」

そう言って甘い卵焼きをモグモグと食べた。


「卵だけは譲れない。甘いのじゃないと卵焼きじゃないよ」

そう言ってお弁当を食べた。


「よくみんなにバレないようにお弁当とか作って持ってきてくれたよな」

「あったね〜 でもいつも卵焼き残してたよね」

「俺達食い物の趣味はあわなかったからなぁ・・・」


「カレーでもあたしは辛いの好きだけど、健吾はお子様並みに甘いしね。

あたしは肉派だけど、健吾魚派だし・・・・あとは〜

目玉焼きにあたしは醤油だけど健吾はソースだったね・・・」


(まだあったなぁ・・・・) そう思って考えていた。


「なぁ・・・俺達なんで別れたんだっけ?」

そう健吾が言ったようだったが、あたしはまだ食べ物の好みの違いを考えていた。


「スイカだ!あたし塩かけるの大嫌い!いつも全部にかけられて喧嘩に

なったよね。水で洗い流したこともあったよねー」


そう言って晴々と健吾を見ると、


「お前・・・人の話聞いてた?」と呆れた顔をされた。


「え?なに?なにか言った?」

「いや、いい。なんでもない」


そう言って煙草を吸った。


「そういやさ、昨日あれからうちの部長にまゆのこと言ったんだ」

煙をフゥーと吐きながら言った。


「あ。仕事の件?なにか言ってた?」


「うん。たぶんOKだと思う。「お前がやりやすいならいいぞ」ってさ。

 決まったら来週には話あると思う」


「そうなんだ」


「本当にいいのか?結構キツイぞ?言った俺が言うのもなんだけど」

そう言いながら空き缶に煙草を捨てた。


「うーん・・・ でも辞める前になにかしら残したいじゃない。

ちょっと頑張っちゃおうかなぁ。もし決まったらよろしくね」

そう言って笑いかけた。


「お前、辞める予定あんの?」


「すぐにじゃないよ。男と違って出世もないしなぁ・・でもただのサポート役じゃ

つまんないから、ちゃんと仕事はするよ?男並みに!」


「そっか。わかった」

そう言って空いたコンビニの袋に空き缶を入れた。


「でも、健吾と働くならそのこと彼氏に言うべきかな?」


しばらく考え

「いや、言わないほうがいいと思う。俺なら知らないほうがいいな。

昔の彼氏と一緒に仕事しますなんて」

そう言ってコンビニの袋を見ていた。


「やっぱりそうかぁ・・・ でも言わないのも隠してるみたいでアレかな〜て」


「知らないほうがいいってこともあるさ」

そう言って時計を見て「もう時間だぞ」と言って健吾は会社に戻っていった。


なんとなく嘘をついているような気がしながらも、

まだハッキリ決まった訳ではないのでカオルには内緒にしておこうと思った。


決まってから驚かせてやろう!


空のお弁当箱を揺らしながら会社に戻った。



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