給料日
「星野君、スグ出られるか」
課長から呼ばれて、彼女は急いで外出する。
僕は今月の給与明細を印刷して共用プリンタに取りに行く。
あれっ?二回印刷しちゃったかな。
見てみると、何だか画面で見た数字よりずっと多い。
名前を見てみると星野龍子って書いてある。
急いで出かけたから、取る暇がなかったんだ。
彼女の机の上にそっと置く。
でも、内容はバッチリ見させてもらった。
僕の3倍近い給料だ。
基本給に裁量企画手当、営業手当、営業日当・・・
もっとも、今の僕は試補期間だから、残業代がつかない。
試補期間が終われば、一般職は残業代がつくから、単純な比較はできないけど。
やっぱり、総合職っていいなあ。
半年後には、総合職への転換試験がある。
今年は、ダメ元で試してみようと思う。そして、傾向と対策を練って、来年には総合職を目指すんだ。
昼休みに給与明細と睨めっこしながら、ATMで現金を少しおろす。
はぁ、家賃で給料の半分近くが消えてしまう。
一般職って、自宅通勤が前提だから、住宅手当が出ないんだよなぁ。
僕は、大学時代から部屋を借りてるから、遣り繰りには慣れてるつもりだけど、社会人になってからって、結構出費があるんだ。
「ミサちゃん、夕ご飯食べに行こっ」
彼女からの誘いだ。
嬉しい。
せっかくの給料日だ、今日ぐらい豪勢に行こう。
「ミサちゃん、今日はありがとう」
えっ?なんの事だろう、僕が不思議そうな顔をしてると、給与明細をそっと彼女の机に置いたことらしい。
なんだ、ちゃんと分かってたんだ。
気がついてくれて、ちょっと嬉しい。
酒に酔った勢いもあり、僕は給料の不満をぶちまけた。
彼女の明細を見たお詫びに、僕の給与明細も見せてみた。
「えっ、こんなに少ないの、ミサちゃんかわいそう」
彼女は、やさしく同情してくれた。
「ねえ、家賃がもったいななら、あたしの部屋に住んじゃう?」
彼女が冗談っぽく言った。
「はい、不束者ですが、よろしくお願いします」
僕も冗談で返す。
今日の飲み代はいつもの割り勘と違って、彼女が全部出してくれた。
これってラッキーじゃね。




