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テグ戦記  作者: さいとう みさき
第十四章
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第十四章14-3シャル

どこもかしこも腐っていやがる!

だが俺は生き延びる。

生き延びてやるんだ!!


奴隷戦士アインの生き延びるための戦い。

はたして彼は生き延びることが出来るだろうか?

14-3シャル



 「うっ、こ、ここは……」



 薄暗い「鋼鉄の鎧騎士」の中で俺は気が付いた。

 頭を軽く振り、目元まで隠れる兜を外す。

 そして体を固定する為の鎧の様なそれらを外してゆく。


 やけどは以前ほどひどくはない。

 だが周りの状況が分からなかった。

 

 俺は頭を振りながら「鋼鉄の鎧騎士」の胸の扉を開く。

 外の空気がひんやりとするそこへ俺は頭を出した。



 「動かないで!」



 目の前に矢を向けられた。

 まだ少しぼうっとした頭で目の前の矢がどう言う意味か考える。


 「これは……」



 「よくも『迷いの森』を、私たちの森を焼いてくれたわね!!」



 見上げればそこに弓矢を引いて俺に向けているエルフの少女がいた。


 ザシャとは違い、透明に近い金色の髪の毛で真っ白な肌。

 エルフらしいやや切れ長の瞳は俺を睨んでいるがザシャたちダークエルフとは違い明るい感じのする美しい娘だった。



 「よくも森を、私たちの森を!!」



 「ま、待ってくれ、これは俺じゃなくアルファードの奴が……」


 流石に今矢を放たれたら避ける自信がない。

 しかし彼女は矢を向けたまま注意深く俺に言う。


 「とにかくそれから降りなさい。あの時みたいにこの化け物で追い回されたんじゃ私の精霊魔法じゃ対抗できない」



 「あの時?」



 両の手をあげて大人しく言われた通り「鋼鉄の鎧騎士」から降りる。

 その間彼女はずっと俺に向かって矢を引いたままだった。


 そして「鋼鉄の鎧騎士」を降りて初めて気が付く。

 森の様子ががおかしい。



 「なんだこの森……」


 

 思わずそうつぶやいてしまった。

 見ればこの森は全てが金色に輝いていた。

 しかしそれはおかしい。

 あの時既に日が暮れて暗くなっていたはずだ。

 

 まさか火事か何かのせいかと思い周りを見るも炎の気配は既に無くなっている。



 「あなた、あのイザンカにいた銀色の『鋼鉄の鎧騎士』に乗っていた人でしょ?」


 「イザンカ? ああ、そうだ。って、お前さんもしかしてあの時のエルフか?」


 イザンカ王国に傭兵として雇ってもらい、ヒドラ討伐に出た時にガレント軍と一緒に居た精霊使い。

 ザシャほどの力はなくその精霊魔法は俺の「鋼鉄の鎧騎士」を足止めすらできない程度だった。


 しかし、そうするとこのエルフの少女はずっとアルファードの野郎と一緒だったのか?

 きっ! とこちらを睨むその顔を見ながらそんな事を思うが、エルフにしてはかなり若いのだろう。

 

 「まさかエルフがガレントに肩入れしているとはな…… それとも奴に惚れているのか?」


 「なっ! 馬鹿言わないでよ!! 私は姉さんに頼まれて仕方なしにガレントの連中と行動を共にしてただけで……」



 エルフとは言えただ長生きしているだけで経験が豊富というわけではなさそうだ。

 軽くカマかけしただけでいろいろと喋ってくれる。



 が……



 「うっ、っく。流石に体中が痛いな……」


 言いながら思わすぞの場に膝をついてしまう。

 前よりマシとは言え火傷によるケガを負っている。


 俺には生前の記憶が有る。

 だから知っている、人間は体の三割近くの面積が水膨れ程度のやけどで死に至る。

 今回は服からむき出しの部分や顔にやけどが集中している。


 【回復魔法】などと言う便利なモンは知らないから俺は瞳の色を金色に変え、「同調」をして魂から魔力を引っ張り出して何とか自己回復を高めようとしている。

 だがこれはあくまで応急処置。

 気を張っているうちはいいが、長くは持ちそうにも無かった。



 「えっ、ちょ、ちょっと……」


 しばらく彼女はそんな俺の様子を見ていたが弱々しくなってゆく様を見て少女は困惑して向けていた矢を降ろしてしまった。


 まったく、経験不足にも程が有る。

 もし俺が芝居でこんな事していたらその隙をつかれて襲われてしまうだろうに。



 思わずふっと口元に笑いが出てしまう。

 我ながらバカな事を思っているなと思いながら俺の意識は遠退いて行くのだった。  



 * * * * *



 「うぅ……」


 俺は気が付いた。

 そして目を開くとそこは何処かの建物の中のようだ。


 瞳だけを左右に動かしてみる。

 部屋の中はやたらと殺風景と言うか、向こうに見える木製の折はここが牢獄であることを物語っている。


 しかし縛られて身動きが取れないが体のあちこちにあった火傷は一応の処置がされていて包帯などが巻かれている。

 ともすれば一応はすぐに殺されるような事は無さそうだ。



 「ガレントに捕まったか……」



 俺がそうつぶやいた時だった。


 「違うわ。ここは私たちの村よ。エルフの村」


 その女の声はすぐ近くからした。

 それは紛れもないあのエルフの少女だった。



 「あんたは……」


 「……私はシャル。あなた最後に瞳の色を金色に変えた。まさかあなたは英雄なの?」


  

 彼女は俺にそう質問をするのだった。  


次回:「エルフの癒し」

俺は神を信じない。 


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