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テグ戦記  作者: さいとう みさき
第十一章
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第十一章11-3正義の戦い

どこもかしこも腐っていやがる!

だが俺は生き延びる。

生き延びてやるんだ!!


奴隷戦士アインの生き延びるための戦い。

はたして彼は生き延びることが出来るだろうか?

11-3正義の戦い



 「いつの間に‥‥‥」


 その少女は成人するかしないか、この世界でいう十五歳になるかならないかくらいに見える。

 真っ黒な黒髪に陶器のような美しい顔、透き通るような白いその肌は瑞々しさを感じるも唇はほんのりと朱がかかり思わず見とれてしまうほどだった。


 しかし気になるのが頭からは二本の角の様な物が生え、組んだ足元からはトカゲの尻尾の様なものまで生えている。



 「黒龍様、おいでになられていたのですか。こちらに来られるのは二年ぶりでしょうか?」


 「黒龍様におかれましてはお変わりないようで」


 バルク大臣もイセキ大臣もそう言ってすぐにその場にひれ伏す。

 

 「よい。それよりハイナンテおるか?」


 「ははっ、陛下でしたらただいま執務室におります。お呼びいたしましょうか?」


 バルク大臣はそう言って更に頭を低くする。

 その状況に俺もロッジも大いに驚く。


 いかに小国とは言え、一国の主をその家臣が呼び寄せるかをこの少女に聞いているのだ。

 確かに異様な気配をまき散らせいてはいるがたかが小娘一人にここまで低頭をするものなのか?



 「ふむ、丁度そこの者にも用事がある、呼んでくるがいい」


 そう言ってまたお茶を飲む。

 その態度に何故だか俺はイラついた。



 「それで嬢ちゃんは一体誰なんだい?」



 「人に名を聞くには先に名乗るのが礼儀ではないのか?」


 俺の質問に隣に立っていた執事が一歩前に出る。

 それと同時にもの凄い殺気を放つ。



 「ぅひっ!?」



 俺の隣のロッジが思わず小さな悲鳴を上げる。

 こう言った事に鈍いこいつですらわかる程の殺気。



 「俺はアイン。今はイザンカ王国で英雄とされている者だ」



 「英雄でいやがりますか‥‥‥」


 俺の名乗りに隣に控えていたメイドの少女が初めて興味を示した。

 そして俺を見る。



 俺は内心冷や汗をかいた。

 このメイドの少女も執事のおっさんも只者じゃない。



 まるで化け物にでも睨まれた気分だ。


 俺が内心そう思っていると黒髪の少女は片手をあげる。

 するとすぐにこの二人は軽く一礼してまた少女の横に控える。



 「貴方はアインと言うのですね? 貴方は私のお母様と同じような臭いがする。そうですね、あなたの持つ魂は普通では無いのでしょうね?」


 そう言いながらにっこりと笑う。

 そしてすっと立ち上がり俺の前まで来る。


 頭二つは小さなその少女は静々と俺の前まで来る。



 「私の名はコク。太古の竜にして女神殺しの名を持つ竜です」


 「あんたが黒龍ってのか? コクとか言ったな、人の姿をしている様だが?」



 俺は気負けしない様に虚勢を張る。

 するとすぐに後ろに控えていた執事とメイドが動こうとするがそれをまた彼女が制する。



 「アインですか。覚えておきましょう。ジマの国には何用で来ましたか?」


 「ドドスがガレントの配下になりイザンカにちょっかいを出してきた。ジマの国には盟約が有るのだろう? イザンカに手を貸してほしい」



 俺が要約してそう言うと彼女、コクと名乗った少女はその細い顎に手を当て考えこむ。



 「バルクよ、今のイージムはどうなっているか? またこの地に愚かな考えを持つ者がいるのか? よもやドドスは百年前の愚行をまた行うと言うのか?」



 「ははっ、アイン殿の持ち寄る親書には現ドドス共和国とガレント王国について記載されておりました。ガレント王国は女神様の教えに従い真の平和を世にもたらしめる為に全ての『鋼鉄の鎧騎士』を平定し、世に女神様の秩序をもたらすと豪語しているそうです」


 それを聞くとこの少女は途端に機嫌が悪くなる。



 「愚かな、お母様はそのような事は望んでおられない。お母様が望むのは平穏な世界。故に争いの元となるオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を全て封印したと言うのにか!」



 「ちょっとまて、オリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』をあんたらが封印したのか!? じゃあ、あのアガシタってのは一体何なんだ? 古い女神、いや、俺にとっては悪魔だったあいつは一体!?」


 思わずそう言ってしまった俺に少女、コクは大いに驚く。



 「アイン、今なんと言いましたか? アガシタ様が動いていると言うのですか?」



 「俺の扱う『鋼鉄の鎧騎士』はオリジナルと言っていた。今の女神の秩序は偏り過ぎて天秤が傾くとか言ってな。あいつは俺にオリジナルの『鋼鉄の鎧騎士』を引き渡し俺と契約をすると言って来た」


 そこまで言うと少女はぐっと唇をかむ。



 「アガシタ様がそこまでなされると言うのですか‥‥‥」



 一体どう言う事だ?

 俺がそれを問いただそうとした時だった。




 ばんっ!



 「黒龍様がおいでと言うのは本当か!? おおっ、黒龍様! 相変わらずお美しい、お変わりないようですな」


 その男は扉をいきなり開きこの少女を見つけるとすぐさまその前に跪きその手を取り甲に口づけをする。



 「ハイナンテ、久しいな。ところで色々と聞きたい」


 「はっ、黒龍様何なりと」



 その男は三十路過ぎの良い身なりをしていた。

 ハイナンテと呼ばれたことからこの人物が現国王その人なのだろう。



 「私が不在の間にこのイージム大陸で何が有った? ウェージム大陸以外の大陸で何が起こっている?」


 「恐れながら、ガレント王国が第一王子アルファードが推奨する真なる平和の為の『鋼鉄の鎧騎士』平定を各国に要求をしているもようであります。いわんや、全ての『鋼鉄の鎧騎士』はオリジナルであるガレントに従服し、統合を行い争いである元凶を無くすと。つまりガレント以外の『鋼鉄の鎧騎士』をすべて破棄し、ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』がその役割を担うと言うのです。これは事実上の世界征服であります」



 ハイナンテ王はそこまで言うと下を向いたまま黙ってしまった。


 「なんと愚かな! ガレントの若造が何を言い出すか!!」



 どんっ!!



 この少女、コクがその怒りをあらわにする。

 それは先ほどの執事やメイドなんてものじゃない。



 「ひっ!?」


 隣で黙り込んでいたロッジがまたも悲鳴を上げる。

 それは先ほどに比べ物にならない程のものだった。

 ガタガタと歯を鳴らし足がぶるぶると震えている。


 俺でさえその怒りに気圧されそうだった。



 「人の世に我が力は過ぎたもの、しかしその愚行許せぬ! よいかハイナンテ、このイージムでガレントの若造が大きな顔をする事はこの私、コクが許さん! お母様の作り上げたこの世界に覇王は要らぬ!! 向かい来るなら完膚なきまでに叩き潰せ!!」



 「はっ、御意!!」


 一体誰が国王か分からなくなってしまう。

 しかし黒龍と呼ばれるその少女がそう宣言するのだ。

 正義はこちらに有りと言う事だろう。




 俺は未だ怯えるロッジを見ながらこの後の交渉を有利に運んでもらう事を期待するのだった。

 

次回:「ドドス共和国」

俺は神を信じない。 


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