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テグ戦記  作者: さいとう みさき
第十章
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第十章10-2傷痕

どこもかしこも腐っていやがる!

だが俺は生き延びる。

生き延びてやるんだ!!


奴隷戦士アインの生き延びるための戦い。

はたして彼は生き延びることが出来るだろうか?

10-2傷痕



 「我らがイザンカに英雄が現れた、これこそが女神様のご意思! 皆の者聴け! 我らイザンカはガレント王国の要求に屈することなくたとえ一歩でも我らが国土に土足で踏み入るのであれば正義の鉄槌を下す事をここに誓おう!!」



 うわぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ!!



 イザンカ王ベブルッシ=エルグ・ミオ・ド・イザンカは声高々と演説をしている。


 俺はあの後部ビブラーズ隊長にバレン指揮官やジバル将軍に引き合わされ何度か同じく「同調」をして見せた。

 その都度十二分に驚かれたが話はとんとん拍子に進み首都ブルーゲイルにすぐに引き連れられそしてベブルッシ国王に謁見もさせられた。


 もともと奴隷戦士であったことを明かしたがイザンカ王国は傭兵も雇う事からその辺の問題はそれ程でもなかった。


 元傭兵で受勲を受け正式にこの国の騎士になった者までいる。

 なので俺が傭兵であっても国王陛下に直接謁見出来たわけだ。 


 そして今までの経緯も隠すことなく話すとますます驚かれ、そしてあの「アガシタ」の名を聞きこの国王は大いに納得をしたようだ。



 「もともとこの世界は天秤の女神アガシタ様が主神となられ納められていた。しかし異界の悪魔の神との戦いで力を使い切り代わりに今の女神様にこの世界を任さられた。だがもともと人より出でし女神様ゆえ出身国が聖地となりその教えも長き時の中で忘れ去られた。今のガレントが掲げる教えは女神様のご意思に反するものである!」



 俺にとってはどうでもいい事だったが王様はその辺をかなり力説されていた。

 

 ただ、俺も驚いたのがこのイザンカでは歴史をしっかりと継承している為あの「アガシタ」についても知ることが出来た。


 あいつ、本当に女神だったんだ。

 しかしあいつは今の女神の秩序が気に入らないらしい。

 だから古き女神の癖にしゃしゃり出てきて俺にこんな「鋼鉄の鎧騎士」を与えた。


 そして自らを「悪魔」と称して俺と契約をした。



 俺はそんな事を思い出しながら王様の演説を見ている。

 城下の広場には王様の演説を見に来た国民たちが国と王の名を称えていた。


 そして俺の名もここで初めて出て来る。



 「見るがいい、新たなる英雄アインだ! 我らに栄光を、そして英雄アインに祝福を!!」



 演説はまさに最高潮に達していた。

 そしてその場に控えていた俺はベブルッシ王に呼ばれその場に立つ。



 「あれが英雄か!」


 「我らに栄光を、英雄アインに祝福を!!」


 「ガレントの奴等になんかこの国を好きにさせるなぁ!」



 人々から声が上がる。

 そんな中、俺は打ち合わせ通りに手をあげ振る。


 途端に民衆の歓声が上がる。



 全くいい道化だ。

 小ぎれいにされ白銀の鎧まで着込みちゃらちゃらとしたマントまで羽織る羽目になっていた。

 いつもの無精ひげだってやたらと奇麗に剃られ、遠くからでも顔が良く見えるようにと化粧までさせられている。



 「そなたには大いに期待をしておる。この国を、この民たちを守る為尽力してもらいたい」


 ベブルッシ王は俺にだけ聞こえるような小声でそう話しかけてくる。

 俺は苦笑して「御意」とだけ答える。



 そしてそんな道化も終わりこれからについての話が始まる。



 * * * * *



 「ですからアイン殿には今まで通り前線に立っていただき英雄としての働きをしてもらうのが一番でありますぞ!」


 「しかし先の戦いで我らが『鋼鉄の鎧騎士』もその数を減らし、ディレット騎士隊長も殉死してしまった。ランディン殿を早急に隊長に昇格させ体制を整えるが先ですぞ!」


 「いや、ここはジマの国からの協力も取り付けております。我らの軍をドドス共和国国境付近にまで押し進めガレントと結託するドドス共和国にも圧力をかけるべきかと!」


 現在のイザンカが保有している「鋼鉄の鎧騎士」は傭兵部隊のを入れて全部で十機。

 ユエバの街での戦いで二機が大破したそうだ。

 この会議に出席している俺は様々な意見の飛び交う中じっと話を聞いていた。




 「だがドドスがもし『鋼鉄の鎧騎士』を引っ張り出してきたならばどうするのだ?」


   

 低い声でジバル将軍は発言をした。

 途端に今まで口論を交わしていた大臣たちが黙ってしまう。



 「ドドスの『鋼鉄の鎧騎士』は三十体を超えているはず。あの共和国はドワーフの協力の下ガレントの技術を取り込み重歩兵型の『鋼鉄の鎧騎士』を揃えているはず。我らの『鋼鉄の鎧騎士』と相性がとても悪いのですぞ?」



 流石に軍を預かるだけの事はある。

 その戦力差を十二分に理解はしている様だ。



 「ジマの、ジマの国に支援を要請して‥‥‥」


 「あの国には『鋼鉄の鎧騎士』は有りませんぞ? 有るのは『黒龍』様の加護のみ。しかし一旦その黒龍様がお怒りになられれば百年前の様にすべてが焼き尽くされますぞ?」



 百年前に何をとち狂ったかドドス共和国はジマの国に進行をしたらしい。

 しかしその時にこの国の守護神、「黒龍」と言うドラゴンが出てきて一瞬でドドスの軍隊を焼き尽くしたという。

 その時にいたドドスの「鋼鉄の鎧騎士」も焼かれ消し炭も残らなかったという。


 以来あの国に対しては暗黙の了解の下でどの国も手を出さない。

 それはあのガレント王国であっても同じだった。


 しかし今回はそのジマの国から協力を引き出した言うから驚きだ。



 「ジマの国は世の平安を望む。今回の協力の話も古きの盟約をたてにしたものである」



 ベブルッシ王が重々しくその口を開いた。


 それはこの東の大陸にあるの三国イザンカ王国、ジマの国、ドドス共和国が不可侵の誓いを立てもしその約束が破られれば侵攻してきた国に対して残り二国が同盟を取るという事になっていたらしい。



 「ジマの国はガレントとドドスが手を組んだと聞きその盟約に準じたまで。ガレント王国だけで動いた今回のような戦いには手を貸さんだろう。だが逆に我々がドドスに対して手を出せば盟約に基づき今度はジマの国が敵に回る」



 国王のその言葉にさらにこの場が静まる。




 「だがガレントの連中相手なら違うのだろう?」



 「アイン、控えんか。陛下の御前だぞ」


 俺がこの場でそう言うとすぐにジバル将軍は俺を叱責する。

 だが俺としてはまた前線に戻りガレントの連中をぶちのめしたい。



 「アインよ、お前はどうしたいというのだ?」


 しかしベブルッシ王は手をあげジバル将軍を押さえ俺に聞いてくる。


 「陛下、俺はあのもう一つのオリジナルである『鋼鉄の鎧騎士』を倒したい。あいつだけは何としてもこの手で倒さなければならないんだ」


 ぐっと拳を握りそう言う。

 するとベブルッシ王は目を閉じしばらく何かに考えを巡らせ最後に何度か頷いてから宣言をする。



 「我が軍をドドスとの国境にまで前進させよ! 我らの土地にガレントとドドスが入り込むことは一切許さん! よいかアインよ、奴等が我が国に入り込むならば容赦はするな! もう二度と我が国の土を踏ませるでないぞ!!」




 王のその決断にこの場にいるすべての者は頭を下げその意思に答える。


 『御意!』



 * * * * *



 イザンカの再編された軍隊がユエバの街を経由してドドス共和国との国境付近にまで行く事となった。



 「アイン、頼まれていたものだぞ」


 「すまんな、オクツマート。助かる」



 俺たちは立ち寄ったユエバの街で破壊された街並みを見ている。

 オクツマートに頼んで手に入れてもらった酒瓶を受け取り崩れ去った建物の前に行く。

 そして酒瓶の封を切りその場で俺はその中身を地面に流してからそのままビンに口をつけ一口酒を飲む。


 ビンの中身がまだ残っているそれをそのまま崩れ去った建物に投げつける。



 「仇は取る」



 俺はそれだけ言ってオクツマートと踵を返し軍に戻るのだった。

 

 

次回:「復讐」

俺は神を信じない。 


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