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テグ戦記  作者: さいとう みさき
第九章
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第九章9-2虐げられる者たち

どこもかしこも腐っていやがる!

だが俺は生き延びる。

生き延びてやるんだ!!


奴隷戦士アインの生き延びるための戦い。

はたして彼は生き延びることが出来るだろうか?

9-2虐げられる者たち



 軍の決定は最悪の物だった。

 いくら勝機が有ったとしても市街戦とは……



 「いくらユエバの街を取り戻す為とは言え、まさか市街戦を仕掛けるとはな‥‥‥」


 翌日の朝俺はそつぶやきながら「鋼鉄の鎧騎士」に向かう。



 「おいアイン、体は大丈夫なのか?」

 

 声を掛けられ顔を振り返ればそこにザシャが立っていた。

 相変わらず目線は合わせず他を見ながら聞いてくる。



 「ああ、おかげでもう大丈夫だ。オクツマートたちから聞いた。世話になったな」


 「ふん、貴様に死なれては困るだけの事。それよりユエバの街に攻撃を仕掛けるとの事だが、容赦するな。街の連中は教会に集められている。街中で暴れても住民の被害は少ないだろう」



 ザシャのその情報に俺は思わず完全に振り返る。



 「そうか‥‥‥ ありがとう。これで少しは気が楽になる」


 「貴様はいいからあのガレントの連中を倒せ。向こうのオリジナルとてお前のと同じく万能では無いのだろう?」


 「ああ、そうだな。すまんな気を使わせた」


 するとザシャは俺に視線を向ける。

 久しぶりに見る彼女のその正面からの顔はやはり美しい。

 銀色の髪に褐色の肌、愁いを秘めたその瞳は今は俺を見ている。



 「ふん、この戦い勝てば酒位付き合ってやるぞ。貴様には今後もっとガレントの、あの女神の秩序を壊してもらうのだからな。おごってやる」



 それは本当にわずかの間だった。

 一瞬彼女の口元が笑ったように見えたがすぐに踵を返えしてどこかへ行ってしまった。



 俺はしばしその彼女がいなくなった場所を見ていた。

 そして思わずぽつりと独り言を言う。



 「女心は分からんもんだ‥‥‥」



 そうつぶやき俺は今度こそ「鋼鉄の鎧騎士」に向かうのだった。



 * * * * *



 「城壁に投石機は備え付けていないらしい、だから一気に『鋼鉄の鎧騎士』を突っ込ませて門を破壊して城内に入るぞ!」



 副隊長のランディンが作戦指示を出している。


 既に斥候部隊がユエバの街中の様子を掴んできているらしくザシャの情報通り占拠後は住民は教会に集められているらしい。


 ユエバの街が占拠されてから約二週間、今の所街は静かのようだ。



 「ガレントの『鋼鉄の鎧騎士』は残り七体。それにあの銀色が一体だ。銀色はその後一切動いていないそうだ。今が好機、一気に叩くぞ!」


 『おうっ!』


 ここにいる「鋼鉄の鎧騎士」乗りはいっせいに声をあげ立ち上がる。

 俺たち傭兵部隊も同じく立ち上がりすぐに行動を開始する。




 俺たちは自分の「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込み先頭に立つ。


 『さて、まずはこの城壁破壊器で門を打ち破らなければだな』

 

 イグニバルはそう言いながら馬車に準備されている大槌を見る。

 「鋼鉄の鎧騎士」二体が左右から持ち一気にそれを城門にたたきつけ破壊する道具だ。

 通常は沢山の馬や兵士たちがこれに群がり行うが「鋼鉄の鎧騎士」がいれば二体で済む。



 『イグニバル、ここは俺に任せてくれ。むしろ突入後に気を付けてもらいたい。あの銀色の奴が動いたら俺に任せてくれ』


 『分かった、あの化け物はアイン、お前さんに任せる。しかし城壁はどうする?』


 『俺に手が有る。イグニバルたちは突入後に備えてくれ』


 そこまで言って俺たち傭兵部隊の「鋼鉄の鎧騎士」が動き出す。

 この陣地からユエバの城門まで走ればすぐだ。


 他の兵士たちを引き下がらせ俺たちの「鋼鉄の鎧騎士」が走り出す。



 『行くぞ!!』


 『『おうさ!!』』



 俺とイグニバル、ガイジの「鋼鉄の鎧騎士」が走り一気に城門まで行く。


 勿論向こうにいる城壁の見張りのガレント兵が慌てて騒いでいるがちんけな矢や魔法の類はこの「鋼鉄の鎧騎士」に傷一つ着ける事は出来ない。




 『うぉぉおおおぉぉぅっ! 【爆炎拳】!!』



 降り注ぐ矢や攻撃魔法をものともせずに俺の「鋼鉄の鎧騎士」が扉に左手をぶち込みながら【爆炎拳】を放つ。



 ばんっ!


 ドガぁぁああああぁぁぁんッ!!



 ゼロ距離からのインパクトはものの見事に思いその城門を吹き飛ばし城壁の中へと道を開く。


 相変わらず城壁の上から効きもしない攻撃は続くが俺たち傭兵隊の「鋼鉄の鎧騎士」はそれを無視してすぐに城壁内の状況を確認する。



 街の中央付近にそれは有った。



 そう、教会だ。

 女神信教の教会は街のど真ん中に誇らしげにその大きな建物を誇示するかのように建っている。


 そしてその近くの広場にガレントの「鋼鉄の鎧騎士」たちがいた。



 『情報通りだ、住民の姿が見当たらない! アイン一気に切り込むぞ!!』


 『後方、伝達しろ! 正規の【鋼鉄の鎧騎士】突入させろ! あいつらまだ動きだしていない!!』


 イグニバルが槍を振りかざしガイジが後方の伝令係に大声で言う。




 だが俺たちがそこへ行く前にガレントの鋼鉄の鎧騎士は一斉に動き出した。



 『こいつらっ!』



 俺は一番近くにいたガレントの「鋼鉄の鎧騎士」に切り込む。

 そいつは盾を構え槍を振りかざそうとするがそんな遅い動きでは俺は止められない。


 一瞬で「操魔剣」を使い爆発的な瞬発力で間合いを縮める。

 そして振りかぶったその胴体に大剣を突き刺す!



 がっ!


 ドガぁっ!!



 俺の剣がその「鋼鉄の鎧騎士」の背中にまで突き抜ける。



 『まずは一つ! 貴様らどけっ! アルファードぉっ!!』



 一番奥に座ったまままだ動かないそのオリジナルの「鋼鉄の鎧騎士」に向かって俺が踏み込んだ瞬間だった。




 ぼぉぉぉおおおおぉぉぉぉんッ!!




 いきなり教会が燃え始めた。

 

 『なにっ!?』





 燃え上がるその炎の中から人々のうめき声が聞こえてくるのだった。

  

 


次回:「炎の中で」

俺は神を信じない。 


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