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テグ戦記  作者: さいとう みさき
第四章
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第四章4-7信頼

どこもかしこも腐っていやがる!

だが俺は生き延びる。

生き延びてやるんだ!!


奴隷戦士アインの生き延びるための戦い。

はたして彼は生き延びることが出来るだろうか?



 ガレントから奪った鉄の船で俺たちは順調に北上をしていた。



 「このまま行けばいずれはノージム大陸の何処かにつくな」


 「方向は間違っていないよな? やだぜ海の上でのたれ死なんて」


 「大丈夫だろう、この羅針盤とか言うのはちゃんと北を向いている」



 この世界は前世の俺がいた世界のように大地が球体なのだろうか?

 そして南北極性があるのだろうか?


 羅針盤と聞いて俺はふと前世の余計な記憶を思い出す。



 だがその考えはすぐに捨てた。

 前世の世界の常識はこの世界では通用しない。

 魔法と言うあの世界には無いものが存在し、おとぎ話にしか出てこないような化け物だっている。

 そして人間はこの世界では決して弱い存在ではない。

 英雄と呼ばれる人物はその太刀の一振りで竜ですら一刀両断にすると言われている。

 流石に英雄とか言うのには会った事は無いが、それでも「鋼鉄の鎧騎士」なんてあっちの世界では子供向けの漫画か何かでしか見たためしがない。


 だが、もしこの世界にあちらの世界の技術が流れ込んだらとんでもない事になる。

 そんな事を俺はぼんやりと思っていた。

 船を制御すると言っても今は特にやる事は無く、魔力を込めてスクリューを回すくらいだ。



 「おい、アイン、アインっ!」



 ルデンが俺を呼ぶ声にはっと気づく。

 いや、ルデンだけでは無くベリアルもオクツマートも騒いでいた。



 「まずいぞアイン! あれはどう見てもシーサーペイントだ!! まずい! すぐに離れよう!!」



 「そうしたいが、どうやらあちらは見逃してくれそうにもないな? 船のかじ取りを頼めるか?」


 俺は操作していた水晶から手を放しオクツマートに変わらせる。



 「おい、アイン俺は船なんて動かしたことは無いぞ!」


 「念動魔法の延長みたいなものだ、魔力は既に沢山送り込んでいるからこのまま北に真っ直ぐ進む様に念じれば大丈夫だ! ルデン、ベリアルお前たちもシーサーペイントの動きを見張ってくれ! 俺は『鋼鉄の鎧騎士』で甲板に待機する!!」


 そう言い残して俺は走り出す。



 シーサーペイントはその巨体で船に巻き付いて沈めてくると聞く。


 ならば甲板で「鋼鉄の鎧騎士」を使って追い払えるかもしれない。

 いくら鉄の船でもあんなバケモノが来たのではたまったものではない。


 俺は急いで「鋼鉄の鎧騎士」に向かうのだった。



 * * *



 「アインっ! 来たっ! 右正面!!」



 『分かったっ!』


 俺は「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込み長剣を抜き身構える。

 果たして「鋼鉄の鎧騎士」で追い払えるだろうか?

 そして鉄の船が何処までもつのか?

 そんな疑問を打ち払うかのように言葉を吐き出す。



 『とにかくやってみなければ分からん!』



 俺がそう気合を入れたその瞬間だった。




 ざばぁあああぁっ!



 いきなり右側に水柱が上がったと思ったらこの「鋼鉄の鎧騎士」よりずっと大きな蛇の様な怪物が現れた!



 「キシャァーっ!!」



 『ちっ! こなくそっ!!』



 大きな咢をバチンバチンいわせシーサーペイントは俺を威嚇しながら時折噛み付いてこようとする。

 俺はそれを長剣で薙ぎ払う。

 そして奴の体に傷を負わせた。



 「シャァーっ!!」



 思わぬ反撃に驚いたのだろうか、背びれや胸びれ、えらを広げて更に俺の「鋼鉄の鎧騎士」を威嚇する。



 『さあかかってこい!』



 大剣を構え隙無くシーサーペイントを俺は見据える。

 と、奴がいきなり海面にもぐった。


 流石に「鋼鉄の騎士」では海の中までは追って行けない。

 俺は全神経を周辺に集中して次に奴が襲ってくるのを待ち構える。


 と、後ろに大きな水しぶきが上がり奴が今まで以上に高く上体を持ち上げほとんど真上から俺を襲ってきた!



 『くっ! まだまだぁっ!!』



 足場の悪い甲板ではあるものの頑丈に出来ているお陰でそう簡単には突き破れることは無い。

 俺は大きな咢を開いて襲ってくるシーサーペイントを寸前でかわしその首に斬り込む。



 ざしゅっ!



 「ギエェェェェェェっッ!!」



 シーサーペイントは素早く動く俺の「鋼鉄の鎧騎士」に噛みつくことが出来ず甲板に上体をくねらせ更に襲い来る。

 だがやはり俺を捕らえる事は出来ずその体に傷を増やしていく。


 しかし‥‥‥



 『なんてデカさだ! これだけ斬り込んでいるのに全然応えていないのか!?』



 鉄の船のお陰でシーサーペイントが暴れても壊れなかったのは助かった。

 しかしいくらこちらに「鋼鉄の鎧騎士」が有っても奴を倒す決め手にならない。



 『くそっ! 何か手はないのか!?』



 俺がそう唸った時だった。

 頭の中に左手を相手に接触させ衝撃波を放つ技が思い浮かぶ。



 『これもアガシタの仕業か!? しかしこれならばっ!!』



 俺はそのイメージに忠実に従う。

 甲板を這うように噛み付いてくるシーサーぺウントの攻撃を避けその首元に力ある言葉を叫びながら「鋼鉄の鎧騎士」の手のひらを叩きつける。



 『いけぇっ!【爆炎拳】!!』



 叫びながら叩き付けるその技は「鋼鉄の鎧騎士」の手のひらに魔晶石を出し真っ赤な炎を伴いながらシーサーペイントの首元にぶつかる。

 その瞬間炎の波動が波のように広がり手のひらを押し付けた所から内部に衝撃波と灼熱の炎が叩き込まれる。



 「グゥェェエエエエェェェェェェっッ!!!!」



 奴は叫びながら俺の手がついた所を中心に破裂した!



 ぼぉんっ!!



 『何っ!? これはっ!!!?』


 自分でやっておきながら自分で驚いた。

 これほど強力な技がこの「鋼鉄の鎧騎士」に備わっていたとは。

 これならば自分より大きな相手にだって決定打になる。


 シーサーペイントは破裂された首元から大量の血しぶきをあげながら甲板にその首を落としそしてズリズリと海へを落ちて行った。


 俺は油断なく海面を見るがだんだんとその色が赤く染まっていく。



 『どうやらやったようだな‥‥‥』


 構えていた大剣を鞘に戻し俺は「鋼鉄の鎧騎士」を各座させて降りる。




 「アインっ!」

 

 「凄いなアイン!! あのシーサーペイントを倒したぞ!!!!」


 「やったな、アイン!」


 「鋼鉄の鎧騎士」から降りるとルデンたちがやって来た。

 何とか危機を乗り越え俺たちは拳をぶつけ合わせ無事を喜ぶ。



 そして俺はもう一度この「鋼鉄の鎧騎士」を見上げる。

 

 悪魔のアガシタ。

 彼女がよこしたこいつは今や俺たちの生命線だ。

 完全には信用できないがこいつの性能は信頼できる。




 生き残るための信頼が。


   

次回:「ノージム大陸」

俺は神を信じない。 


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