第五十五話 僕の夢
僕は、夢の中で、金髪の、妖精のような女の子だった。
乳白色の光に包まれた、不思議な空間で、素っ裸で本の山に囲まれ、ひたすら読書に励んでいる。
いつもの、死体が蘇って動き出す、三流ホラー映画みたいな悪夢じゃなくて良かったな、なんて心の隅っこでホッと一安心していた。
夢を見ているときは、今までの夢の内容も連鎖的に思い出すものだろうか?
「ディー! またここにいたの?」
振り向くと、ボクよりやや背の高い、赤毛の女の子が、同じく全裸で立ったまま、にこやかにほほ笑んでいた。
ボクはすぐさま彼女の名前を、ありったけの愛情をこめて呼ぶ。
「ケイ、遅いじゃないか、もうこんなに読んじゃったよ」
ケイは「ごめん、ごめん」と言いながら、ボクの隣によいしょっと腰掛ける。
お日様の匂いみたいな、とても気持ちのいい香りが、彼女の髪の毛からふわっと漂う。
ボクは、猛烈に彼女の頭をわしゃわしゃしたくなって、手を伸ばす。
「ああ、やっぱりケイの髪はいい手触りだなあ。いつまでもこうやっていたいよ……」
普段ならすぐに「もうやめてよ」というケイは、何故か今日は、借りてきた猫みたいに、大人しくされるがままになっていた。
「夢は、過去の記憶を整理してくれるっていう話があってね」
唐突に、ケイが話し始めたので、ボクは驚いて手を止めた。
「でも、たぶんディーは、何かの原因で、夢の内容すら思い出せなくなっちゃったの」
「そ、そうなの?」
ボクは、こんなに楽しい夢が思い出せないなんて、とても残念な気分になったけど、ならば今のうちに楽しまねばと、再びわしゃわしゃに取り掛かった。
わしゃわしゃ、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。
「でも、それでもボクは、ケイのことを一生忘れないよ。
なんたって君は、ボクの初めての、たった一人の友達なんだからさ!」
「あたしもだよ、ディー!」
途端にケイが、ボクの手を掴んだかと思うと、ぎゅっと抱きついてくる。
ボクは思わず泣きそうになった。このまま時が停まって、夢の中で暮らせればいいのに!
「でも、いつかは目覚めないといけないんだよね。
ボクは僕であって、もうボクじゃないんだし……」
どこからか僕を呼ぶ声がする。
ボクの身体は徐々に輪郭を失い、巨大な、一本のソーセージと化していく。
ケイはそれでも僕の身体を全身で抱き締めていた。
「ディー、ロシアには『10代の妖精、30代のビア樽』って諺があるんだって。
だから、金髪の妖精が、ソーセージになっても気にしちゃダメだよ!」
「相変わらず変な知識に詳しいね、ケイ」
「じゃあね、またどこかで会いましょう! ソーセージ!」
そこでレム睡眠を生じさせていた、僕の両眼振は、はたと止まった。




