表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/65

第五十五話 僕の夢

 僕は、夢の中で、金髪の、妖精のような女の子だった。


 乳白色の光に包まれた、不思議な空間で、素っ裸で本の山に囲まれ、ひたすら読書に励んでいる。


 いつもの、死体が蘇って動き出す、三流ホラー映画みたいな悪夢じゃなくて良かったな、なんて心の隅っこでホッと一安心していた。


 夢を見ているときは、今までの夢の内容も連鎖的に思い出すものだろうか?


「ディー! またここにいたの?」


 振り向くと、ボクよりやや背の高い、赤毛の女の子が、同じく全裸で立ったまま、にこやかにほほ笑んでいた。


 ボクはすぐさま彼女の名前を、ありったけの愛情をこめて呼ぶ。


「ケイ、遅いじゃないか、もうこんなに読んじゃったよ」


 ケイは「ごめん、ごめん」と言いながら、ボクの隣によいしょっと腰掛ける。


 お日様の匂いみたいな、とても気持ちのいい香りが、彼女の髪の毛からふわっと漂う。


 ボクは、猛烈に彼女の頭をわしゃわしゃしたくなって、手を伸ばす。


「ああ、やっぱりケイの髪はいい手触りだなあ。いつまでもこうやっていたいよ……」


 普段ならすぐに「もうやめてよ」というケイは、何故か今日は、借りてきた猫みたいに、大人しくされるがままになっていた。


「夢は、過去の記憶を整理してくれるっていう話があってね」


 唐突に、ケイが話し始めたので、ボクは驚いて手を止めた。


「でも、たぶんディーは、何かの原因で、夢の内容すら思い出せなくなっちゃったの」


「そ、そうなの?」


 ボクは、こんなに楽しい夢が思い出せないなんて、とても残念な気分になったけど、ならば今のうちに楽しまねばと、再びわしゃわしゃに取り掛かった。


 わしゃわしゃ、わしゃわしゃ、わしゃわしゃ。


「でも、それでもボクは、ケイのことを一生忘れないよ。


 なんたって君は、ボクの初めての、たった一人の友達なんだからさ!」


「あたしもだよ、ディー!」


 途端にケイが、ボクの手を掴んだかと思うと、ぎゅっと抱きついてくる。


 ボクは思わず泣きそうになった。このまま時が停まって、夢の中で暮らせればいいのに!


「でも、いつかは目覚めないといけないんだよね。


 ボクは僕であって、もうボクじゃないんだし……」


 どこからか僕を呼ぶ声がする。


 ボクの身体は徐々に輪郭を失い、巨大な、一本のソーセージと化していく。


 ケイはそれでも僕の身体を全身で抱き締めていた。


「ディー、ロシアには『10代の妖精、30代のビア樽』って諺があるんだって。


 だから、金髪の妖精が、ソーセージになっても気にしちゃダメだよ!」


「相変わらず変な知識に詳しいね、ケイ」


「じゃあね、またどこかで会いましょう! ソーセージ!」


 そこでレム睡眠を生じさせていた、僕の両眼振は、はたと止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ