馬車の中
ガタガタと揺れる馬車の中で、レイアは目を覚ました。
重い瞼を開けて黒曜石の瞳が薄暗い闇に溶け込む。
ハッとして辺りを見回すと自分の両足両手に枷が嵌められていた。
「っ…」
ガシャガシャと音を立てながら状況を把握しようと移動したいのに鎖で繋がれている手足は自由に動けない。
手を伸ばす先には古びた扉があり、ギリギリ届かない距離だ。
足や手に痣が出来るのを構いなく、伸ばした扉はゆっくりと開けられた。
いつの間にか馬車は止まっており、静かすぎる夜更けに身震いする。
「お目覚めのようで」
扉から現れたのは、レイアを拉致した漆黒の髪と瞳に右頬に蒼い龍の絵が刻まれている男だった。
そのテノール声は意識がなくなる直前にも聞いたことがある。間違いない
「…私を、どうするつもりですか」
怯えながら堂々と顔をあげたレイアに男は綺麗な口角を上げる。
「君は選ばれた人間だ。覡である私に見合う、その漆黒の髪と瞳」
うっとりとした漆黒の瞳にレイア自身が映った。
その男の手がレイアの髪へ触れる。
「…っ!触らないで!」
「無理やり連れてきた無礼を許して欲しい。しかし、君と私は一つに混じり合う存在なのだ」
高揚した手に触れられ嫌悪感がぞわぞわと体に走る。
いやだ、触らないで。怖い怖い、誰か…助けて…




