やれば出来るヘタレ陛下
「レイア!?」
プルプルと震えているレイアを捉えた瞬間、護衛の兵士たちを押し退けて、レイアの元へと駆け寄る陛下。
レイアがどうしてこのような状態になってしまったのは、今から少し前に遡る。
『庭園って、どこから入ればいいのかしら』
パタパタと廊下を早歩きしながら、庭園の入り口を探すレイアは抜け穴を見つけた。
そこは木の茂みで隠れているせいで、まだ埋めたてられていないらしい。抜け穴はレイアがギリギリ通れるであろう大きさだった。
『あ、やっと通れ…っ痛!』
抜け穴から顔を出したレイアに待ち受けていたものは、木の枝である。そんなものはあるなんて予想だにしていなかったレイアは、まんまと木の枝に髪を引っ掛けてしまった。
そして、今現在に至るのである。
「大丈夫か?」
陛下はレイアの髪の毛を丁寧に取って行く。
「取りづらいな、すまん。少し我慢してくれ」
そう言って陛下は体勢を持ち直し、レイアと面を向かう形となった。
陛下の腕がレイアの耳を擽り、レイアで見えにくいのか顔を近付けてくる陛下。
「あ、あの!陛下」
「なんだ?」
上から美しい顔が近く見下げられ、陛下のサラサラな焦げ茶色の髪がレイアの頬を掠り固まってしまう。
そんなレイアの心情は知らずに、黙々傷つけまいと髪の毛を取って行く陛下を見て、ダイアンはこう思った。
“ 鈍感で御執心なことで ”
レイアが悪い女だったら尻に引かれそうなほど、執心している陛下を横目に見て、クスリと笑う。
先程のレイアの反応も見て、陛下を嫌っているとは思えなかったダイアンは立ち上がった。
「ジーク。がんばれよな」
軽快にウインクをして立ち去るダイアンに、は?としたような顔をしてやっと黒の髪の毛を全て取り終えて一息ついてから、レイアが下で固まっていることに気付いた陛下。
「レイア、痛かったか?」
「い、いえいえ!お手間をとらせてしまって申し訳ありません!」
陛下の言葉に我に返ったレイアは、首をぶんぶんと振る。
陛下は目の前にいるレイアを直視して、ダイアンが言っていたことを思い出した。
『ナンパの常套句でも並べて、褒めちぎって愛を囁けばころっと行くんじゃないのか?』
た、試しに使ってみるか…。
そう思い陛下はレイアの手を取って引っ張る。レイアは引っ張られた拍子にポフッと陛下に抱きつく形となった。
「レイアの綺麗な髪が傷付かなくて良かった。レイア自身にも怪我はないか?」
レイアの頭を撫でながら、心配そうに眉を垂らして問うた陛下にレイアは、ぼんっと顔を真っ赤にした。
陛下、お顔が近いです!その表情やめてください!かぁーっと顔に熱が溜まるのが分かったレイアは、その白くか細い指で必死に隠そうとする。
そんなレイアの様子に、陛下は少しの期待を胸に抱き締めてみた。
「へ、陛下!?」
素っ頓狂なレイアの声に、陛下は見向きもしないでジッと固まった。
とくん、とくん、と自分ではない鼓動が響きレイアに向き直る。
「…照れているのか?」
レイアの鼓動と真っ赤になった顔を見て、陛下がポツリと言葉を落とした。
「て、照れてしまいますよ!」
しゅ〜っと縮こまりながらも、大きく発したそれは陛下にとって嬉しくて何ものでもなかった。
「レイア…愛している」
ふわりと陛下の口から出た言葉。ダイアンがあんなことを言ったからというのも少しあるが、愛しい想い人を前に勝手に口が動いたのだろう。
レイアは再度赤くなって、俯いてしまった。
色恋など無縁だったレイアにとって、愛を囁いてくれる家族以外の男性は初めてなのだ。前世でももちろんのこと、いない。
戸惑い、嬉しいと思う自分もいて…混乱状態である。
どうして陛下は急にそんなことを…。火照る顔を両手で冷やし、脇目に陛下がしゅんとした瞳で見つめているのが分かって、鼓動が一層大きくなるがレイアはこの鼓動の高鳴りが何なのか、わかってはいなかった。
あれれれ?といった展開です。
陛下、何とも天然な肉食で攻めてますね。
がんばったでしょうの判子を押してあげたいです。
謝る以前に陛下への対応に困り果てたレイアは次回どうするのでしょうか。
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