陛下視点
レイアという令嬢と 馬車の中で他愛ない話しをしていると、分かったことが一つある。
この令嬢は家族の事が好きなのだと。好きな家族の話をするとき一段と笑顔になる。穢れとか知らない心が真っ白の令嬢…
ふと、その令嬢が俺に声を掛けた。
内容は街が綺麗と、それで、俺が綺麗好きなのかって言う内容だった。
街が綺麗と言われるのは嬉しい。だが、凄い綺麗好きでもない。
そう答え、令嬢にこの国は好きか…?と聞く。
いくら国を繁栄させようとも、この国の民がこの国を好きではないと意味がない。
俺は全国民がこの国を好きになってくれるように心掛けたい。
そう思い、真剣な眼差しで令嬢を見やる。
俺の勘が正しいのか、俺は何となくこの令嬢に惹かれた。
それはこの令嬢から何かを感じとったからだ。
これでも一国を支える王…この令嬢は俺に何かを与えてくれる。
そんな思いも込められた質問…
令嬢はこの国を好きだと言ってくれて、初めて目を細めた笑顔を俺に見せてくれた。
俺は安堵した。心の重荷がスーッと消えたみたいに心が晴れたような気がする。
俺は知らない、安心していたみたいで令嬢に微笑んでしまった事を…
暫くして王宮に着いた。
馬車を降りた途端令嬢は城を見つめ、令嬢なのに口を半開きにしている。澄んだ黄緑の瞳からは感動の2文字が感じられた。急に此方に振り向いたと思ったら満面の笑みで嬉しい事を令嬢が言ってくれたのだ。
令嬢は知らないだろう。その、何の企みもなく、俺を褒めてくれた事に…
俺は令嬢の言葉を聞いた途端、何の躊躇も無く令嬢を強く抱きしめた。
理性が耐えれなかったのだ。
令嬢は最初は少し抵抗していたが、敵わないと感じたのか大人しくなった。
丁度その時だろうか…
王宮騎士団団長、鬼の帝王と皆から言われているアイザックが剣で城の壁を叩き切ったのは。
凄い剣幕で此方を見ているアイザックは、流石この国で一番強い男なだけである。その力強い瞳からは身体を縛り付ける能力を持っている。
俺は絶対被害者にならないと思うが令嬢に部屋へ行く様にと言う。
令嬢は何故か目から鱗を出しながらセバスチャンについて行った。
令嬢が見えなくなると、何時の間に背後に立っていたのか疑いたくなるアイザックが短剣を俺の首にヒタヒタと当てている。
全く、フルバスタ家の双子は普通に俺に剣を当ててくるから困る。
だが、それも嬉しい事だが…その顔は怖い。
俺が冷や汗を流していると泣いてる子も泣き止む様な地を這う声が背後から聞こえた。
「油断も隙も無いな…このど変態陛下は。いっそ、脳みそを取り替えて見ますか?少しは良い思考になると思うぞ。
そう、思いません?ど変態陛下。」
一言一句に力があって言葉を慎重に選ぶ。
ここで間違えたら本当に俺の脳が危険だからだ。
「っ…あれは、仕方が無くないか?笑顔で…っ、俺の事を…」
自分の顔がかぁぁーっと赤くなったのが分かる。そんな陛下にアイザックはイラっと眉間に皺を寄せる。
「黙れ、この脳内お花畑変態陛下め」
トゲトゲしい言葉を陛下に吐き捨てる。
それもその筈、今の陛下は正直…苛立ちを通り越して気味が悪い。
気持ち悪いでは無く気味が悪いのだ。
「全く、双子揃って俺に対して口が悪いな。」
「褒め言葉を有難う御座います。」
「つくづく苛つく奴だな。」
アイザックは鼻で笑い、スタスタと立ち去って行く。
「珍しいな…もっと言われると思ったんだが…」
俺はまぁいいか、と安堵し令嬢のいる所へ足を運ばせる。
「あ!へーいーかー!!!」
俺が令嬢の部屋に行
く途中の廊下で髪が亜麻色の小さな男の子、基、ウィリアム。通称ウィリーが猛スピードで此方に駆け寄ってきた。
「はい!」
小さな体で背と同じ高さの書類の山を俺に手渡す。
「な、なんだ?これは…」
「何って…先程アイザック様がこれは陛下の仕事だから渡してくれと、頼まれたのです。」
陛下がワナワナと震える。
「アーイーザッークー」
まんまとやられた。畜生…
俺は渋々、執務室に篭り着々と仕事を終わらせていくしか無かった。
結局、終わったのは深夜が過ぎ、外が白くなった時だが…
俺の脳裏にはレイアという令嬢のあの笑顔が忘れないでいた。




