お城に到着
陛下と共に乗っている馬車の窓から外を眺めた。揺られ続けてもう王城が目の前に見える。何時見ても綺麗な街…ぽつりと心の中で呟いたのはそんな一言。
この国もそうだけど、特に本殿があるこの街はゴミ一つなく、気持ちの良い街だ。前世の日本でも、このような綺麗さは一時もなかった。
「陛下、綺麗好きなのですか?」
唐突な一言。何となく聞いて見たかったのだ。
綺麗好きな人間では無いと、こんなに地面ですら鏡みたいには出来ないと思う。
「いや、そんな潔癖とかでは無いな…だが…」
「だが?」
私はその先を即す。
「街が綺麗だと、身も心も綺麗になった気がするだろう?俺の前の代…つまり父上が国王の時、父上は戦争に行くのが好きな方でな、あまり街の浄化活動は行っていなかったんだ。
あれは今思い出しても酷かった。街は知らない病原菌で溢れていて、国王が帰った時には最悪な状態だったよ。
結局は俺の父上は戦死。今の代につき、民が病気で苦しまないようにしていたら、何時の間にかこの様な街になってしまっただけだ。
今では民、一人一人が自分の意思でしているからとても気分が良い。
…お前は、この街、国…好きか?」
真剣な表情…それもそうか、陛下はこの国の主だものね。
レイアは真っ直ぐに陛下を見る、陛下のスカイブルーの瞳とレイアの澄んだ黄緑の瞳が交じり合った。
「好きです…とても。」
私の意思を包み隠さず言うと、陛下は気が抜けた様な、何重にもある仮面を外した素の笑みを私に見せてくれた。
「そうか…」
切れ長の目を細めて微笑んでいて、本当にこのお方はこの国の事が大切なのだな…と思えた。
私も何時の間にか陛下に微笑んでいた。
「着いたぞ。此処が我が城だ」
馬車に揺られて早2時間。ん?2時間何してたって?陛下と他愛ない話をして過ごしましたよ。
改めて王宮を見ると外見も白が基調で汚れ一つない、まるでお伽噺の世界にいるみたいなお城だった。
レイアはお城の1番てっぺんまで見える様に上を見上げて感嘆の声をあげる。
「綺麗…」
私はその場の勢いで陛下の方を振り向く。
「陛下!改めて拝見させて頂きましたけど、やはり綺麗ですね!住んでいる主が素敵な人だからこんなにも素敵なお城になっているんですね!」
私は今の気持ちを伝えるので必死だった。
レイアは知らなかった。満面の笑みで陛下を褒めていた事に…それが、陛下の心をがっちりと掴んでしまった事に…
ガバッと厚い胸板に身体を寄せられる。というか、がっしりとした腕に包み込まれた。
「きゃっ…ちょ、ちょ、ちょっと陛下!」
急な陛下の行動に困惑する。しかもこんな公衆の面前で!
私がこんな大きな陛下を飛ばせる怪力がある筈も無く、どうすることも出来ない。
頭が混乱していると、ばぁーーーーーん!!!という何か破壊した様な音が聞こえた。
陛下も驚いたみたいで私を離してくれる。離してくれてはいるが私の肩を持っている陛下は、何やらキョロキョロと辺りを見渡していて、ビクーッと身体が跳ねている。挙動不審で少し怖い。
ど、どうしたんだろう…陛下。
私が陛下の方を見るとぽんっと背中を軽く叩かれた。
「お前の部屋を用意している…それと侍女も付けているので先に行ってて欲しい。セバスチャンに着いて行けば大丈夫だ。」
セ、セ、セ、セバスチャン!まさかの王宮で働く執事さんがセバスチャンなのですか!なるほど。それで我が家はセバスティアンなのですね!謎が解けました!
私は今凄く興奮したと思う。直様セバスチャンと名乗る執事さんが来て私をその部屋へと連れて行ってくれた。
凄い…姿勢が少しもずれていない。そんなことを思える様な完璧な動きを繰り出し続けている。
これでもセバスチャン75歳だそうだ。
まだまだお若いですね!
そしてとても丁寧な言葉で、
「此方で御座います。レイア・フルバスタ様」
セバスチャンが示した先にはとても立派な扉があり、中に入られる様にと即される。
「では、お邪魔致します…」
重たい扉を開けると中には白が基調の大きなベッド…私が5人寝転んでも余裕な程、それと見ただけで凝っていると分かる机にふかふかのソファー。
其処はまるでお姫様の様な部屋だった。
「気に入って下さいましたか?此方の品々は陛下がご自身でお選びなさった家具で御座います。
他にも衣装部屋が隣に二つ程あります。足りなければ仰せくださいませ。それと、少しで御座いますがドレスを何着か程此方で作らせて頂きました。宜しければ頂いていただければ光栄であります。
さぞ、お疲れの様で御座いましょうから、お休みなさってください。御用がありましたら此方のベルを鳴らして頂ければ侍女が来ます。では失礼致します。」
レイアはセバスチャンに金のベルを渡され、大きなベッドに寝転ぶ。
今日から、此処が私の部屋か…高い天井を見上げながら思う。
もう…家族の皆に会えないのだろうか。お城に来て直ぐに所謂ホームシックになってしまったレイア。
目の上に手を添えて涙を隠す。
「ゔ…ぅっ、っうぅぅ…」
一人の事を良い様に涙を流す。最初ぐらいは良いだろう。と、ゴシゴシと溢れんばかりの涙を擦るが、擦る手が何者かによって赤くなっている目から離された。
「擦ってはだめだ。」
「え…?」
レイアは呆然としていた。何故?此処に…
「ア…アイザック、兄様…?」
レイアの目の前にはレイアの手を持ったアイザック兄様が居たーーーーーーー。




