優しい姉様
朝…朝なんて来なければ良いのに。むくりとベッドから起き上がり鏡の無い洗面所へ行き、顔を洗う。
鏡は嫌いだ。嫌なものが映るから。
レイアは五年間、自分の顔をまともに見てはいなかった。
どうせ、この黒髪に見合った顔なんでしょうけど。と、思っていたからだ。
本当はとても整った顔をしているのに…
顔を洗い終えるとドアの方からノック音が聞こえた。
「レイア…入って良い?」
ユリア姉様が入ってきた。レイアは中へと即す。
「レイア。貴方は私達が守ってあげるから心配しなくて良いのよ?大丈夫。絶対に王妃なんかにはさせないから!」
両手をユリア姉様に持たれ強い瞳で見つめられる。
「お、うひ?」
だが、レイアには疑問が生じた。おうひ?何の事かさっぱり分からない。
「え?」
ユリア姉様が不信そうにレイアを見つめる。
「あっ!」
私は漸く脳の端っこに置いてあった陛下の言葉を思い出した。
『俺の王妃にならないか?』
一気に顔へと熱が昇る。すっかり家族への心配の方が勝ち、陛下の求婚など忘れていた。
「でも、そうするとこのフルバスタ家が危ない状況に立たされるのでは?姉様達に迷惑をかけたくありません!」
うるっと瞳に涙を溜め真剣にユリアを見る。
そんなレイアの姿を見たユリアはにこっと悪戯がばれたような笑みをし目を細める。
「今の王が何をしても大丈夫よ。これでもうちは、この国の殆どの貴族と協定を結んでるんだから。」
お母様の立ち振る舞いと、お父様の威厳があれば大丈夫なのだとユリア姉様は言う。
し、知らなかった…お父様、凄い方なのですね。
最初の印象がうるうるのお目々だったため、全然分かりませんでした。
新たな真実に驚きつつ黙々とユリア姉様の話を聞く。
「だから、貴方を何処にもお嫁になんて出さないんだから!」
まるで親バカのお父さんが口にしそうな台詞を言って私を強く抱きしめる。
姉様はほのかに良い香りがした。
「ありがとう…ユリア姉様。大好き」
レイラも抱き締め返し、優しく微笑む。
私は…この家族として生まれて良かった…
暖かな涙が頬を伝った。




