63:覚醒する覇道
初投稿です
――王族専有魔導兵装『蒼血宮殿ヴェルサイユ』。
かつてヴォーティガンが逃亡の際、城から持ち出した兵装の一つである。
宮殿のミニチュアが浮かんでいる水晶という見た目だが、それは仮の姿。
地に埋めることで、そこに外界からは不可視の宮殿を顕現させるという、環境改変型の特級兵装だった。
現在は『黒亡嚮団・ヴァンプルギス』の隠れ家として、外地の洞窟内に展開されている。
その宮殿の玉座にて――嚮主・ヴォーティガンは呆然と項垂れていた。
「……失敗した。失敗した、失敗した、失敗した……」
乾いた声が喉から漏れる。胸に渦巻く後悔と絶望が止まらない。
――ブラックモアとクロウ、クソ遺伝子親子の推理は見事に当たっていた。
ヴォーティガンの悲願は、『兄の抹殺と帝位の簒奪』。されどそれは半ば失敗に終わってしまった。
「あぁ……オレは、まだ、こんな洞窟に……!」
本来ならば、今ごろはレムリア帝国の玉座に付いていたはずなのだ。
もうこそこそと隠れ潜む日々は終わっていたはずなのだ。
“兄・ジルソニアは最悪の王だった。それに比べて、新王ヴォーティガン様はご立派だ”――と。民衆たちから讃えられていたはずなのだ。
そして称賛される自分に対して兄の名声に唾吐かれていくのを感じ、悦楽に浸っていたはずなのだ。
それなのに。
「クソ兄貴がッ! 最後まで、腐った老害でいろよォォォ……ッ!」
――あの兄が、土壇場で更生してしまったこと。
それがヴォーティガンの計画を全て破壊してしまった。
ああ、二十年来の計画だったのだ。
兄の私兵に追い回され、死に物狂いで外地まで逃げてきて以来の野望。
それが水の泡になってしまったのだ。そのショックは未だ心を苛み続けていた。
「チクショウ、チクショウが……っ」
膝を叩いて呻くヴォーティガン。
――そんな無様な男の下に。
「まだ立ち直らないワケ、嚮主様?」
不愛想な声にヴォーティガンは顔を上げる。
彼の前に現れたのは、火傷まみれの美女・カレンだった。
「カレン……」
「そりゃまぁ、アタシだってショックよ? ――なにせアタシも貴方と同じ立場だからね。騎士として活躍していたのに、“平民の血を引いてる”ってだけで帝王に目を付けられ、事故に見せかけて殺されかけた」
その結果がコレよと、カレンは漆黒の衣服の前を開けた。
途端に零れ出る豊満な乳房。されど彼女の純白の肌には、痛々しい火傷の痕がいくつも刻まれていた。
「っ、カレン。女性が簡単に肌を……」
「見せるなって? 別にいいでしょ。こんな身体じゃ嫁の貰い手も出来ないんだろうから。
――だからアタシは、アタシをこんな姿にしやがった帝王に、グチャグチャに死んでほしかった。最悪の王のまま、みんなに嫌われて終わってほしかった。それなのに……それなのに……っ!」
骨が軋むほど拳を握る。
カレンは火傷まみれの顔に、怒りと憎しみと嫌悪と絶望と――何よりも悔しさの表情を露わにした。
「なんであの野郎ッ、アタシが騎士だった頃にまともになってくれなかったのよッ!? 王族なのに民衆に頭下げれるような人だったらっ、そんな主君ならっ、喜んで剣を捧げたのに……ッ!」
焼けて燻んだ瞳が濡れる。
帝王が更生したことが、もう悔しくて悔しくて堪らなかった。
カレンとて、元は騎士に憧れてなった身である。
騎士物語に夢を抱き、素敵な王様やお姫様のために戦う未来を望んだ者だ。
それゆえに、あまりにも惜しい。
どうして今さら更生してくれたのかと、歪な激情が止まらない。
「ねぇヴォーティガンッ、アンタはアイツの弟だったんでしょ!? こうなることを予想できなかったの……っ!?」
「それ、は……、ッ」
ハッ――と。ふとヴォーティガンは、王家に引き取られた頃の兄ジルソニアを思い出した。
もう四十年以上も前……あの頃の兄は、優しかった。
平民の血を引く自分を、とてもとても可愛がってくれた。
勉強を教えてくれて。
剣術を教えてくれて。
王族のマナーを教えてくれて。
“ヴォーティにはちょっと早いかも”と悪戯っぽく笑いながら、女性への接し方まで教えてくれて。
そして。
「オレは……兄の総てを、上回ってしまった……」
そこからはもう悲惨だった。
ヴォーティガンが無邪気に“どうっ、兄さんすごい!?”と結果を見せつけるたびに、兄ジルソニアの顔は曇っていった。
その理由も知らず、兄に褒められたい一心でヴォーティガンはさらに結果を出し……あとはもう地獄だ。
優しかった兄の人格は害意の塊へと変わっていった。
そして。ヴォーティガンが成長し、『人は嫉妬する生き物なんだ』と覚えた頃には。
もう歪み切った兄のことなど、どうでもよくなっていた。
最初に見せた優しさは気まぐれで、ゴミクズなのが兄の本性なのだと……そう考えるようになってしまっていた。
「ぁっ――あぁぁああぁぁッ?!」
かくして、ヴォーティガンはついに自覚する。
これまで気付きたくなかった真実……兄を老害にしてしまったのは、自分なのだということを。
更生した兄の姿こそ、彼の本当のモノなのだったと……!
「すまない、カレン……。オレの、オレのせいだ……。兄は元々優しかったのに……あんな風になったのは、オレが兄さんを上回り続けっ……プライドを全部へし折ったから……!」
「っ――!」
そういうことかと、カレンも事情を理解する。
かつては彼女も騎士だった身。“平凡な第一王子は、優秀な弟に嫉妬している”という噂は聞いていた。
その時には、弟に嫉妬するなんて狭量な王子様だと思っていたが……。
「そう……元々は、優しかったんだ」
「ああ……」
「じゃあ、更生する可能性も十分あったんじゃないの」
「……そうだな。クロウ・タイタスに龍討伐を命じた時には、まだ狂っていたが……それを乗り越えたクロウの勇ましさに感化され、かつての自分を取り戻したんだろう。きっかけさえあれば、まともになる可能性はずっとあったんだ……」
「そう」
――つまりは、ヴォーティガンの甘えが計画の破綻を招いたのだ。
もしも彼が“兄は元々優しい人で、彼を壊してしまったのは自分なんだ”と自覚していれば、また計画の立てようも違ったかもしれない。
そもそもヴォーティガンさえいなければ、こんなことにならなかったのにとカレンは思う。
醜い火傷を負うこともなく、今ごろは夫や子供に恵まれて幸せになっていたかもしれない――と。
だから。
「責任を取りなさい、ヴォーティガン」
「なに――っ、おいカレンッ!?」
彼女は嚮主の胸倉を掴み上げ、唇が触れ合わんほどに顔を寄せた。
そして、言い放つ。
「みんなを『嚮に立つ者』として、立ち止まるなっつってんのよッ!
アンタが原因だろうが何だろうが、テメェの兄貴に人生狂わされたヤツらはっ、この『黒亡嚮団』に山ほどいるのよッ! その復讐のために立てた組織でしょうがっ!?」
「ッ!?」
そう――『黒亡嚮団』の目的は、帝王や彼に従って安寧を貪る者たちに、“黒き滅亡”を齎すことだ。
そのためにこの組織を作ったのである。
今目の前にいる、カレンと共に。
「……幹部のナイアやギラグみたいに、ガキの頃に貴方に拾われた子たちもいる。そんな連中にとって、貴方は父親みたいなモノなのよ? それが揺らいでどうするっての……ッ!」
「……」
反論の、余地もなかった。
あぁそうだと頷くしかない。
たとえ計画に失敗しようが、心の揺らぐような真実に気付いてしまおうが。
今の自分にはたくさんの仲間がいるのだ。彼らを幸せにするために行動しなければいけないのだと、ヴォーティガンは自覚する。
「だから嚮主様、暴れましょうよ。どうせ四方都市の襲撃や黒龍の解放をした時点で、アタシたちは真っ黒なんだもの。
――亡びて地獄に嚮かうまで、好き放題に生きましょうよ?」
掴んでいた胸倉を離すカレン。
代わりに彼女は、ヴォーティガンの前に手を差し出した。
終わりへの誘いだ。
その手を取ったが最後、もうヴォーティガンは悪党のまま突き進むしかないだろう。
王として帝国に舞い戻り、みんなに讃えられながら生きるなんて……そんな夢は二度と見られなくなるだろう。
だが。
「――応よッ! 全部滅茶苦茶にしてやろうやッ!」
躊躇うことなく、ヴォーティガンは彼女の手を取った。
「……ありがとよ、カレン。おかげで腹が据わったぜ」
「はいはい。まったく、世話が焼ける王様ねぇ。赤ちゃんかしら?」
「だははッ! オレの女騎士は口が悪いなぁ!」
共に王族と騎士団から堕ちた者同士。
朗らかに、仲睦まじげに――そして邪悪に笑い合う。
「もう兄貴なんて関係ねぇや。騎士も民衆も全部殺して、血まみれの玉座に座ってやるよ……! オレの仲間たちには、土地を好き放題にプレゼントだ」
「あっはぁ! そりゃぁやる気が出るじゃないのっ! いい子ちゃんな王様にはママがおっぱいあげまちょうかぁ~?」
「おうもらうぜ!」
「えっ」
かくして、再起動する『黒亡嚮団』。
真なる覇道に目覚めたヴォーティガンは、次なる魔の手を策略する。
「あぁ……そういえば、カームブル家とかいう連中がいたなァ」
――アイツら少し、利用させてもらうか……!
※なお。
クソ兄貴(ロリ化)「儂の土下座見た民衆みんな死なないかのぉぉぉおー------ッッッ!?!?!?!?!?!?!?」
全 然 更 生 し て な い 模 様 。
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