24:激戦は明けて(後編)
「レムリア『帝国』なのに『王都』『王立』っておかしいやろ」というごもっともすぎるご指摘を受け、1話から改稿しました。
『王都』を『帝都』に、『王立魔導騎士団』を『帝国魔導騎士団』に変更いたしましたので実質初投稿です
――周囲の人たちが一気にざわつく。
そらそうだ。アイリスさんが告白の返事と称し、「大好きだ」と俺に言ってきたからだ!
えええええええええー---!?
(ちょっと待てよッ……あー、ハイハイハイ! 告白ってアレのことか! 二人で買い物してる時、俺がこの人に『師匠として』大好きだって言ったヤツ!)
……まぁうっかりしたことに『師匠として』ってセリフ部分が抜けてしまったが、今までのやり取りや話の流れからわかってくれているはずだ。
つまりアイリスさんも、俺に対して『弟子として』大好きだって言ってくれてるわけだな。
(ふぅ……俺ってば一瞬、恋愛的な意味で言われてるのかと思ったぜ……)
そんなわけないのになぁ。
出会った時に彼女を『純白の華』とか言ったくらいで、その気にさせるような言葉は一切言ってないし。
そもそも会ってからまだ数日だぞ? それで俺に惚れちゃうなんて、女心にクリティカルヒットな言動をしまくってない限りは無理だろ。俺そんなのわかんないし……。
あとアレだ。
「アイリス……民衆の前で、そんな大胆にだな……」
集まる視線にむず痒くなる。仏頂面の俺だが、心なしか顔が熱くなっているのが分かった。
いやマジでアイリスさん、なんでこんなところで言ったわけ!?
しかも俺と同じく『弟子として』って言葉が抜けてるし。これじゃ勘違いされちゃうだろ!?
――そう恥ずかしがる俺に、彼女も頬を赤らめながらも、フッと悪戯そうな笑みを浮かべた。
「キミも街中で言ってきただろうが。要するに、ちょっとした仕返しってわけだよ、クロウくん?」
「っ……!?」
あー……そういうことかぁ……!
公衆の面前で言ってきたのも、あえて勘違いさせるように言葉足らずにしてきたのも、仕返しってことだったかぁ。全部わざとかよ。
おいおいアイリスさん、なんて小悪魔なんだ。天使かと思ったらこんな子供っぽい真似をしてくるなんて、光と闇が合わさって最高すぎかよ。
「さっ、ヒュプノが待ってるぞ。さっさと行ってやろうか」
「ああ」
してやったりという顔の彼女と共に、騎士団支部を目指す。
こうして俺たち仲良し師弟は、セイラムの街を共に歩いていくのだった。
◆ ◇ ◆
襲撃により、騎士団支部はほとんど全壊していた。
そのため支部近くの建物が貸し切られ、俺とアイリスさんはそこの一室でヒュプノと会うことになった。
安物の椅子に腰かけ、三人で机を囲む。
「さて話を……って、なんだかアイリスから幸せオーラがすごいんだが」
「ふふっ、気のせいだぞヒュプノよ」
最強女騎士様の様子に苦笑するヒュプノさん。たしかにお花とか出てそうな感じだもんな。
対照的にヒュプノさんのほうは疲れ気味だ。出会った当初ほどではないが、あまり余裕はなさそうだった。
後この人、カレンって女剣士にもボコられてたよなぁ? 大丈夫?
「カレンとの戦いで傷付いていただろうに、平気なのか?」
「ああ、心配ご無用だよクロウくん。重傷を負う前にキミが助けてくれたからね。
……それを言うなら、キミこそ身体は辛いだろうに。悪いことをしちゃったよ」
急に謝ってくるヒュプノさん。え、どしたのどしたの?
「医者にはこう伝えていてね。もしもクロウくんが動けるようになったら、すぐにこちらに寄こしてくれって」
えっ、あー……だから俺ってば早々に追い出されたのか。
そりゃ来客人がちょっと騒いだくらいじゃ、目覚めたての患者をほっぽり出すわけないもんな。そういうことか。
「さてクロウくん。まずは我が国の状況について伝えようか」
彼(?)は改まった態度で、「市民にはまだ伝えないように」と前置きしてきた。
そして、
「包み隠さずに言おう。――セイラム以外の四方都市は、全て『ヴァンプルギス』に破壊された。今や安全圏と呼ばれた内地にも、魔物どもが流れ込んできている」
「……本当か」
ってマジかよ、マジで国家存亡の危機じゃねーか!?
内心戸惑う俺に、次はアイリスさんが状況を語る。
「紛れもない事実だ。襲撃事件後、実際に私は各都市を確認しに行った。
――我が魔導兵装、エクスカリバーの逸話は『光の放出』。溢れ出るエネルギーを推進力とすれば、駿馬よりも速く移動できるからな」
自慢げに胸を張るアイリスさん(おっきい)。
なるほど、鬼どもを倒した時もすごい速さで斬ってたもんな。
各都市までは馬で何日もかかるはずだが、彼女からすれば訳ないってことか。
「本題に戻るぞ。
その後、帝都にも状況を伝えた。現在、騎士団本部は帝都周辺に部隊を展開し、魔物どもを迎撃する態勢を取っている。
……だが魔物どもは狡猾だ。馬鹿正直に帝都に突撃するモノは少なく、多くの連中は内地のどこかに巣を作ったり、下水道などからこっそりと侵入を試みることだろう。そいつらの探索と殲滅もせねばならん」
色々とやる事が多い、と。アイリスさんはちょっと疲れたように言った。よく見れば髪も乱れたりしている。
ふむふむ……話からしてアイリスさん、俺が寝ている間にも働きまくってたみたいだな。
すごい機動力を持っていたって彼女は人間だ。ぶっ続けで動き続ければそら疲弊するだろう。
俺と出会った時にも、不意を突かれて殺されそうになっていたそうだしな。
「襲撃犯どもの捜索もしたが、どいつも不可思議なくらいに痕跡が途切れており捜すのは困難。……このセイラムを守りきれたこと以外は、帝国側の完全敗北だよ」
彼女は大きく溜め息を吐いた。幸せオーラは鳴りを潜め、疲労感と敗北感を溢れさせている。
そっか……そんな状況だったのか、この国って。ここからさらに『ヴァンプルギス』の攻撃があるかもしれないとなると、マジでやばいな。
「――さぁて。アイリス副団長はこの通りお困りだ。それでだねぇクロウくん?」
と、そこで。ヒュプノさんは一つのケースを机の上に置いた。
彼(?)がそれを開くと、そこには純白の衣装が……!
「これは……」
「そう、魔導騎士の正装さ。
……魔導騎士になるのは本来、帝都で試験やら面接やらを受けた後、皇帝陛下に対する忠誠の儀を行わないといけないんだけどね。
でも状況が状況だから、そこの副団長と『ブラックモア団長』が陛下に無理を言ったわけ。“使える人材はすぐに使えるようにしろ”ってね。もちろん僕も推薦状を書いたさ」
その結果がコレだと、ヒュプノさんは軍服を手に持った。
さぁ立ちたまえと言われ、それに従う。
「だいぶ渋られたけど、どうにかオーケーは貰えたそうだよ。――『その者が皇族に背く言動をした場合は、推薦者たちごと即刻処分』『実力不足である場合も処分』『最低の六級騎士スタートであること』、って条件を付けられたけどね。でもクロウくんなら大丈夫だろう。ねぇアイリス?」
「ああ。私たちはキミを信頼している」
信頼の眼差しでこちらを見つめるヒュプノとアイリス。
彼女たちは頷き合うと、二人で制服の上着を広げた。そして、俺の背中に外套のように羽織らせる。
「任せたよ、クロウくん」
「キミは今日から、騎士の一人だ」
白く穢れない生地がはためく。
かくして俺は彼女たちと、まだ見ぬ騎士団長の信任により、魔導騎士となったのだった。
「……そうか、俺が騎士に」
――思わぬ特例に戸惑ってしまう。だが、俺は珍しくやる気だった。
なにせクロウくんだって男だからな。バトルは嫌だが、大好きなアイリスさんが傷付き倒れてしまうのはもっと嫌だ。
どうせムラマサのせいで戦いからは逃れられない運命なんだ。ならば騎士として任務をこなし、間接的にでも彼女の負担を減らしたい。これは俺の本心だ。
「任せてくれ。我が剣を以ってこの国と、アイリスのことを守ってみせよう」
「ンなっ!?」「わぁ~見せつけてくれるねぇ~!」
赤面するアイリスさんと、ひゅーひゅーと持て囃してくるヒュプノさん。
臨時の応接室の空気が明るくなる。いつか平和を取り戻したら、今度はヴィータちゃんも誘ってみんなで楽しく過ごしたいものだ。
(よぉ~し、騎士として頑張るぞぉ……!)
珍しくやる気になる俺。
それはアイリスさんを助けたいって理由もあるが、実はもう一つ……。
(『最低の六級騎士スタートであること』。皇帝陛下、なんてナイスな条件を付けてくれたんだ。おかげで安心して騎士になれるってもんだぜ)
そう。俺はそこに安堵していた。
俺のムラマサ操作モードの強さを鑑みれば低すぎる評価だ。もしかしたら嫌がらせかもしれない。
だが、最低クラスってことはヤバすぎる任務も与えられないってことじゃないか?
(フフフ、雑魚狩りだったらどんどん引き受けてやるぜ。筋肉痛にはなるだろうが、命の危険がなさそうな相手ならいくらでもやってやるぜ)
ムラマサに操られてる時の俺に隙はないからな。不意を突かれることはないから、雑魚狩りならばバッチこいだ。
それで他の騎士の手が空いて、結果的にアイリスさんにラクをさせてくれれば――と。俺がそう思っていた時、
「あぁクロウくん。キミに渡すのは制服だけじゃないよ?」
「なに?」
ぱんぱんと手を叩くヒュプノさん。すると何人かの職員さんたちが、トレーを押しながら部屋に入ってきた。
その上には、禍々しい装備の数々が……! え、ええっ!?
「キミが騎士になってくれたことで、ようやく騎士団保有の魔導兵装たちを手渡せるよ。まぁ、どれも呪いが強すぎる問題児たちなんだけどねー。でもキミは『伝承克服者』だからいけるでしょ!」
え……あの、それって勘違いで……!
「あと、アレも伝えておこうかアイリス?」
「うむ!」
アイリスさんは「喜ぶがいい!」と言って、俺の肩をバシバシ叩いた。
「皇帝陛下は武闘派貴族とベッタリだからな。第二の私を生み出すことを嫌がり、キミに雑魚狩りしか出来ないような最低のランクを押し付けたが……これを見ろ!」
アイリスさんは胸元から一枚の封書を取り出してきた。
そこには、ブラックモア団長とやらの名の下に、こう記してあった。
「『アイリス副団長の弟子であること、襲撃事件時の活躍、そして伝承克服者であることを評価し、階級以上の任務を受けることを許可する』とのことだっ! やったなクロウくん、平和のために戦いまくれるぞッ!」
(えええええええええええええええええええ!?!?!?!?)
なっ、何やってんすか団長さんッッッ!? 完全に余計なお世話なんですけどぉおおー---っ!?
「団長から難しい任務もいくつかもらってきたから、まずはそれをこなすがいい! 『断罪者』として嬉しい限りだなぁっ!」
「頑張りたまえよ! ほら、『伝承克服者』として呪いの装備も持っていくといい!」
笑顔で俺に任務の書類を渡してくるアイリスさんと、禍々しい兵装の数々を押し付けてくるヒュプノさん。
嬉々とした彼女たちに迫られながら、俺は心の中でこう叫んだ。
ど、どうしてこうなったぁああー------っ!?
・地獄確定、クロウくん――ッ!
ここまでありがとうございました。次回から二章本格スタートです!
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