18:強襲(後編)
「ぐぅうううッ!?」
苦痛に呻くヴィータ。
口と胸から鮮血が噴き出した。視界が一気に眩んでいく。
さらには刃物を抜くついでに背中を蹴り飛ばされ、少女は広場を無様に転がった。
「けほっ、かひゅっ……!」
上手く酸素を吸い込めない。心臓へのダメージは免れたようだが、代わりに肺を貫かれたようだ。
必死に息をするたびに、胸からゴボゴボと血泡が漏れる。
(一体、何が起きたんですか……!?)
つい先ほどまで平和に過ごしていたというのに、これは何なのか。
そうして倒れるヴィータの耳に、数々の絶叫が入り込む。
「なっ、なんだこいつらは!? うわぁぁあああー--っ!?」
悲鳴を上げる民衆たち。
霞んでいく目で周囲を見れば、帝都側の門から入ってきた者たちが、魔導兵装により人々を虐殺していた。
「な、なに……これ……?」
呆然と呟くヴィータ。
笑顔に溢れていた街が、地獄の舞台に変わっていく。
「ほう。何だ貴様、まだ息があるのか? ……これは丁度いいかもなぁ」
そこで。彼女を刺した男が「おい、何人か集まれ」と声をあげた。
それに合わせ、ヴィータの周囲に集う者たち。その全員が、見たこともない黒い軍服を纏っていた。
「な、なんですか、アナタたちは……!」
彼女は声を震わせる。
傷の痛みはもちろん、自身を取り囲んだ者たちの悪意に満ちた視線に晒され、幼き心が恐怖に竦む。
恐ろしくて恐ろしくて堪らないが……しかし。
「何が目的で、この街を襲撃したんですかっ!? 目的を教えなさいッ、このゴミ共!」
強気でヴィータは吼え叫ぶ。下卑た視線を睨み返す。
悪しき者どもを相手に怯えるなど、自身のプライドが許さない。
――なにより、こうして自分に注目を集めれば、その間に民衆が逃げやすくなるだろう。そう考えてのことだった。
「テメェ……今オレらのことをゴミと言ったか!?」
そんな少女に対し、男たちは「気に食わねぇなぁ!」「強がるなやガキッ!」と憤り、倒れた彼女を一斉に蹴った。
すでに重傷を負っていることなど一切考慮しない、殺す気の暴力を浴びせかけられる。
痛みと衝撃が全身に奔り、ヴィータの意識は混濁していく。……それでも、
「ぁっ、ぐぅ……! こ、答えろ……ぉまえ、たちは……一体……!」
泣き言は全部我慢する。痛くない、辛くないと自分に言い聞かせる。
良くも悪くも虐待じみた教育を受けてきたことが功を奏した。
耐えがたき痛みにも必死で耐え、悪党どもへと言葉を投げる。
この間にも民衆が逃げられるように――きっと助けに来てくれる仲間たちに、情報を渡せるように。
「ほほう……幼くともご立派な騎士様だ。これだけ嬲られても泣きもしないか。
よし――お前たちやめろ。その高潔さを讃え、我らの存在を教えてやろうではないか」
彼女を刺した男が応える。
攻撃的な目をした人物だ。釣り上がった眦が、まるで飢えた妖狐のようだとヴィータは思った。
彼は黒服に付けられた『七芒星のバッジ』を差し、息も絶え絶えな少女に叫ぶ。
「我らの名は、『黒芒嚮団・ヴァンプルギス』! この新世界に“真なる平等”を齎すものよッ!」
「っ、ヴァン……プル、ギス……!?」
奇しくも――ヴィータはその名に聞き覚えがあった。
以前、カームブル家の応接室の側を通った時、父が何者かと話していた。
彼女に盗み聞きをする趣味はない。何よりばれたらどんな体罰を受けるかわからない。それゆえ、すぐにその場を去ろうとした。
けれど……ただ一つだけ、聞き覚えのない単語が耳に入ってしまった。それが、
(『ヴァンプルギス』……どうして、あの時の言葉が……!?)
困惑するヴィータ。
そんな彼女の内情などいざ知らず、男は続ける。
「千年前の魔力流出により、超常の力は現実のモノとなった!
絶滅寸前にまで追い込まれていた人々は、ソレを以って魔物と戦い、ついには国を興せるほどに人類の勢力を回復してみせた! あぁ、素晴らしきかな人類の底力ッ!」
謳うように語る狐目の男。
誇らしい、よくやったと、かつての人々を心から称賛する。
――だが、
「そうして、今はそれなりに平和になったわけだが……なぁ、小さき騎士よ。
どうにもこの時代、腐っている者が多いとは思わんか!? かつて活躍した祖先にあやかり、権威を振りかざす貴族などなぁ!」
「っ!?」
そんなことはない、とは言い切れなかった。
なにせヴィータこそ、腐敗した貴族家の末裔なのだから。
「覚えがあるようだな?
――そう。人類は安定し始めた結果、くだらぬ『格差』を生み出すようになってしまったッ!
ベルリンの霊壁により内地と外地を分断し、選ばれし者たちは壁内でぬくぬくと暮らす始末。これでは駄目じゃあないかね!?」
「それ、は……」
……聖者じみた男の言葉に、ヴィータは思わず頷きかけた。
どうせ相手は悪党なのだ。略奪のためにでも事件を起こしたのだろうと思っていた。
それなのに……、
「あぁ、オレたちは元々外地の生まれだ。日々魔物に恐怖しては、はるか遠くにある平和な帝都に想いを馳せていた身だ!
羨ましい、妬ましいッ! あそこで暮らす奴らと比べて、なぜ自分たちはこんな寒村でと、嘆かぬ夜はなかった!」
ついには涙さえも溢し始める狐目の男。
他の者たちも、感極まったように強く頷いていた。
(なん、ですか……この人たちは……?)
ヴィータの想像していた悪とは違う。
きちんとした考えがあり、何かしらの背景があり、仲間同士の絆があるように感じた。
もしかしたら、彼らなりの『正義』が胸にあるのか……それならば話し合いの余地があるんじゃないか……。
途切れそうな意識の中、ヴィータがそう思いさえした……その時、
「そこで我々は、運命の指導者様に出会った。彼は言ったよ。
『ならば全て壊してしまおう。四方の街を粉砕し、魔物の軍勢を帝都に導き、みんなで苦しみを分かち合おう』と――!
あぁ素晴らしいッ、まさに『正義』の鉄槌だァアアア!」
「…………は?」
瞬間的に、ヴィータは理解した。
彼らの中に存在する正義……それは、自分の考えているモノとは、大きくかけ離れていることに。
話し合いの余地など、一切存在しないことに。
「それから十年。我々は着々と準備をし、ついに決行の時が訪れた!
さぁ同志たちよ、目につく全てを破壊しよう! 平和を目指して暴力を振るおうッ! 我々が感じてきた苦しみを、みんなに配り分けてやろうッ!」
『オォォォオオオオオオオーーーーーーッ!』
雄叫びを上げる黒服集団。血走った眼を狂喜に輝かせる。
――考え? 背景? 仲間の絆? そんなものはまやかしだとヴィータは気付いた。
こいつらはただ、暴力に酔っているだけなのだ。自分たちを『国を変える者たち』と思い込んでいるだけの、異常者どもだ。
「お前たちなんて正義じゃない……お前らはやっぱり、ゴミの集まりだッ!」
最後の気力を振り絞り、黒服たちへと少女は叫ぶ。
そんなヴィータに、狐目の男はやれやれと首をすくめた。
「その美しい容姿、どうせ武家貴族の娘だろう? 貴様のような者に我らが理想は理解できんよ」
男は彼女に腕を突き付けた。
その手首には、灰色の石のブレスレットが。そこから仄かに魔力が漂う。
「最期に自己紹介をしておこう。
我が名はナイア・ヴィンセントッ! 『ヴァンプルギス』の七大幹部が一人なりッ!」
名を叫ぶのと同時に、魔力がさらに溢れ出した。
灰色の煙のような燐光が、ヴィータの下まで押し寄せる。
「さぁ、絶望するがいい少女よ……!」
「ひぃっ!?」
ジリジリと寄ってくる男を前に、ヴィータの口からついに悲鳴が漏れ出した。
すでに失血で動けない。そうでなくとも、他の黒服たちに手足も背中も踏みつけられ、身じろぎ一つ出来ない状態だ。
風を操る自身の短剣も、柄を握らなければ発動すら不可能。――完全に、詰みだ。
「見ればわかる。まだ幼くも良い肉体をした女だ。さぁ、これからオレと……!」
オレと何なのか。ヴィータは知らないし、知りたくもなかった。
ただただ恐怖に震えながら、絶望の時を待つしかない。
「ぃゃ、いやぁ……!」
かくして少女が、邪悪の餌食にならんとしていた――その時。
「――ふざけるなァーーーーーーーーッ!」
怒りの叫びが、遥か天より谺した――!
そしてッ!
「ぐがぁあああああぁああー--っ!?」
一刀両断――狐目の男が真っ二つになり、裂けた身体が左右に倒れる。
ブチ撒けられる大量の鮮血。その突然の強襲に、黒服たちが一瞬遅れて「なんだ貴様は!?」「よくも同志を!」と激昂するが、『彼』は一切怯まない。
逆に、超絶の怒りを込めて男たちを睨み、彼らのことを後ずらせていた。
あぁ――その気迫に、ヴィータは心から感じ取る。
これが本当の、『正義の怒り』なのだと。やはり彼こそ、幼き頃に夢見た『正義の騎士』なのだと。
ヴィータは安堵に涙しながら、彼の名前を必死で呼ぶ。
「うぅ、クロウ……さん……!」
やはりアナタは助けに来てくれた!
絶望に屈しそうな私を、救いに来てくれた――!
「っ、気を付けてくださいクロウさんッ! こいつらは、危険な黒魔導士集団です!」
そう。数十人全員が魔導兵装と思しき武器を持っているなど危険すぎる。
一人で対峙できる戦力ではない。だが、危険と警告しておきながら、ヴィータには彼が臆する光景など想像できなかった。
実際にクロウは、さらに闘気を昂らせると、
「――幼き者を嬲り、平和を乱さんとする外道共よ。貴様らの罪、この俺が断罪しようッ!」
(ッッッッッ~~~~~~~~~~~!!!!!!)
その瞬間、ヴィータの身体に電流が走る。
胸の痛みなど吹き飛ぶような凄まじすぎる甘い衝撃。凛と雄々しき漢を前に、少女は窮地も忘れてとろける。
「あッ、ぁああぁぁぁぁぁッ、クロウさんっ、クロウさんッ……!♡」
――断言できる。自分は今、完全に恋に堕ちたのだと。
もはや彼しか目に入らなくなる。あの勇者に、あの英雄に、抱き締められる未来しか想像できなくなる。
「征くぞッ!」
そして、そこから始まる激闘はヴィータのときめきを限界突破させた。
クロウが舞う。クロウが斬る。どんな攻撃にも一切臆さず、自身の肉体を使い捨てるような激しさで斬って斬って斬りまくる。
黒き刀一本を手に無双する姿は、まさに修羅。
気付けば黒服たちは恐怖し、『魔力切れ』もいとわずに全力で兵装の能力を振り乱した。
火が雷が氷が放たれ、ヒト一人を殺すには余りある驚異的な攻撃の嵐が巻き起こる。
されどクロウは躊躇わず、敵の下へと特攻する。
「うぉおおおおおおおおおー--------ッ!」
絶叫にも似たような雄叫びを上げ、敵集団を斬り飛ばしていくクロウ。いくつもの攻撃が掠めるのもいとわず、悪しき者を斬滅する。
ヴィータは地に這いつくばりながら、神を見るようにその様を見つめた。
(あぁ……私は、正義の騎士になれるかはわかりません……。でも、アナタの側にいて、恥じることのない女にはなりたいッ!)
クロウへの想いが止まらない。
尊敬の念は恋に変わり、恋する想いは愛欲へと変貌する。
それを活力に、
「――目覚めなさいッ、『紫怨風刃フラガラッハ』!」
ヴィータは腰の魔剣を握った。その瞬間、紫苑の風が吹き荒ぶ。
本来ならば指一本すら動かせなかった。失血で酸欠で、心臓すら止まりかけていた。
だが、
(そんなもん知ったことかッ! ここで少しでも戦えなきゃッ、私はクロウさんにふさわしくなれない!)
少女は死力を振り絞ると、風を纏って黒服たちへと一気に駆けた。
この場に残る最後の一団だ。小賢しくもクロウの死角より攻め込まんとしていた彼らに、殺意の刃を突き付ける。
「死ねぇえええええー-----ッ!」
そして、風刃一閃――! 彼らが動揺した瞬間には、すでにその首を刎ねていた。
悪しき者らの鮮血が散る。騎士としての達成感が胸に満ちる。
「っ、ぁ、わたし、にも、やれ、ましたよ……」
今度こそ、本当に限界だった。
その場に倒れ込むヴィータ。しかし石畳にぶつかる直前で、たくましい腕が彼女を抱き留めた。
「ク……クロウさん……」
「よくやってくれた、ヴィータ。感謝している」
「ァっ……!」
微笑と共に送られた言葉に、涙が溢れた。
止めようと思っても止まらない。失血により眩んでいた視界が、さらに滲んでわからなくなる。
「こ、こちらこそ……ありがとうございますっ、クロウさん……!」
ありがとう、ありがとう。
闇に堕ちる運命から救い、そして死の運命からも助けてくれた。
そんな素晴らしきアナタに、心からの感謝を――と。
少女は万感の思いを込め、柔らかく微笑み返すのだった。
なお。
「よくやってくれた、ヴィータ。感謝している(マジでありがとねえええええええええええ!!! もう全身バキバキで戦うのキツかったよッ! そんな身体で助けてくれてありがとねぇええええええ!!!!)」
クロウはもしかしたらヴィータ以上に、彼女に対して感謝していた。
雄々しき姿などただの仮初。実際は無理やり敵陣に突っ込まされ、泣きそうになりながら刃を振るっていたのが実情だった。
(クソォ、筋肉は引き千切れそうな上に、あちこち攻撃かすってイテェよぉ……! てっきり無傷で倒してくれると思ってたのに、どーなってんだよムラマサさんよぉ!?)
――器 身体能力不足 我不幸――
(はぁああああああああああああああああああああああああああああー--------!?!?!? おまえ何言ってくれてんのォッッッ!?!?!?)
刀と脳内喧嘩をするクロウ。
目の前の男がそんな滑稽な内面をしているとは知らず、ヴィータは感謝を述べるのだった。
・バトル回、もうちょい続きます――!(働けクロウ!)
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『こんな展開が見たい!!!』『これなんやねん!』『こんなキャラ出せ!』『更新止めるな!』
と思って頂けた方は、感想欄に希望やら疑問やらを投げつけたり最後に『ブックマーク登録!!!!!!』をして、このページの下にある評価欄から『評価ポイント!!!!!!!!』を入れて頂けると、「出版社からの待遇」が上がります! 特に、まだ評価ポイントを入れていない方は、よろしくお願い致します!!!
↓みんなの元気を分けてくれ!!!




