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逃走

学校から出ると、家に帰らず翔太は羽矢の通っている中学校に走っていった。

羽矢がそんないかがわしいアルバイトをしているなんて、考えたくない。

羽矢は天使だ。

天使が頭のおかしいやつに汚されるなんて、絶対にあってはならない。

体中が熱くなった。

息が荒くなった。


中学生が、学校からぞろぞろと出てきた。

その中に、ひとりきりで歩いている羽矢を見つけた。

「羽矢!こっちに来い!」

大声を出すと、羽矢は驚いた顔で翔太を見た。

周りにいた中学生全員も翔太のほうを見た。

翔太は駆け寄って、羽矢の腕を掴み、無理矢理マンションにつれて行った。


部屋に入ると、すぐに翔太は訊いた。

「毎日学校帰りに何をしてるんだ」

睨みながらいうと、羽矢は泣きそうな顔をした。

「……何もしてないよ……」

「じゃあなんですぐ帰ってこないんだよ」

こうやって大声で叱ったことはなかった。翔太はいいながら、動揺していた。

羽矢が何もいわないので、翔太は単刀直入にいった。

「おまえ、もしかして『エロバイト』してるんじゃないだろうな」

思わず体が震えた。答えを聞くのが怖かった。

羽矢は大きな目をさらに大きくした。

「えっ……?なにそれ」

翔太は答えず、「やってないんだな?」ともう一度訊いた。

羽矢は首を縦に振った。

嘘をついているようには見えなかった。

「『エロバイト』ってなに?」

羽矢が小さな声で訊いてきた。

翔太は早口でいった。

「最近、中学生の女の子がやっているアルバイトだよ。自分のいやらしい写真やビデオを知らない男に売って、お金稼ぎをするんだ」

聞きながら、羽矢の顔がみるみる変わっていった。

そして、ひどい!と泣き出した。

「ひどいよ、お兄ちゃん!あたしがそんなことする子だと思ってたんだ!」

翔太は驚いた。

「いや、だって、そんな噂聞いちゃったから……」

動揺しながらいうと、羽矢は涙で潤んだ目で翔太を見た。

「じゃあなんであたしがこんなことしてると思ったの?」

羽矢にいわれ、翔太は何と答えたらいいのか戸惑った。

「……だっておまえはまだ子どもなんだから、何をするかわからないだろ」

そういうと、羽矢はくるりと後ろを向いて、走り出した。

「どこに行くんだ!」

羽矢の腕をつかもうとしたが、逃げられてしまった。


翔太は羽矢を追いかけたかった。

しかし動揺して足が動かない。


そうだ。

どうしてわからなかったんだ。

羽矢のことを一番よく知っているのは自分だ。

天使がそんな汚らわしいことをするわけない。

羽矢のことを疑うなんて、自分はなんてことをしてしまったんだ。


翔太は後悔した。





ひどいっ

あたしがそんな、頭のおかしい女の子だと思われてたなんて。

ショックだった。

ただでさえ子どもだと思われていることで落ち込んでいるのに、まさかこんなふうにまで見られていたなんて。

これって『失恋』っていうものなのかな。

まだ告白もしてないのに。


羽矢は、暗い道を走っていった。

どこに向かっているのかわからない。

でも、もう後戻りはできない。


苦しくなって、羽矢は立ち止まった。

来たことがない場所だった。

ここはどこだろう、と思って、冷や汗が出てきた。

完全に迷子になっていた。


どうしよう。

どうやって家に帰ればいいんだろう。

冷や汗が止まらない。


その時だった。

羽矢は後ろに誰かがいることに気がついた。

そして自分のことを見ていることもわかった。

どきりとした。

まさか。

あの人が………


じっとしていると、いきなり話しかけられた。

低い声だった。

日本語ではなく、英語だった。

羽矢は後ろをふり返った。

すると、やはりあの人だった。

羽矢は凍りついた。


黒い帽子、黒い服、黒いズボン、黒い靴………

何もかもが、10歳に見たときと同じだった。

また男が何かいい、腕をつかんできた。

「いやあっっ」

ばたばたと腕を振って、男の手を放す。

そして、全力でどこかに向かって走っていった。

もうどこでもいい!

とにかくこの男から逃げなくては!


「お兄ちゃん……!助けて!」


羽矢は叫びながら、全力疾走で逃げた。














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