表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/169

74.提案と前向きな選択

「勿論、これは形式的なもので本当に結婚まではしなくていいわ。相手も家の問題で結婚が決まっている相手がいる、という体裁が必要な人なので、数年ほど婚約してくれる人を探しているのだけれど、それだとかなり、条件が難しいでしょう?」

「貴族の娘だと、結婚を考える年に数年間婚約状態を続けた末に破棄となると、相当外聞が悪いですね……」

「ええ。探せば報酬次第で引き受けてくれる家もあるでしょうけれど、相手のお嬢さんの選択肢を奪うことになってしまうし、私もどうしたものかと考えていたの。相手は貴族で、それなりの地位も持っている穏やかな方よ。形式の婚約以上にオーレリアさんに求めることはないし、こう言ってはなんだけれど、現在結婚を考える相手がいなくて、しばらくは事業を安定させることに奔走することになるオーレリアさんとは、ちょうどいいのではないかしら」


 女性が家を継ぐ場合、頼りがいのあるパートナーと結婚してからというのは、こちらの世界ではよくあることだ。


 実際オーレリアの地元でも、家業を継ぐために早々と結婚した同級生はいたし、鷹のくちばし亭のおかみさんであるスーザンも彼女の父親が経営していた宿を料理人の夫と切り盛りしている。


 アリアを挟んで同じソファに座っているレオナも、おそらくはそうだろう。


 前世の記憶があるオーレリアには戸惑う習慣ではあるし、彼女たちがいやいや結婚しているわけではないとは分かっているけれど、まさか自分の身にそんな話が降ってくるとは思わなかった。


「あの、私は田舎出身の庶民なんですが、貴族の男性と婚約なんて、できるものなのでしょうか」

「最近は多いとまでは言わないけど珍しくなくなってきたわ。婚姻法の貴賤結婚に関する規定が改正されて結構経ちますし、少し前は新大陸の富豪の子女を妻に迎えるのが流行っていたくらい。地方貴族とその土地の豪商の娘なら、もっと多いと思うわ」


 そうは言われても、現在のオーレリアは事業の準備期間と言えば聞こえはいいが、少し貯金がある一般人の域を出ない。婚約に頭を悩ませていたら次の婚約の話をされて、戸惑うばかりだ。


「勿論、私が最良だと思った提案をしているだけだから、断っても構わないわ。それでギルドとの取引に影響することはないとお約束します。でも、オーレリアさんの今後のことを考えたら、とてもいい案だと思うの。お二人の事業に口を出したり利権を横から奪うなんて狭量な真似は、私の面子にかけて決してさせないと誓うから、考えてもらえるかしら?」


 笑顔だけれど、有無を言わせない雰囲気にオーレリアが呑まれていると、レオナがそうですね、と先んじて返事をした。


「今日は突然のことでオーレリアさんも妹も混乱しているでしょうから、持ち帰ってお返事は後日にさせていただければと思います」



     * * *



 そこから少し雑談をして、冒険者ギルドを出た時には日は傾いて夕焼けになっていた。

 このまま拠点に送ってもらう予定だったけれど、話し合いが必要なため、急遽今日はウィンハルト家に向かい泊めてもらうことになったため、ギルドの伝令係にジーナとジェシカへの連絡を頼み、馬車に乗り込む。


「困ったことになったわね」


 馬車が走り出してしばらくして、重たい沈黙を破るようにぽつりとレオナがこぼすと、アリアは困ることなんてありません、と毅然とした声で応える。


「あの場でお断りするのはエレノア様に失礼であると思ったから黙っていましたが、こんな話を受ける必要はありませんよ、オーレリア」

「子供のようなことを言わないでちょうだい。――言葉を濁されてはいたけれど、エレノア様の遠縁ということはベッドフォード侯爵家に所縁を持つ方よ。男爵家か子爵家の継承権を持つ方でしょうけど、どちらにしても一度も会わずにお断りするのは、礼儀に反するわ」


「あの、先方に話を通したわけではないですし、エレノアさんにお断りをするだけではいけないのでしょうか」

「あの場で「婚約を」と言ったくらいだから、相手の選定はエレノア様に一任されている状態なのだと思うわ。まさか、こんなことになるとはね」


 レオナは指で眉間の辺りを押さえているし、アリアはずっとむっつりと不機嫌を隠さずにいる。


 オーレリアと言えば、言われたことの大半が何だか現実味がなく、困ればいいのか戸惑えばいいのかも分からない状態だ。


 アルバートのことは、あまりに馬鹿げた問題だと思う。大事な時期にこんなトラブルになって困っているし、厄介なことだとも思っている。


 けれどエレノアの申し出は、この先オーレリアに似たような、そしてもっと厄介な問題が発生しないよう先手を打つという意味での提案だ。彼女の口ぶりからあちらも適当な相手を見つけるのが困難だった様子だし、それこそ「ちょうどいい」と思ったのだろう。


「アリア。アリアは私の味方をしてくれると思っています。だから、レオナさんに聞かせてください。エレノアさんの申し出について、どう思いますか?」

「そうね……私は、悪い話ではないと思うわ」

「お姉様!」


「アリア、あなたがこの手の問題に否定的であることは分かっている。私も姉として、その気持ちは尊重するつもりよ。あなたはウィンハルト家の娘だし、あなたに事業を始めるなら新しい婚約者がいた方がいいなんて一度も言わなかったでしょう?」


 レオナがきっぱりと言うと、アリアはやや分が悪そうにそっと顎を引いた。


「でも、オーレリアさんは違うわ。勿論アリアと同等にウィンハルト家で後見し、守っていくつもり。あなたという相棒もいるのだから事業面でも心配はしていないけれど、名前が売れるほどエレノア様が言った言葉は現実になっていくでしょうし、所詮はただの後見だと思う人は必ず出てくるでしょうね。――あまり考えたくないけれど、ウィンハルト家より力のある家に「所望」される可能性だって、ゼロではないわ」

「それこそ、道義に悖ります」

「ええ、だから強引にではなく、正攻法で来るでしょうね。侯爵家の次男か三男あたりに正式に結婚を申し込まれて、私やアリアがいない時に「ウィンハルト家にもご迷惑はかけないよう取り計らいましょう」と言われてしまったら、オーレリアさんは私たちに迷惑をかけたくないと、考えてしまうのではないかしら」


「あの、ですが、ナプキンは日用品ですよ? そんな雲の上の方が結婚してまで欲しがるようなものでしょうか」


 エレノアは貴族と庶民の結婚はないではないけれど、多いわけではないと言っていたし、新大陸の富豪というのは、それこそオーレリアが足元にも及ばない大変な財産家のはずだ。


 どうにも話の規模が大きすぎて、ピンとこない。


「エアコンの件はおそらくまだ露見していないでしょうけれど、時間の問題でしょうし、それを抜いてもエレノア様は、オーレリアさんにそれ以上の可能性を見たのでしょうね」

「オーレリア、自分の何をそんなに評価されたのか分からないみたいな顔していますけど、貴族が親戚との縁談を持ってくるというのは、あなたの縁者になってもいいという意味ですよ。そろそろ自分の魅力と価値を、正しく自覚してください」

「アリア……」

「ああ、もう。私が男だったら絶対真っ先に申し込んでいたのに!」


 そう叫ぶアリアに、レオナはため息を吐いて、妹の肩に腕を回す。


「癇癪を起こすのはやめなさい。まったく、今日は小さな子供に戻ってしまったみたいね」

「だって、お姉様」

「――私も、次に生まれたのが妹だったのでウィンハルト家の後継ぎとして育てられたけれど、スムーズな継承のために子供の頃から婚約者が決められていたわ。私は彼との婚約も結婚も嫌ではなかったけれど、そうでなければうるさい親族から面倒な横やりは必ず入れられたでしょうね」

「レオナさん……」


「オーレリアさん、本当に想う方や良い方はいないの? この際相手が一般の方でも、身を固めたほうが安心かもしれないわ。芯がしっかりしている方ならうちでしかるべきポストを用意してもいいわ」

「いえ、王都に来てああいうことになってから、まだ半年というところですし……」

「なら、エレノア様の提案を一度考えてみてもいいと思うわ。形だけの婚約で口を出さず利権に手も出さず、その上で肩書で守ってくれるというなら、その間は二人とも事業に集中できるでしょうし」


「……そうですね」

「オーレリア!」


「アリア、本当に嫌なら、ちゃんと言うので心配しないでください。――一度会わないとエレノアさんの顔を潰すことになるなら、最初から後ろ向きではなく、前向きに考えてみたいと思います」


 自分で言っておいて、瞼の裏にひらりとよみがえった紺色の髪を思い出して、胸がつきりと痛む。


 あの人とはそんな関係ではなかったし、はっきりとそうはなれないと言われていた。オーレリアもそれを了承して、お互い、いい友人だったはずだ。


 それでも、あの傘を返してもらうまでに、決定的に立場が変わることになるとは、思っていなかった。


 馬車の中には再び重い沈黙が落ち、ガラガラと王都の石畳を車輪が走る音だけが響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「男だったら絶対真っ先に申し込んでいたのに!」 やはり彼女がヒーロー!o(* ̄︶ ̄*)o
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ