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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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71.新しい作業部屋とギルドへの呼び出し


 付与を終わらせ、付与済みの箱に入れて次の吸収帯に手を伸ばす。


 現在は一日三十枚から四十枚ほどに付与を施し、週に二日休みをいれる形にしている。オーレリアにとってはだいぶゆとりのあるスケジュールだが、付与以外にも色々とやることがあり、今はそれくらいがちょうどいいのだとアリアにも言い含められていた。


 吸収帯を取り、ほつれや歪みはないかと目視する。ミーヤの仕事はいつも丁寧で問題を感じたことはないけれど、最終確認は常に怠りたくない。


 丁寧な縫い目に満足して、【吸水】【防水】【消臭】【吸着】を付与していく。それが終わるとまた付与済みの箱に入れて、その日の付与が終わったら三枚一組にまとめていくまでが、今のオーレリアの一日の付与の仕事になる。


 現在の作業部屋は、新しい拠点の一階奥にある物置に使っていた部屋を片付けたものだ。


 大きな作業机を置き、高い位置にある窓に【回転】を付与した換気扇を取り付けてある。元々は倉庫に使っていた場所のため室内は薄暗かったけれど、今は天井からぶら下がった塔結石のランプで、室内は十分に明るい。


 年季が入って角が取れた大きな作業机は、アルフレッドが紹介してくれた古道具屋で購入し、黄金の麦穂のメンバーであるライアンとエリオットが運び込んでくれたものだ。アリアは新しく作ってもいいと言ったけれど、できるだけ早く環境を整えたかったし、丈夫で大きな机は使いやすく、オーレリアは満足していた。


 作業部屋は前世の感覚でいうなら四畳半ほどの広さだけれど、鷹のくちばし亭の307号室より少し広く、黙々と付与をし続けるには充分だ。


 室内の右半分は付与のためのデスクが置かれた作業場で、左半分は元々あった作り付けの棚で、今は箱に印を付けてギルドに卸す付与済みのナプキンの一時保存と共に、付与を行っていない作り置きの吸収帯の在庫置き場に使っている。


 今のところ需要は圧倒的に貴族や富裕層向けよりも、冒険者向けが多く、付与をした端から卸しては完売が続いているので回転はかなり速い。


 一方、貴族・富裕層向けのものは、それほど頻繁に必要になるわけではないものの、求められたらすぐに出せるようにしておいてほしいというのがアリアの希望だった。


 ある程度の時間が過ぎると効果が抜けてしまうのは付与術の基本的な特徴であるので、付与をかけたまま長く置いておくのは望ましくない。そのため吸収帯だけ潤沢に用意して、必要な時に一気に付与を行う形にしている。


 湿気や虫にやられないよう、保存してある未付与の箱には裏側に【吸湿】を付与し、殺虫菊と呼ばれる花を乾燥させたものとともに保存している。


 床に敷いている絨毯はジーナとジェシカが買ってきてくれた異国の文様の入ったもので、手元を照らすランプは黄金の麦穂から贈られたもので、作業部屋はオーレリアのちょっとした秘密基地のようになっている。


 広場の鐘が十二回鳴ってしばらくすると、ドアをノックされる音が響いた。


「オーレリアさん、そろそろお昼にしませんか?」


 扉が開き、ジェシカに声を掛けられて集中していた頭を上げる。


「はい、ジェシカさん」


 オーレリア一人で作業していると時々時間を忘れてしまうので、こうして同居しているジーナやジェシカが声を掛けてくれるのは助かる。いつの間にか前のめり気味になっていた体をうんと伸ばしてリビングに出ると、テーブルには料理が並べられていた。


 ジーナもジェシカも料理をしないので、朝食はパンにミルクか果汁を絞ったジュースと、チーズを切り、オーレリアが卵かハムを焼いて付けることが多い。


 これから冬を迎えてどんどん寒くなるだろうから、スープを作るのもいいだろう。

 昼は大抵、ジーナかジェシカが屋台で買ってきてくれたもので済ませるか、三人で外に食べに行くこともある。二人とも気さくで話しやすいタイプなので、数日一緒に過ごせばすっかり打ち解けた空気になっていた。


「あ、これ。スーザンさんのパイですよね」


 調味した牛ひき肉を炒めてマッシュポテトを掛けて焼いたパイは、鷹のくちばし亭の看板料理のひとつで、これだけは料理人であるスーザンの夫ではなくおかみさんである彼女の手作りだった。


 スパイスとハーブが絶妙に効いていて食欲をそそるし、少し強めに塩をしてあるのでビールとの相性も抜群の一品だ。図書館に通っている時、たまに持たせてもらっていた。


 それからラムの串焼きと季節の野菜を炒めたものが並べられていた。

 全体的に鷹のくちばし亭の夜営業のような食卓で、離れてまだ一週間やそこらだというのに、懐かしい気持ちになってしまう。


「そうそう、引越しの時に今度昼食を買いに来るように言われてたから、顔を出したら持たされたんだ。オーレリアが元気にしてるかって気にしてたから、毎日働いてるって言ったらオーレリアらしいって笑ってたよ」

「そうなんですね。ありがとうございます」


 今は何かと身辺に変化が多く余裕が少ない時期ではあるけれど、色々と落ち着いたら手土産を持ってスーザンに会いに行こうと決める。全部上手くいきましたと伝えれば、彼女も安心して笑ってくれるだろう。


「午前中はずっと作業部屋に籠っていたけど、無理はしてない?」


 ジーナに聞かれ、これは屋台で買ってきてくれたらしい林檎のジュースを傾けながらいえ、と笑う。


「大丈夫です。元々、単純作業が好きなので」

「あたしはじっとしているのが苦手だから、素直に尊敬するよ」

「ジーナは暇をしているなら鍛錬をしているほうが好きですものね。私は時間があるならいくらでも本を読んでいたいですが」

「あたしら、探索がない時は食事時くらいしか会わなかったりするもんなあ」


 学者肌で図書館に通うか拠点に置いてある本を読み必要な部分を写本して過ごすのが好きなジェシカと、体を動かしていたいジーナは同居していても一緒にいる時間自体は少なかったらしい。


 それでとても仲が良いのだから、これはもう相性なのだろう。


 実際、オーレリアもこうして人と過ごしておしゃべりしているのも好きだけれど、閉じこもって淡々と仕事をしているのも落ち着くし、気が滅入るようなことはない。

 自分だけの時間という感じがして、むしろ好きなくらいだった。


 昼食を済ませると、十三回の鐘が鳴る。


「そろそろ、出かける準備をした方がいいですね」


 昨日の午後遅く、エレノアからできるだけ早く面会がしたいと使いが来たので電話でアリアに相談したところ、急遽今日の午後、冒険者ギルドに顔を出すことになっていた。


 あと一時間ほどで、アリアが同行のために訪ねてくるはずだ。こうした呼び出しは初めてだし、エレノアに悪い印象はないものの、用件がわからないのでやはり少し緊張する。


「エレノアは無茶を言うやつだけど、アリアさんもいるから、まあ大丈夫だよ」

「無茶を言うんですか……」


 前回会った時のエレノアは、多少圧が強めではあったものの人に無理をさせるような印象はなかったけれど、ギルドに所属する冒険者の二人には、また違った見方があるのだろう。ジェシカを見ると、頬に手を当てて、困ったように微笑んでいる。


「副長は、その人がうんと頑張ったらできる限界を要求してくるので、まあ、一般的に言うと無茶の部類に入るかもしれませんね。冒険者にはそれほどでもありませんが、職員の皆様は何かと苦労することも多いみたいです」

「それもあって、ギルド本部の職員は最初の離職率は高めなんだけど、そこを生き残ると逆にものすごく粘り強くなるって有名なんだよなあ……」

「そうした本部職員が経験を積んで各都市のギルドに赴任するので、エレノアさんが副長になってからの冒険者ギルドはすごく質が上がったという評価も受けているんですよ。逆に、優秀だけど他の職員と軋轢を生みやすい地方の職員が本部に預けられることも多いそうです」

「そ、そうなんですね……」


 ギルド全体としては大変頼もしいけれど、基本的にそう打たれ強い方ではないというやや情けない自負のあるオーレリアは、少し腰が引けてしまう。


「まあ、オーレリアさんは職員でも冒険者でもありませんし、ギルドにとってはいわば大切な取引相手ですから。相談はあっても強い要求はないと思うので、そう身構えなくても大丈夫だと思います」


 ジェシカの言葉に少しほっとするも、着替えと出かける準備を済ませた頃、オーレリアを迎えに来たアリアの顔色は悪く、一目で何かよくないことが起きたのだとわかるものだった。


今日はできれば夜にも更新したいです。

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