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転生付与術師オーレリアの難儀な婚約  作者: カレヤタミエ


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62.電話のノイズと思わぬ申し出

 オーレリアが電話の操作に慣れていないこともあり、ギルドの職員がウィンハルト家につないでくれることになった。


 電話に出た顔見知りのウィンハルト家の執事に、アリアにつないでもらうよう頼む。こちらの世界で電話を使ったのはこれが初めてだけれど、ガサガサ、ザーザーと微かなノイズ音が混じり、音質は悪く接続の良くないラジオのようだ。


 受話器に耳を押し当てて、ノイズ混じりの音を聞きながらアリアが代わるまで待っている間はもやもやとした不安でいっぱいだったけれど、ぱたぱたと微かに近づいてくる足音が響く。


『オーレリア? 電話なんてどうしたんですか!?』


 アリアの驚いたような、少し焦った声が耳元で響いたことで、どっ、と呼吸とともに体から何かが抜け落ちたような気がした。


「アリア、アリア、あの、今冒険者ギルドにいるんですけど、実は」


 オーレリアが王都に来るきっかけになった婚約者が突然宿を訪ねてきたこと、仕事を任せたいとか婚約はまだ破棄に至っていないとか、色々と言われてしまったこと。その婚約者から実家に連絡が行くかもしれないと告げる声は、情けないことに少し震えてしまった。


「それで、その場にいた冒険者の方が、また来るかもしれないから避難したほうがいいと言ってくださって、今は冒険者ギルドに身を寄せているんですけど、その……」

『すぐに迎えにいきます! 私が行くまで、そこから動かないでください!』


 どれだけ親しく付き合っていても、アリアの家はとても格式のある貴族の家だ。友達の家に泊めてもらうような距離感が許されるのだろうかと言葉を濁したものの、間髪を入れずそう言ってもらえて、ぎゅっと受話器を握りしめる。


「はい、待ってます、アリア」

『絶対外に出てはいけませんよ。それから、この電話を近くのギルド職員に渡してください。オーレリアの安全を取り計らってもらえるよう、きちんとお話をしますので!』


 アリアのはっきりとした声に肩から力が抜ける。張りつめていた心が緩みじわり、と僅かに涙がにじんだけれど、あわててそれを拭って、代わりますね、と告げた声はなんとか落ち着いたものにできた気がした。



     * * *



 アリアが来るまでの間、エントランスで待たせてもらおうと思っていたけれど、電話を設置した部屋から案内されたのは、立派な応接室だった。


 入室するとライアンとアルフレッドがソファに座っていて、アルフレッドがすっと立ち上がり、こちらにどうぞ、と向かいのソファを指す。


「大丈夫でしたか? オーレリア嬢」

「はい、友人が迎えに来てくれるそうです。――あの、色々とありがとうございます。本当に助かりました」

「いえ、お役に立てたならよかったです。こちらこそ、無頼漢を追い払うためとはいえ見苦しい振る舞いを見せてしまい……って、まあ、あれだけぺらぺら喋ったところを見られちゃったら、こっちの口調の方がなんか変ですよね。粗野な冒険者稼業なんで、こちらでも大丈夫かな?」


 紳士的な振る舞いから一転しておどけて言われて、思わずくすりと笑ってしまう。

「はい、楽にしてください。私も田舎育ちの庶民で、上流階級の振る舞いはよく分からないので」


 すぐに受付にいた女性がお茶を運んできてくれる。どうぞ、とお茶菓子といっしょに出された温かいお茶を飲むと、ほっとした。


「美味しいです」

「ケイト、またお茶を淹れる腕が上達したんじゃないかい? いやあ、僕に毎日この紅茶を淹れてもらえたら最高なんだけどなあ」

「大きな取引の際にはいつでもお淹れします。勿論、毎日でも構いませんよ」

「つれないなあ」


 アルフレッドの軽口にケイトは顔色ひとつ変えず、丁寧に礼をして応接室を出ていった。


「彼女とは幼馴染なんだ。昔っから口説いているんだけど、相手にされていないんだよ」

「そうなんですね……」

「まあ僕のことはおいといて、オーレリア嬢。申し訳ないけど、君のことはある程度調べさせてもらった。言い訳になってしまうけれど、ウォーレン、うちの副長は、色々と複雑な身の上でね。現在進行形でトラブルに巻き込まれている最中だ。これまで近づいてくる相手が腹に一物を持っているなんて当たり前すぎて本人もすごく気を付けていたんだけど、どうやら君のことはとても信頼している様子だったと聞いているよ」

「その、とても良い友人として付き合ってもらっていました」


 確かにウォーレンは親しい相手であるし、大事な友人であるけれど、改まって信頼という言葉を出されると戸惑ってしまう。


 気が合って、話をするのが楽しかったけれど、時々会って博物館や美術館を見に行ったり、美味しいものを食べに出かけたりしていた程度で、オーレリアはウォーレンが冒険者であること、ウォーレンはオーレリアが図書館の臨時職員であること程度しか知らなかったはずだ。


 だからこそ相手の言葉の裏を読んだりせずに仲良くできたということも、あるかもしれない。


「うん、うちの王都に来てからの君の評判はとてもよいものばかりだったよ。真面目で規則正しく、仕事は丁寧だし礼儀正しく人当たりもいい。最近おしゃれをするようになってはっとするくらい可愛くなったけど恋人ができた様子ではないから、今度ラブレターを送ろうかと思っているって話もいくつかあったし」


 後半にいくにしたがって、一体どこの誰に聞いたらそんな話が出てくるのだろうと思う内容になっていった。これもまた、アルフレッドの軽口の一種なのだろう。


 ライアンと目が合うと、深々と頭を下げられてしまった。


「その、おしゃれな友人ができたんです。友人は私に押し付けたりはしませんでしたが、幸い王都にきてからお仕事に恵まれて、経済的な余裕もできたので少し身だしなみに気を遣うようになっただけです。その、あの日はその友人と新しく事業を始める準備をしていたので、仕事用にあの格好をしていただけで、普段はこんな感じですし」


 今日は、アリアと出かけた時に買ったワンピースに編み上げのブーツという、街でよく見る若い女性の服装だ。薄化粧をほどこし以前より多少見た目に気を遣ってはいるものの、はっと目を惹くような美女とは言い難いことは自分でもよく分かっている。


「それより、ウォーレンさんは大丈夫なんでしょうか」

「うん。僕たちも色々手は尽くしているんだけど、連絡がつかなくなってしまって、ちょっと手詰まりを感じているところなんだ。身の危険はないとは思うけど、精神的な負荷はかなり大きいと思う。だからということでもないんだけど、パーティを一度解散することになってね」

「えっ」

「ウォーレンに何かあったとき、僕たちの社会的な身分が彼の足枷にならないようにするためにね。まあ、パーティはいつでも再結成できるし、それは別に王都でなくても、なんならこの国でなくてもいい。有事の際にはぱっとずらかれるように、身を軽くしておこうって判断だよ」


 アルフレッドはとても簡単に言うけれど、その決断はもっとずっと重いものだったのではないだろうか。


 何かを始めることは、思った以上に簡単ではないというのは、現在進行形でオーレリアが思い知っていることだ。ウォーレンからも冒険者稼業は大変だけど楽しく、仲間も頼りになると何度も聞かされていた。

 実績を積んで、ゴールドランクになったパーティを解散するという決断が、軽いものであったとはとても思えない。


「それでね、調査の段階で、今君が……君と友人がというべきなんだろうけど、不動産を探しているという話を知ったんだ。今王都は不動産が高騰しているから、難航しているという話も」

「そうですね。中々条件に合う物件が見つからないか、見つかっても、とても高額で」

「うん、それでね。今僕たちのパーティが拠点にしている家があるんだけど、よければそこをオーレリア嬢に譲るのはどうかという話になったんだ」


 思わぬ話の流れに目を瞠ると、アルフレッドはにっ、と口角を上げて笑った。


「価格は半年前の王都の相場で。昨日の相場で計算してみたけど、現在の平均的な王都の物件の半額から六割以下になると思う。勿論実際の物件を見てから決めてもらっても構わないけど、当時の僕が精査に精査を重ねて選んだ優良な場所と建物だから、きっと気に入ってもらえると思うよ。この差額を、うちのリーダーのバカな勘違いのお詫びとさせてもらえないかな」


更新頻度につきまして、活動報告を更新しています。

下のリンクから閲覧できます。

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