第61話 試し斬られ
「てわけで、完成した装備がこちらになります」
そして2週間ほど後、ダンジョンの第11層にて、俺は完成した装備を纏って配信に出ていた。
せっかく完成したものだし、これから使っていくことになるものだから紹介しておこうと思い、わざわざ配信のはじめに時間を取って紹介しておくことにしたのだ。
まあ使うのは本体でガチでいくときぐらいで、分身で行くときはできる限り己を研ぎ澄ますことが出来るように防具抜きでいくつもりだが。
:ちょくちょくいなくなると思ったらそんなことしてたんか
:ヌルの装備とかめっちゃ金かかってそう
:材料何?
:どれぐらいの性能なのか気になる
:オークションに出品してくれ。私も買いたい
この2週間は基本的に配信をしながらの亡霊騎士相手の鍛錬及び、その他の層を使ってのレベリングをしていた。
そして今日早くも防具が完成したということで、ダンジョン省で受け取ってきての今、というわけである。
「金はまあかかったな。けど全く未知の素材を扱ってもらったわけだから、技術料だけでもそうなるよな、ってぐらいではあるよ。素材は俺持ちだったし。あ、その関係でまた今度鼬竜の革がオークションに出ると思うので、欲しい人は是非参加してくれ」
:一探索者が買えるものじゃない
:前回でも10億超えてたよな
高森レイラ:まだ探索者が買えるようなものではないと思います
:またアメリカの企業とかに持ってかれるでしょ
:チーフに日本に行くように伝えておくよ
:流通量がなさすぎて値段が化け物なんだよな
オークションの話はダンジョン省の方から宣伝するように頼まれていたのであえて話題に出してみた。
これで販促はバッチリだ。
まあ確かに、レイラがコメントで言っている通り、探索者が手を出せる値段に落ち着くにはもっと流通量が増えないと駄目だと思うけど。
性能の良い防具とかになると、探索者の装備だけじゃなくて世界の王族とか国家首脳の防弾チョッキに使われたりもするらしいので、特に希少な素材の需要は高いのだ。
そういやレイラ達とコラボ配信するって言ったけど、ゴタゴタがあって結局やってないな。
鳴海に聞いたら何かSNSの方でDM連絡もらっていたりするのだろうか。
後で配信外で聞いてみよう。
「材料はメインが鼬竜の革。結構部分によって特性が違ったらしくて、あちこちの素材を使って全体を作ってるらしい」
完成した装備は、鼬竜の革を素材とした全身を覆う革製の防具だ。
一応俺からの依頼としては軽量で俺の機動力及び回避と反撃を主体とした戦闘の妨げにならない防具を依頼していたのだが、向こうの予想していた以上に鼬竜の革の防御力が高かったため、当初の予定から変更して全身装備になったのである。
向こうとしてはそれなりの防御力を持たせるためには、俺の戦闘スタイルも加味して全身鎧ではなく胴体部と腕部等の部分鎧にしたほうが良いのではないか、と最初は考えていたらしい。
だが鼬竜の革をいざ受け取ってみると、軽量だし防御力が高いしで、全身装備にしても問題ないのではないかという疑問が出たようだ。
結果俺が呼び出され、求められている防御力を俺の攻撃によって再現したり、その結果鼬竜の革が十分に強靭であることがわかったので、改めて全身分の調整をしたりすることになった。
ちょくちょく配信をせずに地上に出ていたのは、こういう理由があったからである。
「で一応心臓部分は、特にガルーダの鱗を使って補強されてる感じだな。ほら、このあたり」
そして心臓部分にのみアクセントとしていれられたガルーダの鱗。
他の部分が鼬竜の革の色である紺や藍色をしているのに対して、その部分のみガルーダの輝くような金色が混じっているので非常に目立っている。
本当は同じようにあちこちにガルーダの鱗を仕込みたかったそうだが、ガルーダの鱗が加工が難しく、それなりに重量がありかさばるものだったために断念して心臓部分に1枚のみ加えたそうだ。
そしてその鱗の部分には、おそらく作った工房である藤高さんの所のものであろう意匠が施されており、結構おしゃれな感じになっている。
なかなかに良い防具を作ってもらえたものだ。
:強そう
:実際どの程度の防御力なんだろうか
:スケルトンの攻撃とかそれ通るの?
:結構頑丈そうだな
:防御力が見たい
「一応制作者さんからも許可もらってるから、取り敢えず今日は1回これでスケルトンの集団引っ掛けて、わざと斬られてみる。あ、もちろん分身な。でその後に、この2週間の成果と新しい防具がどれぐらいのシナジーを生み出すのか、分身でガチで1回戦ってみようと思う」
:試し斬りは聞いたことあるけど試し斬られは聞いたことない
:やっぱり言ってることがクレイジー
:実際どれくらい強いのかは興味はあるが
:もう少し自分大事にして良いんだぞ
:分身ってほんと痛みにさえ耐えれば便利だよなあ。痛みに耐えれば
藤高さんも、自分の作った装備が分身の複製品とはいえボロボロにされる事をよくもまあ許可してくれたものである。
本人曰く、「これまでと装備の性能帯が全く違うから、自分もどの程度役に立つのか確認してみたい。ちょっと斬られてきてほしいでござる」とのことらしい。
依頼人に言う言葉じゃないんだよなあ。
まあそんなわけで、俺の試し斬られが決まったというわけである。
「それじゃ、そんな感じで今日もやってくぞ」
******
第11層の安全地帯から場所を移して第17層。
スケルトンの軍団が屯している階層まで移動してきた。
今回はまず、この階層でスケルトンの小規模な集団を引っ掛けて、防具の防御力を確認する。
:防御力確認するなら他の階層でも良いのでは?
:分身で良いから1回第14層とか第16層見せて欲しい。今回防具の強度試すなら丁度良いんじゃない?
:スケルトンってぶっちゃけ攻撃力は大したことなさそう
:防御力とか強い相手で試さないと意味ないのでは?
「まあぶっちゃけ単体の攻撃力についてはここのスケルトンより16層とか15層のモンスターの方が全然上だよ。ただ俺は防具にはその攻撃に耐える程の性能は求めてないからな。まあ後でどれぐらい耐えられるかは試してみるけど。今はやっぱり、目の前のやたら攻略難易度が高い第17層を攻略するのに最適な防具を求めてる部分の方が強いから、まずはここで確認だな」
そもそも大型のモンスターの攻撃なんて、当たれば即死、という前提で俺は動いてきた。
だからこそ俺の戦闘は基本的に受けることではなく回避する事を前提として組み立てられている。
少なくとも、大型のモンスター1体を相手にするならそれで事足りる、というのが俺の持論だ。
問題は飽和的に攻撃を仕掛けてくる相手だ。
例えば全方面から回避しきれない量の魔法を放ってくるだとか。
あるいはこの階層のスケルトンのように、圧倒的な数で押してくるだとか。
そうした攻撃は、大型のモンスターなどがこちらを叩き潰すために繰り出す攻撃とは違って、回避を主体として戦っている俺でも回避し切ることはとてもではないが出来ないものだ。
そもそも傷を負う前提で戦わなければならない相手、と言えばいいだろうか。
そうした攻撃をしてくるモンスターを相手取るにあたって、流石に俺も防御力を考える必要が出てきた。
それが、今回防具を新調した理由だ。
「ていう感じだな」
:なるほど
:言ってることは理解したが難しいな
:確かに根本的に回避が不可能な攻撃ではあるか
:予測可能回避可能でさえあれば全て避ける気なのか
:ダンジョンが深まっていくとだんだんそうなっていくよね。盾使うのはともかくとして、攻撃に当たってられなくなる
そんなわけで、スケルトンの群れに無防備に飛び込んでみることになったわけである。
自分で言うのも何だけど死ぬほど痛そう。
「んじゃま、行きますかね」
さて、いつもの丘の上から見下ろすスケルトンの群れだが、今回はもっとも規模の小さい10体程の群れを狙う。
攻撃を受けてみる必要はあるが、場合によってはそのまま殲滅に移行する可能性もあるからだ。
そして丘の下あたりに丁度目星をつけていた群れが来た所で魔法を発射。
丘の上へと群れを釣り出す。
この作業も、ここ2週間の鬼レベリングでもうかなり慣れたものだ。
そしていざ、スケルトンの攻撃を受けてみる。
一応頭まで防具はつけているが、顔面部分は視界の邪魔になるとかで無いのでそこに攻撃を受けないように気をつけてスケルトンの攻撃にあえて回避せずに当たる。
結果。
「……鼬竜の防具やっべーな。まじで効かないというか貫かれないわ」
:めっちゃ斬られてるのに鈍器で殴られてるみたいになってて草
:ボコボコじゃん。これで壊れないなら本物だわその装備
:足りてなかったのは装備ってわけか
:いや本当に損傷一切無いの?
:取り敢えずスケルトン掃除してから改めて見せてくれ
それもそうだと、全身で満遍なくスケルトンの攻撃を受けてみた俺は、周囲に集まっている10体程のスケルトンの群れを殲滅してからドローンを自分に寄せて再び映し出す。
「どう、見てこれ。ほとんど跡にもなってない」
せいぜい斬りつけられた所に何箇所か線の跡が残っているように見える程度で、それ以外の場所が切断されかけていたり突き破られていたりすることは一切なかった。
これで、新しく作った防具の防御力が完璧に近いものである、ということが明らかとなった。




