第57話 討伐至れども
さて、早速分身を出して再び第17層へとやってきた。
丘の上まで上り、どかりと腰を据える。
「さーて、どの群れが手頃かねえ」
さっきの戦闘で、今の俺なら300ぐらいなら問題なく倒しきれそうなことがわかった。
となると数を増やしたくなるが、増やした分一気に戦いづらくなる可能性も考えられる。
戦闘なんて様々な要素が噛み合ってるから、数の増減だけで戦力が1次関数的にわかりやすく増減するわけでもない。
だからまあ、あんまり考えても良いことは無いので、300から500ぐらいのスケルトンの群れがあればそれが1番ちょうど良い。
「あれ狙いたいけど、多分撃ち込んだらその向こうの1000ぐらいいるやつらが反応しそうだな」
手頃な群れがいたが、周囲の群れの位置関係を確認して一旦スルーする。
:そこまで考えるんか、大変やな
:あれぐらいの距離あっても反応するの、結構魔法に敏感な感じか?
:(英語)今のは駄目だったのか?
:探索が進んだら魔法使い殺しの階層になりそう
:(英語)周りの群れがアクティブになる可能性があったからスルーした、って言ってる
しばらくスケルトンの徘徊ルートを記憶しながら、手頃な群れが丘の下まで来るのを待つ。
なおスケルトンの群れは合流と離散を繰り返しているので徘徊のルートは頻繁に変わりやすく、一度見抜いたからといってずっと活用できるようなものでもない。
「お、あの群れとか良さそうだな」
そんな中で、俺はちょうど大多数のスケルトンが丘の周辺から離れたタイミングで、逆に近づいてきた500体ほどの群れに視線を向ける。
見る限りではナイトやコマンダーなど特殊個体もおらず、やりやすそうだ。
「よし、あれにしよう」
パッと立ち上がって尻についた土埃を払う。
そして眼下に接近してきた群れの先頭付近に向けて、魔法陣を展開した。
まずは1つ、これではスケルトンが反応しないことは検証している。
放たれた火球はスケルトンの群れに向けて空中を進み、先頭付近に着弾して数体を爆炎に巻き込んだ。
まあ全員その爆炎の中から元気そうに出てきたけど。
さて、今度は数を上げていこう。
展開する魔法陣を1つから2つ、そして2つから3つへと順次増やしながら、丘を登ってくるスケルトンの群れに向けて放っていく。
今試しているのは、スケルトン達が魔法の何に反応しているかの実験だ。
近場にいる場合は反応する可能性が高いのでそれは置いておいて。
離れた位置にいるスケルトンたちは、魔法に反応するのか。
反応するならば、それは魔法の強力さ、威力の強さが原因なのか。
あるいは、魔法を展開した数なのか。
それとも、それらを掛け合わせた魔法の総量とでも呼ぶべきものなのか。
そこから検証していく必要がある。
そしてその実験をしている間にも、10を超える程に増えた魔法陣からは絶え間なく魔法が放たれ、スケルトンの群れを打ち据えている。
それに対して真っ向から向かってくるスケルトンは、時折魔法によって離脱する個体がいるものの、大半は平気な様子で魔法を喰らいながら登ってくる。
「魔法が威力不足なんだよなあ」
今放っている速射に特化した魔法陣ならば、10発当ててようやく1体が脱落するかどうか、といったところだろうか。
:見た目派手だけど威力足りて無くね?
:スケルトンがピンピンしてらっしゃる
:(英語)もっと威力を上げられないのか?
:(英語)ヌルはあまり魔法が得意じゃないのか
:そりゃこんな威力の魔法じゃあ戦闘で積極的に使おうとはならんわな
「今はちょっと威力落として、どこまでなら他の群れが反応しないか上限探ってるとこ。威力はじわじわ上げていってるよ」
説明した通り、魔法を放つごとに少しずつだが魔法陣に加筆をし、魔法の威力を上げていってる。
スケルトンを倒すのに10発以上必要だった魔法が、やがて9発になり8発になり。
そして半分の5発でスケルトンを倒せるようになっても、他のスケルトンの群れはアクティブにはならなかった。
魔法への反応が良いとは言え、流石に離れた場所での魔法でアクティブになることはない、と。
おびき出すのは結構ありな戦術だったみたいだ。
:前々
:来てるー!
:乱戦はヌルの方が不利だぞ
:(英語)魔法でそれなりに倒せたね
:(英語)これで魔法自信無いとか言ってたの? 本職魔法使いだけど、自信なくすわ
:(英語)どうやらヌルがいるのは、俺がいる世界とは違う世界らしい
さあ、戦だ。
「ふんっ」
先頭で突撃してきたスケルトンを抜きはなった剣で切り裂き、更に続く個体も斬り伏せる。
やはり俺の素のレベルが上がったことと魔力操作で、単体のスケルトンにほぼ苦戦しなくなったのは非常に大きい。
そのまま魔力操作を発動して脚部を強化。
丘をかけおりながら、スケルトンの群れへと突撃し、その陣形を切り裂いていく。
魔法で鶴瓶撃ちにされながらも陣形を崩さなかったことは偉いと思うが、おかげで俺が駆け抜けることが出来る隙間がスケルトンの陣形の中に残ったままになっている。
その後の進路も考えて、まっすぐスケルトンの群れに対して突っ込むのではなく、一度丘の上側から斜めにスケルトンの陣形を切り裂く。
そしてスケルトンの陣形の側面に飛び出したら、更に逆方向の斜め下に。
それで最初の位置からまっすぐ下った位置まで到達した後は、今度は丘を登りながらスケルトンの群れを突破していかなければならない。
そこで駆け上るときも一気に丘を上がるのではなく、先程通った経路とは逆側に斜め方向にスケルトンの陣形を切り裂く。
こうすれば、体感する傾斜は半分以下ですむ。
そして再度スケルトンの陣形を突破した後は、もう一度斜めにスケルトンの陣形を切り裂きながら登って、最初の位置に到達。
さながら、長方形の陣地を敷くスケルトンの陣形に、ひし形を描くような形で移動しながらスケルトンを切り倒していった。
「うん、もうスケルトンは問題にならんな」
駆け抜ける中で、スケルトンの攻撃は一度として俺を捉えることは無かった。
そして俺は、突破に意識を割きすぎた先程の戦闘を反省し、今度は出来る限り敵を切り倒しながら突破をした。
それだけで、魔法で倒れなかったスケルトンの半数近くを屠ることが出来た。
特に下りの際に、複数体まとめて貫いたり斬り倒せたりしたのが大きかった。
あれでかなりの討伐数を稼いだだろう。
さあ、後は繰り返し陣形を切り裂いて、スケルトンを蹂躙するだけだ。
******
数分後。
ガラリと乾いた音を立てて、俺に頭部を貫かれた最後のスケルトンが崩れ落ちる。
「……っしゃあ!!」
あまり大声を出して喜ぶタイプではないが、今回ばかりは大きな声とともにガッツポーズをする。
なにせ初めてなのだ。
俺が100体以上のスケルトンの群れを壊滅させるのは。
数十体のスケルトンの群れならば、幾度か壊滅させたことはある。
だが数との戦いでは、数が増えるごとにその難易度は指数関数的に上がっていく。
だからこそ、500体ものスケルトンを、策有りきとは言え自分1人で壊滅させることが出来たのは本当に嬉しい。
:珍しくヌルからガッツポーズが出た
:いやー、戦○無双みたいだった。
:特に駆け下りながらの戦闘はすごかったなあー
:(英語)今の自分がどれほど力不足なのか、思い知らされたよ
:(英語)ここまで到達しないといけないの、マジで? 探索者お疲れさますぎるだろ
:さあ、次はスケルトン・ナイトにリベンジだ
:(英語)流石に彼は例外では?
:次はどうするの? もっとでかい群れに突撃?
「取り敢えず、スケルトンの群れを削る目処は立った。立ったけど、まー一旦撤退して鍛え直しかなー」
成功する可能性があるのにやり直す。
その俺の発言にコメント欄がざわつく。
:ボスまで倒すんじゃないんか?
:まだ懸念することある?
:そんな鍛えなくても、魔法とかかき乱しのコンボでいけないの?
:(英語)彼はなんて?
:(英語)彼は今から鍛え直すって言ってるよ
:まー数千はきついとかそういう感じか?
:(英語)ここから何を鍛えるんだよ。オーバーキルだろ
「いやまあ、10層超えた辺りから攻略はずっときつくてな」
直近で言えば、15層はモンスターをトレインしまくってからのそれを全部ボスモンスターにぶつけて漁夫の利を狙うっていう外道戦法だったし。
その後の16層なんて魔法で巣穴の入り口塞いで隙間からひたすら魔法垂れ流すだけの超外道戦法を使ってやっとだったわけだ。
まあそれは、この死にながら敵の隙を見つけて行動パターンを読んでギリギリのギリギリの先に勝利を掴む、という方法しか自分が先に進む方法は無いと思っていたからだ。
「魔力操作も最近覚えたばっかりだし、剣術とか近接戦の戦法も見直したいし、な」
それにまあ、ぶっちゃけ。
と俺は続ける。
これが最大にしてもっとも重要な理由。
「スケルトン・ナイトの突きが、全く見きれなかったからなあ。俺基本的には階層突破するときは生身で、っていう縛りを自分にかけてるんだけど、今のままこの階層の攻略続けても、死ぬ気しかせんのよ。だからちょっと、真面目に鍛え直しって感じ」
説明が手間なので説明していないが、スケルトン・ナイトとコマンダーの他にも、ソルジャーと違って鎧をまとったスケルトン・ウォーリアーだけで構成された隊がスケルトン・ジェネラルの周りには控えているし、ナイトではなく親衛隊らしき鎧をまとった騎馬の群れも多数確認できている。
他にも俺のまだ調べきれていない特殊個体は存在しているだろう。
この階層を攻略するということは、それら全てを蹴散らして、ジェネラルを守る部隊を引き剥がして、その上でようやくスケルトン・ジェネラルというボスモンスターと向き合うということだ。
正直言って、今小さな群れを潰せたところで、俺がこの階層に通用するかと言えばそれは全く話が違ってくる。
そんなことを大まかに説明すると、視聴者から多数の驚きの声が寄せられた。
:お前、そんなところを攻略しようとしているのか?
:普通に考えて無茶だろ
高森レイラ:それでも1人で行くんですか
:(英語)うちのリーダーも大概クレイジーだと思ってたけど、あんたには負けるな
:(英語)なぜそんな無茶な場所を攻略しようと? というかどうやってそこまでたどり着いたんだよ
「ダンジョンを潜る理由なんて1つだと思うけどな。先へ、先へ、まだ先へ。そこにあるなら潜るのがダンジョンってものだろ」
:(英語)狂ってる
:(英語)もはや求道者だな
:そこまで振り切ってる人はあなたしかいません
:何がそんなにお前を掻き立てるのか
:これを家で待つ妹ちゃんが可愛そう
:実力云々以前に精神が怪物すぎるんだよな。
色々と言われているが、まあそれが俺なので。
深淵の他の層だって、こうやって幾度も難題にぶち当たりながら最適解を見つけて突破してきたのだ。
しかも今回は、魔力操作という新しい技術まで持っている。
これで挑めなくて、何が探索者か。
「ま、そういうことなんで、さくっと次行きましょうかね」
俺にとって、ダンジョンに生きるということは。
それすなわち、日々命をかけて挑戦し続けることなのだ。




