第56話 反省会は戦意をみなぎらせて
「ぬおおおぉぉぉぉ……!」
あいも変わらず分身で死亡して本体に戻った俺は、地面をゴロゴロと転げまわりながら痛みのフィードバックに耐える。
:(英語)彼は何をやってるんだ?
:(英語)急に画面が飛んだね
:(英語)随分と唸ってるようだけど、大丈夫なのかい?
:(英語)彼は分身で負った痛みがフィードバックするんだ。その痛みに耐えているのが今というわけ。
画面が変わったのは、分身につけていたドローンが消滅したからだね
:(英語)あんなに痛がってるのにいつもやってるっていうのか? クレイジーだ
:取り敢えずヌルがやべーやつだと理解してもらえたのはわかる
視界の端でコメントがちらつくが、ちょっと今の俺にそちらを見る余裕が無い。
最後の一撃、あれがまずかった。
大抵死ぬ場合は、胴体を突き刺されたり首を落とされたりして死ぬ場合が多い。
しかし今回の死因はそこではなかった。
腹を貫かれて内臓もはみ出しそうになっていたし、その苦痛もある。
だがそれよりも、最後の敵の一撃。
アレの痛みのフィードバックがやばい。
顔を貫き脳を破壊する。
その痛みを、俺の分身は分身が壊れる直前まで健気に本体にフィードバックしてくれた。
そこまで働かんでも良いんだぞ。
「あーぐぞいでぇ……」
しかし即死ではあった分痛みのタイミングが一瞬だったので、いつもより早くにその痛みは消える。
そうなると後は腹を貫かれた分だが、それについてはもう慣れているので、先程までほどの醜態を晒すことはない。
更に言えば、今回は多数の傷を負う前に敵に一撃で仕留められたので、そこまで痛覚が溜まっていなかったらしい。
転げ回らずともうずくまっていれば我慢できる程度には、本体で感じている痛みは弱い。
そしてその分、思考を他所に回す余裕もある。
「あーくそ……ナイトってあんなに強いのかよ聞いてねえぞ」
推測するに、俺を仕留めたのはおそらく、俺の側面から突撃を仕掛けてきていたスケルトン・ナイトだろう。
一瞬スケルトンの集団から身長的に突出した影が視界の端に見えて、そちらに視線を向けた瞬間にはもう槍の穂先が俺の眼前に迫っていた。
そう考えると、スケルトン・ナイトの攻撃速度は、並のスケルトンとは比べ物にならないことになる。
というかそもそも歩兵の剣で騎兵の槍を相手するのは相当に苦しい。
だからこそまずは1つ1つこなしていこうと、ナイトやコマンダー、アーチャーなどスケルトン・ソルジャー以外の特殊個体との戦闘を避けていたのだ。
まずは、スケルトン・ソルジャーの群れをどうにか出来るようになってから。
そう考えてスケルトン・ソルジャーだけの群れを壊滅させようとしていた俺が、今回他の群れの襲撃を受けたのは、シンプルに運が悪かったからだ。
後は時間をかけすぎた、というのもあるだろうか。
徘徊している他の群れの進行ルート上で戦闘を開始してしまい、そして他の群れが到達するまでに殲滅しきれなかった。
対策の1つは、ある程度時間をかけて観察して群れの徘徊ルートをある程度探ること。
そして今回は駆け抜けることを第一目標としていたので、次からは殲滅にももっと意識を割くこと。
これぐらいだろうか。
「ふー、痛かった」
:そんな短い感想ですむことじゃないんだよなあ
:もっと感想無いんか?
:(英語)あー痛かった、って言ってる
:(英語)あの戦闘をした感想がそれ?
:(英語)映画のワンシーンを見てるみたいだったんだけど
:てか最後のスケルトンやばくなかった?
ああ、そうか、ドローンは俺の後方から撮影を行っているから、映像には俺の見えていなかった俺に接近するスケルトン・ナイトの姿も残っているのか。
それは後で見返すとしよう。
取り敢えず痛みもある程度収まってきたので、立ち上がって草や土を払い落としてからドローンに向き直る。
「『(英語)外国人の視聴者達、これが俺の配信でよくやることだから、気持ち悪くなる人は視聴をやめてくれよ』。日本人の視聴者もな、気持ち悪くなったら視聴やめろよ」
:(英語)いや、案外いける
:言っても今回即死っぽかったから前みたいにたかられて滅多刺しなんてこと無かったしな
:前よりは全然平和だった
:今後も即死してくれ
:(英語)探索配信は血が流れるもんだよ
:(英語)まー全然? 俺は余裕だし?
:(英語)グロいの大丈夫な人は過去の配信へGO!
一応改めて繰り返しておいたが、外国人の視聴者たちの多くは俺の死亡シーンを見ても大丈夫らしい。
というよりは駄目な人達は軒並み離脱しているという感じだろうか。
これが生存性バイアスというやつだろうか。
つまり俺の視聴者は皆グロいのに耐えられる人達ばかりということだな、ヨシっ!
「あー、即死した分確かに前ほどのグロさは無かったかもな」
さて、それではカメラに向かって今回の反省点と成長を感じられた点を上げていくとしよう。
「まず今回の戦闘で成長を感じた点を上げてく。魔力操作の練度が上がったのとレベルが上がったおかげで、雑魚スケルトンに対しては結構やれることがわかったのが1番の収穫だな」
最初の300体の群れなら完全に殲滅できそうだったし、スケルトンを倒すのも以前よりは楽だったように思う。
:囲まれても前回ほど即死しなかったもんな
:ちゃんと抗えてた
:(英語)どれだけひどい状態で以前は突撃したんだ
:まあでも数に飲まれると厳しい感じはあったな。腹貫かれてたし
:(英語)彼の話の基準がわからないから過去動画見てくるよ。
「ただまあやっぱり囲まれると流石にまだきつい、ってのもわかったな。正面と斜め前の3体ぐらいならともかく、左右と背後まで行くと相当きつい。しかもあいつら1回倒したところですぐに次が補充されるわけだからな」
本当はいつかスケルトンの軍団と真っ向勝負が出来る、戦○無双みたいなことがしたいのだが、やはりそれはまだ早いらしい。
「んでスケルトン・ナイトはぶっちゃけまだ挑める段階にない気がするから、一旦無視。とにかくソルジャーの群れをもっと早く殲滅するための方法を考えよう」
:魔法とか使えるだろ?
:剣でちまちま斬るより範囲攻撃したら?
:(英語)今はヌルがもっと敵を早く殲滅するにはどうするか、って話してる。取り敢えず騎馬の話は置いておくらしい
:(英語)なるほど、なら武器を変えたほうが良いだろうね
:(英語)彼は魔法とか他のスキルは使えないのか?
あーなるほど。
オーケイ、俺と視聴者達の間で前提条件の共有が出来ていなかったみたいだ。
まずはこの第17層攻略に際しての、前提条件を共有しよう。
「オッケー、わかった。まずはこの階層での俺の取ってる戦法の前提条件を伝えておこう。コメントで英語翻訳してくれてる人はそのまま翻訳よろしく、英語では話さないからな」
一度断りを入れて、俺は改めてあの層全体での攻略方法についての考えを伝える。
まず第一に考えたいのは、如何に他の群れを引っ掛けること無く、群れを各個撃破していくことが出来るか、だ。
俺がわざわざ剣を持って突っ込んでいるのは、それが理由である。
引き撃ちが出来るなら俺も最初からそうしている。
この階層では、スケルトンの群れの数が多いので、下手に引き撃ちをした場合他の群れを引っ掛けてしまう可能性が高い。
そしてそれが連鎖すると、逃げる先が塞がれるほどに包囲される可能性が高い。
とくにコマンダーなど指揮官がいる群れ相手では。
だからこそ出来る限り各個撃破がしたい。
そしてそのためには、やはり俺が群れに入り込んで戦うことで、群れをそこに縫い止めることが重要である。
今回は運悪く他の群れの介入を受けてしまったが、群れの場所が動かないようにしたほうが他の群れと合流するリスクは下がる、と俺は考えている。
「まーそんなわけで、俺は群れの中に突っ込んで戦う、っていう選択をしてる。そしてその選択をしてると、魔法陣を練ってる時間が無いから結局剣が主体になる、ってわけだ。まあそれに俺剣の方が好きだし」
:絶対最後のが本音でこだわってるだろ
:他の方法検証しても良い気がするけどな。いやまあ別にヌルのやり方を否定はしないけど
:(英語)なるほど、なかなか厄介なマップだね
:(英語)1人で大群の相手をするとなると、やっぱり魔法が使いたいところだけど
:丘の方に誘引するのはどうなん?
そこで、コメント欄から絶妙なアイデアを貰った。
「ああ、確かにそれ良いかもしれん。あの第17層入ってすぐの丘の方に敵を引きつけるの。確かにスケルトンは自発的にはあっち側には入ってこないからな」
それは、スケルトンをその場に留めるのではなく俺の有利な戦場になりうる丘の中腹へと引き寄せるという戦法だ。
確かにそれならば、今回のような不意の接敵なんてことはおこらない。
強いて言うならば、丘が俺にとっても平地よりは移動しながら戦うのが難しい場所だということぐらいか。
:おびき寄せるなら魔法で良いんじゃね?
:丘の上から近づいてくるまで魔法打ち込み放題じゃん
:(英語)それなら魔法が使えるかな
:ヌルのガチ魔法なら敵の群れとか消し飛びそう
:(英語)魔法を嫌うのはなんでなんだ?
「スケルトンども、すぐ隣で戦闘してても気づかないくせに、魔法に対する反応はめちゃくちゃ良いからな。おびき寄せるためとはいえ強めの魔法使ってしまったら群れが複数反応する可能性がある」
そうなのだ。
そこも厄介なところで、目も耳も無いスケルトン共だが、魔法に対する反応だけは馬鹿みたいに良い。
そのせいで、初手でも群れの中でも魔法を使えない、という理由もある。
「まあでも、何事も検証してみてこその死にゲー式攻略術だわな」
俺も、別にどの程度の強さの魔法ならどの程度の距離にいるスケルトンどもが反応するか、なんて精密に検証をしたわけではない。
そしてせっかくやるならば、それもまた検証する価値があることだ。
他のスケルトンが気づかないギリギリの威力の魔法で、丘を登ってくるスケルトン共を迎え撃つ。
うん、なかなか良いじゃないか。
「よし、それじゃあ2戦目行ってみよう」




