第41話 ダンジョン省と来客と
ガルーダを討伐した後の俺は色々といそがしかった。
まず左手の傷とか内臓関係とかまとめて治癒師のところに行きたかったので、急いでキャンプを撤去。
する前に、まずは急ぎでガルーダの解体。
特に嘴と刃のように鋭い羽根、そして鉤爪なんかの武器や防具に使えそうな部位は丁寧に剥がして持って帰る。
なおこの過程で手がズタボロになって結局ポーションを使う羽目になった。
おかしいな、治癒師のところにいくことでポーションの消費を抑えようと考えたんだが。
ガルーダの解体が終わったらようやく第11層に戻ってキャンプを撤去し、更に階層を遡る。
なおこの間はもう配信はしていない。
ガルーダとの戦闘までが配信の範囲内だ。
一応自分には認識阻害をかけているが、出待ちとかされても面倒だし。
地上に戻った後は、まず普通の受付でダンジョンから退出する手続きを普通に済ませる。
その後そのままの足で、ギルド内の治癒師が常時数名はいる治療室へ。
「すいません、傷の治療をお願いしたいんですが」
「あ、はーい。治療ですね。この傷ですと、これぐらいのお代金をいただきます」
なお治癒師の治癒の明確な料金というのは定められていない。
ボッタクリにはならないようにと一応ギルドの方から基準を定めれられているが、あちこちに怪我を作って返ってくる探索者の傷全てを検証して治療費を決められるわけでもない。
そのため、おおよそこれぐらいの傷なら治療費は何円でプラスマイナス何円までが治癒師の自己裁量、みたいな感じで決められている。
まあ探索者もここを利用する時点で地上の病院で時間をかけて治療をする必要もなくなるし、価格も比較的良心的なので文句を言う人はいない。
それに治癒師側もレベルやスキルを成長させることで治癒能力を上げるために普通にダンジョンに潜っているというのは大々的に知られていることなので、そのことで治癒師を軽んじるような探索者も基本的にはいない。
「あーすいません、後身体強打したので内臓の方も全体的にかけといて欲しいんですけど」
「でしたら追加でこれくらいですねー」
「じゃあそれでお願いします」
治療費の話が終わった後、寝台に横になって治癒魔法をかけてもらう。
ちなみに何故先に治療費の話をするかというと、時々探索者で『そんな高い金払えるか!』とか言い出すやつがいたからだ。
そのため、価格の話を先に済ませて、それをちゃんと録音録画してから治療に入る。
まあ流石に死にかけの人が運ばれてきたりしたらそんなことはせずにすぐ治療してくれるし、その場合はギルドが建て替えてくれることもあるらしいが。
「あー、いい感じ。やっぱ内臓逝ってたみたいです」
「結構派手な傷でしたねー」
「ちょっとポカしちゃいまして。それじゃ、ありがとうございました」
「いえいえー」
最後に探索者証と一体化しているカードで支払いをして、お礼を言って治療室から退室する。
何やら治癒師の女性に背中をじっと見られていた気もするが……まあいくらそうと気がついても、今頃俺の顔をはっきりと思い出せていないだろう。
治療の後は着替えてシャワーを浴びて、ようやくギルドから退出。
そしてギルドから少し離れた所で指定されていた番号に電話をかける。
『はい、ダンジョン省探索者局の田中と申します。ヌル様ですね。本日のご用件はなんでしょうか』
ワンコールで出た相手は、以前ダンジョン省と交渉をした際に、俺がこれからアイテムを持ち込むことになる際の受取係として後日伝達された電話番号だ。
この電話にかけるように、としか言われていないので誰が出るかは知らなかったが、まあそれは別に口が堅ければ誰でもいい。
「はいヌルです。ダンジョンから帰還したのでアイテムの預け入れをしたいと思いまして。これからどうしたら良いんですかね?」
俺がヌルと呼ばれているのは、上層部以外に俺の情報を漏らしすぎないようにするため、らしい。
それで俺だけでなく鳴海の安全も確保されるのなら俺に否やはない。
『かしこまりました。では、車で迎えにあがります。今どちらにおられますでしょうか』
「ギルド出て正面のコンビニの裏手辺りです」
『かしこまりました。では青いミニバンでの迎えとなりますので、その場でお待ち下さい』
「わかりました」
今の説明だけで本当にわかったのか、という疑問を抱きつつも取り敢えず返事をしておく。
『通話はこのまま繋いだままとしたいので、一度切ってこちらからかけ直させていただきます』
「はい」
その後電話が切れ、改めてかかってきてそれに出る。
と同時に、少し離れた所からクラクションの音が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、青いミニバンが止まっていた。
『ただいまクラクションを鳴らしました。聞こえましたでしょうか』
「……聞こえましたけど、速いですね」
『ありがとうございます。この役目を与えられた以上は、私ども一同ダンジョン省の官僚として全力を尽くす所存ですので』
その言葉を聞きながら、車の方に歩いていって乗り込む。
「この後はどうするんですか?」
乗り込んだ俺がそう話しかけると、車を発進させながら禿頭の男性が運転席から答える。
「この後はギルドの方でアイテムのお預かりとリストの作成となります。ヌル様にもどのモンスターからドロップしたかなど協力していただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「大丈夫です。あーでも早めに帰りたいので、先にリストの作成してもらっても良いですか? 数量の確認とかは後でそっちでやって貰えば良いんで」
「かしこまりました」
あんまりにガチガチの敬語を使ってくるので、流石にこっちも付き合うのに疲れて雑になってしまう。
が、まあ慢心しなくとも当然のこととして、俺はある程度自儘に振る舞うことが許される立場だし、相手が下手に出ているのもわからないではないというか、俺が同じ立場だったら同じふるまいをするので文句は言えない。
結局、このちょっと居心地の悪いVIP待遇に付き合うしか無いのだ。
それでも身バレ防止のためとはいえリムジンとかではなくミニバンで迎えに来てくれたのは俺の感性とあっていてありがたいものだ。
多分次回は車変わってるんだろうけど。
しばらくして車が、ギルドの探索者が利用するのとは別のエリアとなる、オークションの際などに使われる倉庫の方へと入っていく。
「こちらになります」
「もうここの床に全部出していって良い感じですか?」
「そう、ですね。はい、基本的にはその形で大丈夫です。ただ、職員が持つのが危険なものの場合は、こちらケースを用意していますのでお声がけください」
そう言って田中さんが示す先にはガラスや金属でできたケースがいくつも置いてあった。
なるほど、確かにそれもそうか。
映像にはしてないけどガルーダの羽根とかモロ危険物だもんな。
あの辺りは収納するための専用のケースがある、と。
ちなみにアレの斬れ味結構凄かったけど、ケースが衝撃で切れたり、なんてことは無いだろうか。
「取り敢えずいくつか触れるな危険なのがあるんですけど。刃物的な方向で」
「でしたら一旦こちらの金属製の容器の方にお願いします」
先に危なそうなものをケースにおさめてしまってから、他の素材を並べていくことにする。
ちなみにここの対応が田中さんだけなのは、俺が人と会わないで済むようにとの配慮らしい。
俺がアイテムを出し終えた後に送り返し、その上で後の作業を人をいれてやるそうだ。
流石にそこまでは、と思うものの、実際唯一深淵をいける俺の情報を求めている者たちは大勢いるのだろう。
「皮とか結構まだ血だらけなのもありますけど、どうしますか?」
「なるべく他のものと離していただければ大丈夫です。後の清掃などはこちらでしますので」
「お世話になります」
結構至れりつくせりというか、俺にアイテムを持ってくること以外の負担をかけまいという強い意志を感じる。
特別扱いされることには慣れていないが、ここまで慮ってくれるとこちらも多少は誠意を見せたくなるものだ。
第9層の水竜と巨大貝の素材から、第13層の巨人の魔石と爪、灰の巨人の場合は炎の元になっていた器官、第15層のモンスター達の素材などを順番に並べていく。
多分もっと解体業者というか解体に慣れた人達がくれば、俺が放置してきたような巨人の皮なんかも使えるのだろうが、そのあたりは勘弁して欲しいというか他の人にももっと頑張って欲しいというか。
「大体これぐらいですかね」
しばらくして、地面にズラッと俺の持ち帰ったアイテムを並べる。
こうやって見ると、1人にしては結構持ち帰っているんだなと感じる。
まあそもそも複数人で1体を解体すれば十分な大きさのモンスターばかりなのだから当然といえば当然か。
「ありがとうございます。しかし凄い量ですね」
作業着に着替えて俺の出すアイテムの運搬を手伝ってくれていた田中さんが、並べたアイテムをみながら感嘆の声を上げる。
ちゃんと着替えを用意して手伝ってくれるあたり、本当にダンジョン省の俺に対する扱いは丁寧だ。
「まあ、モンスターがデカいですからね。これは全部オークションって感じですか?」
「そうですね、基本的には初回はオークションに全て出品します。今回は殆どアイテムの被りも無いようなので」
「被りがあった場合は別ってことですか?」
「そのときそのときの判断になりますが、同じものが多い場合にはオークションにかけずに価格を設定してショップに直接卸す形になるかと思います」
この辺りは俺がなんとなく理解していた通りか。
「1つお願いしたいことがあるんですが、良いですか?」
別れの挨拶をする前にそう話を振ってみる。
ダンジョン省のお偉方から聞いた話では、基本的に俺の頼みは履行してくれる、という話だ。
「なんなりとお申し付けください」
「実は俺の使ってる防具がもう大分前ので、性能不足になってきてるんですよ。そこで出来たら、腕の良い職人さんを紹介してほしいんですが」
俺の言葉に、田中さんは即答せずに少しだけ考え込む。
そしてその後、ニコリと笑顔を浮かべて言う。
「職人をこちらでピックアップするので、数日お待ちいただけますでしょうか」
「了解です。それぐらいなら全然待つので。ただ一応自分が持ってる素材が血肉のついたナマモノではあるので、急いで頂けるとありがたいです」
流石にポーチの中で腐っても空間拡張の魔法がかかっているからポーチ自体が悪くなることはないが、出来れば早いうちに加工をしてしまいたい。
ちなみにダンジョン関係の素材を使う職人さんは、一定レベルが無いと加工が困難になる素材が結構あるので割と武闘派だったりする。
「承知しました」
「それじゃあ俺はこれで」
「帰りも適当なところまでお送りしますよ」
流石に忙しいだろうと断ろうとしたが、この建物から1人で出てくるのは怪しすぎるということで適当な場所まで送ってもらうことになった。
そして再びスーツに着替えた田中さんに送ってもらって、家から徒歩20分ぐらいの場所で下ろしてもらう。
「今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ素晴らしいアイテムを預けてくださり、感謝します。オークションは今回は少し時間をかけるということで、半月以上後になる予定です」
「わかりました」
「お出でになられる場合は、一言いただければ入場券をご用意しますので是非に」
「ありがとうございます。それでは」
感謝の言葉を言ってからドアを開け、車から降りる。
そこで、隣から強い視線を感じた。
視線を向けると、そこには長い金髪を腰辺りまで伸ばした小柄な少女と、逆に一般人には見えない体格をした男が立っていた。
『こっわ、まじかよ』
男の方が英語でそうぼやいているが、それよりも気になったのは俺の顔から離れない少女の視線だ。
『お前、もしかして俺が見えてるな?』
英語で投げかけた俺の言葉に、少女は肯定でも否定でもなく只の感想を返してきた。
『あなたは、思っていたよりも異常みたい』
『うるせーよ』
厄介事が終わったかと思えばまた次がやってくる。
一難去ってまた一難、というのはこういう状況を言うのだろうか。
明らかに日本人には見えない風体をした2人と見つめ合いながら、俺はそんな事を内心でぼやいた。




